第4話 連絡先を交換したい!

「そういえば、まだ楓とLINE交換してなかったっけ」

「そういえば、そうでしたね」


楓と叶香は互いにスマホを取り出すと、LINEを開く。


「はいっ!」


叶香の掛け声と共に、QRコードが読み込まれてLINEの交換が完了する。

楓は転校して初めてとなる、LINEの交換に浮かれており、さっそく叶香のアカウントを確認する。

叶香とシンプルな名前の、バスケットボールのアイコンをしたのがそうだ。


「バスケットボール……。叶香って、バスケが好きなんですか?」

「もちろん。部活だってバスケ部に入ってるしね。そういう楓は何か部活に入る予定とかあるの?」

「わ、私ですか? 私は……」


楓は章人が何の部活に入っているのか気になり、自然と目線が章人に向いていた。

それを察した叶香は、ニヤケ面を浮かべて楓をからかう。


「章人なら今はどこにも入ってないよ」

「そうなんですか。……って、どうしてアヤ君の話に!?」


楓はどうしてバレたと慌てふためく。

その慌てようと、楓の「アヤ君」呼びに叶香はますますと笑みを浮かべる。


「ふ~ん、アヤ君ね?」

「わ、わわわ忘れてくださいっ!」


楓は恥ずかしさのあまり、かあぁぁぁっと顔を赤くする。


そこへ、まるで小動物のようなに小柄でおっとりとした少女の、桐野智仍きりの ちよがやって来る。


「君が噂の転校生ちゃんか。なるほど、確かに美人さんだ。叶香が言うだけある」

「でしょっ!?」


と、リアクションする叶香。

当の楓は二人に誉めちぎられ、照れが顔に出てしまう。


「か、可愛いだなんて、そんな……っ!」

「そう謙遜するな。私は桐野智仍、叶香からはチョコなんて呼ばれてる。これからよろしく頼む」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」


楓と握手を交わすと、智仍はポケットからスマホを取り出す。


「そうだ、次いでにLINEも交換してしまおう。ちなみに、私は猫のアイコンだぞ」

「……あっ、出てきました。綺麗な毛並みの猫ちゃんですね!」

「ふふん、驚くなよ。実は元野良猫なんだ」


智仍のカミングアウトに、楓と叶香はまんまと驚く。


「そうなんですか!? てっきり、元から飼い猫だと」

「えっ! 野良猫だったの!?」


前にこの事を教えてあるはずの、叶香まで驚いていることに智仍は思わず「おいおい」ツッコミをいれる。


楓と叶香の中に智仍も加わり、より賑やかとなった。





会話が弾み、盛り上がっている最中。

楓は用があるわけでもないのにLINEを開き、目は別の方を向いていた。

その目線の先には章人がおり、楓はLINEを交換したくてモジモジしていたのである。


それにいち早く気付いた叶香は、はは~んと楓を見る。

楓が章人にLINEを交換しにいこうか迷っていると、その前に智仍が行動に出る。


「あっ……そういえば、章人君とLINE交換するの忘れてたぞ。いかんいかん、私としたことが」


智仍は章人と同じ委員会であり、連絡事項とかを伝えるためにLINEを交換しようとしたのだが、充電がなく、電源が切れていて出来なかったことを思い出したのだ。


それを知らない楓は、困惑してポトッとスマホを机に落とす。

この状況に、これからどうなってしまうのだろうかと叶香は昼ドラを見る感覚で、二人を見守ることにした。


「なあ、章人君。LINEを交換しようじゃないか」

「ああ、構わないぞ」


章人はとくに嫌がることなくすんなりと受け入れ、スマホを取り出す。

QRコードの読み取りでLINEを交換するため、二人の距離は必然と近くなる。


目の前でそんな事を見せられ、楓は嫉妬心からモヤモヤして、むすっと不服そうな表情になる。


「私だって、まだ交換してないのに……」


と、楓は嫉妬半分、羨ましさ半分で章人を見ている。

そんなを知るはずもない二人は、アイコンの話題になる。


「へえ、以外と可愛いアイコンしてるんだな」

「以外ってなんだ、以外って」

「てっきり、合コンの記念写真にでもしてるのかと思ってたぞ」

「お前の中の俺はどうなってんだよ」


どことなく楽しそうに話す章人を見て、楓は心が締め付けられるような気持ちになる。

それと同時に、ズルいと智仍にヤキモチを抱いて、楓はムムムゥと頬を膨らませた。





結局、楓は章人とLINEを交換することが出来ないまま放課後を迎えてしまっていた。

はぁ……っと、楓がため息をついて帰ろうとした所、章人に呼び止められる。


「小波、ちょっといいか」

「あ、アヤ君。どうしたんですか?」


楓は立ち止まり、変じゃないよねと章人を意識して髪の毛を手でいじって整える。


すると、章人は少し照れ臭そうに顔を反らし、スマホを差し出す。


「お前のLINE、教えてくれないか? その、なんだ。連絡とか取ったりするのに合った方が便利だろ」

「……」


楓は嬉しさのあまり、声が詰まってしまう。


「小波?」

「……はいっ! LINE、交換しましょう!」


そう楓は元気よく答えると、章人と念願のLINEを交換したのだった。

(あっ、アヤ君のアイコン。柴犬なんだ)


というのもつかの間、二人は恥ずかしくなってお互いに黙ってしまう。

そこへ、叶香が廊下から楓に声を掛ける。


「楓、帰るぞー」

「は、はい。ちょっと待ってくださーい! それじゃ、アヤ君。また明日」

「ああ、また明日な」


楓は手を振ると、叶香と智仍の元へ走っていった。





俺は家に帰ると、リビングのソファに横たわって、ついさっき交換したばかりの小波のLINEを眺める。

どういうわけか、見れば見るほど気持ちが高揚して嬉しくなり、自然と顔がニヤけてしまう。


そこへ、たまたま通り掛かった風呂上がりの妹、凪沙なぎさが反抗期特有の罵声を浴びせてくる。


「何ニヤニヤしてんの。キモいんだけど」


凪沙の言葉がグサッと胸に刺ささる。


「キモいって、酷い言いようだな」


俺は表面上は余裕を装うものの、内面はへこんでしまうのだった。





水色のパジャマ姿である楓はベットにうつ伏せになり、ウキウキな様子で足をバタつかせている。

手元にはLINEの画面が映し出されたスマホがある。

そこにある章人のアカウントを目にしては、楓の顔は自然とニヤニヤしてしまい、枕に顔を埋もれさせて悶絶するのだった。

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