第2話 破れた夢

オレにとって重要な日がきた。


夏大会の、レギュラー入りを決める試合が行われる日だ。


オレは最有力候補だが、ただの「候補」だ。

試合で決める。先生はそう宣言していた。


オレは他の2人に言った。


「誰になっても、恨みっこ無しだぜ?」


「イッチー、負けないぜ?」


「当然だろ?」


オレも他の2人も、気合が入っている。

……入りすぎていた。


オレの試合。

普通なら投げられて、ポイントを取られる場面でオレは投げられないように踏ん張った。


が、コレがいけなかった。

相手はそこから力任せにオレを押し倒し、体勢が変な崩れかたをしてしまい、オレの右肩に全体重が乗っかり……。




右鎖骨骨折

全治2ヶ月

ただし、その後1ヶ月は様子見で運動禁止。


 終わった。自分が情けなかった。


小学生の頃、柔道場に通っていたから、レギュラーなんてすぐだろうと思い上がっていた。

しかし、実態はコレだ。



 その日の夜。声を殺して泣いた。



ギプスで右肩から腕までを完全に固定。2週間はこのまま。困った事にオレの利き手は右だから、ノートが書けない。


そこで白石が「なら、私が書いてあげるよ」と引き受けてくれた。


「白石、ありがとな」


「気にしない。仲良しでしょ?あ、あとお弁当も食べさせてあげよか?あーん、て(笑)」


流石にそれは遠慮した。ちょっと恥ずかしい。


柔道部の方は、オレを投げた奴がレギュラー入りに決定。

何度もオレに謝ったがオレは

「気にすんな。謝らないで、試合で結果出してくれ」と励ました。


クラスメイトもまた、オレを慰めてくれた。


西やんとひー君も、事の次第を聞いてオレのところに慰めに来てくれた。

西やんは、生徒会長として柔道部の顧問の所にまでいって、事情を聞いていた(顧問曰く、警察の事情聴取の様だった、そうな)。


そこで初めて白石がいる事にも気づいた2人。

白石の変わり様に、オレと同じように驚いていた。


白石は「ギプスって重そー。あ、触ると痛いか。ごめんごめん。暑くない?あおいであげよっか?」とこんな感じだった。


軽い物言いで、明るく振る舞う白石の心遣いが、嬉しかった。



次の日。

白石がノートをくれた。だけど、それはコピーなどではなく、なんとルーズリーフに書かれていた。しかも独自の注釈と、色付きで、とてもわかりやすく書いてあった。


すごい。

白石の頭がいいのは知っていたつもりだったが、ここまでわかりやすくノートをとるなんて、ホントにすごい。


「へへっ。一応簡単な注釈つけといたよ?」


腕を組んで、胸をそらし、ムフーッと鼻息をならしている。


「白石。おまえ、見かけによらないのな?」


ズッコける白石。


「もう!書いてやんないぞ!?」


「ごめん。でも、こんなにわかりやすい書き方、すげー時間かかるだろ?コピーで良いのに」


「ソコは大丈夫。自分の勉強にもなるし」


「……ありがとう」


「ふふん。惚れた?」


「ああ」 オレはさらっと言った。


白石の顔が真っ赤になる。


「ああああ! あのね!冗談だからね?わかってる?」


オレは聞こえないフリをして真面目な顔で、もう一度言った。


「ありがとう」


彼女は顔を赤くしながらも、いつもの明るい笑顔で応えてくれた。


「どういたしまして」

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