7-18 狙われた実業家
晩餐後は穏やかな時間が過ぎていった。
それぞれ晩餐の席で隣になった人物と親交を深め、そのままの足取りで談話室へと移動した。そこには全員分の珈琲と各種アルコールが揃えられたワゴンが用意されていた。クラシックのレコードが掛けられ、眠りを誘う柔らかな香が焚かれている。
ツェツィーリアはケインズに捕まって、暫く彼の持ってきた宝石やカタログを眺めていたが、半時間と経たないうちに執事に呼ばれて出て行った。続いてケインズは隅の方で大人しく本を読んでいる女流作家に目を付け、哀れなフローラを次の餌食とした。
クルグマン伯爵はミロスラヴァ夫人とソファに陣取り、現在公演中の演目について熱心に語り合っていた。
「わしの解釈では、あの青年は青春のメタファーですな」
「では、女王はなんですの?」
「わしら老人ですよ。皆過ぎた青春を恥もなく追い縋る、そういう心理を表しておるのです」
「あら、そんな……それではなんだかロマンスが台無しですわ――」
そんな会話が漏れ聞こえてくる。
ベンジャミンは例の如く人一倍元気で、手隙の三人をカードゲームに誘った。
「メリライネン大佐、ダニーク先生、ひと勝負いかがです? お二人はさぞ腕が立つのでしょうなあ! それからもちろん――おい、エアロンくん! 逃がさないよ! ボクのペアは君だと最初から決めてるんだ」
エアロンはメルジューヌを探していたが、すでに彼女の姿は談話室から消えていた。仕方なくカードの席に着く。
以後、頭脳と運と勢いによる熱い戦いが繰り広げられ、最終的にベンジャミンが大敗した。しかし、今や富豪と呼ばれる地位に手を掛けている実業家は少しも嫌な顔をせず、潔く自分の負け分を支払った。
「飲み物のお替わりはいかがです? 皆さん同じものでいいですか?」
大一番の決着がついた時、エアロンがそう言って立ち上がった。ベンがそれならと腰を浮かす。
「ボクがやろう。最下位の罰ゲームってやつさ」
「ここは最年少の役目ですよ。ベンはそこで少し頭を冷やしていてください」
エアロンは酒を作りながらさりげなくアルコールのワゴンを調べた。
アクバルが料理女から聞いたというリキュールの話は共有されている。しかし、沢山並んだ瓶の中にそれらしい物は見当たらなかった。
「ないようだな」
気付けばメリライネンが隣に立っていた。
「うわ、びっくりした。何? 手伝ってくれるの?」
「自分の分を作りに来ただけだ」
彼はウォッカ・マティーニを作りながら声を落として言った。
「先程抜けた時にアクバルに指示を出してきた。ツェツィーリアの部屋を監視させている」
「ええ? 彼すっごい目立つじゃん。大丈夫なの?」
「無理のない範囲でと言ってある。確かめるのは彼女のもとに来客があるかどうかだけだ」
「こういう時、グウィードがいればなぁ」
二人は酒を手に席へ戻った。
彼らがワゴンの前で内緒話をしている間に、談話室内ではちょっとした席替えがなされたようだった。エアロンからカクテルのグラスを受け取りつつ、ベンが不満そうに耳打ちする。
「気付いたかい? あのいけすかない俳優、暫く前からいないんだ。あの可憐なお嬢さんと夜の散歩と洒落込もうって魂胆さ。二人で抜け出すのを見たってドクターが言ってたぜ」
「メルジューヌ嬢?」
「これだから舞台役者っていうのは。いいさ、ボクはフローラと仲良くするさ」
ベンジャミンは酔いが回っているらしく、ふらふらした足取りで作家のもとへ歩いて行った。しつこい宝石商がいなくなったと思ったら、今度はうるさい実業家に捕まってしまい、彼女はいよいよ辟易している。エアロンは彼女に同情したが、関わるのは面倒なので席に戻った。
カードは既に片付けて脇に置かれてしまっていた。ベンの代わりにクルグマン伯爵が加わっており、退役軍人を相手に上機嫌で喋っている。
「おや、閣下。ミロスラヴァ夫人を独りにしてよろしいんですか?」
エアロンは冗談っぽく笑いながら話し掛けた。
「夫人は残念ながら夜更かしをしないそうだ。それに彼女は酒を飲まん。素面相手に飲む酒なんぞ味気ないと思わんかね?」
エアロンは笑顔で相槌を打ちながら、絶対に伯爵の酒に付き合わされるのだけは回避しようと心に決めた。
ちょうどその時、手洗いで暫く席を外していた医者が戻ってきたので、自然さを装って彼の方へ身を寄せた。
「ドクター・ダニークは医学界に多大な貢献をなされたとお聞きしております。恥ずかしながら僕はそういった分野には疎いのですが、よければ先生がなされた研究についてお聞かせ願えませんか?」
フリードリヒ・ダニーク医師は前を向いたまま一瞬呆けていたが、自分に話し掛けているのだと気付いて慌てて振り返った。
正面の席ではメリライネン大佐が伯爵の餌食にされており、何やら世間体の悪い話をしているようだ。大佐の声は伯爵の大声に掻き消されてよく聞こえないが、「使用人」「アバヤ人」といった単語が時折聞こえてくる。
「あ、ああ。喜んで。しかし、かなり専門的な話になりますので、はっきり言って面白くないかもしれませんよ」
ダニークは控えめに答えた。エアロンはそれでも是非にと促し、医者が語る難解な話に耳を傾けた。脳と精神だの、神経伝達物質だの、なんやかんやと難しい話が右から左へと流れていったが、当然内容はちんぷんかんぷんである。
熱心に聞いているふりをしながら、その間エアロンは医者を観察することに集中していた。
背が高く、どちらかと言えば細身で、歳は五十すぎだろうか。健康に気を遣っているらしく、全体的に若々しく見える。顔付きも美男子と呼ぶに相応しく、歳を取って尚魅力的だ。難解な用語をわかりやすく説明する能力にも長けており、彼の病院が繁盛するのも頷ける。
「――素晴らしい成果ですね。それは実際にどのように医療現場で活かされているのですか?」
頃合いを見計らい、エアロンは無難な質問を挟んだ。すると、ダニークは僅かに言葉を詰まらせた。
「大変残念なことに、まだ何の実用にも至っていないはずです」
「なぜですか?」
「……事故ですよ」
そう言う医者の口調は苦々しい。
「ちょうど戦争も終わりの頃のことでした。私がいた研究所が、その、爆発事故に遭いまして。機器もデータもすべて吹き飛んでしまいました。それまでの努力が水の泡です」
エアロンは心の底から同情の声を出した。
「それは〈天の火〉で?」
「いえ……ああ、そうです」
電磁波災害――〈天の火〉。世界大戦をも終結に至らしめたそれは、あらゆる施設に被害をもたらし、ダニーク医師の場合のように破壊された研究は数知れない。今でこそ電子機器を極力減らした生活が浸透し、電磁波災害もたまに来る台風程度の扱いになってきたが、この現象が地球上の文明に与えた傷跡はあまりにも大きかった。
「それを機に私は研究所を抜け、病院で患者と向き合うことに専念することにしたのです」
「研究を再開しようとは思われなかったのですか?」
「ええ。いつまた〈天の火〉に見舞われるかわかったものではありませんから。非常に難解な装置を多数使わなければなりませんので、被災するたびに修復する費用はとても賄えません。心残りがないとは言いませんが、おかげで現在私は数多くの患者を救うことができている。今はこの選択をしてよかったと実感しています」
エアロンは当たり障りのないお世辞を述べつらい、話は病院の経営のことについて移っていった。
***
一方、向かいで話をしているメリライネン大佐は込み上げる怒りを押し殺していた。元来の無表情が幸いしてか、上機嫌のクルグマン伯爵はそのことに気が付いていない。赤ら顔から盛大に唾を飛ばしつつ、次から次へ酒を煽っている。
