地球(6) 陰謀と戦う布石を打った日

「これが私達の身分証明書になるんですね」


 住民票、健康保険証、戸籍謄本を交互に見ながらイクスがそう言った。


 当然、イクスとミリカは夫婦として登記されている。


 それで困ったのが俺だ。


 一夫多妻制を認めていない日本では、ティアとシーナの二人をそのまま夫婦として登記する訳にはいかなかったので、結局はティアを妻として登記し、シーナはティアの妹とする事にした。


 更に履歴書を書く際に必要になる経歴を作る必要もあり、俺達は全員12歳までアメリカのエレメンタリースクールに通い、中学校から日本の学校に通ったという事にした。


 更に、高校は鮫沢さめざわの選挙区である千葉県の公立高校を卒業した事にして、卒業証書を偽造してくれた。


 年齢的に大学には通わなかった事にしたが、俺達の年齢は、俺が22歳。他のみんなは20歳という事にしてもらった。


 この時代の20歳といえば、そこそこ大人の扱いをされる。


 戦後生まれの「団塊の世代」が30歳前後で、当時の平均的な初婚年齢が、男性27歳、女性25歳くらいだったから、風貌が外国人の俺達が20歳で結婚していても、それは何も不思議な事ではない筈だ。


 しかも俺は22歳という設定で、高卒で働きだす者が多かった時代だけに、俺は4年程社会人を経験したという認識をされるはずだ。


 更に、鮫沢さめざわは住居も提供してくれた。


 千葉県舞浜市にある新築の公営団地に俺達の住居を準備してくれ、住民票も健康保険証も正式に舞浜市が発行したものだった。


「これで俺達は、仮染めとはいえ、正式にこの国の住民になれたぞ。次は会社を設立して、この国で力を持つ事を目標とする」


 俺がそう言うと、みんなは「はい!」と声を揃えて返事をした。


 初めて鮫沢と料亭で会談をしてから3週間。


 鮫沢はあちこちの行政に圧力をかけて俺達の為に奔走してくれたのだろう。思ったより早くに俺達の要望を満たしてくれた様だ。


 しかも舞浜市に住ませてくれたのは有難い。


 資金作りの為に土地を購入しようと思っていたが、舞浜市ならありったけの資金を注いで土地を買う価値がある。


 何故なら「東京ネズミーランド」のオープンが再来年に迫っているからだ。


 ネズミーランドの敷地はお台場で計画されていた様だったが、アメリカから来たネズミーランドの責任者が


「ここからは富士山が見えてしまう。これではパークのコンセプトである夢の国に似つかわしくない」


 と言ったそうで、計画地が舞浜市に変更されたという経緯がある。


 なので工事もまだ始まっていないし、開業はまだ公表もされていない。


 なので、舞浜市の土地の値段が上がる前に、この辺りの土地を買収し、更地として持っておくだけで、相当の利益を得る事が出来る訳だ。


 俺は早速不動産会社を訪れ、舞浜市内のいくつかの土地を見繕みつくろい、まだ価格の安い湾岸地帯の土地を購入する事にした。


 この辺りはまだ首都高湾岸線も通っていないし、工事が始まる頃には価格は倍増している事だろう。


 それもあと数年の話だ。


 今の内に土地を購入しておけば、今後10年かけてやってくるバブル経済による地価の上昇で、土地の価格は更に数倍に跳ね上がる。


 そして今度は会社の設立だ。


 舞浜市内の司法書士事務所におもむき、俺は小さなコンサルティング会社を設立した。


 コンサルティングの内容は、政治や経済についての情報についてだ。


 主なクライアントは日本政府という事になるだろう。


 幸い鮫沢さめざわとのコネクションが出来たし、鮫沢を総理大臣に押し上げる事が出来れば、コンサルティングの仕事を軌道に乗せる事が出来るだろう。


 そうした目論見もあって、鮫沢とは定期的に会談する事にした。


 毎月28日を会談の日と定め、俺とティアが会談に臨むという形を提案した。


 鮫沢は俺の提案を快諾し、場所は前回と同じ料亭で行う事になった。


 そして今日、4月28日の火曜日。


 運よく、明日は昭和天皇の誕生日なので、祝日だ。


 世間はゴールデンウィーク前の商戦に湧いている様だった。


 一通りの仕事を終えて自宅で寛いでいた俺達だったが、俺はティアと神楽坂に向かう準備をしながら、シーナには東京23区内で通信が可能になる様に、通信機の製造を依頼しておいた。


