地球(7) この世界がカオスだった件

 俺達が地球に来てから3年が経過した。


 今日は1984年の3月28日。


 鮫沢の協力もあって、俺達の事業はとんとん拍子に拡大し、俺達は日本においてそれなりの地位を確立していた。


 経済的には俺が望んだ通りの成果が出せたし、贅沢な暮らしに興味は無いが、とても満足のいく生活をしている。


 俺は今夜鮫沢と会食をする為の準備をしていたが、留守番のシーナがテレビで相撲を見ており、高見山が千代の富士に勝利した試合に興奮しているのを見てほほ笑んだ。


 ティアは昭和の日本には似つかわしくない程に洗練された女性へと成長しており、変わらぬ美貌と卓越した能力で、オフィスでも女子社員の憧れの的となっている。


 イクスが小規模で展開している飲食店は軒並み成功を納めているが、物流の不便さから全国展開は行っておらず、今は店舗を教育の行き届いたスタッフに任せ、ミリカと一緒に全国を旅しながらグルメ研究をしている様だ。


 ミリカはイクスと共に旅をしながら様々な衣装デザインを発信しており、官公庁の制服、公立学校の制服、体操服や水着など、主に実用的な衣装の大量生産で売り上げを伸ばしている。


 この業績は、プレデス星の住民なら誰もが着ていたローブと同じ「形状記憶技術」を、ミリカが開発した「形状記憶素材」として発表したことがきっかけになっており、この当時には存在しなかったはずの技術をミリカがいち早く地球上で開発した事で、世界中の服飾メーカーがミリカの会社に問い合わせをしてきた。


 ガイアとテラは株取引と為替トレーダーとして活躍している。


 株式の動向をデータ分析し、それをプログラムして作ったシステムにより、テクニカルな動きを瞬時に判断して株の売買を自動で行う仕組みを開発し、ガイアとテラはそれを時々メンテナンスするだけでどんどん利益が出せるので、ほとんど毎日を世界の動向を世界中のニュースから集める作業に費やしている様だった。


 ライドとメルスは自動車整備士の資格を取得した後に、自分達で自動車整備工場を作り、傍らで独自の自動車開発を行っている。


 この時代、日本ではテレビのバラエティ番組が国民のマインドを掌握しており、ほぼ全ての価値観をメディアが操作していたといっても過言では無い。


 シーナはそうした番組を見て楽しみながら、一方では冷静に、番組が人間のマインドに与える影響をしっかりと分析して記録していた。


 そもそもシーナは俺達にとって重要なミッションを、この3年間で完了させていた。


 それは俺達が日本のどこに居てもデバイスで相互通信出来る様に、オリジナルの中継器を設置してくれた事だ。


 この時代にインターネットなど存在していないおかげで、俺の情報津波を併用して他のメンバーと情報を共有する事で、鮫沢が紹介してきた政治家達は、俺達を「プレアデス星団から来た神の使い」と信じるしか無い様だった。


