第2章 その12

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 首都高・湾岸線路上――夜空を行く窓明かり散りばむ飛行機。『湾岸線・港区豊洲方面』標識看板の、屋根が開けたアンダーの道を快走する隼田の赤いスポーツカーは、REDⅯATTER。屋根から左サイドにかけて『REDMATTER』と『異議申し立て奉り候!』の塗装文字のイタ車が間もなく立地事情のトンネルに、入って行く……。


 その車内――スピードメーター時速120キロ。フロントガラスの外は、トンネル内部を疎らに並走して走る他車の間隙を縫って速やかに走る光景が――。

 隼田恭介が、サイドミラーを見て、笑う。

 追い越していく赤い高級車がトラックの隙間に見える。サイレンを鳴らして追尾する白バイが2台。その高級車はフォードア車!

 車内の時計、21時40分。


 夜間走行中のミニパト車内――フロント外の光景は、『汐留出口』を降りて、一般道の『晴海通り』に入る。助手席に豊川海晴。運転するポニーテールの若井舞花。

「晴海の出口だし」と、海晴が向けているスマホ画面をチラッと見て、前を向く舞花。

 対向車線を行くレックーザ800と擦れ違うが、大型車に阻まれ通過する。


 夜の首都高晴海線・豊洲出口――警察車両とバリケードで道を狭めて武装制服警官隊が一般車両を流しとおしている。ヘルメットをミラーにかけた単車に跨る革ジャン姿の沖勇作が、出口に向かって路肩に陣取り……耳のインカムをグローブをした手で押さえる。


 夜の首都高――規制線が説かれた『大井Jct』の標識看板のジャンクション壁に隠れている高級車に沖勇気と望月遥が乗っている。

 無線機がピッと鳴って、

「こちらシロ1号。大井ジャンクション口を只今、赤いスポーツカーが時速132キロで通過して、みるみるスピードを上げています」と、些かの風切り音に塗れた男の声。

「了解。お縄にして」と、勇希。

「待て、ナンバーは」と、沖勇作の声が割り込む。

「ええ……品川330のま、2347です」と、男の声。

「そいつは、レッドじゃないぜ。ほかに特徴は」と、沖勇作の声。

「車種はN社セダンの、ファインレディです」と、男の声。

「ま、違反者には違いない。お前さんらはそいつをお縄にしな」と、沖勇作の声。

勇希と遥が見合って頷く。

「そういうことで、よろしくね、白バイさん」と、沖勇希が指示を出す。

「他のステルスなローラーズは、そのままパトロールを。もう付近まで来ている時間帯でもあるわ」と、遥が指示を出す。

「了解」の返事が無線機に帰って来るが、レックーザ800の二人の声は聞こえない。


 秘密義なスカスカ道筋の地下のトンネルから――レックーザ800の覆面車が出て来る。

「ここって、タカ―。一般開通しているんだよな」と、助手席の芝山淳司が口を動かす。

「ああ。大型トラックは多いが。スカスカで走りやすいよ、淳司」と、運転席の高山浩司。

「いくらミッドシップのレアカーでも。四気筒じゃぁ、伸びが違うよ、タカ」

「いよいよレックーザ800の能力発揮だよ、淳司」

「あのオッサンデカに、いい何処とりの横取りだな、タカ」

「ああ。階級いびりしても動じないが。大井の合流地点から湾岸に入って、勝負さぁ」

 と、フロントガラス越しの車内で話す高山浩司と芝山淳司。


 都心の夜景の中を走るミニパト車内――舞花が運転して、助手席に海晴がいる。

「花金、必ず来るわよ、レッドはね」と、沖勇希の声。

 舞花が一瞬、車内無線機を、見る。

「いた! レッドだ。444だよね」と、芝山淳司の声が無線機からする。

 前方を直視した舞花の瞳が泳ぐ。

「どこ?」と、沖勇希の声。

「空港を七色橋に向かって、時速120キロ平均で……」と、高山浩司の声。

「あ! 加速した。北トンネルに入った」と、芝山淳司の声。

『あ! プレートが、444からREDMATTERに』と、揃いもそろった高山浩司と芝山淳司の声。

 シートに深く座った舞花の表情に、動揺の色が……。

「どうしたの? 舞花」と、海晴。

「え!」と、驚いて、「あ」と、我に返って、「うんう」と、首を振って、何でもないことを装う舞花。


 夜の首都高晴海線・豊洲出口――警察車両とバリケードで豊洲出口を狭めて複数の武装制服警官らが一般車両を流しとおしている。ヘルメットをミラーにかけた単車に跨る革ジャン姿の沖勇作が、出口に向かってややろ過頼りに陣取っている。

 片耳に付けているインカムを手で押さえる沖勇作。

「そうか。法定制限考慮速度を大幅に超えるとき、奴のナンバーが変わるのか」

 と、グローブをした両手を胸の前で揉む、沖勇作。


 夜の首都高――規制線が説かれた『大井Jct』の標識看板がジャンクションの安全地帯に潜み待機する高級車に沖勇気と望月遥が乗っている。車内時計は、21時55分。

 ピピッ! と、無線機が鳴る。

「勇希さん。そいっちに、レッドが」と、高山浩司の声。

「間もなく、行くっすよ、速度142キロ」と、芝山淳司の声。

「作戦通りに。七色橋をいったん閉鎖して!」と、望月遥が指示を出す。

「一般車両は路肩に避難させて停車誘導を!」と、息む沖勇希が外を見る。

 外で――笛を吹き、一般車両に向かって誘導灯を横にする警官隊。


 高山浩司と芝山淳司のレックーザ800の車内――フロントガラスの外に……有明ジャンクションの安全地帯に待機する高級車を確認する。

 推定距離20メートル差をつけられて、前を走るREDMATTERのミッドシップカー。路肩に警棒や白バイ……カラーコーンのバリケードを利用して一般車両の大型トラックまでをも例外なく停車誘導指示を出し……首都高湾岸道路上り線を――フリーウエイにする警官隊チーム諸君。


 都心の夜景の中を走るミニパト車内――舞花が運転して、助手席に海晴がいる。

 無線機から……

「作戦どおりにレインボーブリッジを閉鎖よ」と、望月遥の声。

「行きますよ、パパ」と、沖勇希の声。

 舞花がミニパトを急停車させる。

 前のめりになる海晴のお胸の谷間が、締まったシートベルトで強調される。

「ねえ、舞花って、ハンドル握ると性格変わるタイプ」と、シートベルトを緩める海晴。

「海晴。降りて」と、真剣な眼差しを向ける舞花。

「どうして。さっきから、寡黙な感じ」と、迫力に目を細める海晴。

 舞花が手を伸ばして助手席のドアを開けて、シートベルトを外し、晴海にキスするよに近づき……目を細め強張る海晴を押して、「ごめんね」と、外に出す。

 転げ出る海晴が路肩に座り込む状態になり、口を尖らせ首を傾げて舞花を見る。

 舞花が笑顔を見せて、急発進する。その反動で助手席のドアが閉まる。

 前を直視する舞花の目。


 若井舞花の回想――隼田恭介の赤いミッドシップカーは、世を忍ぶ仮の姿のREDMATTERの車内。車窓に、豊洲署が見える路肩で、舞花が運転席の隼田と向き合っている。

「俺、悪魔に魂を売ったからさ」と、隼田。

「で、別れるの? アタシも辞めてもいいし」と、キスしようとする舞花。

「ダメだ! 舞花は続けろ」と、隼田。

「なら……」と、隼田のほっぺにチュッする若井舞花。

 降りた舞花が……ショルダーバッグを担った方の手を振って、豊洲署に歩く……。

 その背を見送って、正面を見て、赤い車を出そうとした隼田が、「恭介ッ」の舞花の呼びかけに助手席外を見る。

 投げキッスして……スキップしつつ豊洲署玄関へと行く舞花の頭部に、生えたように跳ね揺れている……ポニーテール。


 元のミニパトの車内――夜の高架下を行く……舞花が直視して運転している。

 フロントガラス越しの前方に『晴海線・豊洲出口』の標識看板が見えてくる。

 舞花の足がアクセルを踏み込む。

 見る見るうちに上がって行くスピードメーターの針は、一般道では違反の時速80キロ。


 コロシアムの屋根を横にした首都高の高架橋――REDMATTERを運転する隼田恭介。スピードメーターの針は、時速150キロをキープしている。

 サイドミラーに目を動かす隼田の視界に……レックーザ800の覆面車が二台後ろに。

(あれは! この前の。先輩が踏み台にした……。直6の覆面車だったか。どうりで)

と、口角を緩めて、フッっと吹くように笑う隼田恭介。タコメーターはレッドゾーン!


 夜の首都高――規制線が説かれた『大井Jct』の安全地帯で待機する高級車の中――固唾をのんで無線機を見つめている望月遥と沖勇希。

 REDMATTERが猛スピードで横を走って行く――差をつけられたままレックーザ800の覆面車が赤色灯を焚いて、追いかけていく。


 豊洲出口にスタンバっている沖勇作――夜の首都高晴海線・豊洲出口――警察車両とバリケードで豊洲出口を狭めて複数の武装制服警官らが一般車両を流しとおしている。

 ヘルメットをミラーにかけた単車に跨る革ジャン姿の沖勇作が、直視して、片耳に付けているインカムをグローブをした手で押さえる。


 ミニパト車内――違反行為のながらスマホで文字入力中のポニーテールの若井舞花……。


 夜の首都高晴海線・豊洲出口――警察車両とバリケードで豊洲出口を狭めて複数の武装制服警官らが一般車両を流しとおしていて――笛を吹いて赤い誘導灯を頭の上で横にして、車両の流れを止める。

 ヘルメットをミラーにかけた単車に跨る革ジャン姿の沖勇作が、出口を直視している。

「そっちに追い込むわよ、パパ」と、沖勇希の声。

「おい、勤務中だ、パパじゃねえよ」

 と、単車を降りて……下り坂に向かって立ち……右手のグローブを取る沖勇作。

 軽やかで甲高いスポーツカーのエンジンの音が近づく。

 警官隊が止めている一般車両の後ろから……近づいてくるミニパト。

 ハイビームのスポーツカー、REDMATTERが正面から来る。

 単車を背後に、腰に右手を回して、左へと動いて……左手でグリップを支えて、マグナムを構える沖勇作。後方バックアップの等間隔の投光器――五つの光に包まれる沖勇作。

 お構いなしに向かって来る、隼田恭介が運転するREDMATTER。

 赤色灯を焚いて……ミニパトが後ろからバリケードとの隙間に突っ込んで、入ってくる。

 REDMATTERが、路肩の外灯のポール残り3本目に差し掛かる。

 マグナムのハンマーを親指で引く沖勇作。

 REDMATTERがポール2本目に差し掛かったとき!

 照準をやや下にして引き金を引く沖勇作。

 ドヒュン! と銃声を伴って、コンバットマグナムの銃口から弾が出る。

 REDMATTERの運転席側の前輪にヒットするが、タイヤがパンク! しない?

 悩む暇のない沖勇作が、ダッシュして、右へと移動して――構えて、引き金を引く。

 ドヒュン!

 助手席側前輪のタイヤにヒットするが、パンクする様子もない?

「なんでだ?」と、視線は向けたまま小首を傾げ、「まさかのランフラット!」

 REDMATTERのフロントガラスの中に、運転する二十代男子(隼田恭介)が確信できる。

 シリンダから薬莢をすべて抜いてポケットに入れて、銃弾型のネックレスをシャツ下から出して、薬莢と弾の間のネジを回して……中の銃弾一発を手にする。

 人差し指と親指で摘まんだ弾を、空のシリンダに入れて、ニヤッとする沖勇作。

 雷管の刻印に、357ⅯⅯとある――素早く振ってシリンダを戻し装填したコンバットマグナムを――もう目深と言っていい距離まで迫っているREDMATTERに向ける。

「リアエンジンだが、お手製調整チャージャーはフロントか!」と、ハンマーを引き、引き金に人差し指を添えて、左手をグリップ下と右手首に添えて――コンバットマグナムを完全固定する沖勇作。

「先輩なら、避けられるよね」と、目で訴えるフロントガラスの中の隼田恭介。

「オジちゃまあ!」と呼ぶ声のかわりか? ミニパトのクラクションが後方から一発する。

 が、集中している沖勇作には届かない。

 横を通過するミニパトを運転席の舞花。

 が、沖勇作を見て笑う舞花。夜でもクリアな後方窓ガラスでは、その後ろからでも脳天から生えたような馬の尻尾のポニーテールが確認できる。

「楽しかったわ」と、舞花の口パクが――沖勇作の意識を振り向かせ。

 沖勇作が流し目で、横を通過中の……ミニパトを見る。

 REDMATTERが……コンバットマグナムを構える沖勇作に――迫る。

「なんだ? おい、誰だ」と、インカムを片手で押さえる沖勇作。「Bプランか!」

 横を通過するミニパト運転席ではっきりと、スマホ画面を片手タッチする舞花。

「あのイケすぎなポニーは!」と、口角を歪める沖勇作が叫ぶ。「おおい!」

 ミニパトがREDMATTERに突っ込んでいく。

「天国なら生真面目NGなしだし」

 と、舞花の声が――届いたような気がする沖勇作だが。一瞬にして再びREDMATTERへと意識を戻し、コンバットマグナムを構える……ものの!

 隼田恭介が断末魔に……「俺は只。真面目に違反者を追っただけだ」

 REDMATTERとミニパトが激突して、爆発炎上する。

「……嬢ちゃん……か? 今の」

 と、目を細めてゆっくりとコンバットマグナムのハンマーを戻す沖勇作。

 下り坂途中で停まったままのレックーザ800の中――フロントガラス越しにあんぐりと口を開きっぱなしで、フリーズしている高山浩司と芝山淳司。

 後ろのバリケードにいた警官隊が事故車両に近づこうとするがドッカーン! と、再び爆音を立てて爆発する現場に、警官隊が慄く!

「なに? 今の爆音って」と、沖勇希の声が無線機から漏れる。

「嬢ちゃぁーん」と、近づくに近づけずの沖勇作が「おい、消防車は? レスキュー要請は?」と、成す術を失って四苦八苦状態になる。




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