最終話 美しい星
あれから1年後。
1991年2月14日、木曜日。
朝からガイアが都内の教会でミサを行っている。
ガイアは聖書を片手に、平日にも関わらず200人以上は集まっているであろう聖堂の壇上で、「創世記 第6章」を冒頭から読み上げていた。
「地上に人が増え始めた時、人の娘が生まれた。神の子らは、人の娘が美しいのを見て、気に入った娘を妻にした・・・」
俺達は教会の外で、聖堂から聞こえて来るガイアの声を聞いていた。
「気に入った娘を妻にして、恐ろしい勢いで子作りしている男が目の前に居るな」
と俺が冗談めかしてそう言った。
俺の目の前に居る男とは、メルスの事だ。
昨年、エリア51でメルスが手に入れた「星の記憶」とは、地球で優良な遺伝子を増やしていく事だったらしい。
おかげで、日本に帰ってからは行く先々で気に入った女性に声を掛け、沢山のガールフレンドと付き合い、やがて一人の日本人女性と結婚して、早速第1子が先月生まれた所だと言うのに、早速次の子作りを頑張っているらしいのだ。
「これが私の使命ですから」
とメルスは言うが、何も子作りだけで過ごしている訳ではない。
ビジネスの方も大躍進だ。
ティアが開発した永久機関をメルスが開発した自動車に組み込む事で、少量の燃料でいつまでも走る事が出来る乗り物が完成した。
アメリカの石油利権が反対するかと注視していたが、実はアメリカの石油利権の頂点にいたのは、例の「300人委員会」の一人だった。
俺達が新たな信仰の対象である「神」だと知っている彼らは、反対するどころか、俺達の製品流通をサポートしてくれた。
おかげでメルスの自動車は世界中に広がりを見せ、今やメルスは世界屈指の大富豪になりつつある。
メルスは出来る限り沢山の子供を作って、いずれ自分の会社を継がせ、果ては世界中に支社を作って、この自動車を地球のスタンダードにしようと頑張っていく様だ。
そんなメルスの影響もあって、ティアとシーナも俺との子供を欲しがった。
いやぁ、何だかんだで27歳になったティアとシーナは、そりゃもう美人だしいい女になったぞ。
地球でも筋トレを欠かしていない俺の肉体は精力旺盛だ。
そんな俺の頑張りもあって、今はシーナが妊娠3か月だ。
あ、そうそう。
法令化するのは来年からだけど、日本でも複数の相手と結婚出来る様になったんだぜ?
だから俺は、来年にはシーナとも婚姻関係になる予定で、シーナが宿している子供を無事に産む事になる筈だ。
これには鮫沢も随分と苦労をしたらしい。
色々な条件付きではあるが、複数結婚や同性婚も同時に決めたおかげで、日本はLGBTQ問題を世界で先駆けて解決した国として、世界からも称賛を受けている。
そうそう、子供といえば、イクスとミリカの間にも来月一人目の子供が生まれる予定だ。
まあ、最初から熱々カップルの二人だし、これは予定調和って感じだな。
イクス達のビジネスも順調なんだぜ。
特にイクスの経営するレストランは日本中で人気だし、今や世界の食材研究の第一人者でもあるしな。
ミリカの作る衣装は、子供服と学生服が圧倒的人気だな。
何せ、素材が全てオーガニックだし、着心地や肌への影響も良いみたいだからな。
あとはガイア達なんだが、ほんと、意外だったのがガイアとテラの二人で、テラが「ガイアとは兄妹だから結婚出来ない」ってんで、何とライドにアプローチをしたんだよな。
で、ライドもメルスの影響を受けてガールフレンドには興味を持ってたみたいで、すんなりとテラとの交際を受け入れてしまったんだ。
で、ガイアも頭では理解出来ても、前世では恋人だったテラが躊躇無くライドと付き合い出した事にショックを受けて、しばらく一人旅に出たかと思うと、戻ってくるなりキリスト教の神父へと転身したんだよな。
もちろん「星の記憶」の効果は続いていて、ガイアもテラも、投資ビジネスをしながら地球の資源採掘へのアドバイスは続けている。
そんなガイアだからかどうかは分からないが、今は多くの信者から人気があるらしい。
まあ一応「神々の使徒」の一人な訳で、そんな男が神父ってんだから、尚更人気が出るのかもな。
キリスト教も喜んでガイアを受け入れてくれたし、むしろキリスト教にとっては「メシアの使徒が神父をしている」という泊が付くのかも知れないな。
ちなみに、今日はバレンタインデーだ。
俺達みんなが夫婦や恋人とイチャイチャしてる中で、唯一独り身になってしまったガイアを励ましてやろうって話になったんだよな。
で、つい先程みんなで集まったところで、今は教会のミサが終わるのを待ってるところなんだよな。
それにしても、これまで色々な事があったな。
知れば知るほど前世の地球がカオスだった事が分かったし。
全ての問題が解決した訳じゃないけど、実質的に俺達が統治している今の地球は、かなり平和な良い星になったと思うぜ。
地球の人口は増えてきたけど、自然と共存する社会になって、おかしな異常気象が減少してきた。
弱っていた地球の自浄効果も出てきているのか、海や川の水がキレイになったな。
工場なんかの排水や排煙を浄化する技術を日本人が作ったんだ。
まだまだ改善の余地はあるんだが、俺達が介在せずに地球人だけでそうした技術が開発された事は良い事だ。
情報津波でその開発者について調べてみたら、不思議な事に「前世の地球でのその男」の事も分かってしまったんだ。
どうやらその男、前世ではアメリカの水利業界にとって不都合な人間だと判断されて、自動車事故に偽装された暗殺によって死んでたんだ。
しかもその利権企業は「300人委員会」の一人が経営する会社だったんだよな。
ほんと「300人委員会」の罪は深いぜ。
まあ、前世の罪を現世で償わせるのも理不尽なので、特に追求はしていないけどな。
そういえば、まだ1991年だから調べようが無いけど、前世の俺がどうやって死んだのかは知りたかったな。
相模原市に住む吉田家を覗きに行った事はあるんだが、情報津波でもそこまでは分からなかった。
おそらく、2035年頃にならないと分からない事なのかも知れないな。
いや、もしかしたらもう解る事は無いのかも知れない。
だってそうだろ?