 そう、この時代の人々は、とても扱い易いのだ。


 なので今のところは抜かりは無い。


 俺達は着実に計画を実行に移し、この3年間で成果を積み上げてきた。


 資金の心配など無い。


 嫌な上司も居ない。


 惑星開拓団への報告義務も無い。


 何の縛りも無い完全なる自由な世界は、俺達にとってはとても都合が良い社会だった。


 信頼する仲間と共に生活し、皆が一様に幸福感を感じているこの環境が、このままずっと続いて欲しいと心から願う程だ。


 しかし、俺の目的はそこではない。


 今後やってくるであろう地獄の様な世界を回避する為に、今のうちにやらねばならない事は山ほどあるのだ。


 事実、俺達がその業界で力を持つ様になればなるほど、様々な悪意が俺達に迫って来る事にもなっていた。


 その代表的なものが、鮫沢に敵対する政治家が雇った「探偵」だ。


 コソコソと俺達を尾行したり、影から自宅を張り込んでみたり、俺達にさり気なく話しかけてきた者も居た。


 情報津波が使える俺に彼らの正体を見破れない訳が無く、彼らが誰の依頼で俺の何を知りたいのか、その全てがお見通しだった。


 夜中に自宅やオフィスに盗聴器を仕掛けた者も居たが、俺達は機密情報はデバイス通信で共有していたし、メモも音声データも残しちゃいない。


 外国から来たエージェントも居たが、結局彼らは俺達から何かの情報を得るには至らなかった。


 それも当然の話で、俺達の戸籍情報からして偽造したものなのだ。


 本籍地まで赴いて俺達の事を調査した者も居た様だが、誰も俺達の幼少期を知らないという事しか分からず、俺達は「正体不明のグループ」として認知されていた。


 どんなに調査しても、素性すら分からないというのは、探偵やエージェント達を恐怖に陥れる事になる。


 諜報員という連中は、常に「情報勝者」でなければ安心出来ない奴らだ。


 なので、俺達の情報は1つも入手出来ないのに、俺達はエージェント達の情報をお見通しというのは、彼らにとっては恐怖でしか無いのだ。


 そういえば、こんな事があった。


 アメリカから来たCIAのエージェントであるジュリエットという女が、俺のコンサル会社へのクライアントを演じてやって来た。


 アメリカの製薬会社の役員秘書という設定で、名前をシェリーと名乗って俺の元に訪れたのだが、情報津波を使った俺は、


「やあ、ジュリエットさん。とうとうCIAが俺にハニートラップを掛けてくるとは驚きだね」


 と挨拶すると、シェリーと名乗った筈のジュリエットは、可哀想な程に狼狽ろうばいしていた。


「な、何の事かしら?」


 とジュリエットは取りつくろおうとしていたが


「君はミシガン州の出身だよね? ランシングに住む君の母親のナタリーは、まさか君がCIAのエージェントだなんて思ってないだろうね」


 と俺が言うと、ジュリエットは壁を背にして突然服を脱ぎ出し、下着を引き千切る様にして全裸になると、自分で自分の顔面を殴りつけ、


「キャー! 誰か助けて!」


 と金切り声を上げた。


 何事かとは思ったが、要は俺に乱暴された様に見せかけたいのだろう。


 しかしそこに隣室から現れたシーナが落ち着いた動きでジュリエットの服を拾い上げ、


「アナタの事は、隣の部屋でカメラ越しにずっと見てたのです。両親にまた会いたければ、さっさと服を着て帰るがいいのですよ」


 とにこやかに応対するシーナの美貌に、ジュリエットは目を見開いたまま動けず、本能的に「自分がどうにか出来る相手では無い」と悟った様だった。


「ショーエン、この人はどうすればいいですか?」

 とデバイスで訊いてきたシーナに、

「そのまま無事に帰して、CIAの連中にそのまま報告させてやればいい」

 と返すと、

「この女の上司の名前は判るですか?」

「ああ、ジェームズという男だ」


 デバイスの無声通話で俺は、ジュリエットとジェームズのやり取りのイメージをシーナに送ると、シーナは頷きながらジュリエットに向かい、


「国に帰ったら、ジェームズに宜しく伝えてほしいのです。で、次に余計な事をしたら、ジェームズに関係する家族、友人、妻、息子達全員に不幸が起こるかも知れないと伝えてほしいのです」


 シーナはまるで天使の様な微笑みで、しかし冗談とは思えない強い口調でそう言うと、ジュリエットは両手を上げて


「・・・降参するわ」


 と言いながら首を振り、肩をすくめて大きく息をついてから俺の顔を見た。


「あなたは・・・、一体何者なの?」


 まっすぐに質問された俺は、軽く笑顔で一言、


「神の使いさ」


 そう言いながら、ティアがキャリートレーを改造して作った靴とベルトを操作してその場で宙に浮いて見せた。


 ジュリエットはまるで信じられないという様に目を見開いて俺が浮かんでいくのを見つめ、俺が室内を右へ左へと浮遊しながら移動して見せた時にはとうとう悲鳴を上げて腰が抜けた様に座り込み、両手を胸の前で組んで

「神よ! どうか愚かな私をおゆるし下さい!」

 と震えながら叫んでいた。


 当時のアメリカには、敬虔けいけんなクリスチャンが多かった様だ。


 超常現象を起こす「神の使い」を信じられるだけの価値観は、CIAのエージェントにもまだ残っていた。


 ジュリエットもそんな一人で、その後、ジュリエットはCIAの事務職へと転属された様だった。


 今もCIAのエージェントらしき者達は俺に近づいてくるが、最近は彼らも俺と下手に敵対するような事は無く、表面上は仲良くする様にしている。


 エージェント達にとってもその方が良いのだろうが、俺からすれば、情報津波で彼らの目的は手にとる様に分かるし、アメリカがどういう国なのかがだんだん分かって来たところだ。


