農機具に乗った王子達


 推しとの出会いは唐突なものだ。芸能人であれ一般人であれ、配偶者であれ同僚であれ、出会いは必ず訪れる。それを覚えているかどうかは人による。気がつけば傍にいたパターンもあれば、運命的な出会いをしたパターンもあるだろう。


 白馬に乗った王子様という言葉は、理想の人を表現して用いられる。「いつになったら私の白馬の王子様は現れるのかしら」と受け身なお嬢様がつぶやくシーンがすぐ浮かぶ。

 情報があふれる現代は、受け身のスタンスであっても王子様がにゅっと現れてくるから面白い。友人の布教であったり、紹介であったり、Youtubeのおすすめであったり、Twitterのリツイートであったり。自分はいつもと変わらない日常を送っているが、出会いの方が転がり込んでくる。便利で良い世の中になったなあと思う。


 よくよく自らを振りかえれば、今チャンネル登録しているYoutubeアカウントのいくつかは「あなたへのおすすめ」に出てきて興味本位で見たものがそこそこある。猫の動画であったり、収納方法の紹介であったり、実況であったりとカテゴリは様々だが、彼らとの出会いは言うなればYoutubeからの紹介だ。

 Twitterのリツイートで遭遇するアカウントをフォローするのも紹介の一種だろう。何か素敵な出会いを求めてリツイート先のつぶやきを眺めもする。

 現実世界で言うならば、友人が開いたホームパーティに参加し、主催の友人が紹介したゲストにみんなが注目しているのに近いだろうか。ゲストが面白ければ彼あるいは彼女の過去の発言を洗う感じ。

 たまにお気に入りに登録したツイートをたどり、気になるアカウントに飛び、さらにそのお気に入りをたどったりもする。これはたとえるならばどういうシチュエーションだろう。気に入った友人の家を見に行き、写真立てにある素敵な家を見てその家を探し出して家探しする感じだろうか。……無理に比喩に落とし込もうと思ったら不穏な感じになってしまった。


 前置きはさておき、Twitterライフをそれなりに謳歌している私にも先日ひとつの出会いがあった。異性間交流的な出会いではなく、推しとの出会いだ。

 彼らとは、私用で使っているアカウントのほうで出会った。誰かしらがお気に入りに登録していたツイートに、彼らはいた。


 ツイートには1分ほどの映像があった。映っているのは3人の男性。全員が外国人で、動画が撮影されているのも海外だろう。ムキムキとまではいかないがしっかりした身体つきをしている。両脇の男性は立ち、中央の男性は大きな樽を前に中腰の姿勢だ。おもむろに中央の男性が樽をリズミカルに叩きはじめると、3人は揃って歌いだす。

 歌声は彼らの見目とは裏腹に優しく繊細だ。たぶん海外では著名な歌なのだろうが、私は知らない歌だった。この人たち上手いな~と思っていると、画面の右側からゆっくりとトラクターがフレームインしてくる。日本の農作業で使うようなサイズではない。北米の大規模農業で使うようなクソデカトラクターだ。

 トラクターから一人が降りてきて3人に合流し、ハーモニーが加わる。そしてトラクターの運転手も加わり、5人になるとさらに美しい旋律が奏でられる。その間にも中央の男性はリズミカルに樽を叩いている。繊細な歌声だが、深みがある。高音と低音のバランスが絶妙で、ずっと聴いていたくなる。

 歌っているさなか、彼らは歌に真剣だ。トラクターで登場した2人も、トラクターでの登場など当たり前だと言わんばかりに平然と加わり真剣に歌っている。見ている者が「いやなんでトラクター!?」とツッコミを入れるしかない。綺麗な歌とのギャップが面白い。

 1分にも満たない歌が終わると動画も終わる。宣伝やセリフもない。満足げな表情の男5人が映っているだけだ。

 これが私と推しとの出会いだ。


 こいつはいったい何を書いているんだと思うかもしれないが本当なのだ。事実を確かめたい人は私のTwitterアカウントを見てほしい。この記事を書いている5/15に当該ツイートをリツイートしておいた。

 ツイートはすべて英語で、すぐに彼らがカナダのアーティストであることが分かり、YoutubeとApple Musicでアーティスト名を検索した。サジェストされた曲がことごとく好みで、すっかり好きになってしまった。

 とんだところで王子様と出会った。しかも農機具に乗ったガタイの良い王子様たちだ。字面が強すぎる。アカウントを辿ると、ほかにも農機具に乗った写真が散見される。


 最近は在宅勤務のBGMに彼らの歌を聴いている。優しげな彼らの歌を聴いていると仕事が楽しく思えてくる。聴いているとTwitterで見た映像が自動で脳裏に浮かび、自然と笑顔にもなる。とても素敵なアーティストと出会えて良かった。カントリー系の洋楽が好きな人にはぜひおすすめだ。

 これをきっかけに誰かが彼らを気に入り、推しの輪が広がったら嬉しい。

 末筆ながら、Hunter Brothersがよりいっそう音楽業界で活躍することを祈りつつ、エッセイの姿を借りた推しの布教を終える。


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