夢→四分の、それから

開いて、閉まる。

相反する2つは、反発し合う。

見ることと拒絶することは同義であり、垂れたコードは髪の毛のように。

扉は開かれ、心は閉じこもり、見えることさえ認めたくない。

ガンガンとする頭。

だんだんと消える。

カンカンと照りつける太陽。

どんどんと溢れ出る絶望感。

知識なき、過去もない。

自己への問いかけは無限の螺旋を回るだけ。

ぐるぐる。

るぐるぐ。

るるるるるるるるるるるるるる。

四角の中の死角に潜む『見たくないもの』。


「…」

絶句。そして、拒絶。

白は頭から垂れたコードを引きずり部屋に侵入してくる。

「ごめんね。悪気は無いんだよ。」

白の表情はこの上なく穏やかで、まるで聖女のようであり、その表情と声には何の曇りもなかった。

故に私は嫌悪感を覚え、拒絶する。

チェシーは今にも白に飛びかかりそうな様子で威嚇している。

「わかってる…。わかってる…。嫌悪感、不気味の谷…。わたしには君にあるものが何一つない。」

何もなかった。

白の頭蓋の中には脳みそなんてなくて、コードが張り巡らされているだけ。

空っぽの頭には

「に…んげん…?」

人か、否か。

わかりやしない。

その手足は人間のものに見えるが。

「違う?」

くらり、とする。

眠気。

それは逃避。

逃げて、見えなくする。

「まず、なんでこんな世界になったんだろうね?」

白が、口を開く。

その言葉は私に向けられていない。空、空間、世界に向けられていた言葉。

「…」

世界は、どうなっているの?

どうして、私は寝ていたの?

白兎を追って、穴に落ちて…

「答えは、多分『わからない』」

わからない。わかり無い。

「ただ、『何か』起きたことは分かる。」

何か。

何かが世界に起きた?

何故、誰も居ない。

何故、なにもない。

何故、ここにいる。

何故、どこにある。

何故、いきている?

「そして、わたしは多分、生き物じゃない。」

白の顔が、見える。

しかしそれは、『顔』と定義される場所であり、そこに感情はあるかどうかわからない。

人のみが感情を持つ?

「脳がないのに、夢を見れるの?」

純粋な、疑問。

現実で、顔を見ながら会話なんて、いつぶり?

「脳はある。……ここには無いけど。」

遠くに。遠くに…。

夢を見る、って何?

夢って何?

「わ、から…ない…」

震える。

声も、体も震える。

背中には気持ちの悪い汗の感覚があり、肌がぞわぞわする。

感じたものは、『恐怖』?

はたまた、『叛逆』?

「とにかく。一緒に来て欲しい。」

今度の白の言葉は、私に向かった言葉だった。

白はその手を…。凡そ、手に見える場所で、私の手を掴む。

「ひっ…」

冷たくて、冷たい。

気持ち悪い。

そして、チェシーが私と白の手をめがけて引っ掻いてくる。

「っ…!」

白も私も咄嗟に手を離す。

おかしい、チェシーが明らかにおかしい。

「…どうしたの、チェシー…」

チェシーの背中をそっと撫でてやる。

だが、チェシーは落ち着く様子は一切ない。

「…猫なんて居たんだ…」

白がぽつりと呟く。

「チェシー。猫のチェシー。私の親友その一…。」

チェシーの背中を撫でながら独り言のように呟く。

「…わかってる。外に出ないといけない時なんだなって、わかってる。」

そうなんだ。もう引きこもってる場合じゃない。

扉が開いたんだから、出なきゃ。

「…チェシー、私は大丈夫だから…ね。待っててね…」

チェシーを抱く。

さらさらとした毛。

毛の色は、黒と白のぶち。

そうすると、チェシーは私の腕から抜け出し、白を見ながら後退りする。

「…白、外に連れてって。」


白に引かれ、部屋を出る。

廊下は煤で汚れ、ホコリが積もっていた。

廊下は見慣れない。見たことがないような、そんな気。

廊下を歩くと扉が見える。

普通の、ただただ普通の扉。

白が扉を開く。

「ここ。」

リビングだった。

リビングだった?

リビングの机の上には水槽があり、中にのーみそが浮かんでいた。

水槽からはたくさんのコードが伸びて、伸びて…

白に繫がっていた。

「これが、わたし。」

白がぽつり、と雨が降るように呟く。

のーみそは人間そのもの…だけど、これが白?

じゃあ、今私が握っている白の手は何?

どうしてこんな体なの?

わかりゃしない。

だって、私は機械のことなんて知らないから。

そら、そうだ。

空は、ソーダ色に染まって、太陽が窓に光を投げ込む。

「わかる?」

「わからない。」

そうなのもかも。

白にわからないんだったら、私にはもっとわからない。

床は冷たくて太陽は熱くて。

そんで、手は相変わらず冷え切ってて。

上にも下にも何かあった。

それは、天井と床。

「お腹すいた?」

白の口…。多分白の口なところが開いて私に言葉を飛ばす。

「…別におなかすいてない。」

起きたて、出来たて、腹にはいらず。

正直おなかは空いてるけど、食欲はない。

足がつかれてきた。立ちっ放し。

とりあえず、リビングのソファに座る。

そこはコードで埋められていたが、その上に座る。

そして、私が動いたことにより、白の手は必然的に解かれる。

「あっ…」

白の顔が少しだけ変わったような気がした。

「ここにも、どこにも…」

「何かある?」

「何もなくて」

「外は真っ白?」

シトラスの香りがしてくる。

そして、震え、そして、そしる。

「そう…何も、無い。」

空は青い。

空だけは青い。

空は青かったの?

空は何色に染まっている?

空には何が浮かんでいて消えた?

いきなり変わる?

青い、青い、青くて、青い空。

「外って何?」


玄関は靴が1つもなかった。

ただ、傘が落ちていただけ。

「外に出るの?」

白は裸足で玄関に向かう。

「ううん。」

「じゃあ、なんで。」

疑問。どうして、玄関に?

私は外に出たくない。

外は寒くて熱くて不快で苦くて。

「見ること。」

見ること。

見て、見ない。

見ると変わる?

見るまでそのまま?

私は、白に押されるように玄関を開く。

がちゃ、ぎいいいいい…と音が響く。

ちらりと見えた外には青い空が広がっていた。

少し、期待した。

扉が開く。

全て、消え失せた。

間違いなく空はあったのだ。

それ以外は?

無い。何もない。

全てが真っ白な世界だった。

色の抜かれた絵のような?

輪郭線と色で表せる世界から輪郭線と色を抜いたらこうなるんだろうなぁ…って。

「    …?」

『    』だった。

それいじょーわかんないや。

あれ。

空は?

青いあの色は無い。

「ほころびから、『こ』が抜けたのに、『虚』が残るなんて皮肉だ。」

白の声が後ろから聞こえる。

少しだけ寂しそうに聞こえた。

今は何年で、何月で何日?

「忘れたよ。そんなこと。」

はっと、Â。

「白。なんでなにもないの?」

「さぁ。」

やくたたたず。

くそー。なんでなにもないの。

舞い散る。家から一歩だけ踏み出す。

足が少し前に動く。

ひんやりとした感覚が足にある。

真っ白の大地に足を乗せる。

冷たいけどどこか優しい地面。

つちやホコリ、歩くための妨げになるものは何もなかった。

フラット、ふらっと。足を飛ばして、さぁ、そこへ。

心地良い気温と、風のない大地。

白くて、とても白くて。

「ね。白。」

「どうしたの?」

振り返り、白に聞く。

白の顔はどこか清々しかった、けど、なんか寂しそうだった。

「夢?」

ここはリアルか、Re R。

「夢じゃないよ。」

「そっかぁ。」

夢みたい。

…ちょっと疲れた。

なんでこんなことになったか、わからない。

でも、何も無いなら、何もする必要もない。

世界をなおすー、とか元通りにしてやるーなんて、そこら辺のヒーローに任せておけば良い。

私は寝るだけ。

寝て、何も食べず、寝て。それだけ。

それだけ。

それ…だけ?

「白。私、どれくらい寝てたの?」

思い出せば白と合う前の夢や、白と会った後の夢、何回寝たかは覚えてないけど、結構寝た気がする。

でも、おなかは空かないし喉も乾かない。

…まだ、夢なのかも。

「…多分、多分だけど、2ヶ月位。」

ふーん…そっかぁ…

「…2ヶ月…かあー…」

長いねぇ…

二ヶ月あったら何ができるんだろう…

…いや、こんな空っぽの世界じゃ何もできないか…

「ね。白。これからどうする?」

なんでもいいけど、何もしないのはタイクツだし。

「…とりあえず、昼寝でもしようか。」

白はそう言うとその目を擦る。

あくびが出てる。

「あと、その体って、何?」

正直、不気味に思うけど、やっぱり白だからいいや。

私の今のところ唯一の対話相手。

「さぁ。」

白は興味なさげ。あんまり自分の体のこと言うの、好きじゃないみたい?

「…じゃあ、私、自分の部屋で寝るから。おやすみ。」

私はそう言うと白に背を向けて自分の部屋に入る。

というか、走ってる。

逃げるように、逃げ帰るように。

やっぱり私は白を恐れている。意味がわからないから、わけがわからないから…

部屋に入ると扉の前でチェシーが待っていた。

「…うん、チェシー。私、また寝るからね…。一緒にお昼寝しようね…」

そう言うと私はベッドに横になる。

するとチェシーもついてきて私の枕元で丸くなる。

…段々と頭がくるくるしてくる。

そろそろ、また、あの世界へ…


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