大河ドラマを見る人生

 長年、大河ドラマを見る習慣がなかった。実家暮らしのころは家族の誰かが見ていたので土曜の昼と日曜夜にはテレビ放映されているのを目にしていたのだが、自ら進んで見てはいなかった。

 理由はいくつかある。日本史に苦手意識がある。毎週同じ時間にテレビの前で待機するのも不得手。日曜夜のチャンネル権を大河ドラマに持って行かれるのが嫌で、いつの間にか大河ドラマ自体にネガティブな印象を持っていた。これについては大河ドラマからすればとんだとばっちりだと思うけれど。


 何より、昔見たあるシーンが脳裏に刻まれていて尻込みしていた。子ども心に怖さが植え付けられ、大河ドラマは怖いものだと認識していた。

 そのシーンは2001年に放送された和泉元彌さん主演の「北条時宗」でのある一幕。20年以上前の話かつ当時の映像もないので記憶違いなら恐縮だが、渡辺謙さん演じる北条時頼(北条時宗の父)が毒を盛られる。毒を盛られた時頼は顔に痣のようなものができてしまう。その死相に近い特殊メイクが当時ものすごく怖かった。以来、大河ドラマはなんだかグロくて怖いもの、とイメージがついてしまって敬遠していた。


 そんな私だが、昨年の吉沢亮さん主演「青天をけ」を1話から最終話まで通して見た。見るに至った理由は単に吉沢さんの端麗なお顔を毎週拝見したいというよこしまなものだったが、気がつけば毎週かじりついて見ていた。

 1話から見たら大河ドラマは最高に面白いと初めて気づいた。話が面白いうえ、難しい用語にはそれとなく説明やナレーションがつく。番組の最後にはゆかりの地が紹介されて行ってみたくなる。放送後にはTwitterでトレンドをたどり、考察や歴史に関する解説を眺めて小一時間過ごした。


 「青天を衝け」は江戸末期からの話なので考証資料が豊富で良かった。よく知る歴史上の人物が出て来たし、その人物が何をしたのかも改めて理解できた。政治や疫病など、現代とリンクする描写も多く、セリフにも現代に通じるものがいくつもあって非常に楽しめた。

 中だるみして途中で挫折するのかもしれないと危惧していたが杞憂で、最終話まで毎回楽しみだった。堤真一さん演じる平岡円四郎が殺される回は事前にWikipediaで彼の最期がどんなものか調べていても悲しかったし、主人公・渋沢栄一の父、母、妻が亡くなる回はそれぞれ号泣した。


 視聴後には劇中で描かれた時代を取り上げた小説を読んだりもした。朝井まかてさんの「恋歌」はとても良かった。天狗党の乱に翻弄された女性たちを描く小説だが、「青天を衝け」を見ていなければ手に取らなかっただろう。知識を得ることで読書の幅も広がった。大河ドラマ、いいことづくめではないか。


 1年を通してすっかり大河ドラマファンになり、現在放送中の小栗旬さん主演「鎌倉殿の13人」も視聴中だ。最初はネタキャラに見えた大泉洋さん演じる源頼朝が徐々に見せる苛烈さは恐ろしく、小栗さん演じる北条義時が鎌倉幕府の中核を担うにつれその顔から純朴さが失われてゆくのにもハラハラしている。重厚なメインテーマも好きだし、劇中で挟まれる他愛もないやり取りに和む。

 あらかたの登場人物の背景を調べてしまったので歴史がどう描かれるのかが不安であり、楽しみでもある。この記事を書いているのは5月8日の日曜で、まさに今夜、最新話が放送される。壇ノ浦の戦いが描かれる回なのだが、菅田将暉さん演じる源義経がこのあとどんな運命をたどるのかを知っているからこそ怖い。


 大河ドラマの楽しみ方は人それぞれだが、私は気になった人物がいたらWikipediaでおおまかな概要を掴み、何をした人か理解したうえで視聴している。歴史を扱うだけありネタバレには事欠かないのもありがたい。史実を知っておくと、脚本でどう脚色しているのかも楽しめる。

「青天を衝け」の脚本家・大森美香さんは現代とリンクさせる描写が印象的で、共感できる点が多いからこそ世界観に没入できた。メインの登場人物以外を掘り下げる機会は多くはなかったように思うが、主人公の栄一が何を思い、どう考えるかが深く描写されていて、栄一の主張とどう違うか、どの点で似ているかを示すことで登場人物の考えを鮮やかに浮き上がらせていた。

「鎌倉殿の13人」は三谷幸喜さんが脚本を務める。和むシーンとシリアスなシーンの織り交ぜ具合が絶妙で、前半で何度も笑わされたかと思いきや放送直後は号泣していたりする。

 青天に比べて史料が少ないのだが、「~と言われている」「~という説がある」といった史実を綺麗に脚本に落とし込んでいてその手腕の素晴らしさには感服しきりだ。

 登場人物は主人公の義時との交流であったり、他の人物との場面や会話であったりで人となりが描かれ、視聴するうちに輪郭がしっかりしていく印象だ。おとぼけに見えた頼朝が冷徹さを増していくのとは逆に、冷徹に見えた人物が不意に見せるかわいらしさがたまらない。上総広常はその最たる例で、徐々に垣間見える人柄が大好きだったのだが誅殺されてしまい、その回は大変に泣いた。


 もうここまで来るとエッセイというより「私と大河ドラマ」という作文になってきた。今後もなるべくリアルタイムで視聴して様々な考察を目にしていきたい。とっつきづらく思っていたが踏み込んで良かったと心から思っている。もしかつての私同様に大河ドラマに対して一歩引いている見方をしている人がいたら、ぜひ見てほしいと思う。

 大河ドラマを見始めたら歴史に興味を持ち、選ぶ小説の幅が広がり、脚本の妙を感じられるようになりました! ……こう書くとなんだか怪しいビジネスに見えてしまうが、まだ2作しかきちんと見ていない人間でこうなのだから毎年楽しみにしている方にとってはもっと多くの楽しみや良さがあることだろう。


 余談ながら、「鎌倉殿の13人」を見始めるまで13人の合議制という制度がかつて存在したことを知らなかった。世界史選択者ゆえか、私が歴史に疎すぎるか、はたまたその両方か。最初は表題の13人は作中で重要な役目を果たすキャラ13人かな!? と思っていた。恥ずかしい。だが見なければ知らずに過ごすところだった。


 来年には松本潤さん主演の「どうする家康」が待っている。脚本は古沢良太さんがつとめる。私は「リーガル・ハイ」シリーズが大好きで、古美門先生を意識した早口弁舌キャラを自作に登場させるほどなので古沢さんが脚本をされると聞いて今から楽しみで仕方ない。演者の皆さんも錚々たる顔ぶれで、特にV6ファンとしては岡田准一さんが出るのも楽しみポイントのひとつだ。


 毎週待ち望むコンテンツがあるのは嬉しい。年を重ねれば重ねるほど楽しめるだろう。祖父母が大河ドラマを楽しみにしていたのがよく分かった。毎年毎週見て知識を蓄えれば蓄えるほど、また同じ年代が題材になったときいっそう楽しい。できれば今後も興味を失わずに大河ドラマを視聴できればいいと思っている。


 懸念事項は推しキャラの死がショックで挫折することだが、「鎌倉殿の13人」での推しは山本耕史さん演じる三浦義村で、彼の生涯を調べたところ主人公の義時より長生きするので心配はなさそうだ。そういったことが事前に分かるのも大河ドラマならではかもしれない。


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