 その間、イクスは料理の研究を、ミリカにはファッションの研究を指示している。


 今日俺達が着ていくスーツもミリカが作ったものだ。


 更にガイアとテラには株式取引について学ばせているところで、京都にあるゲーム機製造会社「人天堂じんてんどう」の株を買わせるつもりだ。


 この「人天堂じんてんどう」は、元々はトランプや花札などのカードゲームを製造している会社だったが、卓上デジタル時計にゲーム機能を付けた「ゲームウォッチ」を展開して売り上げを伸ばしており、今後は家庭用ゲーム機として一世風靡する「ファミカン」を作る事になる。


 ここの株を今の内に購入しておけば、その株価は間もなく10倍に膨れ上がる事だろう。


 ライドとメルスには自動車の設計を行わせている。


 まずはコンサルティング会社で政府から資金を得て、その資金で千葉県市川市あたりに自動車工場を作る為の土地を購入するつもりだ。


 その為にライドとメルスに自動車整備士の資格を取らせ、小さな整備工場を作って様々な自動車の知識を経験として得てもらう。今の自動車のクオリティなど簡単に凌駕りょうがする技術をもつ二人だ。自動車の技術改革など容易にこなして見せるだろうから、そうしたノウハウの蓄積ちくせきで、本格的に自動車の製造を始めてもらう予定だ。


 その間にもイクスには飲食店の経営をさせ、関東近県にチェーン店を展開するつもりだ。


 俺は今後どのような食べ物が流行するのか、記憶として知っている。


 そこで、まずはザクザクのパン粉を使った豚カツ店を始め、次には魚粉をふんだんに使ったラーメンとつけ麺の店を展開するつもりでいる。


 ミリカにはファッションブランドを立ち上げてもらい、まずは政府主導で事務員の制服等への採用から始め、公立学校の制服などを手掛けるようになれればいい。


 そこから独自のデザインのファッションブランドを立ち上げ、バブル経済に向けて高級ブランドを設立するのがいいだろう。


 今日は一緒に鮫沢との会談に出席するティアだが、ティアにも重要な仕事を任せている。


 それは、今後徐々に流行するであろう「太陽光発電」に対抗する「新たな発電」だ。


 この時代はまだリチウムイオン電池は普及していなかった。


 つまり、充電池として使える電池は、この時代では技術力に難があり、まだ広く普及できていなかったのだ。


 なのでティアには、永久機関として発電が可能な技術の創造と、それを充電する為のリチウムイオン電池、更にはコードレスで充電できる「非接触型充電」の技術を展開させる事を依頼している。


 俺達が挑むのは「金融」「通信」「電力」「食」「自動車」「衣料」だ。


 本当ならば「医療」にも参入するべきなのかも知れないが「食」を制御できれば「医療」は不要になると考えている。


 外科的な医療は必要だが、2035年の日本では、遺伝子組み換え食品の蔓延によって多発する疾患が大半で、大した技術も無い内科医ばかりが蔓延っていた。


 そこで処方される薬も「他の病気になりやすくする薬」であった為に、医療業界と製薬業界のマッチポンプが行われていたのが実態だ。


 俺はその負のサイクルを「食」によって食い止めるつもりなので、俺達が医療に加担する必要は無いと考えているのだ。


 こうして俺が目論む業界への参入が全てが完了すれば、21世紀に発達した技術の大半を20世紀のうちに俺達が握る事になり、世界の指導者達は俺達を無視できなくなるという訳だ。


 そうなれば、かならず現れる事になるだろう。


 俺達を利用しようとする「影の支配者」達が。


 鮫沢は俺達をアメリカの諜報機関のエージェントだと思い込んでいる。


 しかし、今日は俺達がアメリカのエージェントではないという事を伝えるつもりだ。


 そして、俺達が「宇宙から来た使者」なのだという事を伝え、アメリカ主導の戦争と金融による世界支配を終わらせるのだという事を伝えなければならない。


 今日の会談では、これから起こるであろう様々な出来事を伝え、それらに対応する様に指示をするつもりだ。


 今の日本人は、勤勉な働き者が多い。


 今の内に手を打てれば、俺が居た2035年の日本の様な、衰退国家にはならなくて済むはずだ。


 しかし、これが失敗すれば、日本は1995年を境に転落の一途を辿る事になる。


 アメリカの従属国家として、日本人に様々な重税を課し、国民を食い物にしながらアメリカにすり寄る政治家と企業が、さらなる愚策を講じて2023年の世界大戦に参加する事になる。


 こうならない為にも、日本は豊かでなくてはならない。


 世界が「神の国」と呼ぶ日本を、取り戻さなければならないのだ。


「そろそろ行こうか」


 俺はスーツに身を包んだティアの手を取り、玄関で革靴を履いた。


「シーナ。留守番、宜しくな」


 俺はシーナにも声をかけ、

「任せるのです」

 と言うシーナに

「じゃ、行ってきます」

 と言って扉を開けたのだった。


 ----------------


 鮫沢さめざわは腕を組み、目を瞑って何度も頷いていた。


 俺達は神楽坂の料亭で会談をしていた。


 俺は先程、俺達がアメリカのエージェントでは無い事を伝えた所だ。


 そして、俺達が宇宙から来た「神の使者」であり、恐らくアメリカを操っているであろうレプト星人と敵対する者だと伝えた。


「もしやショーエン殿は、レプティリアンとか呼ばれる宇宙人の事を仰っているのですかな?」


「レプティリアン?」


「はい。アメリカで崇拝されている、爬虫類の様な姿をした知的生命体をそう呼ぶのだという噂を聞いた事がありましてな」


 俺は鮫沢の言葉に驚きを隠せなかった。


 まさかこの時代で、しかも政治家の間で、既にレプティリアンの事を見聞きした者が日本に居たなんて思いもよらなかったからだ。


「そして、我々はプレアデス星団に居ると云われる、神が遣わす救世主が来る事を祈り続けているお国柄なんですわ」


 そう続ける鮫沢は、まるで神を見る様な目で俺を見ていた。


「そうか、ならば話は早いな」


 俺はそう言いながら卓に並べられた大トロの刺身にワサビを乗せて、醤油に漬けて口に運んだ。


 旨い。


 イクスが食べたら歓喜するレベルの絶品料理だ。


 ティアも俺の真似をして同じ様に本マグロを食べながら、その旨さに目を丸くして顔をほころばせていた。


「ならば遠回しな話はやめて本題に入ろう。俺が知っている、これから起こる大きな出来事について話す事にしよう」


 俺は、1981年以後に起こるであろう日本に関係する歴史的事件を思い出しながら、まるで予言者の様に次々と話していった。


 1983年、ニューヨークで行われる為替相場に関して話し合われたプラザ合意。


 当時の日本政府は、アメリカに有利過ぎる内容に対し、会談では合意しなかった為にアメリカの不満を買い、その仕打ちとして日本国内を飛行するジャンボ旅客機を墜落させる事故を起こした。


 このアメリカの警告としか思えない事故を受けて、次の事故が起こされ無い様にと、結局はプラザ合意を日本も飲む事になった。


 これまで輸出で経済を作ってきた日本にとっては不利な為替条件とされたが、実際には円高になったおかけで内需拡大し、高級ブランドの輸入が増加して、日本人はどんどん資産を作る事を覚えていった。


 土地の価格がどんどん上昇し、それからの10年間が、所謂「バブル時代」と呼ばれるもので、アメリカが日本を肥えさせる為に放置した10年間だ。


 しかし、肥え太った日本の経済を横取りするためにアメリカのヘッジファンドが日本に参入。


 この動きを嫌った日本政府への報復として、1995年1月には阪神大震災を起こされる。


 さらに同年、日本の窮地をチャンスと思い込んだ北朝鮮が仕組んだカルト教団による、都内地下鉄での毒ガス散布事件。


 それまでバブル景気で浮かれていた日本政府は、大震災や毒ガステロをきっかけに、急激に経済の引き締めに入る。


 しかし、その政策に端を発し、それから40年もの間、日本はデフレ経済に突入する。


 グローバル企業が日本企業を買収したり合併したりし、これまで培われてきてメイドインジャパンの製造業が海外企業の手に落ちる。


 不況が続く事で企業の製造拠点が中国へと移行してゆき、日本に流通する品物の品質が、見えない速度でジワジワと劣化してゆき、やがてメイドインジャパンの代名詞が「製造品質」から「ゲームやアニメコンテンツ」へと移行し、二度と日本が製造業で世界一になる事は無くなる。


 不況は更に進行し、日本は海外企業の食い物にされていった。


 2001年9月には、アメリカで同時多発テロが起こる。

 

 これは、アメリカの石油会社が中東アジアのエネルギー資源を搾取する為に行った自作自演のテロ行為にも関わらず、その責任を「アフガニスタンのテロリストの仕業だ!」とメディアを使って国民を焚きつけ、米軍をアフガニスタンへと向かわせ、アフガニスタンの国民を虐殺しながら石油利権を全てアメリカが奪う事になった。


 そうして10年近くに渡り、アメリカが世界の経済を牛耳る形で支配を進めていた。


 しかし2010年頃には、アメリカの支配を良しとはしない日本国内勢力により、最後のチャンスとばかりに核兵器の技術を原子力発電所内で研究し、アメリカに対抗できる力を手に入れようと画策していた。

 しかし、アメリカの息がかかったイスラエルの諜報員の策略により、その研究の情報はアメリカに筒抜けになっており、日本が核兵器を持とうとしている事を知ったアメリカは、見せしめとして2011年3月に福島県沖の海底で原爆を爆発させ、東北地方に巨大地震を起こし、巨大津波で東北地方を壊滅させて、自然災害と見せかけて福島の原子力発電所を爆破した。


 更にアメリカの「正義のヒーローごっこ」はここでも発揮された。


 地震に対する復興支援という形で、海上に居た空母を東北に寄港させ「トモダチ作戦」と名付けて被災者を救済しつつ、その陰で日本の首相に対して核兵器を作らせない為の圧力を掛けていた。

 更に表向きは日本への災害支援に対する恩返しという形で、アメリカ製の兵器を追加購入させる事により、日本の財政は更に悪化。


 アメリカの政策に対抗しようとしていた「主民党」は解体され、アメリカの息がかかった「民自党」の政権へと交代させるようにメディアを通じて罠を張った。


 アメリカの思惑通りに翌年の選挙で「民自党」が政権に返り咲き、震災復興バブルを我が物にしようとアメリカ資本の投資が続々と日本の株を買い占めてゆき、株価高騰と円安が進行。


 結局はアメリカ資本の企業とアメリカに従属する日本企業だけが利益を得て、中小企業や庶民は「復興税」という形で増税されて貧しくなってゆく道を進む事になった。


 日本のメディアは「民自党」の政策を褒め称えながら経済の回復を称賛する風潮を作り、日本国民はメディアの報道を見て「いつか自分にも利益が回ってくる筈」と思い込ませる事に成功。


 国民は「主民党よりも民自党の方がいい」と思い込んでいたが、実際には国民の利益はどんどんアメリカへと吸い取られていた。


 それから10年間の日本経済は、暗雲垂れこめる沼地の様に、国民はどんどん貧困へと向かって行った。


 最後の仕上げは2020年に広められたパンデミックが合図あいずになった。


 これもアメリカが作った「中国の研究所からバイオ兵器用ウイルスが洩れた」というシナリオで、致死性は低いが感染力の強い肺炎ウイルスを蔓延させ、それを中国の責任にして国際的につるし上げ、覇権を狙う共産主義国家を潰しにかかろうとした。


 しかし、中国の巧みな政治力で責任の所在がうやむやになり、結果的にアメリカは、ウクライナとの併合を狙うロシアにターゲットを変更した。


 それと並行して世界中に広がるパンデミックによって世界中の人間の行動を制限し、リモートでコミュニケーションを行えるツールを一般化させ、個人の行動記録を政府や企業が監理する世界を作り上げ、人々にはワクチンという名の遺伝子改変薬を注入して、人々の白痴化を推し進めた。


 その頃には日本政府のパンデミック対策の失敗により、日本国民の半分以上が困窮者になっており、一部の富裕層だけが豊かな生活を送る時代になっていた。

 困窮家庭にはアメリカによって導入された遺伝子組み換え食品を食べさせて病気になりやすい身体にし、グローバル企業が牛耳る食品、医療、製造、IT、金融、メディア、軍事、エネルギー、通信インフラが経済市場を支配する事になるまでの経緯を、俺の記憶の限りをまとめて鮫沢に語った。