 まず、アメリカの「エリア51」と呼ばれる場所がある事。


 そしてそこに機密情報が集まる地下施設がある事。


 さらにそこでは複数の「宇宙人」がとらえられていて、色々な技術情報を得ようとしているという事。


 そしてその「宇宙人」というのが、火星で生まれた現地人類である「グレイ」と呼ばれる人類だという事。


 グレイからは、地球でいうところの「先進技術」として「半導体を使った電子回路技術」を研究しており、これを30年かけて兵器に転用する計画がある事。


 更に、地球の電離層を利用した電磁パルス信号の技術も開発しようとしており、これはやがて「気象兵器」とも呼ばれる、気象をコントロールする事が出来る恐ろしい施設を作り出す研究だ。


 そしてもう一つ、グレイが地球に来る時に使っていた、いわゆる「UFO」に使用されている「反重力」の技術も研究されている様だ。


 しかし、今の地球人にはその技術の解明はほど遠く、反重力技術が完成するのはおそらく無理ではないかと俺は考えている。


 何故なら、反重力技術を手に入れたとしても、地球には無い金属を作る必要があり、現存する地球の金属ではUFOが作れないからだ。


 少なくとも、俺が前世で生きて来た2035年までの地球では、反重力の技術は完成していなかった筈だ。


 更にエージェント達に情報津波を使っていて分かった事がある。


 そもそもアメリカという国は「一部の人類によって世界を支配する為に作られた要塞国家」だという事だ。


 事実アメリカは世界最大の軍事国家であり、世界最大の金融市場でもある。


 この仕組みを作ったのは、過去に惑星開拓団が創造した4種類の人類のうちの「白い人類」なのだが、彼らを影で操っている「宇宙人」の存在が垣間見える。


 彼らは「遺伝子操作」を得意とする「宇宙人」の様で、人間を改造して「爬虫類の様な姿になる事が出来る」という噂を、複数のエージェントが見聞きしている様だった。


 おそらくは「レプト星人」の事だろう。


 エージェント達はその宇宙人の事を「レプティリアン」と呼んでいる様だった。


 そういえば鮫沢も同じ様な噂を耳にしたと言っていた。

 彼も確か「レプティリアン」という呼び方をしていた筈だ。


 その「レプティリアン」もどうやら複数存在している様で、エリア51の地下深くで暮らし、人類を影で支配しようとしているらしい。


 そして、そのレプティリアンを「神」としてあがめる秘密組織を作った人類も居る様で、その組織が「世界支配」を目論んで、その基地とする為に作った国が「アメリカ」だという事だ。


