地球(12) 機上の決意

 1990年2月14日、水曜日。


 世間はバレンタインに浮かれていた。


 俺も、ティアとシーナがイクスの指導を受けて一緒に作ったというチョコレートを貰った。


 ミリカもイクスに特製のスーツをプレゼントしていたみたいだし、ライドとメルスも職場の女子社員から大量のチョコレートを貰ったそうな。


 ガイアとテラは元々前世で恋人同士だったのもあって、毎日がラブラブだ。


 今世では兄妹という関係にも関わらず、日本の規制が緩いのをいい事に、二人は毎週身体を重ねているようだ。


 それにしても、ライドとメルスは恋人を作らないのかな。


 ふたり共、容姿端麗で頭脳明晰な上にお金持ち。


 なのに、28歳になった今も.恋人が出来たなんて話は聞いた事が無い。


 ストイックに仕事に打ち込むのもいいが、そろそろプライベートの充実も経験して欲しい所だ。


 俺なんて、年齢と共に色香を増したティアと、何だか幼さが抜け切らないシーナの二人を相手に、それはそれは熱い夜を過ごす事も少なく無い。


 バレンタインデーの夜は、ティアとシーナが兼ねてより「行ってみたい!」と言っていたラブホテルを初めて利用したし。


 ティアもシーナもラブホテルのテレビで見れる「アダルトチャンネル」に興奮してしまい、興が乗ってしまった俺達は、翌朝まで何度も愛し合うハメになってしまった訳で。


 世界情勢が大変な時に「一体何を呑気のんきな」と思われるかも知れないが、俺達は来週20日にアメリカに渡航し、エリア51に行く事が決まった為、最悪の場合は最後になるかも知れない愛の営みを、精一杯行っておこうとしているのだ。


 だから尚更ライドとメルスの事が気になったとしても、それは道理だと思うんだよな。


 今度、ライドとメルスに理由を訊いてみる事にするか。


 まさかあの二人がデキてるって事は無いと思うんだが・・・


 まあ、それはそれであいつらの生き方なので、俺がとやかく言う事でも無いのかも知れないが、やっぱ信頼するメンバーの幸せを願うのは、リーダーとして当然の責務だよな。


 バレンタインデーは平日だったが、完全に「オフの日」として俺達はのんびりと過ごす事が出来たし、実は来週アメリカに向かう準備も既に整っている。


 俺達は民間人扱いなので、政府専用機で渡米するという訳にもいかない。


 となると、武器や兵器は持ち込めないので、ティアが既にレールガンを分解して工夫を凝らし、「楽器」として持ち込めるようにしていた。


 この時代は飛行機の中でタバコも吸えた時代だ。荷物の検査もそれほど厳しくはない。ニューヨークの空港にも金属探知機はあるが、楽器である事を説明してやれば、荷物がまさか兵器だなんて思いもしないだろう。


