第1話-5
そう何周も思考を巡らせているうちに日ごろの疲れか眠りにつき朝になっていた。
あ、時間だ、遅刻してしまう。そう思って時計を見ると、「12月12日8:30土曜日」の文字が。幸せを噛み締める。仕事から帰り華と話しワイシャツのままで寝てしまったのでとりあえずシャワーを浴びる。シャワーの時だけは嫌なことを思い出さずに済む。克を妬んでいた時期は一日5回シャワーを浴びていたこともある。
リビングに気だるい表情を持って行くと千穂がいつものように華と朝食を作って待っている。幸せだ。幸せなはずだ。どこからどう見たって。なんで。なんで俺が幸せでお前は行方不明なんだ克。本当に幸せになるべきは俺みたいな人間じゃなく真っすぐに人を愛せるお前だったのに。思わず下を向く。すると千穂が
「あ、サラダ嫌いなんでしょー!絶対食べてもらいます!」
と鬼のサラダ軍曹になって笑顔にさせてくれた。個人的に直人はサラダが嫌いだが、シーザーサラダは大好きでクルトンがないと落ち込む。まず今日のサラダはシーザーサラダであること、そうだったとしてもクルトンがあることを早めに椅子に座って祈る。さながら合否発表である。
___合格。シーザーサラダ&クルトン。
心の中で雄叫びを上げながら、やっぱサラダはシーザーだろ、という何食わぬ顔をして食う。それを分かっている上で千穂と華は何も言わない。俺は幸せだ。俺は幸せだからこそ、二縦くんは任せろ、克。
朝食での話は華の学校の話から始まり、華の眼鏡の話、昨日の千穂の残業の話、社内恋愛の話、華の恋愛観についてと渡る。基本的に直人は聞いているだけだが、華がふと、
「お父さんとお母さんの馴れ初め教えてよ!」
なんていうものだからコーヒーを拭きそうになってしまった。千穂も同じ様子だ。ちなみに千穂、コーヒーは多糖派である。
「はい、解散!」
直人がそう冗談めかして誤魔化すと、
「ええーいいじゃん教えてくれたって!!」
「いいわよぉ」
「ちょっと母さん!?」
「ちょっとぐらいいいでしょ?」
「___全部話すだろお前」
「ううん、華よく聞くのよぉ?」
とはしゃぐものだから
「なんでうれしそうなんだお前は」
と突っ込みを入れてみる。
「私とお父さんは________」
「raid backっていう喫茶店で知り合ったの。」
「もうちょっとお父さん!」
恥ずかしさに追い出されるように阿久井直人はもう自室へ戻っていた。
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