0-2.プロローグ-2
※前書き
2022/06/27:従来の第1話前にプロローグを追加
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その少女は彼らよりもさらに小柄で、そして幼かった。見た目だけで言えば十歳かそこらだろうか。金髪の髪をショートにし、丸顔で整った顔立ち。そんな少女が無表情で立っていると、顔の愛らしさも相まってまるでお人形のようだった。
そんな年頃の子どもが迷宮内にいるのだけでも妙なのに、彼女の衣服がさらに拍車を掛ける。
モンスターが跋扈する迷宮だ。そんな場所で過ごすには武器や防具は必須。
にもかかわらず少女が身につけているのは――メイド服だった。首元には真紅のリボンタイが結ばれ、それが少女の可憐さを際立たせているが、明らかにこの場に似つかわしくない。
「なんでこんな所に子どもがっ……」
どうすれば、いい。自分の身を守るだけで精一杯で、他の誰かを守る余裕なんて無い。長剣を構える少年は思い悩んだ。
が。
「失礼する」
リュックを背負った少女は、彼らの横を何食わぬ顔でスタスタと歩き始めた。
「……はっ!? ちょ、ちょっと! 君!」
「私のことはお構いなく」
少年が呼び止めるも、それだけ答えて少女はモンスターの横も通過していく。その仕草があまりに自然だったせいか、少年たちのみならずモンスターも呆然と少女が通り過ぎるのを見送った。
だが、せっかくのこのこと近づいてきた獲物。リザードが見逃すはずもない。
「しまった……!」
メイド服の少女目掛けリザードが飛びかかる。少年たちが慌てて走り出すも、到底間に合わない。
果たして、メイド服の少女はモンスターの爪によってズタズタに引き裂かれる。
それが摂理のはずだった。
「っ……■■■っ……!」
しかしそうはならなかった。
メイド服の少女を斬り裂くはずだった爪は空を切り、そして――リザードの体は宙に浮いていた。
リザードの喉を掴み上げる鈍色の右腕。メイド服の少女よりも遥かに大きな体躯を誇るモンスターだったが、それが少女の義手によって軽々と持ち上げられていた。
「……へ?」
遅ればせながら少女を助けるつもりだった少年たちも、その異常な光景に思わず脚を止めて間の抜けた声を上げた。
対するメイド服の少女は涼しい顔を崩さない。手の上でジタバタともがくリザードを一瞥し、それから少年たちへと顔を向けた。
「倒しても構わない?」
「え? あ、ああ、うん……」
理解が追いつかないままなんとなく少年がうなずくと、メイド服を着た少女は掴み上げていたモンスターを、まるでゴムボールを投げるかのように放り上げた。
そして次の瞬間、少女の右腕が変形した。義手が形を変え、銃口が現れる。
轟音が響く。おびただしい弾丸がリザードを次々に貫いていき、瞬く間に蜂の巣に変えられた体がやがてベシャリと地面に落ちて動かなくなった。
戦闘は一瞬。瞬きする時間すら無い。あまりに一方的な出来事。まさに瞬殺とも評すべき状況に、少年たちは言葉を発することさえできなかった。
「それじゃ。素材は貴方たちの好きにしていい」
メイド服の少女はそう言い残すと、少年たちの返事も待たずまた歩き始めた。まるでリュックだけが一人歩いているようなその後ろ姿を、彼らはただ見送った。
と、ふと少年の一人が気づく。
「あれ……?」
「どうしたの?」
不意に首を傾げた彼に、ようやく我に返った魔導使いの少女が声を掛けた。
「いや……なあ、俺ら、朝から迷宮に潜ってたよな?」
「ああ。珍しくお前がやる気出して日が昇る前からな」
「珍しいは余計だっての。まあいいや。んで、あの娘、迷宮の奥から来たよな?」
「そうだな」
「そんなら――俺ら、ここまであの娘とすれ違ったっけ?」
ハッとして彼らは振り返った。
転がっているのは、彼らが最初に倒したリザードの亡骸だけ。そしてその奥では、迷宮がすべてを飲み込むように静寂と暗闇を湛えていた。
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