夢ー四分の四

揺れる。揺れた。

幾度の彁彁彁かろなさ。

配岳的な夜には訪れた。

「…夢の世界に生きかけてるよ。しっかりしな。」

混濁。

意識が消えかけた。

「きみの頭は逃げるときは夢の世界に逃げるようにできてる。心当たりあるだろ?」

「ん…うん…」


閑話休題


「やっぱり。居ないんだ。」

「多分、ね。少なくともわたしの見立てでは君とわたししかいない。」

あれは、夢じゃないのか、虚ろなのか。

多分、答えはわかりきってる。

失意、諦め、絶望。

まだ、序章。

先の茶番の意味を求めても、得られない。

何度眠って、見た夢か。

幾度落ちて、見た夢か。

「…眠い?」

「眠い。」

眠気が、ある。のか?

あたまはぼーっとしていて。瞼が重い。

「眠りなよ。」


一章〈猫の夢〉


気がつくと。どこか。

見えない。見えても消えな日。

しんしんと雪が降り積もり、積もってはない。

何もない空間に、ただ只管の雪。

地面も、空も、なにもない。

再び、落ちて、落ちて…

壁には本棚や食器が並べられていて、穴を落ちる。

ああ、安心感。

どろどろとしたおぞましい夢へと帰ってきた。

吐き気がする。

ここが、私の夢。

まじりけなく。私の頭で完結してしまう、夢。

何者もない。私の世界。

やがて。

段々と、辿る。

かつて見た不思議の夢をまた、辿るかのように。

形骸化したうさぎが見える。

ぴくりとも動くことはなく、ただ、扉の前に鎮座している。

裁け。捌け。

穴の壁面の食器棚からナイフを取り出す。

ナイフ、というより包丁。

包丁、というより刃物。

刃物、というより絶対的な殺意。

四千マイルの殺意。

ずっしりと来るナイフはよく手に馴染んで、甘い。


甘くて


とろけて


甘美で


甘くて…


こんな物をあの下賤なウサギに立ててもいいんだろうか。

こんなに、素晴らしくて。甘い。

私の内にしまっておくべきだ。

誰にも渡してはいけない。

そう思ってからとても早い…ような気がする。

自らの胸にその刃物を突き刺す。

嗚呼、甘い。

「甘くて、甘くて、」

心に刺さる甘さ。

崩れ去るは食器棚。

心地よくて。

身が蕩ける。

ぐちゃぐちゃと、どろどろと、溶けて。混じって。

不快感はない。ただ、気持ちがいい。

そうだ、この世界は私のもの。

赤の女王は死んだ。

温かい。とても温かい。

馬耳東風。

餓死凍風。

程遠い。

もはや体に感覚しか無い。全てが溶けて、混ざって。

ティーカップに熱い紅茶が注がれる。

永く、長く眠るネズミと満月のウサギと、いかれた帽子屋と私。

机を囲み、穢らしいカップを積み重ねる。

紅茶もワインも無い。

ポットからは汚い泥水がひたすら流れ出る。

吐き気がする。鼻が痛い。

「時間の無駄とは、よく言ったものだ。無駄なものはもっと他にあるのに。」


EAT ME

「やがて。そこには大きな猫が。」

猫。大きくて、猫。

その顔はにやにやと笑っていて。

その顔は無表情だった。

大きい。私よりも大きいかも?

そして、猫は私を喰む。

甘噛。天神である。

愛らしい。

暴虐な赤の女王は噛み殺された。

この夢の世界に女王はいるのか?

否、居ない。

居な、否い。

政事なき国には安定など無い。不条理な夢を正す赤の女王は居ない。

破けた紙は元にはもどらない。術はない。

一章〈猫の夢〉

ニ章〈端の夢〉

一〇章〈鍵の夢〉

一一章〈咲の夢〉

一〇〇章〈矧の夢〉

この世界は猫のもの。

かみのもの。


緋影山脈渓谷外部図書館通信局地下採掘場跡地現代美術館。

ここでは黒い何かがたくさんいた。

えっと…それだけ。

わかりゃしない。

床にはぐちゃぐちゃのケーキとよくわからない液体が大量に撒き散らされていた。

不快。

汚いし、匂いが混ざって気持ちが悪い。

どうして?

ここは教会のようで。そこにはきたならしいケーキと液体。

緋影とは?なんなんだろう?私の記憶にあるところなのか?

愛ゆえに。

哀。

「ここにも」

「そこにも」

「傲慢で」

「怠惰で」

「強欲で」

とどまる事を知らず、I。

何度も何度も繰り返し、廻り廻る。そして、廻って、また、ふりだし。

双六にだって終わりはあるのに。どうして、ここには?どこに、どうしたって。

やがて教会の床は崩れはじめる。

がらがら、と。積み木が崩れる音を鳴らしながら教会は灰燼へと。

そして崩れた教会には何もなかった。

ごおおお、と空の音が流れるだけで、なにもない。

一人教会の跡に立つ私はまるで

やがて、何も起こらない。

なにか起こるような気はしたが、何も起こらない。

急転直下な展開ばかりだった夢に、何も起こらない。砕けた。

嫌に思考がはっきりしてきた。

風は冷たいが、寒くはない。

空には太陽は無いが、青く、雲もない。私は…私は手足があって頭がある。

とりあえずと、瓦礫に座る。

ひんやりとしている瓦礫にお尻が冷やされる。

どういうわけか爽やかで、心地よかった。

さっきまでのどろどろとしたおぞましく、苦しい夢とは違い、ここは安心感があり、甘かった。

風が吹き、ぽかぽかとした気温で、気持ちがいい。

「…」

風が私の髪を揺らす。

ぼさぼさの寝癖のついた髪は風邪に揺らされ…

揺らされるだけ。

何も起こらない。

安住地を見つけた…ような気がした。

ここには…なにも…

「    」

少年が

、、

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「    」

「              」


覚醒した。

クラッシュしたかのように目が覚めた。

心臓がばくばくと鳴り、背中は寝汗で気持ちが悪い。

何…?

何だった…?

あの少年は前の夢で、共に海を見ていた少年だった。

あのときの彼は一緒に居て安心するような、そんな感じだったのになぜ。

見た瞬間得も言われぬ感覚に襲われ、目覚めた。

恐怖とは少し違う、嫌悪感でもないなにか。

バカバカしい、が、白と夢が繋がった事がある以上、夢に何かしら意味を求めざるを得ない。

…寝起きの頭で考えるには少々無理がある。

仕方なく、枕元で眠っているチェシーを撫でる。

チェシーのささらさらとした毛並みは手が少しくすぐったくなる。

ハチロウの水槽はきらきらと光を通す。

金魚のハチロウはあいも変わらず何を考えているのかわからない様子で水槽を泳ぐ。

この二匹はいつだって現実であることを実感させてくれる。私の大切な友達。

「やあ。起きた?」

扉の奥から白の声と、カチャカチャと言う音がする。

「うん。起きた。」

あまりろれつが回らないが、返事をする。声があんまり上手く出ない。

「そ。じゃあさ、わたしと世界を見に行かない?この世界がどうなったか。」

「世界…?」

そういえば、この世界には私と白しかいないとかなんとか…

「君も気にならない?この世界。」

気になるか気にならないかで聞かれれば、気にならない。

私にはハチロウとチェシーが居る。出る理由はない。

ただただ黙る。

出たくはない…が、いつか出ないといけない時が来るのも分かっている。

でも、どうしても、出る気になれない。

「出てくれないとわたしも少し困るんだけどなぁ。」

白が部屋のドアノブを下げようとするが、鍵がかかっている。

そこで、チェシーが飛び起き、扉に向かってフシャー…と威嚇する。

「ねぇ。」

「開けてよ」

「はやく」

「どうしたの?」

「ねぇ」

「ねぇってば」

「開けて」「開けて」「あけ」「あけて」「開けろ」「はやくあけろ」「はやく」「あけろ」「あけろ」「さっさと」

白の様子がおかしかった。変わらずチェシーは威嚇する。

何が。

「白…?」

「…あは、あはは、開けて欲しいな。」

ドアノブがガチャガチャと鳴り、扉はドンドンと叩かれる。

思わず目を背けた。

背けた目線の先にはハチロウの水槽があり、ハチロウはまっすぐと扉を見つめていた。

「ごめんねぇ。開けてほしいだけなんだ。」

何が。何が。何が起こっているの?

「白…白、どうしたの?」

震える声で問う。

「開けてほしいだけだよ。はやく。はやくあけて。」

どんどん音は乱暴になる。

冷や汗が止まらない。頭が回らない。

どうしたら良い?

武器を持つ?逃げる?

どっちも無理だ。ゲームじゃあるまいし、そんな事はできない。

なら開ける?

それもダメ。

白は正常じゃない。

正常ではない世界ですらわかるほど、白は狂っている。

何度も何度も思考を巡らせるが、効果的な策は一切思いつかない。


「カチャ」


鍵の音がした。

鍵が、開いた。

ドアノブが下げられ。

扉が開く。

そこにいたのは10歳くらいの身長に、夢で見た白の姿。

だがしかし、その頭にはぽっかりと穴が空き、コードが垂れ下がっていた。

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