第3話 何気ない会話
あれから自宅に帰り、風呂を上がったあと、俺は自室のベットに横たわっていた。
ぼーっと、天井を眺める。
「私をお嫁さんにしてください!」
あの時言った、小波の言葉が頭から離れないでいる。
それを思い返すと、どうもソワソワして落ち着かない。
気分転換をしようと、俺はスマホの電源を入れてライブ動画を再生する。
チャンネルは今朝、イヤホンで聞いていた配信者であるVtuberの此方こよりだ。
配信内容は歌枠であり、丁度、歌を歌っている最中だった。
スッキリとした透き通った声に、洗礼された声質。
そして、プロと互角にやりあえる程の歌唱力。
その全てが合わさったこよりの歌声は、俺にとってこの上ないほど心地よかった。
のだが、どうも違和感を感じる。
気のせいと思っていたが、聴けば聞くほど違和感が強調されていく。
それは、こよりの声と小波の声が似ているといった所だ。
それに、小波の見せた五百万の大金。もしそれを配信業で稼いだというなら、二百万人という登録者を誇る此方こよりであれば辻褄は合う。
そんな想像をしては、「まさかな」と俺は馬鹿らしくなって考えるのをやめた。
だが、依然としてこよりの声が小波に聞こえているままだ。
「君が好きで好きで、堪らないっ☆」
そんな中、サビの部分でこのようなフレーズが入り、俺は小波に言われるのを想像して思わずむせてしまうのだった。
翌朝の学校。
俺は普段通りイヤホンを付け、音楽を流していた。
すると、肩をトントンと叩かれ、顔をあげると小波の姿があった。
目が合うと小波はニコッと笑みを浮かべる。
「おはようございます。アヤ君」
「小波か。おはよう」
小波が近寄ると、華やかで甘いフローラの香りがする。
「音楽を聞いてたんですか?」
「ああ。今、聞いてるのはポラリスのハルジオンだな」
ポラリスは最近、俺が注目している女性アイドルグループだ。
その中でも、ハルジオンは特に気に入っている曲で、『追憶の愛』をテーマとしたものだ。
「いいですよね、ポラリス! 私も好きで良く歌います」
「へえ、小波も歌が好きなのか。じゃあ、カラオケとかよく行くのか?」
「はい」
小波も歌うのが好きだというのは知らなかった。
こうして小波の好きなことを知れたのが、何故か嬉しいと感じる。
もっと、小波がどんな歌を歌い、どんな歌が好きなのか知りたくなり、カラオケに誘ってみるのはどうだろうかと考える。
「なら、小波が良ければなんだが、いつか一緒にカラオケにでも行ってみるか?」
「いいですね! 行きましょう、カラオケ!」
小波はパアアアァっと目を輝かせ、ワクワクと胸を踊らせている。
カラオケは小波と二人で行く分なら問題ない。
ただ、合コンや大勢でやるというのが苦手なだけだ。
それに、此方こよりの疑惑も小波がカラオケで歌えば、その歌う癖などから真偽がハッキリと分かるだろう。
美奈子先生が教室に入ってきたことにより、小波は机から離れる。
「では、詳しいことは後程」
そう小波が席に戻ると、背後から正司のニヤケ面が浮かぶ声が聞こえる。
「やるなぁ、章人。転校して翌日には既に手を出してるとは、お前も隅にはおけないな」
正司は俺の肩に腕をグイグイと回した。
「お前と一緒にするなっての」
「で、どうやって仲良くなったんだ? お前からか、それとも楓ちゃんか?」
興味津々な様子で、正司はうざったらしく絡んでくる。
だが、俺は小波との関係を正司に教えるつもりはない。
「断る」
「おいおい、親友だろ? そんな固いこと言うなよ~」
口の軽い正司のことだ。うっかり言い触らしてしまい、それが校内の周知の事実となったら俺はともかく、小波は困るかもしれないためだ。
正司は諦めが悪く、俺にしつこく迫ってくるがスルーに徹する。
そんな時、ふと小波の方へ目をやった。
小波はこちらに気付くと、ニッコリとスマイルを浮かべたのだった。
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