第5話 崩壊が始まった日

『・・・ウゥゥゥ・・・ピーポーピーポー・・・』


「最近多いな・・・」


 大きな野犬に襲われた日から数日経ったなんでもない日、俊はふと聞こえて来たサイレンに着いてポツリと呟いた。

 あの日から俊自体には何もなかったのだが、どうやら野犬が多数出没しているのか、昼夜問わずパトカーと救急車のサイレンが聞こえてくる日が増えていた。


「こんな都会・・・とは言えないけど街中なのになぁ・・・」


 俊の住む地域は山が近くに無く、野犬が潜むような荒れた地帯等も無い。それなのに何処に潜んでいるのだろうと俊は不思議に思うが、そんな事は俊の考える事ではなく警察や保健所の考える事だ。

 なので俊は今日も大学へと向かうのだが・・・


 ・

 ・

 ・


「え?臨時休校?」


 俊が大学へ着くと門の所で守衛に止められそう言われてしまった。

 一体どういう事なのかと守衛に尋ねると、守衛は不思議そうな顔で尋ね返してくる。


「ええ。というか、連絡貰っていないんですか?」


「貰ってないと・・・ってすいません!貰ってました!」


「だよね?今時携帯持ってない人も珍しいし」


 俊が携帯を見ると気づいていなかっただけで連絡が入っており、確かに『臨時休校になりました。生徒各位に・・・ウンヌン・・・』となっていた。

 俊は守衛へと頭を下げた後そのまま帰ろうとしたのだが、折角時間が空いたことだし横にある病院へと向かう事にした。


「・・・む」


 そして病院は普通に開いていたのだが、何故か面会時間がいつもより短くなっており、普通は18時までいける所が15時で終了となっていた。だが俊は元よりそこまで遅くいる事が無いため、そこまで不満もなく病室へと向かう。


「けど何で病院まで?やっぱり最近のあれと関係あるのかな?あ、すいません」


 しかし不思議には思うため偶々通った看護師の人に理由を尋ねてみる。しかし看護師の人も急に聞いたのだと言い、詳しい事情を知らないとの事だった。


「あ~・・・はい。ありがとうございました」


 もしそれで妹に影響が出て来るなら問題だが、そうでもなさそうなので俊はそれ以上は聞かないことにした。というのも、その急なお達しの所為なのか看護師の人も忙しそうに動いているからだった。


「・・・病室行くか」


 ・

 ・

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 その後、俊は病室に着くと何時もよりのんびりと妹の様子を見て過ごした。


「今日は珍しく何も無いから、何時もよりいるからな?」


 普段だとバイトや勉強だと忙しいのだが、急な休校やバイトが今日は休みだったりで時間があったからだ。

 そうなると、先程は不満が無いと思っていた面会時間の縮小にも少し不満が出て来る。


「ついてないなぁ。けど文句言ってもしょうがないし・・・」


 言っても仕方ないと思いつつも俊は呟き続けたが、その内『愚痴を言っている暇があるのならば、その分亮子に話かけよう』と思い直した。

 しかしその前に、愚痴を呟き続けたからか喉が渇いていたので何か飲むことに決める。


「亮子、ちょっと俺売店言って来るな」


 俊は立ち上がりながら妹へと声を掛け、飲み物を買うために病室を出て売店へと向かった。


「・・・やっぱこれかな。後、パンでも買っていこうかな」


 売店へ着くと何時も飲んでいるお茶を見つけたのでそれをとり、ついでにお昼ご飯としてパンを数個選び会計を済ます。


 そしてそれらを受け取り、病室に戻ろうとしたその時・・・


『・・・ピンポーン!ピンポーン!・・・』


「・・・ん?」


 院内アナウンスが流れる音がした。

 普通だと気にも留めないのだが、俊はその時何かおかしい気がして首を傾げてしまう。

 だがそれは考えるまでも無く、理由が解ってしまった。


『お知らせいたします。現在、市内にて危険生物が徘徊しているとの連絡を受けました。来院しております皆様、大変ご不便かと思いますが、病院の外に出ず中に留まって頂く様お願いします。追ってお知らせが入り次第連絡させていただきますので、なにとぞご協力をお願いいたします』


 そんなアナウンスが流れたからだ。


「あ、そう言う事か・・・」


 これを聞き、俊は理解した。何かおかしいと思ったのは通常のピンポン音ではなく、緊急事態を知らせる為に変えられていたピンポン音だったからの様だ。


「・・・って、のんびり『そうか』って言ってる場合じゃないか?でも病院内に居れば取りあえずは安全か?」


 俊はハッとして色々考え始めたのだが、取りあえずはアナウンス通り病院内に居れば安全だと考え一安心した。

 しかしそれはそれとして情報が欲しかったので、携帯電話・・・スマホを使い情報を収拾すべく、スマホが使えるエリアへと移動する事にした。


「・・・って、混んでるなぁ」


 スマホが使えるエリアは幾つかあるのだが、ついでに買ったパンを食べてしまおうと俊は食堂へと移動した。しかしみんな考えている事は同じだったのか、食堂は込み合っていた。

 俊は何とか座れる席を確保するとそこへと腰を下ろし、パンを食べながらスマホを使い始めた。


(・・・えぇっと・・・危険生物?猛獣?取りあえずその辺のワードを・・・あ、そういえば最近の・・・)


 院内アナウンスで流れたワードを検索に掛けていこうとしたところで、俊の脳内には最近あった出来事が幾つか思い出された。


(実習の検体・・・道での事件・・・帰り道に追って来た動物・・・)


 それらの事を思い出しながら俊は『もしかしてアナウンスにあった危険生物とやらが関係しているのでは?』なんて推測を建ててしまう。あながち間違いではないだろうと考えながら、俊は途中で止めてしまっていたスマホの操作を再開させネットで情報を拾っていく。


「・・・ん~?」


 しかしネットに出て来たのは『通り魔?いや、怪獣だ!』『現代の切り裂きジャックか!?』等の変な記事だったり、『外出規制中に外でたった件』『外みたら虎がいた』等のどうでもよかったり明らかに嘘の情報を発信している動画だった。


(ま、ネットだしな。それにまだ情報が出回るのには早いか)


 情報の伝達が早い情報化社会だが、その分デマや嘘も溢れているし、そもそもがアナウンスがされて未だ5分くらいだ。真面な情報がまだ出そろっていないのだろう。俊はそんな事を思いながらスマホの操作を続ける。


(合成雑・・・これは無駄に画力が高いけどなんてモンスター・・・これとこれなんかご当地の情報盛り込んでるから全く逆の性質じゃん・・・ん?)


 そんな中、俊はある事に気付いた。

 それは情報を収集する中で、様なのだ。


(全国で?そんなことあるのか?もしかしたら『危険生物が徘徊してるから外に出るな』ってやつもなのか?)


 全国各地で目撃情報・痕跡等を見たというのは、普通ではあまり考えられない。ウィルス性の病気だったり怪談話の妖怪だったならば全国で広がっているのは解るが、|危険と断定されているのだ。流石に全国各地で一斉に話題に上がるのはおかしいだろう。

 俊はそう考え、もう一度ネットの情報を見ていく。


(犬っぽいのにこっちはデカい鼠?鬼なんてのも?共通点は特にないんだな?)


 だがそれらの情報に規則性なども無く、調べたところであまり意味はなさそうだった。なのでそれよりかは、自分のいる地域の事を限定で調べていく方が良いだろう。

 俊はネットを検索するワードに自分の住んでいる地域を入れたり、住んでいる市町村の公式サイトを調べていく。


「・・・ん?」


 そんな事をしている内、俊は少し外が騒がしい事に気が付いた。


「「「・・・?」」」


 周りに座っている人も何人かは気づいたらしく、キョロキョロと辺りを見回していた。

 俊は自分だけ聞こえていたのではないと安心したが、それは逆に言えば証拠であると理解してしまい、血の気が引いてしまっていた。もし本当に危険生物・・・大型の野犬や凶暴な猪なんかがすぐ外に居たのなら、大勢の人が居たとしても十分危険だからだ。寧ろ、大勢の人が居た方がパニックになる分危険かもしれない。

 そう考えた俊は立ち上がり、そして妹がいる病室へと向かう事にした。自分の身の危険も心配だったが、彼女の事も心配だったからだ。


(もし病院内にまで入って来てしまったら万が一があるかもだし、亮子の病室に行ってしっかり扉を閉めておかないと・・・)


 俊は食堂から目立たぬ様退出すると、妹が眠る病室へと向かう。食堂からは少し距離がある為、出来るだけ急いで、だ。

 大股でせかせかと足を素早く動かし、ギリギリ歩いていると言い訳できる状態で移動し、後階段を2階分上がると到着という所まで来た、その時だった。


「・・・っ!?地震!?」


 足元・・・いや、建物が揺れていた。そこまでの震度ではなさそうだが、はっきりと揺れているとは解るほどの規模でだ。


「・・・っく」


 そうなると流石に移動し続けるのは危険なので、俊は一旦立ち止まり何もない壁の様へと身を寄せた。

 そうして暫く耐えていると揺れは徐々に治まりを見せたので、俊はホッとしながら目的の場所への移動を再開させた。


 いや、しようと思ったところで立ち止まってしまった。


『・・・キャー・・・』


 ・・・悲鳴が聞こえたからだ。


「っ!?・・・外か!?」


 窓が近かった事もあり、俊は窓へと近づき外を見やる。もし先程の地震で怪我をしていそうならば連絡をしたり助けに行くためだ。

 そんな、『妹が心配とはいえ、見える範囲で怪我をしているのならば助けるべきだ』という俊の善良な心から取った行動だったが・・・それは結果的には彼命を救う行動となった。


「どこだ・・・?あ、あれか・・・っ!?」


 3階の窓から外を見やり、悲鳴の主を探しているとそれらしき人物を発見する。が、しかし・・・その人物はすでに事切れている様子だった。

 何故なら、その人物は黒く大きな動物に首や胴体をむさぼられているにもかかわらず、ピクリとも動いていなかったからだ。


「・・・な・・・えぇ・・・?」


 俊はそれを見て足の力が抜け、地面へとへたり込んでしまう。・・・これが良かったのだろう。


「グルァ『ガシャーン!』ァァァ・・・『ドグボッ!!』」


「・・・は?」


 何時の間にか後ろから走って来ていた黒く大きな動物に飛びかかられていたのだが、俊が急に体の位置を下げたので俊の上を通過、そのまま窓ガラスを突き破り下へと落ちて行ったのだ。


「・・・え?え?え?」


 この出来事に俊の頭はパニックを起こしてしまう。なんせ悲鳴の元を見に行かなかったりへたり込まなければ、何時の間にか居た動物に危害を加えられただろう・・・そんな出来事が起こったのだ。


「・・・う・・・うあ・・・うわぁっぁあああ!?!?」


 そんな事実を徐々に飲み込むと、俊はより一層パニックを起こしてしまい恐慌状態に陥ってしまった。


「あぁっぁあああ?あぁぁああ!?!?」


 抜けていた腰の調子が戻ると俊はすぐさま立ち上がり、その恐慌状態のまま行動を開始してしまう。


 彼はわけもわからずパニクった頭のまま行動してしまい、次に正気を取り戻した時には・・・


 世界は地獄に・・・いや、崩壊していた。


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