「アバヤ人! 噂だけは聞いていたが、実に羨ましい! わしも方々探しているのに未だ現物を見たことはありませんでなあ。開国して間もないし、まだ数が出回っていないのでしょう」
伯爵は大佐に向かって顔を寄せ、人目を憚るようにヒソヒソ声で言った。
「一体どこで買い付けたのです? いい商人がいるのならわしにも紹介していただきたい」
メリライネンは黙ってカクテルに口を付けた。
「出し渋っておりますな! それなら、代わりに日本人はどうです? 日本人はいい。真面目で従順。珍しさではアバヤ人には劣りますが、相場より安く手に入れられるルートがありますぞ。交換条件といきましょう」
メリライネンはついに我慢の限界が来た。伯爵の顔を冷たい眼差しで見据え、答える声は低く静かな怒りを宿している。
「閣下は勘違いしておられるようだ。私の侍者は買ったのではない。互いの同意のもとに雇い入れている」
伯爵は愉快そうに口髭を撫でた。
「おや。大佐殿は世間体を気にしておられる。心配なさるな。こういった場に出入りする人間で知らぬ者はおりますまい。ミロスラヴァ夫人だって以前は――」
「失礼。酔いが回りすぎました。私はもう下がります」
メリライネンは伯爵の返事を待たずに立ち上がった。
退室しようと扉に向かう彼に目を留めて、ベンジャミンも後を追う。苛立ち気味のフローラが席を立ち、どうやら今夜はお開きと見てエアロンとダニークも会話を終えた。クルグマン伯爵はまだ話し足りなそうであったが、誰も残らないとわかって諦めたようだ。一同はばらばらと二階の客室に向かい始めた。
「たいさぁ、待ってくださいよ、メリライネン大佐ぁ」
酔っ払いベンジャミンがフラフラしている。大佐はちらりと振り返ったが、無視してそのまま歩き続けた。
「つれないなぁ。フローラもオーランドも大佐もみーんなボクに冷たいんだから。ボクとあなたの仲でしょう、よっと」
酔っ払いがひょいと飛び上がってメリライネンの肩を抱く。
「ナーヴィカパティ!」
次の瞬間、メリライネンはベンジャミンと共に身を伏せ、同時に銃声が玄関ホールを貫いた。
「きゃああ!」
驚いたフローラが悲鳴を上げる。続くエアロン、ダニーク、クルグマンは彼女を連れて急いで談話室に身を隠した。
二階の廊下からアクバルが駆け下りてくる。後からダニーク医師の侍者、食堂に残っていた女中、その他数人が騒ぎに気付いて現れた。
「ナーヴィカパティ、お怪我は!」
「私は無事だ。一体何があった?」
アクバルは主人の前へ膝をついた。メリライネンが周囲を警戒しながら身を起こす。隣で潰れているベンジャミンが頭を押さえて喚き始めた。
「いっ、痛い! なんだ? 痛いぞ、いいい痛い!」
安全を確認してダニーク医師が出て来る。パニック状態のベンジャミンを宥めて傷の様子を見始めた。
背後ではエアロンとフローラが丹念に壁を調べている。
「あった、ここだ」
鉛色の視線が弾道を手繰る。発射されたのは二階の踊り場からか。
フローラがハンカチで弾を拾って持ってきた。
「よく見るやつですね。誰でもその辺で買える代物です」
「だ、誰かがボクを殺そうとしたんだ! ひいぃ、血だ! 痛い痛い、血が出てる!」
「落ち着きなさい。どれ、見せて――なんだ。掠っただけですよ。ちょっと深めに」
ダニークは自身の侍者を見上げて言った。
「私の部屋に医療鞄がある。取って来てくれたまえ」
侍者は走って行った。入れ替わりでツェツィーリアが二階から顔を出す。エントランスの騒ぎに驚く様子もなく、上から何事かと声を掛けた。
「皆様、どうなさったの?」
ダニークとアクバルは錯乱する被害者を押さえるのに忙しいため、メリライネンが立ち上がって答えた。
「何者かが発砲し、ロードマン氏が軽い怪我をしただけだ」
「だけって! 殺されるところだったんだぞ! ほら、血がこんなに――」
