由鶴side
前編
とうとう、言ってしまった。
近所に住むアキちゃんこと春野
私を置いてぐんぐんと男らしくなっていくアキちゃんに、気づけば惹かれていた。顔つきも体つきも逞しくて頼もしくて。中学入って柔道部に入るや、その男らしさはさらに磨きがかかって。どんな猛者をも一本背負いで薙ぎ倒してしまう姿に、どれほど私も一本取られちゃったことか。
そんなアキちゃんの隣にいると、小柄な私はより一層小さく見えるようで、いつも『弟』と思われた。そこは『妹』にしてよ、と思っちゃうけど。まあ、自分の容姿は自分が一番分かってる。胸はいつまでもぺったんこだし――なんならアキちゃんの厚い胸板のほうがカップ数ありそうなくらいで――ふくよかとは程遠い。顔立ちも昔から『男の子』に間違われて、髪を長くすると我ながら違和感があった。中学生になってからバレー部に入るや、ちょうど良い、とボブだった髪もバッサリ切ってベリーショートに。しっくり来るようになったけど、『少年っぽさ』に拍車がかかり……アキちゃんの『弟』の呼び声待った無し。
でも、私は別に気にしてなかったんだ。
弟と呼ばれようと……私はアキちゃんの傍にいられたらそれでよかった。
でも……中学に上がってしばらくすると、いつも一緒にいる私たち二人の仲を邪推する声も聞こえて来て、『BL……?』なんて囁かれるようになってしまった。そこは『夫婦』でよくない!? ――なんて思ったものだけど。
さすがに『BL』疑惑は堪えた。
アキちゃんも嫌だろう、とちょっと距離を置こうかと思ったけど……アキちゃんは何ら変わらずに私に接してくれて、それどころか、以前にも増して『かわいい』と口にするようになっていった。
何をするにも『かわいい』。
何を着ても『かわいい』。
箸が転んでも『かわいい』。
どこぞのカメラマンかな、てくらい『かわいい』を連発。
最初は嬉しかったものだけど、そこまで言われると……不安になってくるもので。さすがに気を遣われてるのかな、て思い始めた。そこまで恥ずかしげもなく『かわいい』って言えちゃうのは、そこに深い意味がないからなんじゃないか、とか……アキちゃんはアキちゃんで私のこと『女』として見てない証拠なのかな、なんて……悶々と悩み始めてしまったんだ。
だって、私はアキちゃんにそんな簡単に『カッコいい』なんて言えない。
下心ありまくりだから。好きだから。『男』として『カッコいい』と思ってて……それがバレるのが厭だった。
でも、このままじゃダメなのかも、て思った。
心の底から『かわいい』って――女の子として『かわいい』って言って欲しくなっちゃって。せめて、意識して欲しくなっちゃって。
もういっそのこと、バラしてしまおう、なんて大それたことを考えてしまった。
――私……アキちゃんに告白するね。
その言葉を思い出すだけで、かあっと顔が熱くなる。
一人、自分の部屋でベッドに転げ回って悶えてしまう。
さすがに……気づいたよね? 察してくれたよね? 私の気持ち――アキちゃんのこと、好きだ、て。
これで、ちょっとは私のこと女の子として見てくれるようになるかな?
髪が肩まで伸びるまで……まだだいぶ時間はあるし。それまでに、『女の子』として意識してもらうんだ。あわよくば……好きになってほしい、とも思うけど。それは高望みすぎるかな?
ううん――!
好きになってもらうんだ。惚れさせるんだ。
「そのためにも……」
まず第一歩――と私は起き上がって、スマホを手にベッドに正座する。
ついさっき、家まで送ってきてもらったばっかり。『またな』と白い歯を覗かせて笑うアキちゃんの顔は、瞼を閉じればまざまざと蘇ってくるほどだけど。
さっそく、連絡しちゃうんだ。
メッセージアプリを開き、アキちゃんとのトーク画面を表示させる。
「『今日はありがとう。早く会いたいな♡』なんて……いいかな? ♡はさすがに……早い? んー……でも、これくらい思い切っちゃったほうがアキちゃんにはちょうど良いような気もするし……」
もにょもにょと独りごち、何度も『♡』を付けては消してを繰り返し……「うーん」としばらく悩んだ挙句、「えい!」と送信。
ポン、とトーク画面には初めての『♡』が。
はわああああ、と自分で送ったそれに悶絶しそうになっていると、既読がついてすぐにポンと返事が。
『俺もだ🐦』
鳩が来た……!?
「え……鳩……? 鳩、返された……!?」
え? え? と困惑しているとブーッとスマホが震え出す。うっかり落っことしそうになりつつも、ぎゅっと掴んだスマホの画面には見慣れた名前が――。
このタイミングで!? と思いつつ、慌てて応答ボタンをタップし、スマホを耳にかざすと、
『由鶴! 今日の見てくれた? ヒルスギナンデス!』
もうすっかり、この国の『日常』と化したその人懐っこい声に苦笑が漏れる。
聞き慣れた……とはいえ、やっぱり変な感じがするな。この声を電話越しに聞くのは。
「ちゃんと見たよ〜、
ごろんとベッドに横になりながら、私はそう答えた。電話の向こうの――
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