第1話-4

天井。血だまりの次に見えたものは天井。

ああ、病院か。激しめにトラックとぶつかった割には冷静だった。生きているのか。現代の医療は進んでいるなぁ。

「大丈夫?」

次に見えたのは不安な顔をした母だった。

「大丈夫だよ、母さん。喋れる。」

「よかった。」

母さんも割と冷静なんだな。俺は母の血が濃いのかもしれない。

「直人!!大丈夫か!?」

ああ、うるさいな、


_____その次に目にしたもの、それは初めて見る克の涙だった。


その瞬間何かが動いた。心のなかの、何か。期待もしていなかった、何か。

はぁ。俺は馬鹿だ。

「よかった。直人が無事でほんとによかった。俺より全部できるんだから、お前は俺の教科書なんだからさ__」

涙を部活で使用したタオルで拭いながら克が母の目も気にすることなくクサいことをいう。


___はぁ。やっと、やっと俺見つけたよ。お前の俺よりすごいとこ。


直人は重力に逆らえず落ちてくる涙を押し戻すように、

「教科書だからって俺に落書きすんなよ?」

とからかうだけ気力しか持ち合わせていなかった。



ここまで思い出して阿久井直人は目を開けた。何かを思い出すときや、何かを考えるときに直人は目をつむる癖がある。

目を開ければ自分の部屋の天井が見える。克。今どこにいるんだ。何をしてるんだ。教えてくれ。どうして二縦くんを置いて家を出ていったんだ。俺は二縦くんを救っていいのか。

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