第8話 愛しい君

年が明けて、1月3日。


例によって、仲良しグループで初詣。

近所ではなく、都内にある神社へ来ている。


それ程、人出は多くない。だが……。


「ほら〜!見てみて〜!コレ、カワイイでしょ〜!」


いつになくテンション(と背)の高い大城だった。


オレ達の来ている神社は、とあるアニメの「聖地」とかで、その作品とコラボした御守りとかを売っている。

で、そのアニメの大ファンである大城が(みんな知らなかった)、ココへ来よう!と(かなり)強めに言って今に至る、のだ。


オレは妹が観ていたのでなんとなく知っている程度だった。そりゃ、柔道漬けの毎日だったしな。


しかし……


「あ〜コレ〜!コレ欲しかったやつ〜!ゲットだぜ〜!」


……ここまでテンションの高い大城は珍しい。

そう思っていると、何気に伊東と目があった。


プイ、とそっぽを向く伊東。


オレもアイツも気まずかった。というのも…





柔道大会で、オレは優勝した。


オール一本勝ちで、勝った。しかも決勝戦の相手は、将来の金メダル候補と言われていた。


オレは無名で、初出場・初優勝という快挙を成し遂げた。

その為、新聞にも小さくだが取り上げられて、

スポーツ雑誌にも少し載ったりした。

師匠の、伊東厳治郎先生もまた、再び注目され、次の日の道場は新規入門者で、騒ぎになっていた。

(伊東なんか、メガネを光らせて「今日はすき焼きよ〜!」などと言っていた)


それでもオレの毎日は変わらず、道場に通い、更なるレベルアップに努めた。


優勝は通過点に過ぎないからだ。コレからもオレより強い奴との闘いが待っている。


12月31日。練習後の掃除を終えて、オレは道場の縁側に座っていた。

これまでの事。

これからの事。

色々と思いを馳せていた。


そこへ伊東がやってきた。


「何してるの?」


オレは前を見たまま言った。


「伊東、ありがとう」


「ふぇっ?!な、何よ、急に?」


「オレが目標を達成して、あかねと離れなくて済んだのは、みんなのおかげだ。それにお前が先生に頼んでくれたおかげだし。だから…」


伊東はフッと笑って、

「そんな事無いよ。坂井が、頑張った結果じゃん?」


オレは精一杯の笑顔で、

「でも、やっぱりみんながいてくれたから。みんなが応援してくれたから。だから、ありがとう」


そう言って頭を下げた。


「……ふ、ふーん。そんなに感謝してくれるなら、お礼をしてくれる?」


などと言ってくる。少々面食らったが、

「オレにできる事なら」と返した。


伊東はオレを見て、

「よ、よーし。前を向いて、目を閉じて。絶対に動かないでよ?」


ちょっとドキッとしたが、言われた通りにする。


すると、いきなり横から抱きつかれ、頬に、


    チュッ♡


びっくりして動こうとしたが、


「動かないで!……そのまま。……もう少しこのままで。お願い…」


固まるオレ。


「……あーちゃんが、羨ましいなぁ。こんなに自分の事、想ってくれる人がいて」


伊東が小さく震えてるのがわかった。

突然、パッと離れて立ち上がる。


「あーちゃんには、内緒だよ?」


目に涙を浮かべていた。


オレは、しばらく呆然としていた。



…という事で、なんとも言えない気分なのだ。


「あ〜ちゃ〜ん。コレ、坂井とおそろいプレゼント〜。そんでさ〜このキャラ達はぁ〜、カップルキャラなの〜。だから2人にあげる〜」


気前いいなぁ、コイツ。


「そんで〜、しぃちゃんには〜コレ〜。この子はぁ〜、坂井にあげたキャラの事が好きな、片想いキャラなんだよ〜?」


ドキッ‼︎


はっとして大城を見ると、「じと〜」

って感じの目で、オレと伊東を交互に見ている!


そして「にまぁ〜」っと、不気味な笑顔。

……バレてる?


「だけどさぁ〜、坂井ぃ。浮気はダメだよ〜?」


ははは。わかってるよ!

……怖ええ。



それから、2月14日バレンタインデー。


オレはあかねと出かけた。もうすぐこの町ともお別れだ。2人きりで、思い出に浸っていた。

いつもの、告白した公園に着く。


「……ここともお別れだね。いっぱい遊んだけど、やっぱり寂しいね?」


「そだな。だけど、コレからは別の場所で、いっぱい思い出つくろうぜ?」


「……そうだね。それに、一郎とは、ずっと一緒だしね?」


「そうさ。それに、休みにコッチにはまた帰ってくるしさ?心配いらないよ」


「そうだね」


2人でベンチに座る。冬だからか、誰も遊んでいなかった。

2人きりの公園で、オレ達は、自然に寄り添い、そして自然に


      キスした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る