「あんたが暴れるから出血が止まらないんだ! 掠り傷だと言っているでしょう」
ダニーク医師が辛抱強く言い聞かせる。ツェツィーリアは「あらあら」と口元を押さえ、使用人たちに屋敷の中を検めるよう命じた。
その頃になって漸くオーランドとメルジューヌが戻ってくる。二人で庭に出たというのは本当だったらしい。
「ただいま使用人たちに不審者が入り込んでいないか見回らせております。皆様、よろしければ今暫く談話室でお待ちくださいな。安全が確認されてから自室に戻ってお休みになるとよろしいでしょう」
そう言ってツェツィーリアは自室へ下がり、メルジューヌが後を追った。女主人のあまりの落ち着きっぷりに肩透かしを食らったようになり、皆は少しずつ落ち着きを取り戻した。
談話室に戻った一同は、戦々恐々としながらもう一杯ずつ飲み物を取ることにした。エアロンとフローラがワゴンに付いて用意する。
「気付けにはブランデーでしょうか」
フローラが囁く。エアロンは肩を竦めた。
「ベンは飲み過ぎですからね、酒だと言って水を出してもわからないでしょう。それにしてもフローラ、あなたは大丈夫ですか?」
彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「え、ええ。大きな音に驚いただけですわ」
「冷静さを取り戻すのも早かったですよね。すぐに弾痕を探し始めた時は驚きましたよ」
「こういった現場を見るのは初めてですけど、書くのは慣れておりましたから……」
パニックが治まったベンジャミンは、命の恩人であるメリライネン大佐の手を取って大袈裟に感謝を述べている。
「メリライネン大佐! いえ、親愛を込めてリコと呼ばせてくれ! ボクが生きていられるのはあなたのお陰です。なんとお礼をすればいいものか!」
メリライネンは僅かに身を引きながら無愛想に答えた。
「運がよかっただけだ。まだ安心するべきではない」
その言葉にベンジャミンがヒッと身を縮める。
心底嫌気が差したのか、ダニーク医師は苛立ち気味だ。彼は騒がしいだけの患者を放置してアクバルの方を見た。
「手伝いありがとう。私には君が叫んだから大佐が身を伏せたように見えたんだが、犯人の姿を見たのかね?」
「いいえ、見ていません。撃鉄を起こす音が聞こえたので、とにかくナーヴィカパティに注意を促そうとしたのです」
医者は驚いて目を見開いた。
「音だけで? 凄いな。それに反応できる大佐も流石軍人と言ったところか」
窓の方ではクルグマン伯爵がオーランドを呼び止めている。
「まさか犯人は屋敷の者ではあるまいな。オーランド、君は外にいたのだろう? 怪しい人物などは見なかったのかね?」
若い舞台役者は突然の事態に取り乱す様子もなく、淡々と返事をした。
「いいえ。メルジューヌ嬢と星を見ていたものですから、屋敷の方は見ていませんでした」
伯爵はつまらなそうにフンと鼻を鳴らした。
そんな風に各々過ごしていると、ツェツィーリアの執事が屋敷内の見回りが終了したことを告げに来た。怪しい人物などは見当たらなかったが、今晩は夜警を立てるので安心して休んでほしいとのことだ。一応、各自部屋の戸締りはしっかりとするよう念を押された。
***
一同が部屋に下がるなり、エアロンはメリライネン大佐の部屋を訪れた。
「ねえ、船長。さっきのどう思う?」
〈アヒブドゥニア〉号の船長は既に寝る気満々で寝間着に着替えている。
「外部からの侵入者ではないのは間違いないだろうな。もしそうであれば、あのように大勢人がいるタイミングを狙うとは思えない」
アクバルは、発砲音は彼がいた廊下と反対の側から聞こえたと思う、と言った。
「それは中央の階段から見て右手ってこと?」
「はい。レディ・ツェツィーリアの部屋がある方です」
