地球(13) エリア51
「間もなく、JFK空港に着陸します。座席の背もたれを元に戻し、シートベルトを締めて下さい」
機内の放送でもそう言っていたが、スチュワーデスさんが前から順に搭乗客の座席を確認し、シートベルト着用の手助けをしていた。
しばらくして飛行機が高度を下げるのが分かり、シーナが窓から外の景色を眺めていた。
窓からは眼下にニューヨーク州の夜景が広がっているのが見えた。
JFK空港は大西洋側にあるので、空港までのあと20分程度は大陸の景色が見えるのだろう。
ニューヨーク州は都会のイメージが強いが、マンハッタン周辺の大都会以外は概ね緑が豊かな自然に囲まれた大地だ。
飛行機の下に見える景色も、今は東部時間の深夜3時なので概ね山々の合間に小さな光が所々に見えるだけだ。
そうしているうちに飛行機はぐんぐんと高度を下げてゆき、眼下に広がる夜景も徐々に都会になって来た。
数々の高層ビルの光が姿を現し、間もなくJFK空港に到着するのだと実感する。
経済大国、アメリカ合衆国。
この世界の日米の為替は、1985年のプラザ会談に日本は合意はしなかったものの、徐々に円高基調に移っており、1ドル200円前後を推移していた。
前世のこの時代が1ドル140円前後だった事を考えると、まだ随分と円安だ。
この時代の日本は国内の産業が盛んで、海外輸出業が力を持っていた日本は、円安である方が貿易による収益が多かった。
現在はアメリカから輸入制限を受けているとは言え、ヨーロッパやアジア諸国が日本の製品を好んで輸入していたし、日本国内の需要も盛んである為に、日本国民は概ね豊かな生活を送れている。
アメリカも充分に発展した経済を維持しており、わざわざ日本の発展を阻止しなければならない理由など無い様に思える。
しかし、日本人を金融奴隷にしたかった「300人委員会」にとっては、「黄色い
なのでレプティリアンを倒し、俺達が新たな神として「300人委員会」を新たな価値観で導かねばならない訳だ。
そんな事を考えているうちに飛行機はJFK空港に着陸し、ゴーっという音を立てて車輪が地面を滑走するのが分かった。
エンジンが逆噴射をして飛行機は急激に速度を落としてゆく。
やがてエンジンの
「当機はJFK空港に到着致しました。ファーストクラスのお客様より順番にお降りのご案内をさせて頂きます。もうしばらく座席に座ったままお待ち下さい」
国際線の飛行機には、ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスの3種類の座席が用意されている。
料金もファーストクラスで90万円、ビジネスクラスで60万円、エコノミークラスは30万円といったランク分けがされており、座席の乗り心地や機内食の豪華さも違えば、飛行機への乗り降りもファーストクラスの乗客が最優先で案内される。
ファーストクラスに乗っていた俺達は、機体がゲートに接続されると出口へと案内され、案内に従って俺達は降り口へと向かった。
俺達の案内には一人のスチュワーデスが専属で担当し、特別な入国審査ゲートに通してくれた。
これもブッシュの計らいの様だ。
俺達はそのまま無事に入国審査を終えてアメリカ国内へと足を踏み入れ、キャリーバッグを受け取る為に荷物の受取場へと向かった。
荷物の受取場でしばらく待っていると、レーンに乗って俺達の荷物が流れて来る。
俺達は荷物を引き取り、そのまま空港の出口へと向かった。
空港を出ると、ダークグレーのスーツに身を包んでサングラスをかけた3人の男達が近づいて来た。
「ショーエン様ご一行ですね?」
と男の一人がそう言い、俺が「そうだ」と頷くと、近くに駐車していた高級リムジンに俺達を案内した。
どうやらラガーディア空港まではこの高級リムジンで移動する様だ。
俺達がその車に乗り込むと、リムジンはゆっくりと走り出し、JFK空港を後にした。
ラガーディア空港まで、サングラスの男達は何も話しかけては来なかった。
ただ、情報津波によれば、俺達の身に危険が及ばない様にと大統領から厳命されている様で、細心の注意を払って周囲を警戒しているのが分かった。
初めて見る1990年のニューヨークの景色は素晴らしかった。
どこかノスタルジックな雰囲気はあるが、それでも20世紀の大都会の景色は圧巻だった。
