第6話 秋風

夏祭りの後。

オレは伊東道場へ再び通い始めた。


オレは伊東を通じて師匠に相談をしたのだ。


あかねと同じ高校に行きたい。だが、普通では無理。なら柔道のスポーツ推薦なら?


師匠に尽力してもらった結果、条件として11月に行われる柔道大会に、道場代表として出場し、三位以内に入ったら学校も推薦してくれる事になった!


あかねにも話した。彼女も喜んでくれた。


ココで頑張らないで、どうする?


……しかし、初日から師匠に殺されるかと思うくらい投げられた。

でも師匠は毎回、直接指導してくれた。

これは異例の事で、普通は師範代の、飯田さんが指導するからだ。

それだけ師匠も真剣に、親身になってくれていた。


絶対に諦めない。オレは心に誓っていた。


「一郎!何故部活では補欠だったかわかるか?」

そう言ってオレを投げる師匠。


「ほれ。まだまだ身体に余計な力が入っているからだ!思い出せ、骨折した時の事を」


そうだ。あの時オレは投げられまいと力んで、体勢が崩れたからだ。


「力むな。相手の襟と袖は掴んだら絶対に離すな!そして!」


サッと体が回って、オレの身体はフワッと浮いて投げられた。


受け身をとっても痛い。

正直ツラい。でも。


「心は平静にしろ。余計な事は考えるな。相手の動きを感じろ。一瞬の隙を見逃すな」


集中する。呼吸を整えて何も考えのい。聞こえない……。


フッとあかねの顔が一瞬脳裏に浮かんだ。

心まで明るく照らしてくれる笑顔が見えた。


      オレは!


どんっ! オレは師匠を投げていた。


「……は?」 間抜けな声を出していた。

師匠が頭にぽんっ、と手を置き


「……お見事。今のを忘れるな!」

にんまりと笑う師匠。


「はい!もう一本お願いします!」


離れた所で、飯田さんと伊東が見ている。


「師範代、坂井どうです?」


「アレがあの坂井君だなんて、驚いてるよ。ホントに補欠止まりだったのかい?」


「ええ、そう聞いてます。彼、強くなりそうですか?」


「……なる。間違いなく、ね」


「そうですか。だってさ!」


扉の後ろで、あかねがそっと覗いていた事にオレはとうとう気づかなかった。


こうしてオレは少しずつレベルアップしていた。

が、問題が全く無い訳ではない。

スポーツ推薦とはいえ、勉強もある程度はできなくてはいけない。なので親に頼んで(師匠も頼んでくれた)、あかねと同じ塾にも通い始めていた。

すごいレベルが高かったが、西やんにひー君、道場では伊東が勉強に付き合ってくれた

(時々大城も来てくれたが、コイツが一番厳しかった(笑))


塾ではあかねと一緒に帰りながら、色々な話をした。


とにかく目標がある事はいい事だ。

そう思う。


オレは段々とあかねの為だけでなく、自分の為にも頑張っている事に気づいた。


     だが、そんな時。


いつもの様に、道場の掃除を終えて帰ろうとケータイを見ると、着信履歴がすごい事になっていた。


     あかねだった。


慌ててケータイをかけると、あかねが、

「イッチー!今、会える?」


「ああ、大丈夫だよ?」


「公園にいるから」


オレは走って行く。そこにあかねが待っていた。


あかねはオレを見て、泣きながら飛びついてきた。


……イヤな予感。


「イッチー!」


「どうした?なんで泣いてる?何があった?」



「……わたし達、もう会えない」




秋風が冷たく吹いている。

あかねとオレは別の意味で、震えていた。

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