 俺が前世で生きていた頃、それも若い頃は「アメリカは自由の国」と呼ばれていた。


 そこには無限の可能性があり、アメリカでビジネスを成功させる事で豊かな人生を送る事を目指す「アメリカンドリーム」という言葉が日本でも有名だった。


 しかし、それらは全て罠なのかも知れない。


 俺達プレデス星人の発祥の星が、実はただの「高度な人間製造工場」であった様に、この地球もレプティリアン達にとっては「高度な資源採掘現場」でしかないのではないか。


 そしてその作業を担わせる為の工夫こうふとして地球人を利用しようとしているのだろう。


 資源は次から次へと湧いてくる。


 その資源を適度に循環させる為には「資源を消費」する事も必要だ。


 それを月に居る惑星開拓団の連中もやっているらしいし、地球上の人類も資源を消費して循環させる為の素材として存在している。


 人類に資源を利用した製品を開発させ、流通し、消費し、そしてまた採掘して製品を開発してゆく。


 この循環を永久に行う為に、それを監理させる人類として「白い人」が丁度利用しやすかったという訳だ。


 白い人類は、出来るだけレプティリアンの怒りを買わない様に従属し、崇拝し、そして教団を作って秘密組織を拡大していった。


 地球の人類の数からすればほんの一握りの人類だけがその力の恩恵を受けて、他の人類を隷属させて利用しようとしていた。


 そしてその区別をする為に彼らが行ったのが「肌の色で区別する」というものだった。


「白い人類は高貴な存在」と流布し、圧倒的多数を占める「黄色い人類、黒い人類」を長い年月をかけて徹底的に差別する事で弱体化させていった。


 これも「ピグマリオン効果」だ。


「肌が黒い奴は入店禁止!」「肌が黄色い奴はエサでも食ってろ!」


 そう言われ続けて差別を受けるうちに、彼らはのだ。


 俺がクレア星の学園で普及させた制服もピグマリオン効果を狙うものだったが、ピグマリオン効果とは元々、こうした差別的な効果を狙ったものが主流だったのだ。


 さらに日本国内を騒然とさせている事件がある。


 それは「クリコ森長事件」と呼ばれる事件だ。


 スーパーの菓子売り場に並ぶ「クリコのキャラメル」「森長のチョコレート」等の箱に「毒入りキケン、食べたら死ぬで」と書かれた貼り紙があり、実際に菓子の箱には注射針程度の穴が開いていて、調べてみると青酸カリが入っていたという事件で、その後クリコの社長が誘拐されるという事件にまで発展した。


 社会が壊れかけている。


 子供の頃には分からなかったが、今の俺ならそう感じる事が出来る。


「怪人21面相」と名乗る犯人は、そうした壊れかけた社会を象徴する人類の内の一人であったのかも知れない。


 その日の夜、いつも通りに鮫沢と会食をした俺は、ひとつ重要な話をする事にした。


「世間を騒がせている『怪人21面相』とやらですが、ショーエン様はこれの正体をご存じなんですか?」


 鮫沢はそう訊いたが、俺は首を横に振り、

「いや、俺も全てを見通せる訳では無い。しかも、神の意志とは無関係な遺伝子を持つ人類の動きについては尚更だ」

 とお茶を濁す事しか出来なかった。


「しかし、今日はもっと重要な話をしなければならない」

 と俺は口火を切って話し始めた。


「といいますと?」

 と身を乗り出す鮫沢は、今日の俺の話す事を想定している様だ。


「お前を総理大臣にする時期が近付いている」


 と俺は言った。


 鮫沢は頷くと、


「そろそろその話が出る頃かと思っておりましたよ」


 と言いながら、日本酒の入ったグラスを手に、一口グビリと飲んで息を吐いた。


「確か、来年あたりに航空機が墜落する事故が起きると仰ってましたな」


「ああ、ニューヨークのプラザホテルで開催される為替市場の改変に関する会談に、日本が合意しない事で起こされる事故だ」


「その事故を回避する事は出来ないのですか?」


「わからん。が、回避する為にはプラザ会談で合意するしか無いだろう。しかし、その代償は、日本に不利にしかならん為替改変だ。せっかく戦後の困窮から脱して成長してきた日本経済が、アメリカ主導で食い物にされるぞ」


 鮫沢は目を瞑って腕を組み、


「悲しい事ですが、ある程度国民の命を犠牲にして、大多数の国民の生活を守るべきなのかも知れませんな・・・」


「残念ながら、そういう事だ」

 と俺はそう言ったが、「しかし、まったく手が無いという訳でも無いぞ」

 と続けた。


「おお・・・、それは一体どういう?」


「この事故は、プラザ合意に賛同しなかった日本に対する警告の意味がある。そして、アメリカに従属しない今の総理大臣を失脚させ、次にCIAの息が掛かった政治家を総理大臣にしようという動きがある。そこに俺が支援するお前を登場させる事で社会をコントロールする力のバランスを崩しにかかる事が出来る訳だ」


「しかし、それでは航空機の事故は免れませんな」


「ああ、航空機の事故は免れないが、犠牲者を減らす事なら可能だ」


「なるほど・・・、それはどのような手段で?」


「それはな・・・」


 俺は密に考えていた計画を鮫沢に語る事にした。


 俺が前世で見た航空機事故では、500名以上の犠牲者が出た。


 その中には有名な歌手も含まれており、そうした有名人を犠牲者にする事で、国民や政治家へ恐怖心を植え付ける効果が高まる事になる。


 しかも、1985年はアメリカが日本の経済を支配する為に具体的に動き出した年でもあるのだ。


 電電公社の民営化でNNTが生まれ、その株式の3割近くを外国の投資家が買い、実質的に日本の通信事業を外国勢力に掌握されたのもこの年だし、男女雇用機会均等法が成立し、子供の教育を家庭でさせない様に仕向けたのもこの年だった。


