完結編
第11話:Welcome トゥ 混沌
そこは幾重にも何らかが積みあがった、巨大な城。一見すればハリボテのような様のその城の中にある小さな部屋で、とあるひとりの自称天才科学者は思いついた。
「人間と人間じゃないものをくっつけて新しい生物を創り上げたら、面白くないか」
それはすべての生命への、ともすれば神らへの冒涜にも値するアイデア。これがまともな人間であれば、思い付きだけで実行には至らないであろう。しかしこの科学者は、もはや倫理観などその辺のドブに投げ捨てている。道徳がない? 神への冒涜? それが何だというのだ。それを気にして何になる。腹も膨れない。であればそんな問いは無意味。利益にならないのであれば屑も同じである。科学者は早速準備をし始めることにした。
すべては、自分自身の知的好奇心を満たすためだけに。
【第11話:Welcome トゥ 混沌】
積み木のように建物がいくつも積みあがった巨大な城。そこに住まう人々はほぼほぼまともではない。薬剤、乱交、暴行、その他悪行と呼べるイベントが諸々。この世のすべての悪事を何の手を加えずにただどでかい鍋にぶちまけた、最悪という言葉が生易しく感じるほどの治安。名を九龍城。その九龍城に好き好んで集まったイカレた人間の中に、さらに輪をかけてイカレた研究者たちが存在している。
研究者たちはとにかく倫理観がなかった。心もなかった。ただひたすらに、自らの知的好奇心や欲求を満たすためだけに、九龍城で生計を立てている人間のみならず、外部から別の人間を連れて帰り、研究材料として味がしなくなるまで使い果たす。命があろうがなかろうが、彼らにとってみれば、この世のすべてが研究材料。それは自分自身の血縁者であっても同じことだった。たとえ自分自身の親だろうが兄弟だろうが、必要なものであればためらわずに材料にする。それで良い結果が出れば良し、悪い結果が出ても良し。どっちにしろ彼らにとって、それほどまでに自分自身の知的好奇心というものは、何よりも替えの利かないとてもとても大事なものである。たとえどんなに鬼畜と言われようが、何と言われようが変わらない。知的好奇心より優先順位が上に行かなかった、それが悪いのだ。
あくる日、唐突にひとりの研究者が言い出した。
「いっそ全く新しい融合生物を創ってみたい」
それは本当に何気ない一言だった。ただ単にぼそりと放たれた独り言にも等しい一言。しかしほかの研究者たちの興味を引くには充分すぎる一言であった。聞いていた別の研究者がすぐさま食いつき、話を広げる。
「なかなかに面白いことを言うじゃないか。やってみよう」
「しかし材料はどうする? 虫けらを基にしては面白みに欠ける。犬や猫でも同じだしなぁ」
「であればもっと知能があるものを基にしよう。となるとまあ人間になるだろうか」
「そうなるでしょうね。でも単に色々を弄るだけでは楽しくないわ」
「……と、なると人型の融合新生物か」
「そうなると何と融合させるかよね。もっと面白いものないかしら」
それぞれが案を出してみるが、これだというものはなかった。単に融合させるだけでは面白くもなんともない。先人の足跡を上書きするようなものだ。なんせ自分たちは他よりも図抜けた天才だということを、誰よりも理解している。ならばそれら以外の道を。ありそうでなかった道を、無理やりにでも作り上げる。そうでなければ我々は一体何だというのだ。
と、そこでふと、あるひとりの研究者がつぶやいた。
「人間と人間じゃないものをくっつけて新しい生物を創り上げたら、面白くないか」
それは場を一気に沸かせるには充分すぎるものだった。なんと素晴らしい案だろうか。否、なぜその案が今まで出てこなかったのだろうか。彼らは顔を輝かせ、そうと決まれば早速準備を始めることにした。
彼らにとっての人間じゃないもの。それは
「計画会議からはじめるとしましょうか」
◇
会議は実に三日三晩続いた。とはいってもほとんどが研究とは関係ない、くだらない話であったが。しかしその会議のおかげで完璧な計画が出来上がったので、良しとした。
名づけられた計画名は、
「
それを締めとして会議は閉じた。そこから一斉に研究者たちは散り散りになり、各自自分たちの研究室へと戻っていく。彼らの脳内は今、いかに他よりも優れた
そうして始まった
まず、神話生物の調達。そもそもどこからどうやって調達するのかという話なのだが、あるひとりの研究者が、どういうわけかかつて論文を書くために手に入れた、真っ黒な本を使って狙いの神話生物を召喚することに成功したと、嬉々として報告してきた。それにより他も狙っていた神話生物を召喚することに次々と成功した為、この問題は早々にクリアできた。なお最初に召喚に成功した研究者は、その本を別の国に行ったときに、たまたま拾ったと言っているが、真偽は不明である。また最初に召喚した神話生物は、かの
次にぶち当たった難題は、適合者の発見であった。
だが、あることを起点として、それまで泥沼と化していた研究は急に進展を見せることになる。ある者はフィールドワークに出かけ、ある者はもとから改造している自らの体をさらに改造し、またある者は旅行先で見つけたモノを拾い、さらにある者は浜辺に落ちていたモノを連れて帰る。それらが起爆剤となって、計画は一気に目標到達までたどり着く。自らの人生を憂い首を吊った不憫な人間には
見事に
大きな仕事を終えた彼らは久方ぶりに集まり、それぞれの研究成果を報告しあった。各々の研究成果に称賛を出しつつ、次なるステップの話を始める。途中で研究施設の外からなにかしらが剥がれ落ちる音が響いてきたのに対し、ひとりはため息をつきながら口を開く。
「そろそろこの城も限界が近しいからな、彼らにはなんとしてでもこの城に代わる街を作ってもらわねば」
「だけどただの街じゃつまらないから……いっそのこと何か仕組むのはどうかしら」
「仕組む、というのは?」
ひとりの女性研究者がにこりと微笑み、素晴らしいアイデアを提案する。
「あの子たちが巨大な街を作り上げて、いつしかその街の支配者になった時。街とあの子たち自身の思想がリンクするように仕掛けをするのよ。例えばあの子たちが破壊を望んだ場合、街もその通りに破壊される。その際、破壊行動はなんだっていいわ。概念的な意味でも、物理的な意味でもね。その逆も然り。そういう風に仕掛けをしたら、さらに楽しいものが見られると思わない?」
私利私欲に満ちたその提案は、とてもとても魅力的なものであった。今までやってきたことも確かに楽しく、面白いことであったのだが、そこにさらにとてつもなく面白そうなものをぶち込むとなるとどうなるか。答えは簡単だ。絶対的に楽しいし面白い。それ以外に何にたどり着くというのだろうか。そしてその仕掛けをして、何かしらかなり大きいイベントごとが起こった時。考えただけでも心が弾む。
「では、その時が来たら仕掛けをしよう。我々は
すべては、自分たちの私利私欲、知的好奇心の為に。この先はどうなることやら。
後に、九龍城は廃墟と化し、それから幾何かの時間がたったころ。かくして人権と尊厳以外何でもある街、
終
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