第2話:大衆食堂 紅竜房
【第2話:大衆食堂 紅竜房】
九龍市中心街、その中でもかなり目立つ場所に食堂はある。紅の竜が上へ上へと登るオブジエが大きく施されているその食堂は、九龍市で最も人が入る食堂と言っても過言ではない。味も良ければ
その紅竜房を取り仕切るのは、九龍市では珍しい、
「いらっしゃいませ。お席にご案内致します」
お弓は普段厨房で料理を作っているが、時々自らホールスタッフとして立ち、客人たちを招き入れる。
紅竜房の
種類が豊富な
そんなことを思いつつ、客人はぼおっと何をするでもなく店の中を眺めていると、女将が料理を手にして帰ってくる。目の前に出された目的の料理はいい感じに湯気が立っていて、色合いも眩いほどに綺麗なものだ。
「お待たせ致しました、名物『九龍ピザ』です」
慣れた手つきでピザカッターで均等に切り分けると、タバスコや粉チーズを隣に置くと、ごゆるりとどうぞと言い残して、また去っていった。
さて、この九龍ピザ。確かに九龍市の名物として売り出されるほど人気の
だからこそ、この九龍ピザは九龍市で観光客が最も口にしてはいけないもの───と、されている。口にできたとしても、それは九龍市に染まりきってしまった狂人くらいなもので。
「───あら」
お弓が皿をさげ向かった客席には、中途半端に残った食べかけの九龍ピザと、どうかしてしまった客人がそこにいた。
「……成程こうなりますか」
お弓は特にそれを気にすることなく、懐からメモ帳を取り出して何かを書き始める。ある程度それを書き上げると、客人だったものを無視して、食べかけの九龍ピザが乗った皿を取り上げる。すでにそれは冷めきってしまっていて、例え食べかけの部分を除いて食べたとしても、美味しくはないだろう。お弓はわざとらしくため息を着く。
「食べ物は粗末にしちゃいけないのに」
そう呟いてお弓は冷めた九龍ピザを温め直し、ラリった他の客人の口の中に、放り込んだ。
◇
「はい、大衆食堂紅竜房です」
紅竜房は今日も賑やかだ。やってきた客は相も変わらずどんちゃん騒ぎ。そんな中、紅竜房に1本の電話が入る。お弓はその電話を取り、いつもの言葉を口にする。
『お弓ー、デリバリー』
「あら
『思った以上に腹減っちまってさあ。いつものアレよろしく』
相手は同じ
「───はぁい、九龍ピザ。確かに」
終
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