仁義なき詐欺との戦い

  無意識にタイトルでいい感じの韻を踏んでいた。明日はいいことがあるかもしれない。

 今回取り上げる「詐欺」とはいわゆるスパムメールのことだ。メールアドレスを持っている方なら一度は目にしたことがあるだろう。アマゾンを装った未入金の連絡だとか、名前も読めない外国人からのメールだとか、「あなたのパソコンをハッキングしました」と騙るやたら長文のメールなどだ。


 社用のアドレスはそういったメールがけっこう届く。在宅勤務でいざ仕事をしようとメールを立ち上げると目に入ってきてゲンナリする。ただでさえ勤労意欲が低いのに、スパムメールを迷惑フォルダに突っ込む作業から一日が始まるのはなんか嫌だ。ベッドにもぐりこんで仮眠し、目を覚ますところからリスタートしたい気分になる。


 明らかに同じ内容のものが時間を空けて日に何度も来るのは悪質だ。迷惑メール扱いにしても、ランダムに生成されたアカウントで送りつけてくるものだから対処しようがない。アカウントを削除するのも支障が出るし、なによりスパムメールに屈したという事実がなんかイヤ。

 何より、絶妙にイラつくラインをついてくるのが、なお腹が立つ。これが四六時中スパムメールが雨あられのように受信フォルダを埋め尽くしているのならまだ強硬策を採る決心もつくが、絶妙に「まあ様子見でいいか」の頻度で奴らはやってくる。そのあたりも計算されつくしているのかと思うと癪だ。


 どうせ迷惑メールフォルダに入る運命だというのに飽きもせず送られてくるヤツら。最近は一周回って同情すら覚えた。きちんと開封されるわけでもなく、日の目を見ずに葬られていくなんて可哀想……とバグり散らかした頭で憐憫の念を抱いた。

 どれ、迷惑メールフォルダに行く前に顔を見せておくれ、と本文を表示させてみたらAIが作成したであろう不自由な日本語の羅列が目に入り速攻で目が覚め、無言で迷惑メールフォルダに突っ込んだ。奴らに同情など不要だったのだ。同情した私がバカだった。


 騙す気があるのならもう少し目を引く内容にすればいいんじゃないかね、と上から目線のアドバイスをしたくなる。支払いがされていないから強制退会させますだなんて、特段こちらにデメリットはないだろう。ああそうですか、で終わる。読めない英語の文章だって同じだ。読むまでもなく葬られる。

 そのへん、AIの力を借りてなんとかできるのではないか!? と、スパムメール送信主の側に立ってしまいそうになる。私は経験がないが、スパムメールの中には「主人がオオアリクイに殺されてから2年が経ちました」といったような文面のメールもたまにあるらしい。私だったら少しの間リンクを踏むかどうか逡巡すると思う。


 とはいえ、巧妙なメールは非常に良くできている。ある日、使っている携帯キャリアを装って「○○の支払いが完了しました!」というスパムが来た。これは出来が良かった。というのも、携帯キャリアからもまったく同じメールが来るのだ。デザインや内容も遜色ない。違うのはアドレスと決済先が見知らぬ会社であったことだけ。

 これは騙される人がいるだろうな、と思ったら、案の定決済元に指定されている会社が「ウチはそんなメール送ってないから気をつけてよね」と声明を出していた。

 このメールは私も一瞬「あれ、こんなの払ったっけ」と思いかけた。アドレスのドメインがhotmailだったからスパムだと看破できたが、それっぽいアドレスであったら危なかった。

 似すぎるのも考えものだ。送り主としては騙すためのメールなのだから仕方ないと開き直っているのだろうが、サイゼリアの間違い探しみたいによく見れば何とか気づけるレベルの違いを盛り込むくらいの遊び心を見せてくれないだろうか――と、さっきとはチグハグな意見になってしまった。


 近年のスパムメールの進化は目まぐるしい。怪しいと思ったらまずリンクをタップせずに真偽を確かめなければいけない。クレジットカードの利用報告などはまさにそれだ。少しでも気を引き締めねば、奴らはこちらの隙をついて悪事を働く。進化するスパムメール対人類。徐々に巧妙化していくスパムメールに翻弄される人間の話など、掘り起こせばどこかにありそうだ。


 なぜこのような啓蒙じみたエッセイを書くに至ったかだが、つい昨日、身に覚えのないクレジット利用速報のメールが届いたからだ。一万円弱を支払ったようだが、全く身に覚えがなかった。ハハァこれはスパムですなアハハ、と情報リテラシーに優れる私はすぐさま見抜いた。

 しかし違和感を抱きもした。メールがいつも届くクレジット利用速報とまったく同じに見えるのだ。ドメインも正しく、書かれている日本語もおかしいところはない。

 ハハァこれは巧妙なスパムですねヤレヤレ、と思ったのも束の間、私の脳内に閃光がまたたいた。先日、好きなアーティストのグッズをネットショップでカード決済していたではないか。

 慌ててショップからのメールを見直したら、利用額は利用速報に記載されている額と同一であった。

 推しに対して財布のひもがガバガバになる自分を責めればいいのか、お金を使った事実を覚えておけない記憶力を責めればいいのか、少しでも疑問を持った危機管理能力を褒めておけばいいのか。しばし頭を悩ませ、「何ともなくてよかったね、私」と乾いた声でひとりごちた。

 そんなわけなので、皆さまもスパムメールとクレジットカードの利用状況にはご注意ください。

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