第2話-5

 草金千穂が医療部事務の砂嘴さしに提出した報告書には特段変わった内容が記されていなかった。通常の殺人事件の被害者の司法解剖の報告書とさほど変わらない。しかし、22時間連続事務作業中の砂嘴正さしただしの寝ぼけ眼を一瞬で覚ますような資料がたった1枚、後半のファイルに挟まっていた。


・被害者の腕の傷跡、被害者の友人が聞き取った発生言語、考古学的見地から総合的に鑑みるに、「地人」の犯行でないかと考えられる。


____地人。

端的に言えば、「数十年前に完全に絶滅したと思われていた人型の生物」。それが地人である。2100年ごろから地人は広く知られており、地人博物館なるものもある。知人を発見したのは草金由人くさがねゆいと、千穂の祖父にあたる。草金家は代々考古学の研究を受け継いでおり、常に地人研究のトップランナーである。しかし、草金千穂は地人の研究をする道を選ばなかった。

「いるかいないかもよくわからない生物を研究するよりは私のことを頼りにしてくれる目の前にいる人を救いたい。」

これが彼女の本心であり、生き様だった。その千穂が「地人」が現在に存在することを認めた。「地人」を研究してたらゆいさんを助けられたのかな。

「こんなことなら___」

お父さんの言う通り「地人」の研究をしてればよかった。医者なんて目指さなきゃよかった。もっと親孝行すればよかった。最後のは関係ないか、と自分にツッコミを入れながら目から溢れる大量の涙を拭う。ああ、だめだ、報告書が濡れちゃう。タオルで拭かないと___

「えええ!?いや千穂大丈夫!?」

最悪。このタイミングで弥生に会っちゃった。

「ううん?全然大丈夫。で、弥生どうしたの?」

涙を強引にタオルで拭いた赤い目を如月弥生きさらぎやよいに向けながら千穂は強がってみる。

「あ、うん。えっとね?これが頼まれてたヤツの解剖結果なんだけど、これ見て。」

若干同僚の赤すぎる目に戸惑いつつも弥生が千穂に見せた解剖報告書には「地人」の体内の解剖写真が添付されている。

「...なにこれ」

「私もびっくりしたよ」


 地人の内臓の作りは人間とは少し異なる。その作りについて千穂の祖父である草金由人は著書『地人のいろは』で地人の内臓器官について次のように語っている。「地人は高い身体能力を生まれながらにして備えている。特に瞬発力に関しては我々人類の平均能力を遥かに凌ぐものがある。そして、地人は我々人類に類似する見た目になることが可能である。しかし、地人は飢えに弱く、半日ほど食事をとらない程度で極度の空腹に襲われる。その原因はいまだにわかっていない。食事の内容であるが__」



「主にコアを変化させたものを食すると考えられる。」

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