「アメリカがレプティリアンに操作されているという話は、噂程度で聞いてはおりましたが、まさかそんな計画が進められているとは・・・」


 鮫沢はいつしか食事をするのも忘れて、俺の話に聞き入っていた。


 俺は一通り語り終えると、ビールが注がれたグラスの中身を飲み干し、


「それに対抗出来る唯一の勢力が俺達だ」

 と締め括った。


 鮫沢はしばらく目を瞑って腕を組み、何事かを考えている様だったが、やがて目を開けて俺を見た。

「私が総理になったあかつきには、当然それなりの見返りを頂けるのでしょうな?」

 と鮫沢は不安そうにそう訊いた。


 俺は頷くと、

「お前が我々に協力する限りは、俺達も協力を惜しまない。お前には、俺達が作る会社のどこかに席を用意してやろう」

 と鮫沢を見返して力強く言った。


 鮫沢は大きなため息をつくと、

「第二次世界大戦の終戦間際に、名古屋に住んでいた私の祖父が東海地震で大怪我をしたそうです。地震の後、上空に現れたアメリカの爆撃機から、大量のビラが撒かれたそうで、それを拾った祖父がビラを見ると、そこには『地震の次は、何をお見舞いしましょうか』と書かれていたと言っていました」

 と言いながら再び大きくため息をつくと「まさか、本当に人工的な地震を起こし得る技術をアメリカが持っていたとは・・・」

 とうなだれた。


「地震だけじゃない。民間の航空機を使って人間に有害なガスを空から撒いたり、太平洋に電磁波を照射して温めて、日本に豪雨災害が起こる様に仕向けたり、生活困窮者に金を握らせて、日本の政治家を暗殺させたり、更にはマイクロチップを人体に埋め込む法案を日本に作らせて人々の行動を監理するところまで、奴らは計画しているぞ」


 俺は鮫沢の落ち込む姿を見ながら、しかし何故か同情は出来ない自分に少し驚いていた。


「お前達が私利私欲に取り憑かれたまま時を経ればこんな未来が待っているという事だ。お前達が俺に本気で協力するならば、この未来はまだ変えられるぞ」


 俺はそう言いながらティアを見る。


 ティアは俺の言う事を理解しようとデバイスに記録して反芻はんすうしている様に見えた。


「ともあれ、その為にも俺が作る会社を大きくしなくてはならない。先ずはそれに協力してもらうぞ」


 俺はそろそろ締めくくろうとそう言った。


「分かりました。先ずはコンサル会社を作るんでしたな? その会社に国費で支払い出来る様に、内閣府で随意契約の準備をさせましょう。 大蔵省にもツテが在りますので、予算の事は御心配無く。年間おいくら程の契約を結べば宜しいですかな?」


 俺はざっと1億程度を想定していたのだが、鮫沢は

「さすがにそれは」

 と難色を示したので、

「まずは5000万で契約して、その後追加契約で1億まで上げろ」

 という事で手を打った。


 この頃の国家予算は50兆円程度。


 その殆どが、土木建築関係に流れていた。


 今後やって来るインターネット通信時代に向けて、光ファイバーの整備の下ごしらえを兼ねさせる様にしなければならない。国民には早くインターネット環境に慣れてもらう必要があるからだ。


 その予算を考えれば、1億くらい安いものだと思っていたが、どうも鮫沢のコネクションでは厳しいらしい。


 まぁ仕方が無いか。


 コイツを総理大臣にすればもっと大きな資金源にもなるだろうし、もっと使えそうな奴が現れたら乗り換えればいい。


 俺はそう考えて、最後にこう言った。


「お前が信頼出来る者を俺に紹介してくれ。俺の会社で働かせ、俺が教育をし、いずれ国会議員にさせて新たな政党を作るぞ」


 そして俺は、驚いている鮫沢の顔を見ながら、ティアの手を取り席を立ったのだった。


 ---------------


 帰りのタクシーの中で、ティアが俺の腕に自分の腕を絡めながら、プレデス語で話しかけてきた。


「ねぇショーエン。この国の人類って、黄色い人類なんだよね? 黒い人類は白い人類にしいたげられていて、黄色い人類も白い人類にしいたげられているように聞こえたんどけど、合ってる?」


「ああ、合ってるぞ」


「私達が白い人類に協力しないのは、白い人類がレプト星人と組んでるかも知れないからだよね?」


「ああ、その通りだ」


「じゃあ私達の仕事は、白い人類を倒す事なの?」


「いや、それは違う。白い人類も俺の望む世界に必要なんだ。ただ、肌の色で人間を区別しない世界にしたいんだ」


「という事は、レプト星人が敵って事?」


「まあ、そうだな。厳密にいえば、白い人類を利用してこの星を支配しようとしているレプト星人が敵という事になるな」


「・・・分かった。理解したわ」


 ティアはそう言うと、デバイスで今の話を元に情報を整理して記録していた。


「ティアにはこれから、この国に新しい電力供給会社を作ってもらいたい。この国は、アメリカという国の圧力によって、原子力発電所を作ろうとしているんだ」


「そこが不思議なのよね。アメリカって国は日本が核兵器を作ろうとする事は許さないのに、どうして核が生産できる発電所を日本に作らせるのかしら?」


「ああ、それは簡単な話でな。核兵器の原料になるプルトニウムは、原子力発電所内で簡単に作れるが、人体に有害な放射線を封じ込める為に莫大なコストをかけて管理する必要があるんだ。アメリカは、そのコストを日本に負担させる為に、原子力発電所を日本に作らせ、安全に管理されたプルトニウムだけをアメリカが奪っていく仕組みを作ろうとしているんだよ」


「なるほど・・・、聞けば聞く程、アメリカって国は酷い国なのね」


「まあ、そうだな。過去の歴史を見ても、戦争がある度に利益を得ている国はアメリカだけなんだ。つまり、アメリカにとって戦争とは、ビジネスなんだよ」


「人殺しをビジネスと考えられるというだけでもおぞましい話だわ。私、そんな事を考えてる人類を目の前にして、心を許せる自信が無いわ」


「ああ、心を許す必要なんて無い。ティアが心を許していいのは、俺達だけだ。そして俺も、心を許すのはティアやシーナだけだ」


 俺はそう言いながら「そうか」と思った。


 鮫沢に何の同情心も湧かなかったのは、俺がこの国の誰にも心を許していないからなんだ。


 テキル星では魔王の支配に苦しむ住人達にも同情心が芽生えた俺なのに、何故かこの懐かしい地球の人間に同情できない事を自分でも不思議に思っていた。


 だけど、そういう事だったんだな。


 富士宮市で出会った蕎麦屋の夫婦達の様な、愛すべき人間もまだ多く居るが、既に世界の上層部では狂人達が跋扈ばっこしている事を目の当たりにして、俺は嫌気が差していたという事なんだ。


 誰もが私利私欲で物事を考え、他人の命にも興味が無く、むしろ他人を不幸にする事で自分が幸福を感じるという「相対価値観」による自尊心の担保。


 この構図がこれから更に拡大してゆき、やがて世界中の人々がカオスの中に生きる事になるのを俺は知っている。


 俺の前世はホームレスだ。


 決して幸せなんかじゃ無かった。


 しかしそれは、俺の努力が足りず、社会に適合できなかったせいだと思い込んでいた。


 しかし違ったんだ。


 俺の前世の世界は、既にカオスの極地となっていて、レプト星人達の目論見が全て完成してしまった世界だったんだ。


 何故俺がプレデス星に転生したのかは分からない。


 しかもどういう訳か、俺が転生したのは70年も過去にさかのぼった世界だった。


 そして今、俺は子供の俺自身である吉田松影よしだまつかげが生きているこの日本で、ショーエン・ヨシュアとして生きている。


 何の因果でこうなったのかは分からない。


 しかし、現実に今こうして俺自身が存在している事には、何か意味がある筈だ。


 俺達はこの星の人々にとっては「神の化身」だ。


 彼らにとって俺達は、人知を超えた能力を持った存在であるに違いない。


 しかし、俺達の存在よりも更に高みに在る何者かが居る筈だ。


 それこそ本当の神か、又は他の何者かが、俺をこの世界に転生させたのだ。


 その存在が何なのかはまだ分からない。


 を俺に見つけさせ、そして俺を、前世の記憶を保ったままプレデス星に転生させた。


 その理由はまだ分からないが、先ずはこの世界を俺の理想の世界に作り替える為の一石は投じられた訳だ。


 敵は人類を利用して人々を苦しめるレプト星人。


 今はそれだけ分かっていればいい。


 ここから俺達は、前世で成し得なかった平和な世界を作る為に、人類が作った法律などとは無縁の社会でこの世界を変えていく。


 俺はティアの身体を抱き寄せ、


「俺はこの星の統治を目指す。ティア、俺に力を貸してくれ」


 ティアは頷き、

「もちろんよ」

 と言ってほほ笑んだのだった。

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