今や、前世の俺が知らない、新しい歴史が始まったんだから。
この世界では、1994年にロサンゼルスで大地震は起きないだろう。
阪神大震災も起きないに違いない。
2011年の東日本大震災だって起きない筈だ。
もちろん、自然に起こる地震は地球の自浄作用なので仕方が無いが、少なくとも、人工的に起こされた地震は無くなる筈だ。
実は1年前のあの日、ルシファーを倒した俺達は、地上に戻って大統領に経緯を説明し、俺達はそのまま大統領と共に「300人委員会」を招集させて彼らに会いに行ったんだ。
そこで、デバイスに記録したルシファーと俺達の会話を聞かせ、俺達が「新たな神」である事を認知させた。
当然、すんなりと信じる訳も無く、10人程犠牲者を出したけどな。
そして、神の名の元に「300人委員会」を解散させ、世界中にある秘密結社の解体を命じた。
「もし、我々の命令に背く者が居た場合、お前達の存在はこの世から永遠に消し去られるだろう」
ちょっとした脅しではあるが、俺は彼らにその様に伝えていた。
彼らは極悪人ではあったが、信心深い者達でもあった。
信仰していた「神」であるルシファーが俺達に役目を引き継いだ事を知り「300人委員会」は、人の世の為に金を使う事を約束した。
もちろん俺からも様々な事を提案した。
まずは世界から核兵器を無くす事。
気象改変兵器を解体する事。
野菜や果物は全て「自然農法」によって作る事。
動物を食料にする場合は、遺伝子改変を行わない事。
薬品を作る場合は、全て「自然療法」の基準を順守する事。
特にワクチンの保存料に水銀化合物である「チメロサール」を使わせない様にした。
あと、戦争は起こしても良いが、それは武力ではなく、競技によって行う事。
全ての仕事の報酬は「善行」に基づくビジネスである事。
そして「神への絶対的な信仰」を行う事。
それ以外は自由だ。
表現の自由、言論の自由、行動の自由、教育の自由、労働の自由・・・
貨幣の存在はそのままにしておいたが、借金が返済できない者にも2度までの徳政令を使える権利を有する法律を作らせた。
そして、人々の最低限の生活は、各国の政府が保障する事。
これで誰もが豊かさを追求でき、失敗してもやり直せる社会になった。
全ての人の食べ物が健康的になり、おかげで病気になる者も減って来るだろう。
お金のストレスから解放され、心因性の病気が一気に減少した。
自殺者も大幅に減り、人々が笑顔で生活をしていた。
国際問題だった難民も居なくなったし、各国がその国らしい文化を昇華させていく様になったのは嬉しいよな。
肌の色で差別する国も無くなったし、奴隷制度は全て撤廃された。
世界中でスラム街が消えた。
おかげで治安は劇的に改善され、人々は見た目に関係なく対等にコミュニケーションが出来る様になった。
俺がルシファーを倒してから、まだ丁度1年だ。
だけど、そうして世界は平和になりつつあった。
宗教関係のいざこざはあったが、キリストもアラーも確かに過去に存在した神達である事を説いて回り、今シーナが普及させている無線インターネットが世界に広まれば、世界中の人々がその事実を知る事になるだろう。
神々は確かに存在したが、過去の神が全て正しい訳じゃ無い。
神々は人々を全体として見ている。
だから必要なのは「調和」なんだ。
個人の問題事は人間同士で解決し、人間社会に影響を及ぼす問題には、神々は必ず介入して調和を取り戻す。
それが、地球という星の為であり、人々の為でもあるのだ。
人間が豊かになるためには、地球を豊かにしなければならないのだ。
これからも時間は掛かるだろうが、俺達はまだ若い。
まだまだ大丈夫だ。
「俺の統治は、まだ始まったばかりだもんな」
俺がそう声に出して顔を上げると、ティアとシーナが俺の腕をとってにこやかに俺を見下ろしていた。
「ショーエン、そんな難しい顔をしないで。今日はガイアを慰める日なんだから」
とティアが大きくなってきたお腹を擦りながら言い、
「ガイアが出てきたのですよ」
とシーナがそう言って俺の腕を引っ張った。
「そうだな! いっちょガイアを全力で慰めてやるか!」
俺はそう声を張り上げながら立ち上がり、ティアとシーナを両腕に絡めて、教会から出てくるガイアの方へと歩き出したのだった・・・
完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます