第3話好き嫌いの以前の問題

『あれ』がぼくだと知っても、ぼくの日常は変わらない。


けれど、周りは少しずつ変わっていった。


二年の中頃には、もう向こうから声を掛けてくれるのは幼少期から一緒だった子たちだけになっていた。


なにかをしたわけじゃない。誰かが困っていら声を掛けたし、手伝いもした。気の利いた会話はできないけれど、不快にさせるようなことはなかったはずだ。


ただ『あれ』の噂が、拡がっていただけ。


みんなは思春期特有のどこか浮かれたように、ぼくの噂をからかう。彼ら彼女らに悪気はないから深刻ないじめにもあわなかったし、直接的になにかをされることもなかった。ちょっとした冗談。ジョーク。話のタネ。彼らにはなんて事のない会話は、すこしずつぼくという人間から存在を奪っていった。


ぼくだって体質的に匂うのはわかっていたから、体は清潔に保てるように心がけていたし、不用意に近づかないようにもした。ただ、その努力は噂ほどの力はなかっただけだ。


それは、ちょっとした距離感に現れた。会話するときのちょっとした距離感。それがすべて。

自然とどこか女子生徒に遠巻きにされるぼくを男子生徒もまたすこし距離をとるようになっただけ。思春期のみんながやっているからという察しの良さが悪い方に働いただけ。


なかには気兼ねなく近くから話し掛けくれる子もいたけれど、コミュニケーションに難があったぼくには、それをうまく活用できなかった。


「『あれ』はあれとして、悪い子でも嫌われるような存在じゃないけど、ちょっと、ね」


ぼくという存在は、彼ら彼女らにとっては『あれ』であって、ぼくじゃない。


だけど、ぼくにとって彼ら彼女らは、まぎれもなく『彼ら彼女ら』であって間違っても『あれ』じゃないのに。


ぼくを取り巻く環境は総じて、そうなっていた。













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