「とすると、階段を挟んでそっち側に部屋があるのは、ツェツィーリア、メルジューヌ、クルグマン伯爵、ミロスラヴァ夫人、ダニーク医師とその侍者かな?」
「犯人の姿は見ていないのだな?」
アクバルは悔しそうに顔を顰めた。
「申し訳ございません。目で確認するより先に叫んでおりました。私のすぐ後にダニーク医師の侍者が出て来たはずですが、彼もそれらしい人物は見ていないと言っています」
エアロンは頬杖をついて考え込んだ。
「それなら犯人の逃走経路は絞り込めるぞ。五つの部屋のどこかしかない。廊下の突き当りには東棟に繋がる扉があるけど、昼間見た時は鍵が掛かっていた」
「あの扉は壊れていて開かないことになっています。東棟には使用人たちの部屋しかなく、普段は一階から出入りしていると聞きました」
「それでは、この時点で三択だ」
船長がまとめたところによると、犯人の可能性は以下のようになる。
① 右側の廊下に部屋があり、あの時間に部屋にいた人物。
② 銃を撃った直後に無人の部屋に隠れ、窓から、または騒ぎに乗じて脱出した。考えうる犯人は談話室にいなかった者全員(使用人含む)。
③ ダニーク医師の侍者が犯人、または共犯(犯人を見ていないという証言は嘘)。
「無人だったのはメルジューヌとクルグマンの部屋だけか」
「よし、一人ずつ検証してみよう。まずツェツィーリアだ。自分の屋敷で殺人未遂が起きたっていうのに、あの冷静っぷりが少し気になるね。さすがに犯人ではないと思うけど」
「ナーヴィカパティのご命令通り、あの女の部屋の様子を窺っておりました。来訪者が部屋に入ったところは見ませんでしたが、確かにあの女は部屋で男と会っていたようです。一度近くまで行きましたが、話し声が聞こえました」
エアロンが感心の声を上げる。
「アクバルって盗み聞きとかもできるんだね。優秀じゃん」
人聞きが悪い、とイエニチェリは若干嫌そうな顔をする。咳払いしながら「内容までは聞いていません」と付け足した。
「お忍びで来てる客を待たせて、っていうのは変だよな。彼女なら他にいくらでも殺すタイミングはあるもん。確証はないけど暫定で白」
続いて船長が首を傾げる。
「ミロスラヴァ夫人も考え難い。彼女には動機がない。性格から考えても銃はないだろう」
「動機を言い出したら全員当て嵌まらないんじゃない? 大体、本当にベンを狙っていたのか、あんたを狙っていたのか、後続組の誰かを撃つつもりが外れたのか」
エアロンは溜息をついて首を振った。
「やめやめ。動機探しは後回し。続いて可能性があるのは――メルジューヌか。同じ方法でオーランド。いっちばん人を殺しそうなのはメルジューヌなのに、手口を考えると彼女じゃなさそうって思えるのが皮肉だね」
彼は自嘲気味に笑い飛ばした。
「彼らの身体能力を考えれば、二階の窓から脱出して玄関から登場するなんて容易いはずだよ。建物の外壁はよじ登れそうな取っ掛かりばっかりだしね」
「メルジューヌが犯人というのは――いや、だからこそ在り得るのか……」
船長がぼそりと呟く。エアロンが説明するよう促したが、船長は答えなかった。
「最後に、ダニーク医師の侍者か。この男の場合、発砲してすぐ駆け付けたふりをすればいいだけだ。最も実行の難易度が低い」
「動機の問題は付き纏うよ。あ、そうだ、ケインズを忘れてた。あれだけ騒いでいたのに、あのしつこいじいさんが姿を現さなかったのは不思議だね。どこ行っちゃったんだろ」
まあいっか、とエアロンが立ち上がる。彼は戸口で振り返った。
「なんか凄く疲れちゃったよ。明日は容疑者たちのアリバイと動機探しだ。それからもちろん、ツェツィーリアの秘密を探ること。それじゃ、おやすみ」
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