第4話 プール

「よう!久しぶりだなぁ」


オレにとっては、目の前の女子2人も3年ぶりだった。


大城は、誰よりも頭一つ分背が高かったし、伊東は相変わらず美人で、品の良さが出ている。またメガネの色はあの頃と同じ赤色だった(何のこだわりか?は教えてくれない)。


「あ〜、坂井ぃ〜久しぶり〜。大怪我したんだって〜?あーちゃんに聞いたよ〜。もういいの〜?」


……大城のゆっくりとした話し方は、変らないな。


「坂井ぃ、元気そうじゃん!あーちゃんから連絡きた時はびっくりしたよ。なんせ、あーちゃんたら、電話でギャン泣きだったからさー」


「!! しおちゃん、それ言わない約束!」


「まぁ〜いいじゃん〜?ホント、私らも心配したしさぁ〜」


白石が顔を真っ赤にしているのを横目に見ながら、オレは2人に


「悪りぃ、心配させて。オレもまだまだ修行が足りないな」


そこで伊東がニヤニヤしながら、


「…坂井さぁ、またウチの道場に来ない?

おじいちゃんが、ケガしたって聞いた時、あのアホゥ!ワシが鍛え直すゥ!ってもー、怒りモード全開でさー!あははは!」


「……オレ、死ぬよね?」


伊東の家は柔道場をやっていて、オレは小学生の頃、そこへ通っていた。

伊東のじいさん、伊東厳治郎はオリンピック出場こそなかったが、教え子の中には金メダル選手も多くいて、指導者として有名だ。

オレは部活で柔道をやろうと思ったので、やめたのだ。


伊東はメガネのつるをつまんで、

「まぁー、もしその気になったら、いつでも戻っておいでよ」と白石の方をチラリ、と見て言った。


白石はというと、ソッポを向いて拗ねていた。


「とりあえず、行こうぜ!!」


こういう時、ひー君の明るさは有難い。

オレ達はプールへと向かった。




いざプールサイドに集合した時。オレ達男子組は、黙り込んでしまった。


大城と伊東は、ワンピース水着。

伊東は赤に白い縁どりで花柄模様があしらってある。

大城は明るいグリーンで、斜めに花とアルファベットの模様があしらわれており、背も高いのでファッションモデルの様に見えた。



だが、白石は…!


「むっふっふっ。どうだ!男共!」

なんとビキニだった!

ピンク色でかなり目立った。


……顔が赤くなっているのがわかる。刺激が強すぎる。特に胸元が!


「おやぁ〜坂井ぃ?顔が赤いよぅ?」

そう言って、にじり寄ってくる白石。


「なあに?触りたいの?ホレホレ」


くっこの女!健康的な男子になんてことを!

そこで、オレはピン!と思い出した。


「…そういやお前、泳げるようになったの?」


ギクッ!

という擬音が聞こえそうなくらいわかり易い反応。

白石は、頭の後ろで手を組み、ソッポを向いて口笛を吹いていた(だから音が出てないって)


「ほぉ〜お前。まーだ泳げなかったのか」


そう言うと白石はしゃがみ込んで、地面に向かってぶつぶつ言い始めた。


「だって…。中学入って、スイミング通ったらさ、小学生ばっかでさ、お姉ちゃん泳げないの?って言われてさ、恥ずかしくて行くのやめたんだもん…」


「あ〜あ〜坂井があーちゃんいじめた〜」


「坂井ぃ。そんな悪い子になって、おねーさんは悲しいよ?」


「イッチー、ちょっとくらい欠点はあった方が可愛いとオレは思うよ?」

そう言って肩を組んでくるひー君。


「あ〜ら、誰かさんは欠点だらけの様ですケド?」


「伊東、オレの事はどうでもいいだろ?」


「はいはいそこまでそこまで。イッチー、なんとかしようね?」西やんがケンカ腰になってきたひー君と伊東を止める。


「ちょっと待ったー! みんなして好き勝手言って……はいはいオレが悪かったよ。白石、アッチで浮き輪借りてやっから、それ使えよ、な?」


「………うん」


そうして、オレは白石の手を引っ張って行った。

彼女の顔が赤いのには気づかないフリをした。


  「「「「 あーあ 」」」」


4人の呆れ声も無視した。



プールでは、潜って白石をくすぐり(ひっぱたかれた)、ウォータースライダーでは、彼女の後ろに乗って、溺れないように気をつけたり(おしり触った!とまたひっぱたかれた)、とにかく気を使った。



みんなではしゃいで笑っていると、あの頃に戻った様でオレは楽しかった。もちろん、

白石が笑っているのを見るのは、もっと嬉しかった。


帰り。

最寄駅に着くと困った事に、白石がグッタリとしている。


「あ〜あ、あーちゃんは〜変わらないねぇ〜」


「この子は昔っから体力無いよねぇー」


……しょうがねえなぁ。


「ホレ、白石。背負ってやるよ。

なぁ、こいつんチって遠いの?」


「あぁ、今はウチの近く。案内してあげるよ」


伊東のとこか…。と、オレの顔を見た伊東は、


「大丈夫、おじいちゃんに見つからないように行くから(笑)」


    心を読むな。


オレは白石をおぶって行く。

…軽い。女の子ってみんなこうなのか?


「あ〜いいな〜。私も〜西かひー君、おんぶして〜」


「「 やだ 」」


悲しそうな大城。ってお前の体格じゃあな…。


「坂井ぃ〜(笑)」


   おい。


駅前で解散したオレ達。白石は家の近くに来ると、少し回復したらしく、オレの背中から下りた。


「……ごめん」


そう言って恥ずかしそうにしている。


「じゃあまた。今度はお祭りで。な?」


こくん。

白石はうなずいて、うつむいたまま行ってしまった。


オレも家へ帰った。


夜、ケータイにショートメール。

白石だ。


「アリガト」


オレも返信した。


「ドウイタシマシテ」

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