変わった世界で

第7話 変わった世界と変わった俊の日常

 世に氾濫現象が起こってから3年が過ぎた頃、社会はある程度の復興を見せていた。


「安いよ安いよー!今朝捌きたてのオーク肉だよー!」


「毎度!はいコレ!短剣ね。ああ、おまけの研磨剤も1瓶付けとくよ!」


「いらっしゃいいらしゃーい!S&S社の製品が今なら1割引き!1割引きだよー!この機会に良い武器は如何かねー」


 だがその復興を見せている社会は以前の通りという訳ではなく、違う所も多々見受けられた。


 その原因は・・・ホールと魔物にあった。


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 20xx年x月x日、政府は事態の収束を告げると国家再建事業へと乗り出した。

 しかしそれには様々な困難が待ち受けていた。

 それは一部の覚醒者らによる犯罪行為だったり、魔物によりズタボロになったインフラだったり、氾濫現象により損失した技術者達や物資だったりと様々だったが、一番の大きな問題はホールと魔物にあった。


 一度は殆ど駆除できていた筈の魔物が・・・時間が経つにつれ再びホールから溢れ出して来たのだ。


『悪夢の再来だ!』


 人々は再び恐慌状態に陥りかけた。

 だが再び起こった氾濫は先の氾濫現象程の規模にはならず、恐慌が引き起こされる事はなんとか未遂におわった。

 しかし人々はこう思った・・・


『このままホールを放置しておけば、再び氾濫が起こるのでは?』と。


 最悪な事にその推察は正解だった様で、辛うじて繋がっていた他国との通信では国内各地で小規模の氾濫現象が起き続けているとの報告が上がっていた。

 政府内に作られた対策チームはこれを受け『ホールを放置しておくと、内部の魔物の個体数が飽和し外へ溢れ出るのだろう』と結論付け、急遽全国の復興優先度を変更し、氾濫現象への対策を打ち出した。


 こうして社会は最初の氾濫現象以前の姿とは変わらざるを得ず、復興しつつある姿はホールと魔物、そして覚醒者らの事を組み込んだ社会へと変化していった。


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 そんな変化を起こした社会の中で、俊の生活も変化を迎えていた。


「お疲れ~先生。ほい、今日の報酬」


「お疲れ~。あ、ありがとう」


「またよろしくな先生。俺等大体あの時間帯で潜ってるからさ」


「こっちこそよろしく。また機会があったら声を掛けて」


 俊も覚醒し、ホールへと潜る覚醒者・・・冒険者になっていたのだ。

 更に・・・


(ふぅ・・・とと、今日は病院の仕事もあったんだ。急いで準備しなきゃな)


 俊は医師になっていた。

 勿論、本来ならばそこまで早く医師になる事は出来ない。氾濫現象当時未だ大学の3年生だった俊なので猶更に。

 しかしこれには少し社会の事情が絡んでくる。その事情というのは氾濫現象により、死者と怪我人が増えすぎた事にある。

 もう少し詳しく説明すると、怪我人が増えたことによりそこに対処できるものを増員せねばならぬのに、死者には医者も多数含まれていた。そうでなくとも以前より『医者不足だ』と騒がれていたのに、氾濫現象以降はそれに輪を掛けて医者の数が減少してしまったものだから政府は少し医師となれる基準を変更せざるを得なかったのだ。

 そしてその基準の変更点だが、特に大きなものがあった。


(うっ・・・遅刻ギリギリだなぁ。早く着替えて・・・)


「おはよう俊」


「あ、おはようございます石山さん。今日の分のは使い切ったんですか?」


 医師と成れる速さの変更も相当なモノだが、それよりも大きかったのが『回復系の能力を持つモノは、希望するならば面接と簡単なテストの後医師免許を取得できる』というものだった。


「ああ、今日は重傷者が多くてすっからかんさ。だから後は頼んだよ」


「ええ。でも本当に不味い時はお願いしますね」


 今俊と話している石山という男もで、彼の手に掛かれば腕が千切れていようとも、物さえあれば数分後には問題なく動かせるまでに回復させる事が出来るのだ。


「まぁ・・・本当に不味い時はね。でもなるべくなら魔力回復薬は飲みたくないんだよね。あれ、不味いから。でも不味い時は不味い薬を飲んで頑張らなきゃね・・・ってね」


 勿論それは無制限と言う訳でもなく、『魔力』と呼ばれる覚醒者特有の力がある限りだったが。

 しかしそれもホールから稀に手に入ったり『錬金術師』と呼ばれる業を得た者達が作り出す魔力回復薬があれば回復は出来たりする。石山が言う様に味はお察しで服用の制限もあったりはするが。


「あ・・・あはは。あっ!すいません!遅れそうなんで俺はこれで!」


 そんな回復系覚醒者石山と話していた俊だが、そういえば自分が遅刻ギリギリだという事を思い出したので話を打ち切り、先を急ぐ事にした。

 石山へと別れの挨拶を掛けると俊はロッカールームへと急ぎ、着替え終わると『報告室』と呼ばれる場所へと向かう。


「おはようございます!」


「おはようございます遠山先生。さて、全員揃った様なので報告を開始します。錬金術師会より新たな薬品が届けられました。これは石熱病に効果のある・・・・」


 氾濫現象以前だとそんな場所もないし、仕事の初めにそんな場所へ行く事もないのだが、氾濫現象以降未知の病が多数確認された為、仕事が始まると先ずは報告室にて色々な情報を受け取る所から始まる事になっていた。


「以上で本日の報告は終了となります。それでは今日もよろしくお願いします」


 それが終わると科に別れミーティングとなる。俊も自分の担当する外科へと行き、引継ぎなどを受け取る。

 そしてそれが終わると、いよいよ仕事開始だ。


「遠山先生!早速お願いします!30代男性、腕、足複数個所の骨折、裂傷です!」


「解りました!」


 俊が担当する外科は、氾濫現象以前よりも断然に忙しくなっていた。その原因は多々あるのだが、一番大きいのは魔物がいるからであろう。


「・・・魔物による怪我と。毒はなしと。交戦場所はホール内で、ホールのタイプは洞窟と・・・」


 ホールに潜る冒険者がいるのなら、勿論そこで怪我を負って来る者もいるという事だ。


「それでは処置を開始します」


 こうして俊は何時もの如く医師としての仕事を始めた。

 冒険者と医師の2足の草鞋を履くのは中々に大変だったが、希望を持ち働いている俊の心身は健康そのもので、寧ろ本人はもっと働きたい・・・いや、ホールに潜りたいと思っていた。

 それは全て彼の妹、遠山亮子の事があるからだった。


(ふぅ・・・漸く終わった。さてと・・・亮子の様子を見に行こうかな)


 覚醒者の力により亮子が目を覚ましたという訳ではないのだが、こんな世の中だ。何時か彼女が回復する薬、若しくは覚醒者が現れるだろうとの希望があったからだ。

 現に外国の話ではあるが、ホールから見つかった品物により亮子と同じ様な状態から目を覚ましたとの事例もあったので、俊は前向きに生きる事が出来ていた。


「亮子~。来たぞ~」


 何時もの様に俊は声を掛けながら亮子の病室へと足を踏み入れる。勿論返事は帰って来ず、『・・・ヴヴヴ』という機械音しか聞こえないが、それでも俊は日課の様にそうやって挨拶をしながら入るのだ。


 ・・・いつの日か、『いらっしゃいお兄ちゃん』と返事が返って来る事を夢見ながら。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。・・・思ったよりススマナイ。

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