不便に疑問を持てる人
優れた頭脳を持つ人を讃える意味で「頭の中をのぞいてみたい」と表現することがある。天才棋士やフラッシュ暗算の達人、天才物理学者、稀代のストーリーテラーの頭脳がその才覚を発揮するときにどうなっているのかは興味がある。
問題は頭の中をのぞけたとして自分がきちんと理解できるかどうかだ。目まぐるしく展開される思考についていけず、口を半開きにする自分が目に浮かぶ。
ならば、処理機能が高い人の頭脳よりむしろ、思いもしないところに目をつける人の脳を見てみるのはどうだ。その一例だが、私は百均の商品開発に携わる人の頭の中をのぞいてみたい。
百均ショップを訪れるたび、ラインナップもさることながら「よくこれを商品化したな」「ここに目をつけるのは面白いな」と感じさせられる。
最近だと味玉を作るのにぴったりな容器があって感心した。卵型の容器に少量の調味料を入れ、ゆで卵を漬けて蓋を閉めると調味料がうまいぐあいに全体に浸るしくみになっている。
味玉を欲するたびにジップロックにわりあい多めに調味料を入れて、ゆで卵を入れたあとは頃合いを見て均等に漬かるよう卵の向きを入れ替えていた人間だったので即座に欲しくなった。なんせ税抜き100円だし。かろうじて「活用するほど味玉作るか?」と冷静な自分が背後から現れて事なきを得た。
ゆで卵関連で言うと、綺麗に殻が剥けるよう卵に穴をあけておく道具は買った。くぼみに卵をセットし、軽く押すと針が飛び出て卵のお尻に小さな穴があく。こうすることで茹で終わったあと殻が剥きやすくなる。こちらは即断で購入し愛用している。格段に殻が剥きやすくなった。
他にも、DIY用グッズだとか、洗顔料を入れて押し引きするともこもこした泡が作れる道具だとか、薬味チューブ用のホルダーだとか、多岐に渡る種類で便利グッズが展開されていて面白い。既成の商品を百均版にカスタムしたものも見受けられるが、けっこう百均独自の便利グッズは多いと思う。
商品開発をする人はどのタイミングでアイデアを思いついたのだろう。日ごろから「これ、もうちょっと楽にならないかな」と思って生活しているとしたら感謝を述べたい。私がゆで卵の殻を剥く際に白身も取れてしまうことに(多少のイラつきこそあれ)違和感を覚えなかったところを、商品開発担当の方が目をつけてくれたおかげで今やストレスフリーにゆで卵を剥けている。
世の中が私と同じ思考の人間だらけだったら、今でも殻にこびりついた白身にため息をつきながら無心で殻を剥いていた。ゆで卵は殻に白身がくっつくものだと無意識に諦めていたはずだ。
ちょっとした改良でちょっと生活は進歩する。ちょっとストレスが軽減されるだけで日々の生活はちょっと良くなる。
たかがゆで卵くらい、と思うなかれだ。うまく殻を剥けずにいること○年、とうとう堪忍袋の緒が切れた私は今後いっさいゆで卵を作らないことを決意した――という未来もあったかもしれない。そう考えるとちょっとのアイデアを生かして商品化する人たち、そこに至るまでのひらめきはありがたい。
これは百均だけに言えることではないとも思う。知らず知らず受け入れていたデメリットを、改善できると気づき行動に移してくれた人のおかげで少しずつ社会は便利になった。黒電話はスマートフォンに代わり、掃除機はコードレス化が進み、炊飯器ではケーキも作れ、自動車はキーレスになり自動ブレーキまで搭載された。
今後も自分では想像もしなかった技術革新が世に出てくるだろう。それを提案した人は知らず知らずの不便に疑問を持てる人に違いない。自分の好きなことを生業にしている人や、少しの労働で多大な稼ぎを得ている人もそうだ。凡人なら気づかずスルーしていた箇所に引っ掛かりを覚えることができる。斬新な発案ができる人は目の細かいザルのようだと思う。私も目の粗いザルから進化し、違和感を掬い上げて細かく破砕できる人間になりたいものだ。
ただ日々を生きるのではなく、これはもっと変えられるのでは? という視座を忘れずに生きていきたい。それを気づかせてくれた百均に感謝したい。少しでも感謝の意を示すため、今後も積極的にお金を落としていこうと決意したところで今日のエッセイは終わるとする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます