第1話-2
【2215年12月11日午後7時30分】
【阿久井宅】
「お母さんまだ帰らないみたいだよ」
「そうか、華、学校はどう?」
阿久井直人が冷たいブラックコーヒーを飲みながら最近反抗期が来てもおかしくない娘に定番の質問を投げかける。この質問以外の娘との会話のきっかけを直人は持ち合わせていない。
「うん、普通。」
華は本を読みながら至ってシンプルに、しかし目は合わせず答える。
「じゃあ、いじめとかは無い?」
と冗談交じりに話を続けようと必死にもがくと、しばしの沈黙の後、華が
「あるにはある」
「__それは華がいじめられているの?」
「ううん、境田くん。あの、雨の日に傘貸してくれた子。」
深く息を吸い込んだ後、直人は華の方を向き直って自らも幼い頃いじめられていた過去をぽつりぽつりと華に話し始めた。そして、華の方を見て大事な話だ、と言ってこう続けた。
「医者はなんで人を助けると思う?」
「それは、そういう職業だから?」
「うん、正解。でもお父さんはそれ以前に“職業だから”ってだけじゃなくて“そこに一人の病人がいるから”助けると思うんだ。もし、私が医者だったら勤務時間外でもそこに病気の人が倒れていたら助けてあげたい。」
「うん。今回の場合、境田くんが勤務時間外に倒れている病気の人ってこと?」
察しがいい娘だ、と少し笑うと直人は
「お父さんが境田くんを助けてもいい?」
と続けた。華が次に口を開くまで1分ほど経っただろうか。その1分が直人には永遠に時が止まっているようにさえ感じるほど遠かった。
「いいよ、その代わり__」
「絶対助けて」
「おう、任せとけ」
そういうと直人は冷えたコーヒーを一気に飲み切ると昔の文豪の部屋のように本がベッドの周りに散らばっている自分の部屋へ向かった。
___が、
「ちなみにどんな感じでいじめられてるか詳しく教えて?」
とすぐに直人は格好の付け方を見失った。
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