第8話:血縁

 九龍市クーロン・シティが静まり返った休暇日の翌日。大半の住人にとって息苦しいことこの上ない日が終わると同時に、いつもの日常悪事が帰ってくる。日付が変わるその時から、街は割れんばかりに騒がしさを取り戻す。休暇日によって出来なかった薬剤や賭け事、その他悪事の諸々がまるでカーニバルかのように溢れ出す。街を少し歩けば、地面にころがっているのは注射器やら内蔵やら。たまに散り散りになった紙幣だったものたちが地面を彩っているが、かき集めて1枚の紙幣の形を取り戻そうとする気狂いは見られない。そんなことをやるのなら、。そんな、人権も尊厳もない思考が帰ってきたこの街に、四皇であるは、現在進行形で1つの組織に頭を抱えていた。



【第8話:血縁】



 ここは九龍市クーロン・シティ中心地区にある巨大な塔、九龍塔クーロン・タワー。その頂上に存在している局長室に、街の絶対的な権力者たち、四皇が集まっていた。それぞれ神妙な面持ちで、目の前にあるを見つめている。部屋の中はやけに静かで、空気が張りつめていた。静寂を壊すが如く、招集をかけた空燕コンイェンが口を開く。


「一通り、目は通したな?」


 その一言に、軽くため息をついてお弓が返した。少し困惑した表情を露わにして。


「ええ。……まさか、まさかねえ」

「どうすんだよコレ。今までにこんなに頭抱えた案件ねえぞ」

「ほんとどーすりゃいーのー……」


 からくりが、そして明明メイメイが、今までに見たことも無い表情をして机に頭を突っ伏したり、ガシガシと頭を掻きむしる。その様子を見て、空燕コンイェンも長い溜息を着く。そしてちらりと目の前の書類に改めて目をやる。それらに踊っている文章たちは、嫌でも彼らに現実を突きつける。これが今、お前たちに降りかかったなのだと、嘲笑うかのように突きつける。幾ばくかの空白の後、空燕コンイェンはまた口を開いた。


「では───話を始めるとしようか。我々の、が束ねる組織の対処について」





 話は前日の休暇日に遡る。からくりが補佐のさかきから、例の組織の調査結果の書類を手渡された時。そこに記されていた文字列を、震えた指でなぞる。その文字列が示していたものは、。何故ここにいる。何故妙な組織を立ち上げている。な何故妙なことを繰り返している。何故───


「あんなキマイラくんキメェもん作ってんだよバカか!?」


 真っ先に思っていたことをからくりは思いっきり叫んだ。それこそ常人であれば鼓膜が破壊されていたであろう声量で。それに動じず、さかきはゆっくりと話し始めた。


「組織ですが、どうもにある様です。何を思ってそこを根城としているのかは知りませんが」

「あ? あのボロ城にか? 何考えてんだマジで」


 旧九龍城、というのは九龍市クーロン・シティがまだ出来上がる前、かつて存在していた巨大な都市、という名の城である。城そのものが都市であった、と言った方が正しいかもしれない。それこそ遠い遠い昔、ひとつの集落から段々と人々が増えていき、やがて巨大な城と呼ばれるまでのものが築き上げられた。それが巨大都市城、九龍城。だが、巨大都市とはいえ、人々の上に立ち統治するという存在はなく、また四皇のように絶対的な支配者がいる訳でもなく、博打、薬剤、搾取、人身売買、その他諸々やりたい放題の無法地帯。まるで今の九龍市クーロン・シティをそのまま丸写ししたような場所であったらしく、巨大都市としての栄華は思ったより長くは続かなかった。次第に人々は消え、賑わいも消え、風景も見るも無惨なものへと変わっていった。そして最後に残っていた強烈な物好きが死に絶え、九龍城は都市としての機能を停止した。これがかつて存在した巨大都市、九龍城である。

 そして今、四皇のかつての生みの親が束ねるという妙な組織が、その誰もいないはずの九龍城を根城にしているという。本当に訳が分からない。何を狙っているんだろうか。皆目見当もつかず、からくりは大きなため息をつく。


「あんなボロ城にぃ? 住み着いてェ? バケモンを作ってるゥ?」

「本当に頭がイカレてらっしゃいますね、御両親」

「ほんとそれな? マジでイカレすぎてんだ」


 と、しかめっ面をお互いに晒しながら会話をしていると、店の電話が鳴り響いた。なんだなんだ今日は休暇日だぞ、と思いつつもからくりは受話器を手に取る。


「はいヨロヅノカラクリヤー」

『四皇招集だ、明日九龍塔クーロン・タワーの頂上局長室まで来い』

「……へーい」


 いつものお決まりの言葉を言えば、帰ってきたのは空燕コンイェンの少しばかり疲れたような声。恐らく向こうも例の組織の調査結果書類を読んだのだろう。特に文句を言わず、からくりは気の抜けた返事をして受話器を元に戻す。


「なんと?」

「明日店休み。四皇招集だとよ」

「でしょうね」

「こりゃお弓も明明メイメイも頭抱えてんな……あ、さかき。お前ももう今日休め」

「御意」


 せっかくの休暇日が面倒なことになりやがった。からくりはさらに大きなため息をついて、惰眠へと戻ることにした。





 そうして今に至る。四皇が頭を抱える存在、それが彼らの生みの親たち。頭を抱える理由は深刻なものだ。悲哀?恐れ?憎悪?否、そんなものでは無い。。彼らが生みの親に頭を抱える理由、たったひとつだけ、とても簡単で、とても深刻なもの。それは何かと言うと。


「あのイカレキチガイ変態共何考えてんだマジで!」


 そう、彼ら四皇を飛び越えるほどの、彼らがまだマシに思えるほどの───変態共キチガイだということ。単なる思いつきか何かだろうが、この前のように巨大生物を作って九龍市クーロン・シティで暴れさせたり、文字通りのムカデ人間を作り出して鑑賞会を開いたり、その他諸々言い出したらキリがない程やからしにやらかしを重ねているのだ。脳内には何が詰まっているんだと、彼らが真面目に考えてしまうレベルで本当に本当に───。そんな連中が訳の分からない組織のトップにいる。巨大生物事件以上のことを、絶対に彼らはさらにやらかす。だからこそ今のうちに、何とか対処しなければならないのだ。とは、言うものの。


「どうしろってんだよほんと……」

「本当にね」

「考えたくないー……関わりたくもないんだけどー……」

「……それには同意する」


 四皇という立場ではあるものの、相手は自分たちの生みの親。どこから手を出したものか、どこから潰せばいいのか、考えれば考えるほど頭が痛くなる。なんせ自分たちが存在してきた中で、ぶっちぎりで頭がおかしいキチガイと言っても過言ではない。こちらから攻勢をかけても、思ってもない行動で数十倍にして返されるだけだ。今までの行動を鑑みるに。

 と、全く話が進まず、良くない空気が漂ってきたところでお弓が不意に口を開いた。


「……いっそのこと、直接会ってみる?」

「へ? あの人たちに?」

「そう。どう攻めても結局をされるのは見えてるでしょ。ならあくまで穏便に、直接会いに行くだけっていうのもアリじゃないかしら」


 ぱちん、とお弓が手をたたけば、残りの3人はま抜けた顔を晒して見せた。





「……で、来ちまったわけだ」

「結局これしか案がなかったからな」


 グダグダな四皇会議が終わると、彼らは流れるようにここ、旧九龍城に来ていた。体を落ち着かせるためかそれ以外か、煙管やらタバコやらを各々吸い始める。紫煙を燻らせ、彼らは目の前の巨大な城を仰ぎ見た。


「いつみても壮大ね」

「ボロボロだけどねー」


 上へ上へとただ積み木を積み上げただけのような、ともすれば今すぐにでも崩れ落ちて来そうな、しかし確かな威圧感を与えてくる、目の前にそびえ立つ巨大な城。そこに在るというだけで、奇妙な不安感が延々と襲いかかってくるそれは、まるで四皇の彼らが、来るのを待っていたかのように、閉ざされていた扉を自然と開く。音もなく、誰の手を借りるでもなく、城の入口をさらけ出した。


