第2話 気づかぬ始まりの日

『貴・・センテイ・・・・れま・・』


「・・・んぁ?」


 その日、自室のベットで寝ていた遠山俊は妙な声を聞いた気がした。


「なんだ・・・ふぁ~・・・あ゛っ!もうこんな時間じゃん!講義に遅れるっ!」


 しかし俊は、変な声だけ聞こえる妙な夢だったな?とその事に深く関心を持たず、自身が通っている大学の講義に遅れそうだったので急いで支度をし、家を飛び出していった。


 ・

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 ・


「ふぅ・・・終わった終わった。さぁてバイトバイト・・・の前に」


 俊は大学が終わった後バイトに行こうとしていたが、その前に少しだけ時間がある事に気付き、寄り道をしようと自転車の行き先をそちらへと向けた。

 その行先は俊の通っている大学と併設する様に建てられている病院・・・所謂大学の附属病院というやつである。

 俊は通いなれた病院の中をスイスイと進み、ある病室へと入ると『ピッピッ』と規則正しい音が鳴る機械に繋がれた人物へと声をかけた。


「よっ、今日の調子はどうだ?」


「・・・」


「ん、今日は顔色が良さそうだな」


「・・・」


「あっ、もしかして眩しい?じゃあカーテン締めとこうな?」


「・・・」


 病室に居た人物に俊は話しかけているのだが、その人物からは一切返答はなかった。


 それもそのはず・・・


「・・・って・・・ハハッ・・・ずっと目を瞑ってるのに眩しい訳ないか」


「・・・」


 病室のベットにて寝ている少女・・・遠山俊の妹である遠山亮子は数年間ずっと意識が無いのだから。


 亮子が意識を失ったのは今より5年前、当時亮子が12歳の時だった。

 その日彼女と俊、それに2人の両親が乗った車が事故に遭い両親は他界、そして亮子は意識不明となったのだ。

 因みに俊だけはそんな事故にも関わらず奇跡的に軽傷で済んでおり、今の今まで元気でいる。


「いつか絶対兄ちゃんが助けてやるからな・・・」


 そしてその罪悪感からか俊は医者になり亮子を助ける事を夢見ている。


「ま、その為にはバイトしながら勉強しなくちゃならないけどな。けど・・・兄ちゃんはやり遂げて見せるぞ」


 普通だと妹の入院代に医大の費用等アルバイトだけで賄えるものではないのだが、幸いと言っていいのか多額の保険金が入った為何とかなっている。

 しかしそれでも生活はカツカツ、アルバイトをして何とかという状態なのだ。


「・・・よし、亮子の顔見たら元気出て来た」


 本当は妹の寝ている姿を見ていると胸が疼く。しかしそれを表に出すと妹が悲しくなるかも知れない、そう思っている俊は空元気を出し続けていた。


「・・・バイト行って来るな!また来る!」


『今の自分に出来る事をするしかない』常々そう思っている俊は今日も空元気を出しながらアルバイトへと向かった。


 ・

 ・

 ・


「お疲れ様でした~」


 アルバイト先であるコンビニの同僚へと声をかけてから店を出した俊は、駐輪してあった自転車へと乗り自宅への道を漕ぎ出した。


「ふぅ~・・・明日は講義の後に実習もあるからバイトまでの時間がギリギリだな・・・。となると明日は亮子の所へは寄れないなぁ・・・ん?」


 明日の予定をブツブツと呟きながら自転車を漕いでいると、帰り道の途中で人だかりが出来ているのに気づいた俊はそれが気になり、自転車を降りて人だかりへと近づいて行った。


