軍の兵器だった最強の魔法機械少女、現在はSクラス探索者ですが迷宮内でひっそりカフェやってます

新藤悟

エピソード1「カフェ・ノーラへようこそ」

0-1.プロローグ-1

※前書き

2022/06/27:従来の第1話前にプロローグを追加


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 薄暗い迷宮の中を、少女が一人歩いていた。

 迷宮という場所に不釣り合いなメイド服を着ており、外見もまだ十歳になろうかという頃合いで体格も相応に小柄。

 しかしながら少女の背には巨大なリュックが背負われていた。

 身長を遥かに超すリュック。しかし彼女はまったく重さを感じさせない足取りで迷宮の出口に向かって進む。

 歩きながら、彼女はふと頬に付着した液体に気づいた。左頬のそれを鈍色をした右親指で拭うと薄く伸びてさながら赤い化粧のよう。だが、彼女はそれ以上気にした素振りも見せず、歩みを止めることはなかった。




 その数十分前。


 少年たちの頬を、汗が流れ落ちた。


「はぁっ、はぁっ……!」


 ブリュワード王国の都市ルーヴェンにある迷宮。その第五階層の中で少年たち三人はモンスターと対峙していた。

 三人の目の前にはリザード。トカゲ型ながら、二足で立つそのモンスターは人間と同程度に大きい。迷宮の上層階では比較的ありふれた敵ではあるが、まだ駆け出しの探索者である少年少女にとっては十分な強敵。実際、双方ともに傷だらけで疲弊していた。


「――来るぞっ!」


 前衛に立つ少年が仲間に伝えたとおり、リザードが雄叫びを上げ襲いかかってきた。

 少年を引き裂こうと鋭い爪を振り下ろし、その力任せの一撃を少年は長剣で受け止める。必死に脚に力を入れて踏ん張り、歯を食い縛りながらかろうじて敵の前進を止めることに成功した。

 それを認めたもう一人の少年がすかさず敵の側面に潜り込む。リザードが爪を振り下ろし、先端がかすめて浅く頬を斬り裂く。それでも痛みに気づかず、両手に持った二本の短剣を敵の体に突き刺した。


「頼んだっ!」

「うんっ、任せてっ!」


 会心の連携。リザードに有効なダメージを与えられたことを確信し、少年二人はもう一人の仲間にトドメを託してその場を飛び退く。


「焔を司る精霊よ、我にその力を貸し給え――フレアっ!!」


 詠唱が終わると、指輪をはめた少女の右手から焔が現れた。辺りを明るく照らし、離れた位置にいる少年らにも熱が伝わってくるほどに高温。それが、うねりをあげてリザードに襲いかかっていった。


「■■■ァァァッッ――……」


 命中。敵が瞬く間に焔に飲み込まれ、少女は「やった!」と喝采を叫んだ。

 焔の奥でシルエットが悶え、あがく。やがて聞こえていた敵の悲鳴が次第に小さくなっていき、地面へと倒れる。同時に焔が消えて迷宮に薄暗さが戻ってきた。

 しばらく状況を注視。しかしリザードは立ち上がらない。少年たちは一斉にへたり込んだ。


「あ……危なかったぁ……」


 すでに少年たちの体力は限界に達していた。今の攻防もいわば、最後の力を振り絞ったようなものだ。これで立ち上がられたら逃げることすら怪しかったかもしれない。


「早く素材剥いで帰ろう。今日はもう疲れた」

「ああ、そうだな。よしっ! んじゃ帰ったら素材を売って、その金で――」

「……ねぇ、みんな」


 戻ってからのことを考えてはしゃぐ少年を他所に、少女が声を震わせながら入口の方向を指差した。

 水を差された少年が口をとがらせて「なんだよ?」と振り向く。するとそこには、リザードが唸り声を上げて立っていた。先程倒した個体とは違う、ダメージ一つ負っていない新たな個体。それが少年たちの前に立ち塞がっていた。

 慌てて立ち上がり剣を構える。しかし少年たちにまともに戦えるほどの体力は残っていなかった。

 けれども、やらなければならない。でなければ待っているのは――死だ。彼らの頬を冷たい汗が流れ、過った悪い想像に喉が鳴った。それでも震えそうになる脚を叱咤し、新たな戦いを開始しようとした。

 その時、また少女が気づいた。


「ね、ねぇ! 後ろ!」


 後ろからも敵が現れたのか。絶望的な心地を覚えながら少年二人は振り向いた。

 だが、そこにいたのはモンスターではなかった。

 まず目に入ったのは巨大なリュック。少年たちの背丈を超えるほど大きく、それが一人で歩いているように見えたがそうではなかった。

 少年たちが二人がかりで持っても押しつぶされそうな迫力があるが、それを一人の少女が背負っていた。それだけでも異様だが、さらに少女の容姿が彼らの目を惹いた。


「こ、ども……?」



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