近代建築の技術の粋を集めて建てられた高層ビルの数々、街並みは映画で見るのと同じ華やかなもので、ネオンが
自由の女神象が見たかったが、どうやらもっと西に向かわないと見えないらしい。
ラガーディア空港まではほんの20分程度で到着し、俺達はブッシュが待つ米軍専用機へと案内された。
ラガーディア空港では特に何もセキュリティチェックは無く、まるで新幹線の駅でホームに向かう時の様な気軽さがあった。
空港の建物に入った俺達は、サングラスの男達に案内されて、民間機に乗り込むゲートとは別のゲートの方へと連れられた。
男達に付いてゲートを潜ると、そこは迷彩柄の軍用機が止まっている格納庫の様な場所だった。
「こちらの飛行機にお乗りください。大統領がお待ちです」
男達はそう言って、飛行機に乗る為のタラップを昇る様にと俺達を促した。
タラップの周囲にはボディガードの様な男が5人いて、俺達の動きを見ている様だ。
俺は情報津波を使ってみたが、ボディガードの男達に怪しい者は居なかった。
俺はデバイスでベルトを操作し、タラップの手前でフワリと身体を浮かせて軍用機に乗り込んだ。
ボディガード達は一瞬身体を強張らせたが、特に何かをしてくる訳では無かった。
ははっ、ちょっと驚かせてやったぜ。
屈強そうな男達だったが、目の前で人が宙に浮く光景などこれまで見た事も無いだろうし「本物の神の使い」と信じるきっかけになったに違いない。
俺達は全知全能って訳じゃないが、この時代では想像もつかない様な技術を持った星からやって来たんだ。
彼らの目には、俺達が「本物の神」に見えたっておかしくは無いだろう。
俺達が機内に入ると、そこはだだっ広い空間だった。
壁際に沿ってベンチの様な座席が並んでおり、壁には身体を固定するシートベルトが備え付けられていた。
奥の壁には扉があり、扉の前にはブッシュと付き人がこちらを向いて立っていた。
「お待ちしておりましたよ。空の旅はいかがでしたかな?」
ブッシュが俺達の方へと歩み寄りながら声を掛けて来た。
俺は右手を上げながら、
「ああ、快適な旅だった。ルシファーの元へはこれで行くのか?」
と訊いた。
「はい、エリア51には許可された軍用機でしか入れませんからな。特別にチャーターしておきましたよ」
俺はブッシュに向かって情報津波を使い、ブッシュがここに来るまでに行ってきた事を認識しておく事にした。
日本で国葬を行った時以降、ブッシュはどうやら信仰の対象を俺に切り替えた様だ。
とはいえ、露骨に「300人委員会」を裏切れば、即座に暗殺されるだろうから、ここまでずっと彼らの言いなりになっているフリをしながら、政治的に日本に圧力をかけつつ、「やがて日本に軍事的な侵略を行う可能性を見据えた視察」という建前で今日の準備を行ってきたらしい。
大国の大統領とはいえ、「300人委員会」と言う支配者達を上司に持つ中間管理職のような立場だ。
色々気苦労もあっただろうが、大統領の権限を使って色々手を回してくれた事には感謝だな。
「そうか、ご苦労だったな。では、レプティリアンに
と俺が言いながら壁際のベンチシートに腰かけると、ブッシュも向かい側の壁際にボディガードと付き人と共に席に着いた。
ティアとシーナが俺の両側に座り、イクスやミリカは奥の席に、ライドとメルス、ガイアとテラが手前の席に着いた。
搭乗口にはヘルメットで顔を覆ったアメリカ空軍の士官が直立しており、大統領の指示を待っている様だった。
ブッシュが兵士の方を見て右手を上げ
「発進だ」
と短く指示を出すと、士官はビシっと敬礼をして
「イエッサー!」
と声を張り上げて機体の奥の扉の方へと小走りで向かって行った。
俺は士官にも情報津波を使ってみたが、この士官は今回のプロジェクトについては何も知らされていない様だ。
あくまで大統領がエリア51の基地の視察を行うという認識しか無い様で、俺達の存在を気にしている様ではあったが、大統領と俺達のやりとりを見ながら「大統領よりも上層部の存在」として認識している様だった。
軍隊において、兵士はどんな疑問を持とうとも、上官の命令には絶対服従だ。
それが軍隊の規律を維持する為の唯一のルールであり、自分の心を殺してでも上官の指示を最優先にしなければならないのだ。
士官ともなれば、それくらいの常識はわきまえている。
たとえ俺達の事を不審に思っていたとしても、上官である大統領の命令が絶対なのだ。
そうしているうちに機体はブゥゥンと唸りを上げ、エンジンが動き出した様だった。
空港の管制塔とのやりとりに多少の時間が掛かった様だが、機体のハッチが閉じられ、ゆっくりと動き出したのが体感として分かった。
大統領が乗る軍用機は、どんな民間機よりも優先的に滑走路を使用できるらしい。
他の旅客機の離陸時間をズラして、俺達が乗る軍用機は滑走路へと向かって行ったのだった。
---------------
軍用機の乗り心地はあまり良く無かった。
まあ、快適さを追究した機体では無く「機動性を優先したんでしょうね」と言うライドの感想の通りだ。
機体は3時間弱飛行していたが、やがて高度を下げて行くのが分かった。
「あと8分で、エリア51の基地空港に着陸します」
さっきの士官兵が奥の扉を開けて顔を覗かせ、そう知らせてくれた。
とうとう敵の本拠地だ。
いや、ここまでの情報を統合して「レプティリアンが地球をカオスにした元凶」と決めつけて「敵」と認識しただけの事かも知れない。
しかし、鮫沢から得た情報、CIAのエージェントから得た情報、ブッシュやゴルバチョイ達から得た情報、そして月で地球を監視している惑星開拓団のアルティミシア団長から得た情報なども加味すれば、行きつく答えはこれだ。
そもそも、テキル星でクラオ団長から得た情報とも重なるところばかりだし、俺が学園に居る頃から立てて来た仮説とも合致する。
あとは「あの本」の謎さえ解ければ、俺を悩ませる不確定要素は無くなるのに等しい。
それら全ての謎が解けた時、俺はやっと、仲間達との今後の幸福な人生を謳歌出来るようになるんだと思う。
テキル星でも見てきたが、レプティリアンとは爬虫類人間を作り出す事が出来る「元恐竜の末裔」の事だろう。
ならば俺達は戦い方を知っている。
勝利の経験もある。
だから今回も勝てると信じている。
しかし、それらの自信は「俺の仮説が全て正しければ」の話であって、実際はレプティリアンについて何も確信は得られていない。
なので一抹の不安は確かにある。
俺はそんな不安を吹き飛ばす様にティアとシーナの手を握り、
「さあ、エリア51に着いたら、早速色々見せてもらおう。半重力の研究や、他の惑星から来た生物の研究もあるようだからな。そして、それが地球の人類にとっての安寧に反するものの場合は、それを支持してきたレプティリアンを倒し、俺達の価値軸をこの施設に刷り込んでいくぞ」
と声に出してそう言って笑った。
ティアとシーナは俺が笑顔になったのを見て安心した様だ。
「ショーエンの言う事はいつも正しいのです。必ず成功するのです」
とシーナはそう言って俺の手を強く握り返した。
その時、機体がズズンと音を立て、どうやら無事に着陸した様だったった。
機体は徐々に減速し、ゆっくりと滑走路を移動している様だ。
俺達はそこでシートベルトを外し、俺はみんなに
「今のうちに各自装備を整えてくれ」
と言い、ティアとシーナがキャリーバッグを開けて、手早く全員分の小型レールガンを組み立ててみんなに配った。
俺自身も小型のレールガンを右手の袖の内側に仕込み、いつでも砲撃出来るようにしておいた。
シーナはもう一つ、音波兵器を組み立てていた。
これもテキル星で活躍した「対象を動けなくする兵器」だ。
直接相手を傷つけるものではないが、相手の動きを止められるというのは、戦いの勝利を確実なものにするのとほぼ同義だ。
動きを止めて会話をし、話し合いが決裂したらその場で倒す。
これが俺達の作戦でもあるし、俺達の戦い方のスタンダードモデルだ。
そんな準備を整える俺達の姿を、士官兵は横目で見つつ、身体は大統領の方へと向けて敬礼の姿勢を崩さない。
さすが米軍兵士だ。
大統領への忠誠の姿勢であり、服従の姿なのだろう。
やがて機体が停止したらしく、ブッシュと付き人、ボディガード達もシートベルトを外して席を立った。
「ハッチが開きます」
と士官兵が言い、壁際のレバーを引いたかと思うと、俺達が乗り込んだハッチがゆっくりと開いた。
途端に薄暗かった機内に外の光が差し込んでくる。
どうやら既に朝日が昇っているらしい。
俺のデバイスは日本時間のまま2月20日、21時16分を表示している。
時差を考えれば、エリア51があるネバダ州の時刻は2月20日、6時16分といったところか。
ブッシュと付き人がハッチの方へと歩き出すのに合わせて3人のボディガードがブッシュを取り囲む様に歩き出す。
俺達もそれに続く様にハッチの方へと歩き出した。
先回りする様に小走りでハッチから飛び降りた士官兵がタラップを準備して、ブッシュが地上に降りられる様にと足元を気にしながらサポートしている。
「ありがとう」
とブッシュが一言そう言い、地上に降りると振り返って俺達が地上に降りるのを手助けしようと右手を差し出した。
「それには及ばない」
と俺はフワリと宙に浮いてタラップを使わずに地上に降り立ち、俺のすぐ後ろにいたティアやシーナ達もフワリと宙に浮いて地上に降り立った。
それを見たブッシュは苦笑しながら肩をすくめ、
「本当に、奇跡の様な事を当たり前の様になさるのですな」
と呟いた。
「奇跡でも何でも無い。俺達にとっては当たり前の技術だ。地球人のお前達にとっては魔法にしか見えないだろうがな」
俺はそう言って辺りを見渡した。
所々に白い建物が見える他には何も無い荒野に見える。
遠くに白い岩で出来た丘が見えているが、情報津波でその岩に意識を集中していると、どうやらその地下には核実験施設がある様だ。
他にもいくつかの白い建物が点在しており、空港管制塔、気象研究施設、食糧研究施設、薬品研究施設、昆虫研究施設などがある様だった。
そうして情報津波を使いながら辺りを見回していると、何も無い荒野にふと違和感を感じた。
そちらを見ながら意識を集中していると、何も無いと思われた荒野に一つ、小さな小屋が建っている事が分かった。
その小屋は地下に降りる階段を隠す為に建てられており、その小屋の中は物置の様になっている。
しかし、物置にあるテーブルの下には、確かに地下に降りる階段が存在し、その地下には秘密の研究施設がある事が分かる。
さらに意識を強めてその施設の情報を探ると、その研究施設では、1947年にニューメキシコ州のロズウェルで起きたUFO墜落事故で捕獲した宇宙人「リトルグレイ」から得た知識を使った兵器研究が行われている様だった。
どうやらリトルグレイは2人捕獲したらしく、そのうち1人は既に死亡して解剖実験された様だ。
もう一人は今も生きており、言葉は通じないものの何とかコミュニケーションを図り、リトルグレイが持つ火星の技術を今も入手しながら、新たな兵器の研究を行っている様だ。
そして、この情報津波で分かった事がある。
リトルグレイが話している言語は「プレデス語」だと言う事だ。
その可能性は俺も考えていた。
レプティリアンとも会話が出来るプレデス語。
火星を発祥の地とするプレデス星人。
そして、今の「人が住めない環境に変わり果てた火星」から来たらしいリトルグレイ。
ならば、彼らの言語がプレデス星と同じ言語であっても不思議は無い。
なるほどな。
前世の地球では、俺達庶民の間では都市伝説でしか無かった「宇宙人」の存在。
リトルグレイはこの時代に確かに実在し、しかも彼らの知識や技術を学んで、アメリカという国は「兵器の開発」を行ってきた訳だ。
それが「300人委員会」が世界を支配できると思い込んだ理由の一つという訳か。
「大統領、この方角に小さな小屋があるな。その地下の研究施設に行きたい」
と俺が言うと、ブッシュは士官兵の方を見て
「おい、あちらに小さな物置小屋があるのは知っているが、地下に研究施設があるとは聞いていないぞ。事実はどうなんだ?」
と訊いた。
士官兵は直立したまま敬礼し、
「はっ! 最高機密の為、ここで詳細はご説明は出来ません!」
と言ってから「しかし、地下に降りる階段がある事は事実です!」
と、恐らくはそれがこの士官兵に許された最大限の表現だったのだろう、直接的な表現はしていないが、地下に研究施設があると分かる返答で応えた。
「そうか・・・、私もあの方達にとってはただの
ブッシュは苦虫を噛み潰した様な顔でそう愚痴ったが、姿勢を正して俺を見て
「承知しました、ショーエン様。その小屋の地下にある研究施設とやら、私も見てみたい所です。この男に案内させましょう」
と言いながら、士官兵を指さした。
士官兵は敬礼したまま、
「イエッサー!」
と言って踵を返し、俺が指定した物置小屋の方へと歩き出す。
それを見たブッシュが慌てた様に手を伸ばし、
「おい、随分と距離があるが、歩いて行くのか?」
と士官兵に質問を投げかけた。
士官兵はピタリと止まって回れ右をしてブッシュの方を見て再度敬礼し、
