登山みたいに読書する
これを読んでいるあなたは、電子書籍派だろうか。紙書籍派だろうか。
電子書籍は業界に参入して以降、伸び続けている。タブレットやスマートフォンさえあればいつでもどこでも読めるし、荷物が増えることはない。取り寄せにかかる時間もない。好きにマーカーを引けるし、気になる作品を気軽に試し読みできる。何より収納を気にする必要がない。支持されるのも納得のシステムだ。
だが個人的には紙書籍のほうが好きだ。電子書籍が嫌いなのではなく、電子書籍も便利で活用している。ただ、紙書籍の方が性に合っている。それは私の読書へのスタンスが大いに関係している。
私は読書をする際に、どこまで読んだか確認する癖を持っている。
100ページ分読み終えて「今日はここまで」と区切りをつけると、読み始め部分に戻って「この展開がこうなるとはな……」としみじみ振り返る。「100ページ前はこんなだったのに展開が早いな」だとか「まさかこのときは彼が裏切るなんて思いもしなかったなあ」だとか「ここまではこの人も普通だったのに、今となってはね」といったぐあいに。
ちなみに100ページというのはあくまで目安で、日によって増減する。数十ページ程度であれば振り返らない。なんか今日はいっぱい読んだな! という日は振り返る。
「あの人なんて名前だっけ?」「この人どこかで出てきたっけ?」といったおぼろげな確認ではなく、来た道を振り返っている感じだ。登山家が途中で後ろを振り返って景色を楽しむのに近い。
これが読書習慣のある人において少数派か多数派かは知らない。かなりマイナーな
紙書籍は読書振り返り癖がしやすいので好きだ。電子書籍だと操作が少し面倒に感じる。ざっと見当をつけて指を挟み、パッと
厚みが分かるのもいい。読み始めから読み終わりまでのページの厚みが目視で感じられる。いつの間にか分厚くなっているとなんだか嬉しい。夢中になって読んだんだなあと作品への愛着が深まる。
あとどれくらいのページが残っているのか見られるのも紙書籍の良いところだ。短編で残りページが少なそうなら読んでしまおうと思えるし、長編でも区切りが良いところで章が分かれていれば読んでしまう。
この場合も厚みは指標であり、楽しみのひとつでもある。難解なミステリー小説の終盤、残りページ数を目視して「あとこれだけしかないのにどうやって畳むの!?」とソワソワしたり、ハッピーエンドが売りの小説で「つらい状況だけど、ここから幸せになるだろうし」と安心したりする。
時には残りページを見て「風呂敷を畳むのにあとこれしかページ数がないところを見ると、犯人はAではないな。彼だとすると犯行の再現と理由の説明にけっこうかかりそう」と妙なメタ読みをしてみたりもする。たいがい外れるけど。
こうして考えると、紙書籍で楽しむ私の読書は登山と似ている。先述のように、読み進めたところを振り返るのは登山家がこれまでの登山道を振り返るのにも似ているし、残りページを見るのも山頂までの距離を確認するに等しい。異なるのは登山ほど気負ってやる必要がなく、気軽に楽しんでいるということだ。
最近登った本の話をしよう。
ファンタジー要素は薄く、物理学や宇宙工学の専門用語が頻繁に登場する。けれどもストーリーと用語解説が絶妙なバランスと構成になっていて、解説ばかりでだらけることもなく、理解しづらいと思いかけると登場人物の会話でスッと胸に落ちる。
小刻みなスパンで展開がアップダウンし、ジェットコースターに乗っている気分だった。やっとひとつの山場を越えたと思ってもまだ400ページくらいのうちの100ページで、この先いったい何が起こるのかと楽しみだった。しかもそれが三部作で全5巻もある。
今は4巻目を読破したところだが、1巻目を振り返るとずいぶん遠くまで来た気持ちだ。長く楽しい旅路で、最後の1巻がどんな登山道になっているのか楽しみでしかない。
逆に、「もうここまで読んじゃった!?」と感じたのは伊坂幸太郎さんの「ペッパーズ・ゴースト」だ。これはまだ読んでいる途中で、半分と少し読み終えた。
伊坂さんの作品の、軽妙ながら時に哲学的でもある人物の会話が大好きだ。さりげない会話が後半に伏線で生きてくると「あのときの!」と興奮する。そして、物語に組み込まれるちょっと奇抜な設定も同じくらい好きだ。
本作の主人公・檀先生はある条件下において「他人の1日先の未来」を見ることができる。教師である彼が教え子の未来を見たのをきっかけに物語が動いていく。視点が檀先生以外にも切り替わり、そちらはそちらでまた面白い話が繰り広げられていて、どう檀先生と絡むかも見ものだ。
ページを
「登山にも似た紙書籍での読書~最近読んでいる本を添えて~」というテイストになった。電子書籍には電子書籍の良さがあり、紙書籍には紙書籍の良さがある。紙書籍は苦手だけど電子書籍ならさくさく読める人もきっといるはずだ。それぞれの読書傾向やスタンスに合わせて好きな方を選び、快適な読書ライフをお過ごしください。
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