第2話-7

 阿久井直人は治安統括部の中官である。中官と言ったが、これは治安統括部の階級の名称である。治安統括部は自衛隊と似た階級の作りになっている。自衛隊は上から佐、尉、曹と並ぶ。それぞれ1から3までの階級に分かれており、詳しい昇進の基準などは明かされていないが部下を統制する能力である統率力、人望なども加味され昇進の基準になる。治安統括部は自衛隊の階級を参考にしているがその制度が一部変更されたものもあり、階級は一番上が上官、その下が中官下官と続き、それ以降は自衛隊の階級付けと同じで、佐、尉、曹と並ぶ。そして佐、尉、曹はそれぞれ1から2までの階級でしか分かれていない。治安統括部は自衛隊の昇進の基準と違い、佐、尉、曹の位では完全に実力主義である。毎年7月にある「階級試験」で1佐までの位が決まる。上官、中官、下官への昇進には治安統括部員全体の3分の2以上の賛成、そしてそれらの階級に見合った「階級試験」の成績が必要である。

 阿久井は__中官。上から二番目である。それもその筈、阿久井は治安統括部随一の武術の才覚の持ち主で、何か困ったことがあったら竜巻上官に

「阿久井ぃ、頼むわ」

と言われ素直にはい、と言い3時間もたたないうちに仕事を終えるのが彼の働きぶりであった。ちなみに、治安統括部に限らずクローバーの3は災害や犯罪を一般人から守るために特別に国から派遣先や本部内での武器の使用を認められている。

「ご遺体は、丁寧に、心を通わせるように運んでください。」

これが彼の一般医療部員への口癖であった。

「阿久井さんいい人なのは分かるんだけど怖いんだよねぇ」

千穂が激しく千切れそうなほど首を縦に振る。実際は阿久井がただ人見知りというだけなのだが、「中官」の肩書きが弥生に鬼教官というイメージを与えたのだろうか。同僚の涙を見てしまったばつの悪さから話すことも無くなったのか、じゃあね、と弥生が自分の研究室へ帰っていく。千穂はその後ろ姿を見ながら、今日は自分へのご褒美で近所の喫茶店「raid back」のパフェの最新作を買って帰ろうと固く心に誓った。

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