ゴースト

 探し方は簡単だ。要はMACアドレス『80:fb:4a:57:b5:ad』である機器を探すこと。


 さっき長谷部先生が新しいパソコン4台を受け取ったと言っていた。

 MACアドレスは登録されていない機器に反応する。だから買ったばっかりの機器はまだ登録されておらず、それをそのまま接続したら不正接続として検知されるはずだ。


「長谷部先生、さっき届いたパソコンについてなんですけど…」

「ああ、新品の4台?」

「はい、実は不正接続がありまして…つないじゃいましたよね?」

「不正接続…ええっ?」

 二人で顔を見合わせる。

「いやあ、それはないですよ、ないない。だってまだそのパソコン4台、空けてないですもん」

「空けてない…?」

「前に自分がやっちゃったんですよ。買ったばっかりのパソコンをそのままつなげてしまったことがあって」

「あらら」

「もちろん鳴りましたし、荒蒔先生にも釘刺されてほんとうに大変でした。だから今回は箱に入れたまんまですよ」

「誰かが代わりに開けちゃった、ということは?」

「不用意に開けちゃって接続したって? それはないですよ」

 疑われたのが少し気に障ったのか、長谷部先生は眉をひそめる。

「一応、念のために確認しても…」

「…わかりました」

 長谷部先生はホワイトボードにマグネットでつるされている鍵を手に取り、そのまま職員室奥の倉庫を開けた。ぱちんと電気をつける。その中のダイヤル式のロッカーがあった。4桁のダイヤルに『0829』と長谷部先生が入れると、左に傾いたつまみを右に回し開けた。

 中には一抱えほどの茶色の段ボールが4箱積まれていた。『Cheese PC』と書かれている。

「開けてないですよ、ほら、ここのダンボールのセロハン、だれの指紋もついてないし。そもそもこの暗証番号、わたしのペットの誕生日で設定したものですし、他の人が知る訳がないです」

 確かに4箱とも開けた形跡がない。てことは、このパソコンではない。

「他の可能性としては何がありますか?」

 長谷部先生が聞いてきた。かすかな記憶を手繰り寄せる。

「えっと、来客がPCを持ち込んでつないだ場合とか」

「あ~、そんなこともありましたね。教育委員会のお偉いさんが有線繋いじゃったこと。わたしたちが接続したときは大変なことになるのに、『はは~接続はお控えください~』ぐらいの軽いテンションでおとがめなしで終わった時は人生の不平等感を感じましたね」

「でも今日来客はいなかったし」

「確かに」

 部外者による犯行ではない…か? 

「あと検知する原因は?」

 長谷部先生の質問におれは頭に手をあてて答える。

「えーと、許可されていない機器、もしくは私物を持ち込んで接続した場合だから…」

「さっきのお偉いさんの話は許可されていない機器だった。本日持ち込んだ人がいないのなら、私物を接続したってこと?」

「…どうでしょうね? とりあえず今残っているメンバーに確認します」


 パソコン以外にもスマートフォンやタブレットなどIT機器も不正接続で検知する。またこれらにもMACアドレスは付いている。

 

 しかし―――――


 念のためパソコンやスマートフォンの『設定』からMACアドレスを表示してもらい、確認させてもらったものの、『80:fb:4a:57:b5:ad』ではなかった。


 念のため、職員室以外で接続されていないか、校内をくまなく巡回したが、それらしきものは見当たらなかった。

「うーん…」

 

 確かに不正接続で検知をしている。ただ、姿が見えない。まるでゴーストみたいだ。 


 自分の席に戻り、頭を抱えた。


 記憶をたぐり寄せる。前にも一度、機器を検知したことがあった。あれは確か…

「原因は酒村だったな…」

と言ったところで、ぬっと左から人が現れた。

「呼んだ、せんせ?」

 変声期特有のかすれた声をした酒村がでてきた。正直突然現れてびっくりした。

「できたよ、プリント」

「ああ、はい」

 受け取る。すると、酒村が首をかしげた。

「梶先生、なんか問題でも起きた?」

「え?」

「いつも補習受け取ったら猛烈な勢いで帰るじゃん。なのに帰りの準備すらまだしてないなんて。なんか帰れない問題があったのかなって」

 読解能力は高くないくせに割と鋭いこと言う。いや、もしかして今回の原因も

「酒村、今回もお前なのか?」

「? 何がですか?」

「またあったんだよ、不正接続」

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