第4話:九龍市管理局 麒麟

 さて、無法地帯肥溜め九龍市クーロン・シティにも、街を統治する管理局というものは当然のごとく存在している。街の中心地に、上へ上へと伸びている、まるで城のようなその建物は、九龍塔クーロン・タワーと呼ばれており、その頂上には事実上九龍市のトップが君臨している。、倫理をドブに捨てるがごとき無法地帯の九龍市を統治する組織、つまりは九龍塔を拠点とする彼らの名を、麒麟キリンと言う。



【第4話:九龍市クーロン・シティ管理局 麒麟キリン



 いくら無法地帯と言っても、管理するものが居なければそれは街ではなく、ただのクソのたまり場として終わる。しかしそれらをまとめあげ、かつ街として完成させた組織がこの街には存在している。組織────麒麟はたまり場に居た住人クズ共を瞬く間に纏め、統治し、更には土地を与え経営のノウハウも与えた。それが段々と広がっていき、遂にはひとつの巨大都市を作り上げることに成功した。それが今の九龍市クーロン・シティである。今現在、九龍市が街としての機能を失わず、権威も崩さずにいられるのは、この麒麟が全てを統治しているからに違いない。


 というのが表向きの麒麟の顔である。


 実際には人身売買や臓器密売、更には薬物販売や人に対する薬物の実験すら黙認しているのが現状だ。人間の干物や文字通り人間の等など、それらを正当な商売物として麒麟自らが売り出しているのだから、お察しと言えるだろう。彼らもまた、九龍市の住人なのだ。その麒麟のトップに君臨するのは、やはり絶対的な権力者、四皇よんこうの最後の一人なのである。名を空燕コンイェン

 空燕もまた、性別がハッキリしていない。男のような出で立ちをしているが、本人はハッキリと否定している。どうやら、性別などあるわけが無い。というのが空燕の言い分である。これに関しては他の四皇も1人を除いて同じだ。ちなみに唯一の例外がお弓である。人外でありながら女だと公言しているらしい。

 さてこの空燕コンイェン、確かに麒麟のトップではあるのだが、彼の行動原理は全て、である。例えば街で何かしらの騒動が起こったとする。それが大多数の住人を巻き込んだものとしよう。空燕コンイェンのスイッチは、その騒動がであれば入るのだが、特に何かしらのダメージが自分に入らないと判断すれば、そのまま放置する。そして部下が収めるのを待つだけ。自分からは何もしない。何故ならばからである。たったそれだけの事だ。まともな倫理観を持っているものならば、人の上に立つものの職務を放棄していると思うだろうが、この街においてそんなものは無いに等しい。否、。ゴミクズにもなりやしない。

 ただそれでも一応は、曲者揃いの四皇の中では一番まともな人物と言える。ただしこれは九龍市の価値観における判断であるから、九龍市以外の人間の価値観からすれば、まともでは無いだろうが、それはさておき。

 では何がまともなのか。それは他の四皇に唯一をかけられる人物だからである。例えば雑貨屋店主からくりが脱税の為に嘘の申告書を出したとすれば、直接店に突撃をして厳しい監視の元、正式な書類を作らせる。また食堂の女将お弓があまりにもやりすぎな料理薬物を作ったとすれば、これまた直接店に突撃をしてその薬品を取り上げる。更に賭場の支配人メイメイが賭け事で衛生面など気にせず大乱行ガンギマリパーティをしようものなら、全員をつるし上げて公衆の面前で縛り上げて見世物にする。勿論その時は元凶明明も一緒に。大抵空燕コンイェンからこういったがかけられると、その後しばらくはほかの四皇は嘘のように大人しくなる。からくりはちゃんとした申告書を提出するようになり、お弓も暫くは薬物を混ぜない料理を出すようになったり、明明に関してはもういつもの事なのである意味変わらないが。こういった意味では、彼は一番まともなのである。

 そんな彼が、麒麟のトップに立ち続けているのか。それは他ならない、彼のによるものであろう。この九龍市内部で毎日、毎秒行われている日常茶飯事悪事のあれやこれは、到底他の場所に漏らしては行けないものである。もし万が一別の場所で九龍市内部のことが公になったとしたら、瞬く間に圧倒的で九龍市は綺麗さっぱり無くなっていることだろう。それもそうだ、この街で日々起こっていることは、倫理観もクソもない、人道に全力で中指を立てているようなものでしかないのだ。それが外に漏れ出ては行けない。漏らしては行けない。だからこそ、彼は麒麟を組織し、自らそのトップに君臨し続ける。このクソッタレた最低最悪のスラムを、消させないために。


「来たぞからくり

「よう公僕。目当てのもんならそこにある分だけだぜ」

「今回はいくらだ」

「ざっと80万」

「随分と高くなったな?」


 ひと仕事終えた空燕コンイェンは、たまたま常備しているはずのを切らしていたことに気づき、同じ四皇のからくりが経営している雑貨屋に足を運ぶ。肘をつき、気だるそうに店主は空燕コンイェンを迎え入れると、適当な場所を指さして値段を告げた。それに対し空燕が問うと、からくりはため息をついて答えた。


「届かねえんだよ物資が。ったく、仕入先新しく開拓するしかねえみてえだ」

「届かない?」

「おーよ。どうにも市内でシャブとか葉っぱとか、そこのバイヤー狙った襲撃が今までの比じゃねえんだとよ。こっちまで被害くらっちまってら。お陰で売上が減っちまった」

「ふむ」

「で、当然。公僕のテメェが、?」


 テメェも無関係じゃねえだろ。言外にそう含ませると、からくりは奥へと引っ込んでいった。対して空燕コンイェンはと言うと、その後ろ姿を見つつカウンターに札束を置き、目当てのものだけを手にして雑貨屋を後にした。どうやら増えたようだ。





 九龍市は今日も治安はない。統治はされているが、人権と尊厳は存在しない。そんな狂った街を統治する、市の管理局麒麟。その組織のトップに立つ、四皇の一人空燕コンイェンは、数日前から何やら打って変わって機嫌を良くしていた。機嫌が良いせいか、いつものクソッタレた面子四皇と昼食を共にしている。普段ならばこんな風景はありえないものであり、天変地異の前触れかと住人たちは遠巻きにしている。それもそうだろう、絶対的支配者4人が、何を思ったのか一堂に会してピザをつつきあっているのだ。一体何が起こるというのか。


「ようやく売上が元に戻ってなァ。九龍ピザがうめえことうめえこと」

「あら、それは良かった。ここ最近物騒なことばっかりだったからねえ、嬉しいニュースね」

「物騒なのはいつもじゃなーい?」

「シッ、わかってても言うな」

「まあでも、私たちがこうして一緒にお昼を食べられるのも、この人のお陰だものね。ね、空燕コンイェン


 お弓から微笑みながら話を振られると、空燕コンイェンは少しだけ口角を上げて、口を開く。


「さてな」



 本日の九龍ピザの具材は、と、



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