第2章 その11
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TOYOSU―SYO屋上――東京湾の対岸に、東京タワーを真ん中に近代ビル群の街並みの夜景。電照でかたどられたレインビーブリッジの袂で……赤く瞬くパトランプもちらほら見えている。屋上目深に位置する豊洲市場のアーケード街の少し向こうには、今、沖勇作らがネズミ捕りを仕掛けた首都高出口の下り坂の道……陰にはなっているが、静かに焚いたパトランプのレックーザ800の覆面車と横に単車に跨るメットを外した沖勇作の背を向けた姿もある。
ライトアップされた東京タワー展望台――カフェで近藤孝道が指だしグローブをした手で……ノートパソコンを使っている。
――キンタカマスター。今夜も、22時ジャストに実施します。レッドマター――
近藤がパソコンを閉じて、バッグに入れて、筒状のケースを出す。
近藤が筒状のケースからオシロスコープを出して、夜景を眺める。
(勇作よ。この者の思いが分かるか。この国は警察機構ですら、一度のミスも許さず庇うことすらできない世知辛い体質と化しているのだ。然も、この者は、個々にその罪を押し付けて首切りにあった犠牲者だ。そんな輩の末路のいい例なのさ。なーわかるか勇作よ)
と、近藤孝道が覗くオシロスコープの中に見える光景は、対岸の豊洲署五階建てビル。
そして、今まさに声明どおりに事が起こるであろう七色イメージの架橋のレインボーブリッジへと……パーンする……オシロスコープの中に、フォーカスされる夜景。
近藤孝道の回想――30年前の米国首脳来日で、警備についている近藤孝道と沖勇作。
青空の下のタワー展望台の窓から……双眼鏡で下を見る沖勇作。
近藤孝道が寝そべって、ライフルを構える。開いた窓からライフルの銃口が出ている。
その下の高架橋の道に、白バイが先導した3台の黒い車が通っている。
「目標はあのビルの屋上だ、タカ」と、沖勇作。
「よし。任せろ、勇作」と、セットされたオシロスコープを覗く近藤孝道。
「ライフルはタカに脱帽だ」と、首にぶら下げた双眼鏡を目から外す沖勇作。
向かいの屋上に、下に向かってライフルを構える男。
「近々。装弾数5発の専用拳銃に統一されるようだが……。いた。奴だな」
と、引き金にかけた近藤孝道の指だしグローブの指先が白くなる。
沖勇作がレシーバーを抑えて、「上が、ガセに引っかかった」と、マグナムを早撃ちする。
近藤孝道が発射したライフルの銃口が上を向く。
「うわあー」と、声を上げた近藤孝道の右手首が出血する。
「許せ。人違いでは。奴の未来が狂う」と、沖勇作がハンカチを出して、その手首に巻く。
今の展望台――オシロスコープを覗く近藤孝道が、目をはなして目を細める。その先に、レインボーブリッジの夜景。
高速道路夜の大黒ジャンクション――ふ頭上の、『大黒Jct・湾岸線方面』の標識看板が袂にある螺旋状の道を上って行くREDMATTERの赤いスポーツカー。
夜の首都高晴海線・豊洲出口――警察車両とバリケードで豊洲出口を狭めて複数の武装制服警官らが一般車両を流しとおしている。レックーザ800で余裕こいて、通過する一般車両や沖勇作を見る高山浩司と芝山淳司。
背中を向けた格好で、ミラーにメットを引っかけた単車に跨ったままの沖勇作が……豊洲出口の下り坂を見て……目を瞑る。
「それで何を撃つんです。警部殿は」と、高山。
「タイヤだ。左右のな!」と、沖勇作。
「左右?」と、芝山。
「ああ。奴は片輪走行ができる」
と、沖勇作が指でつくったピストルを前に出し、パン、パン、とシミュレーションする。
夜景のレインボーブリッジの袂でパトランプを光らせた覆面車――の車内。
助手席で無線機に話す沖勇希。
「作戦名……謎の暴走赤車(あかぐるま)専用ネズミ捕り」と、勇希。
運転席でスマホを手にしたままの望月遥が首を傾げて、身震いして、つくり笑顔をする。
ミニパト車内――豊川海晴と若井舞花。『汐留入口』を行く横の制限表記は80キロ。
「うちってさぁー。特殊な感じだし」と、舞花。
「うん。交通課が受付って、総務兼任」と、海晴。
「刑事課じゃなくて、捜査課だし、ね」と、舞花。
「ねえ、何処行くの?」と、海晴。
「ええ、レインボーブリッジじゃない? 今夜の規制線は」と、舞花。
「規制解除よ。本番はこれからよ、みんな」と、沖勇希の声が無線機から聞こえる。
「え! どういうこと、かな?」と、舞花。
「あれ。ヘッドライトが滑らかに流れ出しているよ、舞花」と、海晴がレインボーブリッジを指差す。
「作戦名……謎の暴走赤車(あかぐるま)専用ネズミ捕りいくわよ」と、またまた勇希の声。に、目を見開いてまた細める舞花。
「アタシのスマホ。胸ポケ、海晴」と、舞花。車内メーター80キロキープ。
海晴が舞花のジャケット内側を探りスマホを出す。
「2202で、画面解除して、ラインでオジちゃまを呼び出して、海晴」と、舞花が。
