第1話-6

【2215年、12月14日午後1時5分】

【明登高等学校3年2組 昼食休憩】

「境田くぅん」

加古嘉数は職員室の椅子にうなだれて座っている二縦の周りをぐるぐる回っている。威嚇のためだろうか。二縦はそれに対して怯えた表情を見せるが、それがさらに執拗な加古の「いじめ」を加速させるアクセルになっていた。

「前回の授業で僕がどんな課題をみんなに出したかわかるかな?」

「えっと、人類がどのように対して地人に対抗するかをレポートにして、」

「違うねぇ?」

二縦が返答を終えるか終えないかというところで加古が遮る。

「で、でも」

「なに?僕は授業の中で言った範囲で、と言ったんだ。あ、君はなぜか出ていないけど?」

二縦はこの学校自体からいじめを受けている。手早く言えば、この学校全体が敵。教室、廊下、トイレでさえ二縦にとっては敵地だ。どうして二縦がいじめを受けているか、それは二縦の親が境田克____

地人を復活させたと言われている張本人だからである。


数か月前にテレビでその話が報道される前日、克は忽然と2億という大金と置き手紙を残して二縦の前から姿をくらました。その当初は二縦を擁護するクラスメイトもいたが、徐々に報道が境田克の疑いを濃くしていくにつれ二縦の前から姿を消した。しかし、二縦は孤独に平素から慣れていたため、冷たい目を向けられようともあまり意にも介していなかったが最近暴力が加わりエスカレートしていくいじめに心の背骨が折れかけていた。いじめが始まった当初は平然としていた二縦の口調も今では見る影もなく小さい声でしか話せなくなっている。二縦が情報の授業に出られなかったのは3階の教室から二縦のバッグをクラスメイトが落としたからである。二縦はそれを取りに行くために情報の授業を休んでいた。

絶対俺は屈さない。絶対俺は学校に行き続ける。そう心に決めても手足が震えて、心が震えて教室に行けない。心のシミが黒く、深くなっていくのを感じる。今だって、今だって。加古先生が俺を罵ってくる。父さん。なんで出ていったんだよ。せめて隣にいるだけで良かったんだ。それだけで俺には十分だった。それは金じゃ買えないもんなんだよ。

「加古先生ちょっと、」

 加古が新任の先生に呼ばれる。来客だろうか。そう思って二縦が顔を上げる。その先にはスーツ姿の克ぐらいの年齢に見える男がいた。廊下はすぐなので話し声が聞こえる。

「私クローバーの3の治安統括部、阿久井直人と申します。」

「華さんのお父様はクローバーの3でいらっしゃいましたか、この明登高等学校へ来ていただき光栄です、本日は何の御用でしょうか。」

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