6ページ
辺りはすっかり暗くなり、月明かりが道を照らす。別れ際、前田君が「名前で呼び合おう」と提案した。
「そうだね、ゆうき」
私は頷いた。
「これからもよろしく、美央(みお)」
前田君は笑顔のまま背を向けた。私はその背中が見えなくなるまで手を振り続けた。
美央。
前田君が好きのは姉だった。私ではなく姉だった。聞き間違いかと思ったが、あの鮮明な声を疑うことはやっぱりできなかった。
私の目には涙。ひとつまたひとつと涙があふれる。止めようとしても止まらない。心が苦しい。とてもとても……。
前田君に見えていたのは姉の姿。その目に私は映ることができなかった。
でも。
でも楽しかった。一日だけだけど楽しかった。大好きな前田君と一緒の時間を過ごせて楽しかった。
楽しかった……。なのに……。なのに……。涙が止まらない。
姉の待つ家に帰らなければならない。嫌だった。姉が悪いわけでもない。前田君が悪いわけでもない。多分、私も……。誰も悪くない。
私の足は自宅の玄関前で動かなくなってしまった。
「み、美花、おかえり」
その時姉がちょうど玄関を開けた。
「お姉ちゃんのバカっ!」
涙を隠すため私は姉を振り払い、ひとり部屋へと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます