第5話 夏祭り


オレ達は、町のお祭りにやって来た。

小学生の頃は、毎年来ていたが、中学生になると、それぞれ来たり来なかったりしていたが、

今年は久しぶりに集まっていた。


男子組は普段着。女子組は、浴衣だった。


大城は、青い浴衣。伊東は淡い紅色。

白石は、名前の様に、白が基調の浴衣だった。


……綺麗だ。素直にそう思った。

それぞれがよく似合った色合いで、個性が出ている。

ぼーっと見とれていると、白石が、


「そんなに見ないでよ。なんか恥ずかしい…」と声が段々小さくなっていく。


伊東はひー君に、

「あれ?また惚れちゃった?」とからかっている。


大城は「苦しいよ〜動きづらいよ〜」とまぁいつもの調子だ。


じゃあ行こう、となった時に白石が転びそうになって、オレが慌てて抱き止める。


「あぶね!大丈夫か?」


「ああありがと。あぁびっくりした。下駄ってなれてないから。へへっ」


そう言ってニッコリ笑う白石。

オレはそのまま彼女の手を取って一緒に行く。


「「「「おいおい(笑)」」」」


……またもや、みんなのつぶやきに気づいていたが、無視した。

鼓動が早くなっている。


白石の顔も見られない程、ドキドキいってる。

でも手は離さない。

彼女もしっかりと握り返している。


離したくない。

その想いが強くなっていた。


小さな町の小さなお祭り。

そんなに出店の数は多くないけど、

楽しい思い出はいっぱいある。


「そういや、前は町内会でジュース、ただで配ってたっけ。あれ今は無いのかな?」


「アレね。毎年沢山用意してても、

すーぐ無くなるうえに、疲れるからやめちゃったんだって」


なんだ残念。とはいえ1人一杯まで、って言ってみんなで何回ももらってたっけ。


気づくとオレと白石は2人きりになっていた。


「……なんではぐれる?こんなにちっちゃいトコで?」

オレは周りを見回すが、あんなにデカい大城の頭すら見当たらない。


急にドキドキしてきた。


白石と2人きり……。


「……なぁ、上に行ってみないか?」


白石を上の高台に誘う。


「……うん」


ココの公園は高台があり、そこにも遊具が少しある。そこへ白石と手をつないで行く。


オレの心臓はバクバクだ。

今日ココへ来る時点でオレは決心していた。


2人でベンチに座る。

上からお祭りの灯りがきれいに見える。


「なぁ、前はよくココで遊んだっけな?」


「そうだね。坂井って鬼ごっこのジャンケン弱いからいっつも鬼だったよね!」


クスクス笑う彼女の横顔に向き直り、オレは、


「白石。オレ、お前のことが好きだ」


……言葉が続かない。


「……うん。私も坂井の事、好き…」


お互いに見つめ合う。

彼女の顔が赤くなっている。

オレも身体が熱くなっているのがわかる。


彼女が口をひらいた。

「ねぇ、イッチーって呼んでいい?」


「ならオレはあーちゃん?」


「ソコはあかねでしょ?!」


クスクス笑い合い、オレはそっと彼女の肩を抱き寄せる。

彼女はオレの肩に頭をのせる。


しばらくの間オレ達はそうしていた。


    幸せだ、とっても。



……離れた木の影に4人が隠れていることには、気づかなかった。

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