繋がって、「今、どこ、オジちゃま」と、海晴の持つスマホに、素の声を張る若井舞花。
鶴見つばさ橋――海の上を浮かんで夜間走行しているかのような天の道。
大型トラック4台に囲まれ走っているREDMATTER印のミッドシップカー。
フロントガラスの中にレーサーの如く運転する隼田恭介。
隼田恭介の回想――数年前の、夜のレインボーブリッジ。覆面車ループサーを運転するヘルメットにサングラスで、警官制服の隼田恭介。助手席に同じ格好で巡査部長階級の男性警官。
「隼田巡査。初めての夜間パトロールだな」と、巡査部長。
「はい、先輩。この時間はスカスカで走りやすいです」と、隼田。
「スピード出したくなるよな、こういったスポーツタイプの車は」
「はい」と、頷く隼田の前のメーターは80キロキープしている。
「お前のテクは評判高いからな」
「はい。精進します」
と、その横を追い越していく青いスポーツカー。
「先輩」
「ああ」と、巡査部長が、パネルのスイッチを押して追い抜いていくスポーツカーのスピードを測定する。『142キロ』をマークする。
「おい」
「はい。違反者です」と、スピードを上げる隼田。
巡査部長がスイッチを押すと、赤色灯が赤く車外に反射して、サイレンが鳴る。
フロントガラスの光景が……違反者のスポーツカーにテイルズ―ノーズ状態になる。
巡査部長がマイクで呼びかける。
「そこの青いスポーツカー。次の出口を出て路肩に止まりなさい。ナンバー品川……」
薄笑みを浮かべて運転する隼田恭介巡査。
……従わずにレインボーブリッジを逃げる……青いスポーツカーに、ピッタリと張り付いたかのようにすれすれの車間距離を一定に保って通奏する覆面車のスープサー。そのフロントに、運転する警官――隼田の唯一出ている口元が緩く微笑んでも見える。
振り切ろうとドリフトしはじめる青いスポーツカーに……一定の車間で食らいつくスープサー。
……青いスポーツカーがハンドル操作を誤って、思いのほかスピーンして……橋の繋ぎの鉄にスリップして片輪になって、また路面に四輪が着くとバウンドして、欄干に当たって、跳ねて、橋の外へと離脱していく。
「あ!」と、した顔でスープサーを停めて、外へと出てきた隼田と巡査部長が……欄干に走り寄り下を見る。
黒い海にみるみると没していく青いスポーツカー……の赤く輝いているテールランプ!
「先輩。どうしたら」と、隼田。
肩の無線着て連絡を取る巡査部長……。
欄干に添えた両手をそのままに……屈む隼田恭介が下を見る。
小会議室――制服警官姿のお歴々が横一線に並ぶテーブル。
前に立たされた、隼田恭介巡査と巡査部長。
「どちらが運転を」と、お歴々の一人が問う。
「はい。隼田巡査です」と、巡査部長が答える。
と、隼田が頷く。
「どうして過剰に追ったのかね、君」と、また別のお歴々。
「はい。通常に追っただけで。ハンドル操作ミスはマルヒの方です」と、巡査部長。
「それでどうして、あの高さの欄干を超えて海に落ちるのかね、君」と、お歴々。
「そういわれましても。青いスポーツカーのドライバーに訊いてみませんと、分かりかねますが」と、隼田。
「ま、いずれにしても被疑者死亡では、聞けんよ、君ィ」と、真ん中のお歴々がようやく口を開く。
「警視正。わたしと隼田巡査の処分は」とお、巡査部長。
「おって申し渡す」と、別のお歴々。
「行っていいよ」と、最初に口火を割ったお歴々が手払いする。
ほぼ同時に一礼して部屋を出る巡査部長と、隼田恭介巡査。
見合ったお歴々の中に一人が、自らの首を水平に出した手で切るジェスチャーをする。
他のお歴々がそれぞれに頷く。
高速海岸線B――を行くREDMATTERの60キロ走行制限表記が、80キロ制限に変わる。流れがよくなってきて、車両の間隙を縫うように快走するREDMATTER。
「俺は只。追走しただけ。運転操作を誤ったのは車の方だ。いきなりクビは、ないよな」
と、フロントガラスの中で余裕で運転する隼田恭介。
80キロ制限表記が消えて、無表記になる。
夜景のレインボーブリッジの袂でパトランプを光らせた覆面車――の車内。
助手席の沖勇希を見て、無線機に話す望月遥。
「今夜も空振りですねぇ。でも念のため首都高パトロールして」と、遥。
「令和の危ない二人も、パトロールして。いい車はお飾りかしら」と、勇希。
無線機を切って、鼻で笑いあう望月遥と沖勇希。
夜の首都高晴海線・豊洲出口――警察車両とバリケードで豊洲出口を狭めて複数の武装制服警官らが一般車両をとおしている。レックーザ800の高山浩司と芝山淳司。
「今か? すまん、嬢ちゃん。言えねんだ」と、単車に跨る沖勇作がスマホを懐に仕舞う。
「では、作戦通りに」と、レックーザ800を発進する高山浩司。
「ダサいがな」と、芝山淳司。
苦笑した沖勇作が、ニヒルVサインをかます。
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