 そもそも、複雑な電子回路が組み込まれた「筒」でしかない小型レールガン等は、この時代の地球人には、これがまさか武器だなどと想像もつかないだろう。


 他に必要な荷物はほとんど無いが、まあ、いわゆる海外旅行に必要な着替えやキャリーバッグがある程度か。


 キャリートレーはライドとティアが協力して全員分を改造し、俺のと同じ、靴とベルト型にしてもらった。


 金属探知機には反応してしまうだろうが、この時代なら銃等の武器でなければ危険視はされない筈だ。


 そうしているうちに出発前日になり、俺は会社の社長室で最終打合せをする為にメンバー全員を集めていた。


「とうとう、明日はあの飛行機に乗れるんですね」

 とライドが空を飛ぶジャンボジェット機を見上げながらそう言っていた。


「ああ、ファーストクラスっていって、ゆったりできる座席に座れるから、そこそこ快適に過ごせると思うぜ」


 俺はライドにそう言ってほほ笑んだ。


「ガイア、テラ。英語の言語データを送ってくれてありがとう。これでみんな英語での会話も問題は無いだろう」


 アメリカに行けば会話は当然英語になる。


 俺は既にガイアやテラに英会話のデータをデバイスで送っていてもらったので英会話も問題は無かったが、他のメンバーにも同様の情報共有をしておいてもらった。


 言語データが共有されると、プレデス語で会話を想像した途端に現地の言語がデバイスに表示される。


 話す時はそれを読み上げれば良いし、相手の言語を聞いた時にはデバイスがプレデス語に翻訳してデバイスに表示するので理解も出来る。


 2035年にも高性能な翻訳アプリは普及していたが、プレデス星のデバイスはケタ違いに高性能だ。


 この時代の人間には、俺達が語学堪能な者にしか見えないだろう。


 俺はみんなの顔を見渡し、今回の計画を再確認する事にした。


「さて、明日の夕方に成田空港を出発し、JFK空港に向かう訳だが・・・」

 と俺は話し出した。


 計画の概要はこうだ。


 JFK空港に到着すると、通常の通関ルートで空港を出る。


 その後、FBIが手配したリムジンで同じニューヨーク州にあるラガーディア空港まで移動。


 ラガーディア空港では、アメリカ政府が手配した特別機が準備されており、特別機にはブッシュが既に搭乗して待っている手はずだ。


 そこからコロラド州の軍用空港に移動し、あとはエリア51の地下まで俺達を案内してもらう予定だ。


 ブッシュに指示を下していた「あの方」にはこの事は話していないそうだ。


「日本との交渉はアメリカ優位に進められた」との報告を行っているらしく、「あの方」とやらは俺達がエリア51に踏み込む事さえ知らないらしい。


 そもそも「あの方」とは何者かというと、ブッシュから得た情報津波とブッシュ自身が語った話を統合すると、アメリカを牛耳る財界の親玉だという事だ。


 エリア51の地下に居るレプティリアンを崇拝する秘密結社のメンバーの一人で、世界を牛耳る「300人委員会」という組織の「ナンバー2」なのだそうだ。


 世界には300人のレプティリアンを崇拝する財界の親玉がいて、「ナンバー1」はどうやら、イギリスで金融業を営む「ロスチル」という男らしい。


 世界中を金融で支配する為に、世界の中央銀行を作って国々の経済を支配してきた一族がその「ロスチル」の先祖なんだとか。


 日本の中央銀行である「日本銀行」もその一つで、確かに日本銀行は「株式会社日本銀行」という民間企業であり、その株主が非公開だというのも事実だ。


 51%の株式を日本政府が所有しているものの、残りの49%は「300人委員会」が所有しているというのがブッシュの見解だ。


 なるほどな。


 ロスチル一族と言えば、第二次世界大戦で日本に融資をしていた資産家だ。


 アメリカの中央銀行もロスチル一族の傘下だという事を考えれば、ロスチルは日本にもアメリカにも融資をし、どちらが戦争に勝っても儲かる仕組みを作っていたという訳か。


 前世で経験した第三次世界大戦でも恐らく同じ構図だったんだろうな。


 世界のどこかで戦争が始まる度にアメリカや日本の株価が上昇するのを不思議に思っていたが、まさかそんな事情があったとはな。


 なので俺達は、そうした金融業界を改心させる為にも、世界を牛耳る悪徳資本家が崇拝の対象としている「ルシファー」を倒す必要があるという訳だ。


 ルシファーはレプティリアンだ。


 俺達プレデス星人の価値観で見れば「罪人」でしかない。


 しかし、月の内部でアルティミシアに聞いた話だと、レプティリアンとプレデス星人は太古に結んだ契約によって「地球人を使って資源採掘を行い、それを月と火星に提供する事」とされているらしい。


 つまり、俺達がやろうとしている事は、その太古の契約を破る行為だ。


 プレデス星人としての義務を果たす為には、地球の資源を月と火星に送り続ける必要があるし、それを可能とする為に地球人は資源を適度に循環し続けなければならない。


 なので、それらの流れを止めずに地球の状況を改善する為に「ルシファーを倒し、俺達がその立場に取って代わる」のが今回のミッションという訳だ。


 地球人とは愚かな存在だ。


 私利私欲と保身に取り憑かれ、信仰に免罪符を見出している。


 ならば彼らの信仰対象を変えてしまえば、彼らは「新たな神」に殉じるしか無くなるだろう。


 地球人には狡猾こうかつな悪人が大勢いる。


 その狡猾な悪人達によって地球人の大半が操られ、善良な庶民でさえその悪事の片棒を担がされる。


 金融、医療、食、メディア、教育・・・


 そうしたものを支配する事で人々をコントロールしやすい様な仕組みを、過去数百年かけて作り上げ、このままいけば、2020年にはIT技術によって人々を監視する社会が待っている。


 ちょっとやそっとの改革を行ったところで、彼らの数百年に渡る計画は止まらない。


 だから、根源である彼らの信仰対象を倒すのだ。


「その結果、私達がこの星の神となり、信仰の対象となり、人々が生きる上での規範を作っていく流れになるのね」


 俺の話を締めくくる様にティアがそう言った。


「ああ、そういう事だ」


 俺はそう返し、もう一度みんなの顔を見渡した。


 みんな俺の話はきちんと理解できている様で、意志が固まっている事も表情から読み取れる。


 やっぱみんな優秀だよな。


 メンバーが優秀だと、リーダーはこんなにも助かるもんなんだな。


 俺がそんな事を考えていると、シーナがニンマリとして


「リーダーがショーエンだから、計画がいつもスムーズなのです」


 と言った。メルスも頷き、


「本当にそうですね。リーダーが優秀だと、これほどまでに仕事がはかどるのですから、本当に驚きです」


 と続く。さらにミリカまでが、


「私が経営する会社のマネジメントも、ショーエンさんのマネジメントを参考にしてなければ人々はこうまで効率的に働けなかったですよ」


 と言い出す始末。


「おいおい、どうしたんだみんな?」


 と俺は声に出して言い、「みんなが優秀だから俺の計画がスムーズに進んでるんだと、俺は思ってるぜ」


 と続けてみんなの顔を見回した。


 するとみんなは俺を見返して、みんなの意見を代表する様に


「そういうところも、本当に素晴らしいと思います」


 とライドが言った。


 なんだよ、照れるじゃねーか。


 ・・・だけど、


「そうか、みんなありがとうな」


 と俺はそう言い、席を立って窓際に向かった。


 窓の外はちらほらと雪が降っていた。


 それは、熱くなった俺の胸の内を、ゆっくりと冷まそうとでもしている様に見えたのだった。


 --------------


 1990年、2月19日の月曜日、16時15分。


 俺達が成田空港に到着すると、鮫沢がSPに囲まれながら、俺達の見送りに来ていた。


「ショーエン様、出国審査がスムーズに済む様に手配をしておきました。機体のチェックも万全ですし、機長以下、搭乗員の身元調査も済ませてあります。こちらでご協力できる事はここまでですが、安全な空の旅と、アメリカでのご武運をお祈りしておりますよ」


 そう言って俺の手を握った鮫沢の姿を、空港の職員が不思議そうに見ていた。


 俺達が何者なのかと不思議に思っているのだろう。


 それもそうだ。


 俺達は「有力無名」をつらぬいて来たのだ。


 世界を牛耳る「300人委員会」のメンバーも同じ、あまり表には出て来ない為に誰もその名を知らないが、地球上で生きているならば、その影響力は少なからず必ず受けているという有力者達な訳だ。


 敵がそんな影の有力者なのに、こちらが情報だだ漏れなんてのは不公平にも程がある。


 なので俺達は実力を発揮する為にも、有名人にならない様にと気を配って来た。


 そんな無名の俺達に、腰を低くして接する総理大臣の姿は確かに不思議な光景だろう。


 しかも、スムーズな出国が出来るようにと指令まで下りてきているのだ。


 名も知らぬ有力者集団が飛行機に乗る。


 航空会社のスタッフも、責任感からか仕事もいつもより念入りに行ってくれている様だった。


「色々と手配をしてくれたようだな。礼を言う」


 俺が鮫沢にそう返すと、鮫沢は深々と頭を下げて、


「どうか無事に日本にお戻りになる日を、心待ちにしております」


 と言ったまましばらく頭を下げていた。


「ああ、俺達がルシファーに代わる神になって戻って来るさ。この地球を、他の銀河に誇れる星にする為にも、お前は日本国民全てが幸福になる為に力を尽くせ」


 俺は鮫沢にそう言うと、鮫沢は頭を下げたまま、


「この身が果てるまで尽力じんりょく致します!」


 と言ってからようやく頭を上げた。


「ああ、期待しているぞ」


 俺はそう言葉を残し、出国手続きのカウンターへと向かったのだった。


 --------------


「ショーエン、さっきスチュワーデスさんに聞いたのですが、カリフォルニア州にあるローストビーフのレストランがとても美味しいらしいんです。無事に仕事が終わったら、私達はそこに行きたいのですが、構いませんか?」


 飛行機は既に安定軌道に入っており、俺達は機内食を食べて落ち着いた後だった。


 イクスは食事をしながらスチュワーデスと何か話しているとは思っていたが、なるほど、そういう事だったか。


「ああ、仕事が終わればカリフォルニア州に向かうつもりだぜ。シーナもハリウッドに行きたいみたいだし、おれもカリフォルニアには行きたいところがあるんだ」


「有難うございます。無事に仕事を終えて、美味しいローストビーフをみんなで食べてみたいですね」


 そうイクスは言いながら自分の席に戻って行った。


 ガイアとテラは、食後はずっと映画を観ている様だった。


 ライドとメルスは、窓からの暗くなった景色を眺めながら、二人で色々と話し合っている様だ。


 ミリカは席に戻ったイクスと会話をしながら、どうやら座席に設置されていた紙で出来たスリッパや配布されたブランケットに興味を持っている様だった。


 シーナは俺の左隣の座席に座り、ずっと俺の左手を握ってウトウトと居眠りをしている様子。


 ティアは俺の右隣の通路を挟んだ席に座って、スチュワーデスが食後に運んできたアップルジュースを飲みながら、モニターに映る地図を眺めて何かを考えている様だった。


 俺は軽く目を瞑り、これまでの事を思い出していた。


 2035年の東京で出会った、あの不思議な本と出合った事。


 そして、いつの間にかプレデス星でショーエンとして生まれ変わっていた事。


 プレデス星が超未来的な先進技術で満たされた星で、感情の起伏も少なく、ただ健やかに生きていた人間が大半を占めていた事。


 そして学業優秀な者はクレア星に移住して、惑星開拓団を目指す者が居た事。


 俺もその一人で、クレア星に移り、最初にメルスと出会い、ティアと出会った事。


 その後、シーナ、ライド、イクス、ミリカと出会い、学園で人格形成と文化の形成を行っていった事。


 そして俺達が学園史上最高の成績をあげた事で、特別研修生としてテキル星の惑星開拓に関わった事。


 テキル星でライドとメルスが飛行機に変形できる人力自動車を作った事。


 ティアやシーナもレールガンや通信機を作って貢献してくれた。


 イクスは新たな食料を次々と開発したし、ミリカもピグマリオン効果が実感できる素晴らしい衣装を沢山作ってくれた。


 バティカを飛び立った時にティアが話した「星の記憶」という話。


 俺が前世の東京で見つけたと関係があるのかどうかがまだ分からないが、俺はおそらく「星の記憶」と呼ばれる本を手にしていたという事なのだろう。


 テキル星で色々な人に出会ったが、そこで俺と同じ様に地球で生きていた記憶を持ったガイアとテラに出会った事も大きい。


 この地球に移ってからの俺達の収益の半分は、ガイアとテラが株式投資によって稼いだものだ。


 空気から金を作る様な金の稼ぎ方など、ガイアとテラが居なければ到底出来なかっただろう。


 テキル星でドラゴンと出会い、そしてレプト星からの移住者がテキル星を支配しようとしていた事も記憶に新しい。


 それらを撃退し、新たな国政の仕組みを作ってテキル星を平和な星にした事。


 これが俺達が地球に来るまでに経験した大枠の流れだ。


 そして、これまでに分かった事も沢山あった。


 まずは俺達人間の起源が太陽系の火星にあったという事。


 そして、当時の地球には人類は居らず、恐竜が地上を支配していた事。


 しかし、太陽系に起こった異変によって、火星は人類が住みにくい星となり、地球にも隕石が衝突したりして、恐竜達も存亡の危機に陥った事。


 その後人類は火星の復興の為に地球を開拓して資源採取を始め、その見返りとして、開拓した地球の支配権を、生き残った恐竜に譲渡するという契約を結んでいた事。


 その為に「月」という巨大な衛星を作って地球を常に監視し、そして資源を採取して火星に送り続けていた事。


 その為に優秀な人材が必要になり、火星から逃れた人間がプレデス星に移り住んで、プレデス星を「優秀な人間を製造する為の工場」にしていった事。


 その結果、今の地球は強欲で傲慢なレプティリアンが影で支配する星になっている事。


 そして、レプティリアンを「ルシファー」として信仰している「300人委員会」と呼ばれる、この世界の支配者を自称する人類が居る事。


 そしてほぼ全ての人類が、それら一部の人間によって「経済的」に支配されており、その支配が国家レベルにまで至り始めていた事。


 地上の人類には想像もつかないだろうが、今の俺なら想像が出来る。


 レプティリアンの目的は、この地球を再び爬虫類人間の支配下に置く事であり、その為の奴隷として人類を利用するという事。


 つまり、レプティリアンの目的とは、太古の恐竜時代の様に「地球を取り戻す事」であり、「奴隷以外の人類を火星に追い出す事」だ。


 そして、月で傍観している惑星開拓団達、すなわちプレデス星人達の目的は、「火星復興の為の資源を地球から吸い出し続ける事」であり、「火星の復興に必要になる優秀な人類を地球で育てる事」という事だろう。


 つまり、これまでに日本で出会った親切な蕎麦屋の夫婦も、相模原で出会った吉田松影とその母親も、レプティリアンの奴隷として生きて行く未来に向かっているという事だ。


 それにあらがおうとしているのが俺達という構図なのだろう。


 なので、太古の契約を破るつもりの俺達に、月に居た惑星開拓団は積極的な協力はしなかったし、団長のアルティミシアも「惑星開拓団とは別の組織」として俺達を位置づけて、最悪レプティリアンの怒りを買ったとしても責任逃れが出来るようにしておいたという事なのだろう。


 しかし、プレデス星は今や宇宙で最大の「優秀な人間製造工場」となり、様々な惑星開拓にも成功し、人類の繁栄を築いて来る事に成功している。


 そうして自我が芽生えた人類は、自ら「星と共に生きる方法」を見つけた事により、レプティリアンの為に尽くす事を良しとはしない価値観を生んだという事か。


 その為、俺達の様な「史上最高成績の人間」が生まれた事で「野蛮なレプティリアンとの契約を解消し、高貴なプレデス星人による惑星支配」の可能性を見出す事に期待したという事だ。


 俺達が失敗してもプレデス星人とレプト星人の関係は変わらない。


 しかし俺達の計画が成功すれば、宇宙の星々はプレデス星人が支配する事になる。


 つまりはそういう事だ。


 俺達はプレデス星人の未来を広げる可能性を持った存在ではあるが、失敗しても惑星開拓団とは無関係な存在として扱われるという事か。


 つまりは、使い捨ての駒のようなものだ。


 これまで全てがうまく行っていたおかげで、俺達の自尊心は満たされていた。


 けれど、そんな自尊心など、プレデス星の巨大な意志から見れば、ほんの些細な事でしか無いって訳だ。


 そんな事の為に俺は生きていたんだな。


「ははっ・・・、滑稽こっけいだな」


 俺はつい、そう声に出していた様だ。


「どうしたの? ショーエン」


 とティアが心配そうに俺を見た。


 俺はティアの左手を握りしめ、


「ティア、俺はお前達と一緒に居られる事がとても幸せだ。お前はどうだ?」

 と訊いた。


 ティアは突然の俺の質問に少し困惑した様子だったが、


「私は、私の存在を必要としてくれるショーエンと居られる事が幸せだわ。それはシーナも同じだし、他のみんなも同じ気持ちよ」


 と答え、俺の右手を強く握り返した。


「そうか・・・、ならばこの幸せを、死ぬまで続けたいよな」


 と俺が言うと、ティアはゆっくりと頷き、


「たとえ今ここで死んだとしても、私は幸せな人生だったと、胸を張って星の記憶に残る事が出来るわ。そして、これからもこの幸せが続くのなら、それはとても素敵な事ね」

 と言った。


 ああ、そうだな。


 俺達は悔いが無い様に一生懸命に生きて来たと思う。


 たとえ今日死んだとしても、これまでの人生が「幸せだった」と胸を張って言えるだろう。


 だけどこの幸せを、寿命を全うするまで続けられたとしたら、それは最高に幸せな人生だったと星の記憶に刻む事が出来るだろう。


 前世で絶望に満ちた世界を生きて来た俺だから分かる。


 これから俺達がやろうとしているミッションは、「俺達が幸福のまま寿命を全うする」為のミッションだという事が。


 だったら成功させるしかない。


 プレデス星人とレプティリアンが交わした過去の契約について、俺達が気にする事など何もないじゃないか?


 そんな責任を負う契約など、俺達は何も結んじゃいない。


 俺達は俺達が幸福である為に生きればいいのだ。


 今回のミッションは日本の為でも世界の為でも何でも無い。


 ただ、「俺が生きていたい世界」を実現する為に、人々が笑顔で過ごせる世界で「俺が生きたい」為にやる事だ。


「ティア、今回のミッションを成功させて、俺達が最高に幸せな人生を送れる様にしような」


 俺はそう言ってティアの手を引き寄せ、他のメンバーが見ているのも構わずに、ティアの唇にキスをしたのだった。


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