 アメリカが本格的に日本を経済的に乗っ取ろうと動き出した節目の年なのだ。


 当時の日本国民はそんな事は知る由も無い。


 日本の政治家がアメリカによってコントロールされ、勤勉で優秀だった日本のサラリーマンを奴隷化してゆく為の布石を打った訳だ。


 俺はこの年を変えたいのだ。


 俺に接触してくるCIAのエージェントを巧みに誘導し、嘘の情報を掴ませ、航空機の事故は起こしても、犠牲者が最小限になる様にする。


 そうする事で、「日本は神に守られた国」という印象を世界に流布するのだ。


 そして、その時には俺が「神の使い」として打って出る。


 そうなれば奴らも出て来るだろう。


 そう、レプティリアン達だ。


 その日の為に俺達のメンバーは起業して財力を高めていった。


 やがて戦う事になるであろう敵と対峙できるだけの力を手に入れる為に・・・


「なるほど・・・、これまでのお話を聞いておりますと、CIAのエージェントもあなたには下手に手を出せない様ですが、それもあなたが目立った動きをしていないから泳がされているだけで、来年、あなたが直接動くとなると、奴らも動きだす事になり兼ねませんぞ」


 鮫沢がそう言うのは、俺の身を案じての事だろう。


「ああ、しかしそれはお前も同じだ。むしろ、政界で矢面に立つのはお前だぞ?」

 と俺が言うと、鮫沢は笑顔で頷き、


「構いませんとも。その覚悟で政治家になったのです。そして、あなたに出会った事もきっと神のご意志なのでしょうからな」


 と言ってグラスに残った日本酒を飲み干した。


「よし、では今の内に電電公社と繋がる総務省の動きを把握しておいてくれ。アメリカの投資家勢力に、日本の公益法人の主導権を握らせない為にもな」


「承知しました。お任せ下さい」


 俺達はそう言葉を交わすと、鮫沢が先に席を立って会計を済ませに行った。


 俺の後ろではティアが常に会話の内容をデバイスに記録しており、更に盗聴等が無い事を監理している。


 この計画がCIAに漏れる事は無い。


 鮫沢が誰にも話していない事は定期的に情報津波で確認もしている。


 出来る筈だ。


 俺達で地球の歴史を変える事が。


 俺が知っている「地獄の様な社会」にしない方法を実現する事が出来る筈だ。


 俺は前世で生きていた頃は、地球に住む人類の大半が「平和を望む善良な人々」だと思っていた。


 しかし実際には、既得権益にすがる民間企業、利権を貪る政治家、日本の庶民が生み出す利益に群がる外国人投資家、更には日本を奴隷国家にしようと目論む世界の支配者勢力があるのが現実だった。


 始めは、俺が1981年の地球にやって来た事に何か意味があるのだと思った。


 日本が大きく変わった1985年が全ての始まりの年で、それまでの人類はやはり善良だったのだろうと思っていたのだ。


 しかし違った。


 陰謀の歴史は中世にまでさかのぼり、イギリスの王室を経済的に乗っ取った貴族であるロスチル一家が世界の経済覇権を求めた事から始まっていた。


 それまで金本位制だった金融市場を、機械で印刷しただけの紙切れをどんどん普及させて「空気から資金を作る方法」を確立してしまった。


 いわゆる「信用創造」という形でお金を作る事で経済を異常に膨らませ、政府に借金させる事でしか公共事業が出来ない様な仕組みを作って、世界中の中央銀行をロスチル一家が実質的に支配してきていた。


 日本の中央銀行でさえそうだった。


 株式会社日本銀行。


 よく考えればおかしな話だ。


 政府の大蔵省が造幣局でお金を作っているのはあくまで硬貨であって、紙幣は全て日本銀行が印刷している。


 そして日本銀行をロスチル一家が裏で牛耳っている事が分かった今では、「日本は日本の政治家によって動かされている」という前提さえくつがえってしまうのだ。


 しかし、現実は既にそうなってしまっていた。


 俺がこの日本に降り立った1981年時点では取返しの付かないところまで、世界は一部の人類によって支配されていた。


 しかも、ロスチル一家が最も崇拝する神が「天より舞い降りたルシファー」であるという。


 それは火星で生まれた人間の事であろうし、その人間とはレプト星人と契約を交わした張本人であろう。


 つまり、世界は太古の時より彼らによって支配され続けていたという事なのだ。


 俺が戦おうとしている敵とはそういう連中だ。


 俺が統治して、平和な社会を作れたと思っていたテキル星の様な平和な星もある。


 むしろ、そうした星が大半を占める宇宙空間の中で、唯一この地球という星だけが特別だったのだ。


 豊かな資源、優良な奴隷となる人類、巨大な人工基地である「月」から常に監視され続けている星が「地球」だったのだ。


「まったく・・・、地球がここまで特別な存在だったとはな・・・」


 俺がそう呟いた時、ティアが俺の耳元でこう囁いた。


「私はショーエンとこの星でこうして過ごせた事が幸せで仕方が無いわ。この星は特別な星。どれだけ歴史が深く、星の記憶が膨大なのか、私には想像もつかないけれど、ショーエンはこの星に辿り着いた事には意味がある筈」


「ああ、そうだな」

 と俺が頷くと、最後にティアはこう付け加えた。


「この星が、ショーエンを必要としているからこそ、私達はここに導かれたのだと、私はそう信じているわ」


 圧倒的技術力で優秀な現実主義者のティアが、これほどスピリチュアルな事を言ったのはこれが初めてだった。


 俺は驚きを隠せなかったが、ティアの目を見て俺が確信したのは、ティアが本気でそう言っている事だった。


「ああ、ならば俺達に出来ない訳は無いよな。地球が俺達を求めているんだもんな」


「ええ、私達の最大の味方は、きっとこの星そのものだと、今の私にはそう思えてならないわ」


 ティアの言葉に俺は大きな自信と勇気を貰えた気がした。


「ああ、俺達がこの星を救いたいと願ったからこそ、この星が俺達を求めたんだろう。ならばこの星が俺達を裏切る事などあり得ないぜ」


 俺はティアの手をとって立ち上がり、会計を済ませて戻って来た鮫沢が襖を開けるのと丁度出くわした。


「おお、もうお帰りのご用意が出来ていたんですな。店の外でタクシーを待たせております。また来月まで、どうぞご達者で」

 と俺にタクシーチケットを手渡し、俺達を出口の方へと促した。


「ああ、例の件、しっかり励むようにな」

 と俺がそう言うと、鮫沢も


「心得ております」

 と頷いて笑顔になった。


 俺とティアは店を出てタクシーに乗り込み、女将がお辞儀しているのを見ながら、タクシーが走り出すのを感じていた。


 この世界は俺が思っていたよりもずっとカオス状態だった。


 異世界転生で面白おかしく生きて行けると言った少年向けのライトノベルなどの世界とは大違いで、現実はドロドロと陰謀にまみれた世界だった。


 しかもその混沌は世界中に蔓延していて、その背後にレプト星人や人類に捉えられたグレイ達が居る。


 そうして得た情報から地球上では類を見ない様な強力な兵器を作り、武力によって世界を威嚇し続けるアメリカを拠点として、世界中の人類を奴隷化しようとしているだなんてな。


 そして今は日本をターゲットにしている訳だ。


 ここから40年かけて日本という国をしゃぶりつくし、10年後にはバブル経済が破綻して、日本国民がその後幸福になる可能性はゼロに等しいだろう。


 日本がそうなるきっかけの年が1985年。


 これから始まるバブル景気で日本国民はどんどん愚民化してゆく。


 10年後に始まる経済的侵略に気付ける者など居なくなるだろう。


 そうなる前に・・・・・・・・・


「ティア、俺達の幸せを、永遠のものにしような」


 俺の言葉にティアは頷き、


「ショーエンならきっと出来ると、信じてるわ」


 ティアの言葉に俺も頷きながら、俺はティアの頭に自分の頭を乗せて目を瞑り、いつしか寝息を立てていたのだった。


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