「はっ! あの施設には熱源探知機が設置されております。ジープのエンジン等が近づくと、研究施設内にアラートが鳴ってしまいますので、あちらの施設には自転車か徒歩で行くしか方法がありません!」
と説明してくれた。
ブッシュは肩をすくめ、
「そうか、ならば仕方が無いな。分かった。歩いて行こう」
と言って歩き出した。
俺は念のためティアに
「俺達は熱源になるようなものは持っていないな?」
と訊いておいたが、ティアは頷き、
「大丈夫よ。表面温度が36度以上になる物は何も無いわ。レールガンも身体に近づけて持っておけば、この世界のサーモグラフセンサーじゃ判別できないしね」
と言いながらドヤ顔だ。
なるほど、俺が気にするかも知れない事を、先回りして対策をしていた事が誇らしいんだな。
俺もそんなティアを妻にできた事が誇らしいぜ。
俺はそう思いながらティアの言葉に微笑んで頷き、
「ティアは最高の妻だ」
とだけ言った。
ティアは嬉しそうに肩をすくめて微笑み、それを見ていたシーナが俺の左腕にギュッとしがみ付いていたのだった。
--------------
「ここでお待ち下さい」
と士官兵が言った。
俺達は、例の小屋の地下にある施設へと降りて来ていた。
目の前にある扉の向こうが研究施設の様だ。
士官兵は扉の暗証番号キーを自分の身体で隠しながら操作し、カチャリと鍵を開く音がした後に扉を開けて一人で中に入り、中で警備をしている兵士と言葉を交わしている。
しばらくして士官兵が戻ってきて、
「大統領、どうぞお入りください」
と言って俺達にも顔を向けて部屋に入る様に促した。
部屋に入ると、そこはそれほど大きな部屋では無かった。
20メートル四方の部屋の中心に、直径10メートルくらいの円柱形のガラスで仕切られた空間があり、その中にはいくつかの機器が並べられていた。
俺は情報津波を使ってそれらに意識を向けると、それらが新たな金属合成の研究だという事が分かった。
なるほど、墜落したUFOから得た情報で、ボディに使われていた「シエロ合金」を真似て作りたいのかも知れないが、そもそも地球には「シエロ元素」が存在しないのだから、作れっこない。
だけど、色々な試行錯誤を繰り返していきながら、シエロ合金に近い金属を作ろうとしている訳か。
軽い金属といえばリチウムだが、ティアがリチウムイオン電池をこの世界に普及させていなければ、おそらくリチウムを電池に活用できる事を発見するのはこの研究所だった事だろう。
しかし、地球に存在しないシエロ元素を使った合金をいくら研究したって、ここで作る事は無理だ。
前世で俺が生きていた地球においてUFOが再現出来なかったのは、それが原因だろうしな。
俺は部屋の中央の設備を一通り見終わって目を上げると、
「ショーエン様!」
とブッシュが俺を呼んだ。
俺がブッシュの顔を見ると、その視線は俺の背後を見ていた。
俺が背後を振り返ると、そこにはリトルグレイが立っていた。
俺はリトルグレイの方に身体を向けて立ち、情報津波を使った。
120年前に火星で生まれたリトルグレイ。
火星での名前をイグアスというらしい。
やはりロズウェルに墜落した小型宇宙船に乗っていたクルーだった様で、今は英語を習得していながら、言葉を解せないフリをして軍隊に技術提供をしつつ、宇宙船の開発をさせて火星への帰還を目指している様だ。
驚いた事に、イグアスにも旧型のデバイスが装着されている様で、その形式はテキル星で自称魔術師のルークが使っていたものと同じタイプの様だった。
俺は目を瞑って情報津波を解除し、ティア達にも聞こえる様にデバイスを使って、プレデス語でイグアスに語り掛けた。
「俺はプレデス星から来たショーエンだ。イグアス、お前は火星に帰りたいのだな」
イグアスは無表情に見えたが、しかし目を見開いて驚いた様に俺を見返した。
「お前はここに囚われて60年。ずっと火星に帰る方法を一人で模索してきたのだろう。ご苦労だったな」
続けて俺がそう言うと、イグアスは少し俯いてからもう一度俺を直視し、デバイスで無声通話をしてきた。
「ショーエンさん、私の母星の言葉を解するのですね。とても嬉しく思います」
そう言ったイグアスは、能面の様な顔を幾分ほころばせたようにも見えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます