第2章 その13
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TOYOSU―SYO屋上――対岸に、東京タワーを真ん中に近代ビル群の街並みと。靄に煙り霞むレインボーブリッジのシルエットが朝日を頂いている東京湾の光景。目深に位置する豊洲市場のアーケード街。梅野屋銭湯の煙突。竹の宿ビジネスビルの上階。少し向こうには、首都高の出入口の坂道とそこから続く高架橋。
TOYOSU―SYO正面――玄関屋根に、警察マークと『TOYOSU―SYO』表札のビル。横を黒ヘルメットにブラウン革ジャンでブラックジーンズ姿の沖勇作警部補が運転するダビットソン社の黒い単車が……ドッドッドッド……と、行く。
豊洲署の地下射撃場――ドヒュン、ドヒュン、ドヒュン……とコンバットマグナムの銃声が人知れず鳴り響いている。
豊洲署の一般者の受付のある一階ロビーのアナログ大時計の秒針が8時20分を告げる。
一般者対応カウンターの『免許証書き換え受付』プレート下で、お澄まし顔の豊川海晴。
大時計横のエレベーター横の階段を駆け上がって来る足音……に、海晴が振り向く。
「オッす。嬢ちゃんの友達」と、駆け上がってきた沖勇作が声をかける。
「お早う御座います警部補。お若いですね。息も切れずで」と、にこやかに返す海晴。
ニヒルVサインをかまし、また、駆け上がって行く……沖勇作。
豊洲署・捜査課――観音ゲート口の上の時計は8時29分。パソコンに『申立集団サイト』。桐溝零華警部補が若井舞花のパソコンを使っている。
後ろで、鮫須保係長と真中透巡査部長が見ている。
「主のキンタカの本名は近藤孝道ですよ、かかり、あ、デカ長さん」と、零華が振り返る。
「オッす」と、ゲートを沖勇作が入って来て……鮫須係長と真中の横に来て立つ。
挨拶を返す鮫須係長と真中。続いて零華も。「おはようです、オジ様」
舞花のパソコンを覗き込む沖勇作。「あ! お邪魔虫! 俺のと同じだ」
「これって、舞花ちゃんが仕掛けたようよ」と、零華が舞花のパソコンを手で示す。
沖勇作が、舞花のと自分のパソコンの画面と見比べる。
画面に映ったサイトホームページが全く同じ。
「タカ、かーあ!」と、眉間に皺の沖勇作が……立ち上がる。
「近藤先輩が、このサイトを。警部補」と、振り向く沖勇作と見合う鮫須係長。
「零華。マグナムの名で孝道をおびき出せるか」と、零華の後ろから画面を見る沖勇作。
「ううん……(キーを叩いて)チャットOKよ。オジ様」と、入力しようと構える零華。
「おい、キンタカ。マグナムが例のタワーで待つ。と、うってくれ。零華」と、沖勇作。
真中が沖を見る。
「うん。オジ様」と、キーを叩く零華。「OKよ、オジ様」と、沖勇作を見る零華。
「よし。デカ長」と、零華の両肩にポンと手を置いて、鮫須係長を見る沖勇作。
沖勇作を見ている……零華の顔が、何故か? 綻ぶ。
「うん、許可する警部補。真中君も」と、鮫須係長。
「いいや、俺一人で行きます」と、革ジャンの両襟を浮かし上げて直し……ゲートを出て行く沖勇作。
沖勇作のパソコンにも『申立サイト黒板』のチャットに「おい、キンタカ。マグナムが例のタワーで待つ」のメッセージ文字が出ている。
「解析して、潜り込んでみます、デカ長さん」と、零華が、(無いはずの感情剥き出し状態のように)激しく入れ込んだ顔して……舞花のパソコンキーを叩きはじめる。
「舞花巡査、あ! 警部補も、サイト利用者だったか」と、鮫須係長と見合う真中透。
「了解。頼むよ零華君」と、頷く鮫須係長。
東京タワー展望台の中――
窓の外を見ていた沖勇作が近藤孝道と対峙する。
「私はただ、捌け口サイトを提供しただけ。実行するのは本人の勝手さ」と、近藤孝道。
沖勇作が掴みかかる。その手を払う近藤孝道の袖が捲れて、右手首の古傷が見える。
近藤の襟を直して、かるく押す沖勇作。
TOYOSUーSYO地下射撃場――
うっすらと明かりが灯るブース前通路。
コツコツと踵を鳴らした舞花の足音。
「アタシ、二階級特進だし」と、舞花の声。
コンバットマグナムの銃声が6発分鳴り響く。
TOYOSU―SYO屋上――東京湾の対岸に、東京タワーを真ん中に近代ビル群を従える街並み。東京西の稜線にかかる大きく見えるオレンジ色の恒星は夕日。いたずらするかのようにかかる雲が馬の尻尾を象っている。
――東京豊洲市場を背にしたビルの上層階の壁に『TOYOSU―SYO』表札。
コンバットマグナムの銃声がその地下で……
ドヒューン! ドヒュン、ドヒュン……
と、人知れず響きまくっている……
それはまるで、
二階級特進を結わうのか? はたまた二人の警部補の無念尽きぬ涙の如しに!
第2章 の 了
(この物語はあくまでもフィクションですので、悪しからず。 by 音太浪)
ザッツ・昭和デカ! 鐘井音太浪 @netaro_kanei
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