第3話 徐々に変わる日常
実習に来た学生達は当然と言っていいのか、遺体自体は見たことがある。
しかしそんな学生達でも、皆が皆喉に何かがせりあがって来た感覚を感じていた。
(うっ・・・なんだこの遺体・・・バラバラじゃないか・・・それに所々欠損している・・・何があればこんな事に・・・)
それは勿論俊も同じくだったが、彼はその遺体から目をそらさずに観察する事が出来ていた。
(欠損跡がおかしい・・・何かに強引に千切られたような跡だ。・・・え?歯型かこれ?)
そうして観察を続けていた時、教授や警察関係者から軽い説明が入った。
それによると若い年齢の女性、死因は出血性のショック死、体は死んだ後にバラバラになったと思われるとの事。
こうして説明が入った後、いよいよ検死が始まった。
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「はぁ・・・きつかった・・・ただいまぁ・・・」
実習が終わり家に帰って来た俊は、へとへとになりながらも仏壇の前へ行き手を合わせた。
「・・・」
暫くそうしていたが、挨拶が終わったのか仏壇の前から離れ、俊は夕飯の用意を始める。
買い置きしてあった野菜類と肉を軽く炒めて味付けをした後皿に盛り、朝に炊いていったご飯を茶碗に盛り付ければ完成だ。
「いただきます」
学校へと入りたての時は実習の後など箸が進まなかったものだが、今では慣れたモノで・・・俊はガツガツとご飯を口へとかき込む。
そして夕食を終わらせると自室へと戻り、机の上にレポート用紙を広げた。
「ん~・・・」
書く内容は勿論、本日の実習についてだ。俊は実習の時の事を思い出し、レポートにまとめ始めた。
「・・・しかし不思議だよな・・・こんな事も書けだなんて・・・」
俊はレポートを書きながら、わざわざ書けと言われた内容について首を傾げていた。
それもその筈、その書けと言われた内容とは・・・
「どんな動物が被害者を襲ったのか現実には居ない動物を例にして書き記せ、だなんて・・・俺達は医者の卵であって作家ではないんだけどなぁ・・・」
書けと言われた内容は自分達が書くべき事なのかと疑うような内容だった。確かに色々な事を特定する為に、被害者を襲ったモノを特定する事は重要な事だ。
しかしだ、何故『現実に居ない動物』なのだろうか?そんな事を書いても意味がないのではないか?そう俊は思った。
「まぁ書けと言われたら書くけどさぁ・・・」
だがそう指定されているなら無理やりにでも書くしかない。そう思った俊は頭を捻らせながらそれを書いていく。
「えーっとそうだなぁ・・・千切れた個所があるという事は人を掴めるような手を有している・・・・欠損に歯型の様なモノが見られたことから・・・」
違う違うだの言いながら書き進め、漸く書きあがった時にはもう寝なくてはいけない時間だった。
何とか出来たとため息を吐いて、最後にレポートのチェックをした時俊は吹き出してしまった。
「・・・っぷ。俺って実は作家の才能もあったのかも」
俊が吹き出してしまったのは先程の妙な指示のあった個所だった。なにせ・・・
「狼人間って・・・いや、サイズ的には小さいから、ファンタジー小説に出て来るコボルトって感じか?・・・ちょっと修正しとこ」
最終的に書きあがったのが、ファンタジー小説に出て来るような存在だったからだ。
俊は少し笑いつつもレポートには真面目な文面で書き記し、全て書き終えると誤字が無いか、明らかな矛盾が無いか等をチェックしていく。
「うん、大丈夫だな。・・・いや、大丈夫なのかこれ?」
改めて読んでみると明らかにファンタジー小説の設定か何かの様なそれを、本当にレポートとして出していいのかという考えが俊の頭の中によぎってしまう。
しかしレポートを書く時の指定を守った末の内容なので、『自分は悪くない』と、俊はそれ以上考える事を止めレポートをクリアケースへと仕舞った。
「・・・ふぅ。終わりだ終わり。駄目だったら抗議でもして待ってもらおう」
既にねる時間が来ていた為、俊はレポートを仕舞い終えるとさっさとベッドへと寝転び寝る体勢へと入り、そのまま夢の中へと旅立った。
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翌朝、いつも通り起きて準備を整えた俊は大学へと登校し、昼の講義にて昨日のレポートを提出した。
その際教授がパラパラっと内容を確認していたのだが、特に何も言われなかった事で『あれでよかったんだ』と俊はホッとし、そのまま残りの講義を受け大学を終えた。
そして大学が終わると実習も入っていないのでバイトへと出かける。
「おはようございます」
「おはよう遠山君」
今日は時間もなかったので病院に寄る事はせずそのままバイト先へ行き、前のシフトの人に挨拶をし仕事へと入る。
そして何事もなくそのまま日付が変わる時間近くまで働き、バイトを終えた。
「お疲れ様でした~」
「お疲れ様~」
冷蔵庫の残りの食材が怪しかった為、帰る前に購入した弁当を自転車の籠に入れ、それがグチャグチャにならない様気をつけながら家路に着く。・・・街灯がまばらなため気を抜くと大参事なのだ。
そんないつもの日常だったが、この日は少しだけ様子が違った。
「・・・」
『・・・チャッチャッチャッチャ・・・』
「・・・」
『・・・チャッチャッチャッチャ・・・』
何時からか解らないが、気が付いたら何かが付いて来ている様な音が聞こえているのだ。
『・・・チャッチャッチャッチャ・・・』
その音は硬く小さい何かが地面を叩く様な音なので、そこから俊は動物・・・猫だと追ってこないだろし、ここら辺には鹿や猪も出ないので犬辺りだと予想した。
しかし犬だと解った所で追い払う方法は無く、諦めるまで逃げるしかないだろうと考える。
「速度上げれば振りきれるかな・・・」
今はソコソコにしか速度を出していない為、もっと全力を出せば振りきれるかと俊は考え、いつまでも付いてこられると面倒だと思ったのでそうする事にした。
「ふん!ふんふん!」
すると相手はあまり足が速くないのか直ぐに振りきれたようで、少しすると足音らしきものは聞こえなくなった。
しかしここで速度を緩めると弁当の臭いに誘われてすぐ追ってきそうなので、俊はそのまま速い速度を保ちながら家へと急いだ。
やがて家へと着くと、急いで弁当を引っ掴み自転車から降りて家へと入った。そしてしっかりと戸締りをすると一息着いた。
「ふぅ・・・あ、弁当大丈夫かな?」
俊は弁当を確認し、何とか無事だったのでそのままそれを電子レンジへと放り込み暖め始めた。
そして暖めている最中に仏壇へと行き、帰宅を報告。それが終わると温まった弁当をパクパクっと食べ、お風呂に入る。
『・・・ピーポーピーポー・・・ウーゥーウーゥー・・・』
「・・・救急車とパトカー?」
お風呂に入っていると微かにサイレンが聞こえて来た。『珍しく何か起きたのかな?』と思いつつも、俊はゆったりとお風呂を堪能し、お風呂から上がるとベッドへと潜りこんだ。
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「食材買ってこなきゃなぁ・・・」
翌朝、やはり少なかった冷蔵庫の中の事を呟きつつ、俊は家を出た。玄関に鍵を掛け、何時もの様に自転車に乗り大学への道を進む。
「・・・ん?」
すると2,3日前に見た様な人だかりが再びあった。俊はまた何かあったのかと気になり、自転車を下りて人だかりへと近づいて行く。
「ん?おぉ、兄ちゃん!また会ったな!」
「あ、どうも。えっと・・・また何かあったんですか?」
俊は人だかりに近づき誰かに声を掛け様としたのだが、その前に逆に声を掛けられたのだが・・・その人は何と、偶然にも2,3日前同じような現場で合った男性だった。
俊はこれ幸いと、前回の様に事情を問いかけた。
すると男性は今回も事情を知っていた様でそれを俊へと話してくれたのだが、どうやらまた前回と同じ様な事件が起きたとの事だった。
「今回は1人らしいがな」
「成程・・・ありがとうございます」
「いいってことよ」
事情が分かったのならばこれ以上見ていても何もないと考え、俊はその場を立ち去り大学へと向かい、その途中で先程の事を考えていた。
「近所で同じような事があるなんて怖いな・・・。あ、同じような事件って事は、又実習でも同じような事があるのかも・・・」
俊は今日の実習の内容を想ってげんなりしつつも、大学へと急いだ。
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作者より:読んでいただきありがとうございます。
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