「───行くぞ」


 空燕コンイェンが一言言うと、彼らはゆっくりと中に入っていった。





 中に入るとそこは至る所に無人の屋台。当然の事ながら、それらを手入れする者などなく、全てが風化していて元が何であるかなど、ほとんど分からなくなっている。ホコリや塵は雪のように舞って、積もるだけ。その積もり積もったホコリ達を無遠慮に巻き上げて、彼ら四皇は進んでいく。彼らの進む靴音だけが、旧九龍城に響いていた。

 だんだんと進むにつれ、中の様相も変わっていく。無人の屋台で詰められていたかつての商店街らしき風景は、進むにつれてホルマリン漬けにされた何かしらが入っているガラスケース一色に移り変わる。そして人通りも全くのゼロからぽつぽつと増えていく。彼らの横を通りすがる人々は皆、興味深そうに、また心底珍しげにチラチラと視線をよこしてくる。それらを一切気にせず、または意に介せず彼ら四皇はどんどん道を進めていく。


「……着いたか」


 そうしているうちに四皇は行き止まりと思しき扉の前に辿り着く。その扉には大きく、『組織長室』と書かれていた。誰かが大きな溜息をつき、また誰かが頭の痛みを抑えるように手を当て、そして誰かが無遠慮にしかめっ面を晒しながらその扉を蹴り飛ばした。


「───久しぶりィ!!」

「あぶねっ!!」


 瞬間、部屋の中からミサイルがごとく飛んできた何かしらを、油断していたからくりは既のところで避ける。避けられ通り過ぎていった何かしらは、壁に激突する寸前で留まり、くるりとからくりの方を振り返る。その顔は明らかに恍惚の笑みを貼り付けていて、とてつもなく。顔を引き攣らせて相手のその顔を蹴り飛ばすと、からくりは思いっきり息を吸い込んで叫んだ。


「───何してやがんだォォーッ!!」


 ビリビリと叫びが響き渡る。常人であれば鼓膜が破けてしまうほどの、とてつもない声量でからくりは叫ぶ。それに続くかのように今度は珍しく大人しかった明明メイメイが、自らの懐から銃2丁を取り出し、部屋の中にいた誰か達に向かって乱射を始める。その目に光はなく、顔もゾッとするほど無表情であった。しかしそれを気にすることなく、標的とされた誰か達は明明メイメイにゆっくりと近づいてきて、何を思ったか両腕を広げて抱擁した。


「久しぶりだねぇ、私たちの可愛い作品子供

「そうだね、元気だった?」


 彼らに突然抱擁されたからか別の理由か、明明メイメイは途端に乱射を辞めた。しかしかと言って銃を握っている両手を、彼らの背中に回すことはなく、ただされるがまま。その光景はとても神秘的で、とてつもなくおぞましいものであった。

 その光景を見つつ、隣にいたお弓は長い溜息をつき、すっと普段細められている目をゆっくりと大きく開く。開かれた目は真っ黒で、真ん中に瞳孔と思しき赤い点が爛々と光り輝いていた。彼女の視線の先には、やはり自らの生みの親たち。彼らは彼女を見つめ返すが、それ以上は何もしてこない。だからこそお弓は安心できなかった。何もしてこない以上、こちらからなにかするのは愚行にも程がある、と。ならばこちらも何もしないでおこう。触らぬ神に祟りなし、と言うから。彼女のそんな心情を知ってか知らずか、彼らもまた彼女に関わろうとしなかった。関わっても無駄なことだと踏んだらしい。

 そして残る四皇の1人、空燕コンイェンは、生みの親たちに面向い、刀の切っ先を突きつけていた。


「久方振りですね。父上、母上」

「……親に切っ先を向けるとは、随分と偉くなったものだな?」

「貴方方のでしょう」

「そんな教育はしていなかったはずだけれども……精々快楽グッズで色々と後ろを開発してただけよ」

「何をしてくれやがるのですか本当に」

「恥ずかしがるな」

「そういう問題じゃないが?」

「ちなみにこの人の後ろはもう開発しきってるから安心していいわよ」

「本当になんてことを言ってくれやがるのですか」


 両親から放たれた衝撃の一言に、空燕コンイェンは見たことも無い形相で彼らに詰め寄る。彼らに抱く感情など殺意しか無かったはずなのに、その殺意が一瞬にして消え失せてしまった。聞かなければならないことが出来てしまったようで、空燕コンイェンは向けていた刀を納め、代わりにどういう事だと父親の両肩を掴む。


「つか、ンなことしに来た訳じゃねぇんだわ。おいアンタら何考えてんだマジで。おかげで来たくもねぇこんっなボロ城に来る羽目になってんのわかってんだろ?」


 不意にからくりがはっと正気に戻り、依然として引っ付いてくる自らの母親をはがしながら、主犯たちキチガイに問いかけた。その一言で、あれだけ騒がしかった場は一気に静まり返り、残りの四皇たちも己が血縁たちを見据える。彼らの様子に満足したかのような笑みを浮かべた一部の血縁者たちは、それぞれがかわるがわる話始める。


「まずひとつは、街の様子が知りたかったの」

「わが子たちが支配を握る巨大都市が、思いもしないもので荒らされたらどうなるのか……」

「まるでアリの巣に純粋な好奇心で、砂糖水を無遠慮にぶちまける子供みたいにね」

「おかげでとてもいいホームビデオエンターテインメントが見られたよ、ありがとう」

「次に、組織を作っちゃった理由だけど。私たちでいろいろ盛り上がっちゃったのよぉ。研究とか論文とかで意気投合して、その場のノリで立ち上げたのよねー」

「フフ。なつかしいわぁ」


 和やかに笑いながら話を続ける血縁者たちに、四皇の空気はますます悪くなっていく。井戸端会議のノリで妙ちきりんな組織が立ち上げられ、あまつさえホームビデオを撮るテンションで街の様子を見る名目で、巨大生物を作り上げて好奇心のままに街に放り込む。こういったことをすべて、で片づけて、実際にやってのけてしまうくらいには相当イカレているのだ。改めて自らの生みの親にため息しか出てこない。不機嫌な顔を隠すつもりもなくそちらを見るが、そんなことは全く意に介さず、血縁者たちは話を続ける。


「あとはあなたたちの今の状況を知りたかったのよね。ちゃんと動いているかどうかとかも」

「親としても気になっていたしな」

「元気そうで何よりだ」


 と、そこまで言うと、何やら意味ありげな表情を浮かべて四皇を見つめ返す。その目はまるで笑っておらず、常人であればあまりの不気味さに思わず目をそらしてしまうそれは、彼らにとってみれば挑発にしかならなかった。が、そんな挑発に乗るほど彼ら四皇も馬鹿ではない。怪訝な顔を崩さずに、空燕コンイェンが刀を抜いて問いかけた。


「それで。一体これからどうするつもりで。こちらとしてはこれ以上、我々にをさせないでほしいものですが」

「そうカリカリするな。もうすでにこちらの目標は達成されたといっても過言ではないし、街には手出ししない」

「街、……? つまり我々事自体にはちょっかいを出すと?」

「気分次第だね、ねえアンタ」

「ああ気分次第だな」

「さっきっからいねぇなとは思ってたがなにやってんだ親父ィ」


 妙に引っかかる単語をおうむ返しのように繰り返せば、不意に天井から逆さづりのような状態で、新たな人物が現れる。その人物に対し、からくりは不機嫌よりも困惑が勝った表情で見上げる。


「いやあ本当は母さんがお前を捕まえたところで私も出ようと思ってたんだが……見事にタイミングを外してな」

「出てくんな」

「とまあ、これからは街には手出しをしないが、お前たちにはいろいろと気なることがあるからなんかやろうとは思ってるからな」

「やらないでくださる?」

「おや君はさんか。久しぶりに見たが随分ときれいになったもんだ」


 ついお弓が口を開いて会話に割って入ると、からくりの父親に懐かしそうに返される。しかし、その一言がお弓の纏う空気を一瞬にして替えさせた。まるで今の彼女は、触れるものすべてを殺さんとばかり。閉じられていた目はめったに見せないくらいに大きく開き、その中にある赤い瞳孔は爛爛と光っている。少しばかり開いた口からは、黒い液体が、どろり、どろりと流れ出ている。はたから見てもこれはただ事ではないとわかるその変わりように、真っ先にからくりが動いた。