『ザワザワ・・・』


「・・・?あの~・・・何かあったんですか?」


 見ていても人の波で視線が遮られ何が起こっているか解らない。その為俊は近くの人に声をかけてみた。


「ん?何か事件があったみたいだな。何か2,3人死んだらしい?」


「えっ!?マジですか!?」


「俺も詳しくは解らないけどな。チラッと聞いた話だとバラバラにされて一部体が見つかってないんだと。獣でも逃げ出したのかって話だな」


「ヤバくないですか・・・?」


「いやいや・・・ここら辺って動物園とかもないし山も遠いだろ?だから多分俺は違うって思ってるし、他の人もそう思ってるから呑気にここにいるんじゃねぇかな?」


「言われてみれば・・・」


「だろ?」


 声をかけてみた男性と軽く話してみた結果何かの事件だという事は解ったが、それ以上は全て男性も聞いた話や憶測らしく、詳しい話は分からなかった。

 人が死んだらしいとも聞いたが、それも怪しいかも知れない。


「ありがとうございました。じゃあ俺は行きます」


「おー。まぁ一応気つけろよ兄ちゃん」


「そちらもお気をつけて」


 これ以上ここに居ても仕方ないし明日も朝から講義がある、なので野次馬はここらにしておく事にした俊は人だかりを後にして帰路へと戻る事にした。


「・・・けど何らかはあったんだよなぁ。もしも本当に人が死んでたら明日実習で検死の立ち合いとかあったりして・・・」


 俊は自転車を漕ぎながら先程の事を思い出し馬鹿な事を口にした。本当に人が死んでいる確率も低いし、更にそれの検死の立ち合い等更に確率が低いだろう。

 しかし考える事は自由だ。なのでそんな事を次々と妄想していたのだが、俊は自宅へと辿り着いたので妄想を止めて家の中へ入って行った。


「・・・ただいま」


 俊の家は小さいが一軒家なのだが、これも両親の残してくれた遺産の1つだ。そんな家の中に入った俊は仏壇へと一直線に行き、両親の遺影に手を合わせた。


「・・・」


 手を合わせながら頭の中で色々な事を両親へと報告する。その中には勿論、妹の事もあり・・・


(亮子は・・・亮子の事は何があっても絶対俺が何とかするから・・・見守っていてくれ父さん、母さん・・・)


 そんな事を頭の中で考えていた。

 やがて報告も終わったので、明日の為にご飯を食べてお風呂に入ってと俊は動き始めた。


 ・

 ・

 ・


 翌日、朝から講義を受けていた俊は昼過ぎ、数人の同級生と共に教授から呼び出された。

 しかし呼び出された部屋へと行くと教授がいなかったため、そのまま数人の同級生と一緒に待つことになった。


(一体何だろう?今日の実習の事か?ええっと・・・前回は確かあれをやったから・・・)


 呼び出した教授は実習を教える人物だったので、恐らくこの後の実習の事だろうと当たりをつけた俊が前回の事を思い出していると、何処かに言っていた教授が部屋へと戻って来た。


「すまないすまない。急によ出されてな・・・で、俺が君たちを呼び出した理由なんだが、今日の実習の事だ」


 教授は部屋へと入って来るなり本題を話し始めたが、やはり話は実習の事についてだった。


「今日は本来入っていた実習から少し変更だ。警察の検死を手伝うことになった」


 その言葉を聞いた瞬間、俊も同級生たちも騒めき出す。


「いや、皆が不思議に思うのも当然なんだが、何故か警察の方から協力を求められてな?まぁ色々考えた結果、受けることになったんだ」


 教授のそんな言葉に俊は『昨日考えたことが本当になった。あるんだなぁこんな事』と少し能天気な事を考えていた。

 しかし実習は実習、これも医者になる為の勉強だと考えを引き締め直す。


(考えてみれば昨日も何も考えてなかったけど、本来なら怪我人が居るかもと心配するところだよな?・・・駄目だなぁ俺)


 気を引き締め直した所で昨日の事を思い出し、医者を志すモノとして失格だったなと反省をし出してしまった。

 だが今はそんな事を考えている状況ではなく、教授の話が進んでいた。


「という事だ。では移動する」


「「「はい」」」


「あ、はい!」


 何時の間にか検死をする場所へと移動する段階になっており、全員がその準備を始めそうになっていたので俊も慌ててそれに加わる。


 そうして必要なモノを準備し終わった彼らは検死場所へと向かい・・・


 無残な状態となった遺体と対面した。


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