第9話:酒池肉林
相も変わらずこの街はクソッタレている。身売り、薬剤、暴力、搾取、その他諸々。道徳という道に全力で中指を立て、倫理観などゴミクズ以下の存在価値でしかない、人権と尊厳以外なんでもある街、
どこの場所でもどんな存在であっても、美味い食事と酒というものは、いつだって心躍らされる。空腹を刺激されるスパイスのきいた香り、程よい明りに照らされ、見た目だけでも良いものだとわかる肉や魚、野菜たち。それらをさらに引き立ててくれる豊富な美酒の数々。どんな時でもどんな心情であったとしても、心が躍らないことはない。それはここ、
【第9話:酒池肉林】
変わらぬ日常、変わらぬ客層、変わらぬ仕事、その他諸々。しかし一つだけいつもとは違ったことがあった。それはどの場所でも、理不尽な怒りを覚えるほどの繁忙期であるということ。今すぐにでもすべてを投げ捨てて、泥のように眠りたい。もしくは何も考えずにどろりと溶けてしまいたい。つまりは何もしたくない。しかしここで休暇日をまた設けたとしても、後々面倒なことになるのは目に見えている。そう、例えば何もできないゆえに、住民のフラストレーションが溜まりに溜まって爆発して、地獄の後処理をせざるを得ない、だとか。自分に関係ないことの片づけで余計な労力を割かれるのは、何よりも勘弁願いたい。かといって連続で来る客たちを片っ端から消していったり、職務を放棄してどこかへ消えるというのも、後々自分の首を絞めることになる。主に事後処理とかで。
ならばもうこの繁忙期を乗り切るしか術はないのだが、そんなくそ真面目な道を進むほど、彼ら四皇の頭は狂っていない。では、どうするか。それは至極簡単なことであった。
「もう店は終いだ! 知らね!」
「今日はもう閉店です。おかえりください」
「賭場? ないよー! おやすみ!」
「帰る」
早期退勤、もしくは早めの店じまいをして、浴びるように酒を飲む。かつ、たった今
◇
「やっほう
「
「ついでに頼んでたやつもらおうと思ってー」
「……あー、アレか。そこにあるからもってけや」
「わぁい」
教会を閉じ、バカ騒ぎをするための食材やら酒やらを手にした
「何持ってくの?」
「生ハム原木とチーズの塊と……
「少ないね?」
「まあな。持ってこうと思ってたやつ、大半どっかの誰かが食っちまったからな」
「誰だろうねー」
「オメーなんだよこの前の休暇日に来たと思ったら大半食いつくしやがって」
「それほどでもぉ」
「ほめてねーよドアホウ」
にこにこと笑う
彼らが言っているこの前の休暇日、というのは、四皇全員で旧九龍城に訪問をした後に突然設けられた日のことだ。旧九龍城で起こった出来事が、あまりにも体力を削られるものであったため、疲れ果てた四皇たちの一声で急遽街全体に発令された時のことであった。
◇
その日疲れた体と精神を休ませている
「おなか、すいた」
ただ一言、たった一言。無垢な子供のようにつぶやいた
「何が食いたい」
「……おにく」
「───わかった。そこの棚にあるやつ好きなだけもってこい。
「御意」
「(昨日のアレか……)」
旧九龍城へ生みの親たちに直接会った時のこと。明らかに
「お待たせしました。
「結構豪勢に来たな」
「店主殿には胡麻団子を用意しています。どうぞ」
「おお、悪ぃな。サンキュ」
「では、何かありましたらお呼び下さい」
「おう」
しばらく何をするでもなく待っていると、奥から
しかしこれらはすべて
「いただきまぁす」
「おう、食え」
「ごちそーさまでした!!」
いつもの笑顔を浮かべて、ぱちんと両手を合わせる
「おいしかったー、あの子料理上手なんだねー」
「そうじゃなきゃ補佐やらせてねえよ」
「だよね! 満足満足大満足になったから帰るね!」
「おう、さっさと帰れ」
ついでのように
「……
「御意」
すっかり気が抜けた
「仕入れ増やさねぇとな……」
店には、ずいぶんとがらがらになった食材の棚が存在していた。
◇
「マジで食い尽くしやがって」
「でも美味しかったよぉ」
おかげで仕入れ直しなんだっつーの。そう
「お前は何持ってきたんだ?」
「サメだよ! 生け簀ごと持ってきたの」
「やたらデケェ荷物だとおもったら生きたまんま持ってきたのかよ」
「うん! やりたてがおいしいからネ」
「料理すんの誰だと思ってんだ?」
「お弓と
「……サメは
「はーい」
今日の
「よう
終
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