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その日は部活が少し延びてしまい、マスミちゃんの配信までに家にたどり着けそうになかったおれは……とうとう禁断の行為に手を染めてしまった。
学校のPC実習室のパソコンで、マスミちゃんねるにアクセスする、という。
以前真奈美から聞いたのだが、実習室の鍵はパソコン部の部活が終わった後もしばらく開いているらしい。実習室の中をのぞいたところ、もう部活は終わったのか誰もいない。チャンスだ。さっそくおれはパソコンの電源を入れてマスミちゃんねるを開く。音も聞かれたくないので、イヤホンをパソコンにつなぐ。
……。
相変わらずの技のキレ。すばらしい。彼女の配信をすっかり楽しんだおれは……ふと、背後に気配を感じ……思わず振り向く。
そこにいたのは……驚きの表情で固まっている、真奈美だった……
「……!」
あまりのことに声が出ない。しばらく口をパクパクさせたおれは、ようやく声を絞り出す。
「真奈美……なんでここにいるんだよ……」
「忘れ物したから取りに来たの。そしたら誰かいるから、誰だろうと思って近づいたら、あんただった……って、わけ。そっか……あんたがマーシーだったの……確かに中学生とは言ってたけど……」
意外だった。
「え……お前もマスミちゃんねる、見てんのか?」
「ま、まあね。時々だけど」なぜか真奈美は少しうろたえているように見えた。
しかし……
なんてこった……一番知られたくないヤツに知られちまった……おれの秘密……
「あ、あのさ、真奈美……このこと、誰にも言わないでくれ。頼む!」
おれは彼女の前で両手を合わせ、頭を深く下げる。こいつに弱みを握られるのは初めてじゃないが……過去の経験から言って、なんか口止め料的なものを要求されるんだろうな……
しかし。
「う、うん。分かった。じゃね」
真奈美はそのままパタパタと実習室を出ていく。
「……?」
あれ? 何も要求してこないぞ? どうなってんだ?
まあいい。それはそれで、ありがたいのは間違いない。が……
なんだろう。何か、引っかかるような……
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家に帰ってからも、おれは真奈美の態度が気になっていた。
どうにも彼女らしくない。いつもなら、いいネタゲット、とばかりにおれをからかい倒すはずなのだが……
いや、ちょっと待て。
ようやくおれは、PC実習室で感じた「引っかかり」の正体に気づく。
おれが自分は中学生だとバラしたのは、マスミちゃんとのプライベートチャットの中だけだ。マスミちゃんじゃなければ知らないはず……なのに、なんであいつ、マーシーが中学生だって知ってたんだ?
まさか……あいつがマスミちゃんの中の人……? だから様子がおかしかったのか……?
確かめてみるか。
マスミちゃんはいつもボイスチェンジャーを使っているのだが、一度だけ中の人のミスで
探しに探して、おれはようやく見つけた。そしてマスミちゃんの素の声を確認する。
やはり、だ。真奈美の声によく似ている。
考えてみれば、マスミと真奈美、ひらがなで書いたら真ん中の一文字しか違わない。そして真奈美は空手経験者。ブランクはあるが今でも演武はできるだろう。それにあいつはパソコン部でもある。あいつにとってはYouTubeチャンネルの開設も余裕なはず。
やはり……
マスミちゃんの中の人、真奈美なのか……?
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