第2章 その9
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TOYOSU―SYO――夕日を浴びる五階建てビル屋上。すぐ下のブラインド越しにうち明かりが漏れる部屋は署長室。
その署長室――早川晶子と桐溝零華、沖勇作が話すその窓の外には、本日も夕焼け空が広がっている。
「……と言うことで、三日に渡ってお伝えしたこの案件は、この三人のみのトップでお願いしますね、沖先輩」と、早川晶子署長。
晶子を見て、薄笑みで沖勇作を見る零華。
「ああ、初代嬢ちゃんの、晶子署長さん」と、ニヒルVサインを、立場のあり方に悪びれることもなくかます沖勇作。
またその捜査課――Uの字デスクに着いている鮫須保係長に真中透。
観音ゲートドアを戻ってきた桐溝零華と沖勇作がそれぞれの位置に向かう……。
「何だったんです、先輩。署長の要件って」と、真中。
「ああ、いいや、トップシークレットだ、トール」と、席に着く沖勇作。
「真中君。署長自ら警部補を呼び出すほどの案件です。わたしらの詮索するところではないのでしょ」と、鮫須係長。
「あれ、舞花ちゃんは?」と、すでに癪席している……零華が……わざとらしく見渡す。
「なにか、調べもの、とか言って。資料室にいるのでわ?」と、真中。
Uの字デスクの舞花のスタンドに立ててあるPパッドを見て……小刻みに頷く沖勇作。
TOYOSU―SYO屋上――からの景観は、東京湾の対岸に、東京タワーを真ん中に近代都心の夜景。電飾したレーンボーブリッジ、首都高晴海線高架橋、行き交う船舶、直下の市場アーケードと賑やかな街並み。
それらを見渡す横一線の人影は、沖勇希、望月遥、沖勇作の三つ。
「舞花ちゃんは」と、遥。
「ああ、調べもの、しているってトールが」と、沖勇作。
「ま、この案件には部外者だわ、舞花はね」と、勇希。
「で。あの作戦で行くのか、勇希警部補」と、沖勇作。
「うん。ガンマンさん。20時からのミッション開始よ。抜かりなくね」と、勇希。
顔を二人に向けて微笑んでいる遥。
「誰に言っているんだ、勇希」
腰のフォルダからコンバットマグナムを抜いて、シリンダを開けて弾を確認する沖勇作。
その一階の正面玄関――外観は、もう外の明かりは外灯のみで、薄暗い。
警察マークと『TOYOSU―SYO』玄関のビル。『関係車両・出入口』の建物の陰から、目が透けているサングラスに黒いヘルメットを被った革ジャンすがたの沖勇作が運転する単車が、玄関前を徐行で通過して一時停止する。
エンジン音を棚引かせて……一般道路へと、沖勇作の単車が走りゆく。
その1階フロア――感知式の天井の明かりが、今は一カ所のみが灯っていて薄暗い。
掛け時計6時59分。『免許更新』の受付で、豊川海晴が残務整理している。
若井舞花が上から階段を下りてきて、カウンター越しに海晴に話しかける。
海晴が笑ってパソコンを使いつつ……舞花に話を返す。
ガラスドアの玄関外に、ド、ド、ド、ド……と音を立てて徐行して敷地から通りへと出ようとしている沖勇作が運転する単車。
舞花と海晴が外を見る。
一時停止して、エンジン音を棚引かせて……一般道路へと出て行く沖勇作の単車が玄関ガラス外に見える。
海晴が手を止めて、外を見て話す。
ジーっと外を見ている舞花。
海晴がパソコンのマウスをクリックして、笑顔で話す。
舞花が外を見つめたまま、口を動かす。
海晴が受付から出て、舞花と向き合う。
「絶対にありえないし!」と、舞花が筋違いなことを口走る。
変顔した海晴が、外を見て口を動かす。
舞花が走って、開かなかった自動ドアに頭をぶつけて、蹲る。
海晴が出した手を振って舞花に近寄る。
舞花が海晴の顔を見上げて、自ら立ち上がりつつも、オデコを擦って痛がる。
舞花と海晴が見合って吹き出し……大笑いする。
首都高晴海線も――都心夜景の一部となっている。
警視庁印のパトカーやバスと警察車両が、『首都高10晴海線・豊洲出口』標識出口を、バリケードで道路を封鎖している。
屋根にパトランプを出したレックーサ800(覆面車)の前列に乗っている警官は、高山浩司と芝山淳司。車内搭載無線が音がピッと鳴る。
「こちらスノーマン。レッドを10号晴海線の豊洲出口へと追い込む。各車両、点呼確認する」と、無線で指示する沖勇希の声が。
高山が無線機のスイッチを押して、「Ⅼ800、了解」
助手席の芝山がバックミラーを見て、窓を開けて手で合図を送ると……警備する防護服の警官らがバリケードを開ける。
一般道路から革ジャンを着た沖勇作が運転する単車が、停車中のレックーザ800の後ろから徐行して来て、助手席脇に止まる。
沖勇作がヘルメットをとる。沖の耳にレシーバー。
「お疲れ。今夜のプランは了解済みだ」と、沖勇作。
「ああ、沖警部。お疲れ様です」と、階級弄りする芝山。
偏光レンズの透明感あるサングラス越しに、細めた目で前を見る沖勇作。
レックーザ800車内の助手席の芝山が目を逸らして口角を歪める。
「応援分際のお嬢さんが、ここに追い込むと!」と、高山。
「身内関係を明かすな。アキレス腱となる」と、ずらしたサングラスの上から睨む沖勇作。
「はい、すみません、沖警部」と、返答が軽い芝山。
沖勇作が、苦笑いしつつ……頷く。
芝山が無線機にタッチして、
「スノーマンに告ぐ。只今、ガンマンスタンバイです」と、高山。
「Ⅼ800、了解」と、沖勇希の声が無線機からする。
沖勇作が耳のレシーバーを右手で押さえて、下を見る。
単車のメーター部にカーナビ。首都高の全域マップが映っている。
その無数の塵ばんだ様な明かりが夜景の一部と化している七色橋袂の首都高・有明ジャンクション――『有明Jct』の標識。バリケードに『検問・一車線規制中』の看板。
一般車両が渋滞して、パイロンと警官らに誘導され、止められ、ひと車両ずつ通過する。
パトランプを光らせ停車している覆面車の運転席に乗っている望月遥。
助手席に乗っている沖勇希が、窓から見える搭載無線機に向かって話している。
「何故か決まって花金に、REDMATTERはレインボーブリッジを猛スピードで通過する」
と、無線機に向かって言う勇希。
「今夜こそ、ここ作戦で、捕まえるわよ! みんな」
横浜ベイブリッジ・夜の全景――ふ頭の上の螺旋状の道がライトアップされている。
大黒パーキングエリア――大型トラックに三方を囲まれて止まっている赤いスポーツカーの隼田が運転席から降りて、屋根と左サイドの塗装用部分シールを剥がす。
(これだけド派手に暴走行為を続けても、検挙できない無能な警視庁の交通課。上が腐っているせいだということを……)
『REDMATTER』と『異議申し立て奉り候!』の塗装文字がお目見えする。
(……明かして見せてやるか!)
と、隼田恭介が赤いスポーツカーに乗って、フアーン! と、ひと吹かしする。
お手製搭載席日したスーパーチャージャーの軽い音を車内で確認した隼田恭介が、頷く。
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