「お弓、殺すのは今ここじゃないし今この時じゃねぇ。いいか、ここで殺したら事後処理クソ面倒なことになるぞ。組織もそうだ、何よりこのボロ城ウチらで処理しねぇといけなくなんぞ、いいのか。やめとけ」

「そうだ。殺すならこの城を跡形もなくつぶした後だ。いいか」

「……」


 空燕コンイェンも援護に加わり、2人がかりで説得を試みる。するとすぐにお弓の纏う空気が元に戻った。いわれてみれば確かに、面倒な事後処理をしなければならなくなる。それはさすがに勘弁願いたい。そう思い至ったのか、彼女は殺意を収めることに成功した。しかしそれにまた水を差すかのように、彼女の生みの親たちが余計な言葉をもってして加わってきた。


「随分生ぬるいわね?」

「所詮その程度でしかないのか。いくら四皇になったといえど……教育に失敗してしまったらしいな」

「貴方私たちを親だと認めたくないらしいけど、私たちもこんな子が娘だなんて、願い下げよ。もっと出来のいい子を作ればよかったわ」


 やれやれとかなり大げさに肩を落として見せる。しかしそのしぐさの一方、反応が気になるのかちらちらと目線だけを彼女によこしているようだ。あからさまなその態度に、空燕コンイェンですら引いている。あまりにもなんというか、。自分の生みの親も相当、いやかなり気持ち悪いが、このベクトルの気持ち悪さではなかった。ちらりとお弓のほうを見やる。が。


「さ、帰りましょう。用も済んだことだし、とりあえず街のほうには手出ししないみたいだし。仕事もあるし。帰ったら九龍ピザでも食べましょう」


 そんな両親を全く視界にも入れず、彼女はぱちんと手をたたいて部屋を後にした。その様子に四皇はあっけにとられたものの、真っ先にからくりがたまらず噴き出して、豪快に笑って見せた。


「ダッハッハッハ! こーりゃ傑作だわ! 確かにもう用なしだしな、帰るわ! じゃーなガイキチ共! 二度とその面見せんじゃねーぞ!! ヒー……アッハハハハ……」


 そのまま笑って中指を全力で立てながら、続いて部屋を後にした。さらには空燕コンイェンがため息をついて刀を納め、ただ一言言い放つ。


こんなのキチガイが親だとは認めたくないに決まっているだろう。バカなのですか」


 そのまままた部屋を後にする。最後に残されたのはいまだ抱擁されたままの明明メイメイであったが、突然液体のようにするりと腕から抜けて見せる。そして何も言わず、なんの表情も浮かべず、ただ部屋を出た3人の背中を追いかけて、出て行った。


「……」

「ねぇ今どんな気持ち?実子に無視されてどんな気持ちだい?」

「ねぇちょっとかわいそうよ……フフ」


 組織長室に残されたのは、四皇たちの生みの親たちだけ。だが、そこではさらに混沌の様相が繰り広げられることとなっていた。





 旧九龍城をあとにした四皇たちは、お弓の食堂へと集まり、彼女お手製の九龍ピザをこれでもかとむさぼっていた。しかし彼らの顔にあったのは、喜びではなく疲労の一色のみ。みな疲れ切った顔で、何も言わずにピザをただただ食らいつくしている。しかもなんということだろうか、ピザの上に本来乗せられているであろう、薬剤や奇妙なハーブ類が全く乗っていないのである。つまりは。だがそれをこうして食べている、否、いつもの九龍ピザを食べようと思えないほど、今の彼らは疲労しきっていたのだ。

 最後の1枚を誰かが平らげ、傍らにあった烏龍茶を飲み干すと、からくりが一言。


「……余計な労力使っちまったな」

「明日も休暇日にしない?」

「……そうするか」

「さんせーい……」


 皆疲れきった表情で、自らの仕事場へと戻っていく。



 翌日、九龍市クーロン・シティ全域に、予告無しで再びが発令された。



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