地球(4) 東京という街

 昨日は新横浜で偶然に過去の自分の姿を見る事が出来たので、俺の前世での実家がある相模原さがみはらまでの移動予定を変更して、そのまま東京へと向かう事にした。


 新横浜を通る地下鉄は工事中でまだ開業しておらず、仕方なく新幹線で東京まで向かう事にした。


 昨日の内に俺達は、新横浜の写真スタジオで写真を撮ってもらい、身分証明書の偽造の為に東京都内の小さな印刷屋を探していた。


 東京駅を降りた俺達は、地下鉄丸ノ内線で銀座まで向かい、そこから銀座線に乗り換えて浅草へと向かった。


 浅草の吾妻橋あづまばしを渡った先には小さな印刷屋が所々にあり、おもちゃ屋なども並んでいる。


 俺はそのうちの一つの店に入り、店主に声をかけて事情を説明する事にした。


 しかし、その店では公文書の偽造はやりたくないと断られ、俺は次々と店を軒並み回る事になった。


 かれこれ3時間は店を回っていたが、どうにもうまくいかず、俺はもう20軒目くらいのその店の店主に聞いてみる事にした。


「ドコニ行ケバ作レマスカ?」

 と俺が小さくカットした金塊をカウンターに置いて訊くと、その店主は金塊に目が眩んだのか、それまで「公文書の偽造なんてできねえよ」と言っていたのが嘘の様に黙ってしまった。


「それ・・・、本物の金か?」


「ハイ。純金デス」


「その大きさだとオメェ・・・、200万は下らねえだろ」


「別ノ店デハ360万円デ買い取ってクレマシタヨ」


「さ・・・360万・・・」


 この時代の大卒のサラリーマンの平均月収が12万円位だ。

 小さな商店の店主であるこの男の月収が20万位あったとしても、年収を超えるだけの価値の純金があるのだ。


 しかもこれは隠し資産だ。


 領収書も何も無い、現金取引できる本物の純金だ。

 バレなきゃ税金も取られないし、これを担保に借金だって出来る。


 店主の目が眩むのも当然かも知れない。


「ドウデスカ?」

 と俺は笑顔でそう言うと、男は震える手でカウンターの純金を押し戻そうとする。

 しかし俺がもう一つ同じ大きさの純金をカウンターに置くと、店主の手が止まり、そして絞り出すように

「絶対にウチで作ったなんて誰にも言うんじゃねぇぞ・・・」

 と目を瞑りながらそう言った。


「勿論デスヨ」


 俺は二つの小さな金塊を店主の手に握らせ、「ドレクライノ時間デデキマスカ?」

 と訊いた。


「9人分だろ? 今からカードを注文して、明日の夕方には届くだろう。それから作るから、明後日の夕方位に取りに来てくれればいい」


「ワカリマシタ。オ願イシマス」

 と俺は金塊を店主に渡し、9人分の写真を2枚ずつ手渡した。


 俺はデバイスにこの場所を記録し、明後日の夕方に来る事を店主と約束して店を出た。


「何とかなりそうだ。明後日の夕方には出来上がるらしいから、それまでは東京見物でもして回ろうか」

 と俺はみんなに言って、浅草の方へと戻って行ったのだった。


 --------------


 明後日の夕方には偽造した身分証が出来上がる。


 それが出来れば、残った金塊を現金に換える事が出来る。


 これまでのレートで換算すれば、残った純金の額はおよそ3500万円といったところだろう。


 それだけあれば、公的な身分証を作成する為の賄賂に使った後に、郊外に土地と建物を買う事も出来るだろう。


 後は、他の収入源を作る為に、政界の人間に接触して、情報を聞き出しつつアドバイザーとしてコンサルティング契約をするのも面白いかも知れない。


 とにかく、この国をコントロールしている人間に届く位置まで登らなければならない。


 そこまで行けば、後は何とでもなる筈だ。


 俺達は浅草まで戻ってから宿泊する場所を探していた。


 街の人に聞くと、浅草の北の方に大きなホテルがあるというので向かってみた。


 そこは「国際通り」と呼ばれる大きな道路が走っており、道沿いに建つ「西浅草ビューホテル」と壁面に書かれた大きなホテルを見つける事が出来た。


「よし、今日はあそこに泊まろう」

 と俺達はキャリートレーを抱えたまま国際通りを北上してホテルの建物に向かって歩いて行く。


 途中道路の左側には「浅草 今半」と書かれた提灯ちょうちんがぶら下がっていて、俺でも知ってるくらい有名な「すき焼きの名店」がある事を知った。


 道路の右側には「浅草ロック座」と書かれた真新しい建物が建っており、東京の芸人が活躍するお笑いの街だという事も分かる。


 行き交う人々は活気にあふれ、たまに見かける芸者の着物姿には、ミリカが目を輝かせて見入っていた。


 俺達は西浅草ビューホテルのエントランスロビーへと足を踏み入れると、タキシードの様な服を着込んだホテルマンが近づいてくる。


「メイアイヘルプユー?」

 とホテルマンが英語で話しかけて来るあたり、ここはそこそこ高級なホテルなのかも知れない。


「日本語デ大丈夫デス」

 と俺は返し、「部屋ハ空イテマスカ?」

 と訊いてみた。


 するとホテルマンはロビーのカウンターの方へと俺達を案内し、どのような部屋割りにするのかをたずねて来た。


「3人部屋ヲ1つ、2人部屋ヲ3ツ、3泊デオ願イシマス」

 と俺が言うと、ホテルマンが暗算で計算して料金を紙に書いて提示してきた。


 18万6千円。


 朝食はビュッフェ形式でセットになっているらしく、夕食は別途料金の様だ。


「OK」

 と俺は現金を支払い、台帳に9人分の名前を記載した。

 勿論住所は適当だ。だけど、事件でも無い限りは確認なんてされないのがこの時代のホテルの常識。


 俺は臆する事無く台帳に日本語で記述していった。


 ホテルマンはワゴンを運んできて、俺達の荷物を運ぶというので、せっかくだから運んでもらう事にした。


 キャリートレーは重力制御が出来るので、実際には重くない。

 ホテルマンが持っても、おそらく発泡スチロールの板か何かだとしか思わないだろう。


 俺が運ばれて来たワゴンに荷物を載せると、他のみんなも真似をして荷物をワゴンに積んでいった。


 俺の部屋は18階だった。


 他のメンバーは15階の3部屋だ。


 2フロアに分かれてしまったが、この距離ならデバイスで通信も出来るので問題は無い。


 まずは荷物を部屋に置き、東京見物に出かける為に、またロビーでみんなと集合する事にした。


「まさか日本を観光出来るなんて、楽しみですね」

 とガイアは嬉しそうに言い、

「私、渋谷のクレープ食べてみたい」

 とテラが言う。


「クレープねぇ・・・」

 俺は苦笑しながらそう言ったが、この時代の渋谷にクレープ屋なんて無いだろうなと思っていた。


「ショーエンさん。飛行機が見れる所はありますか?」

「僕は自動車が見れる所にも行って見たいです!」

 とライドとメルスの目的は明確だ。


「この国は、本当に食べ物が豊富ですね! ショーエンさんがガイア星に執着していた気持ちがすごくよく解りますよ!」

 とイクスは何か勘違いしている様だが、喜んでいるのでそれはそれで良しとしよう。

「私も色々な衣装が作れればいいんだけど・・・、でもまだこの星には見た事の無い衣装が沢山あるので、もっと学びたいです!」

 とミリカもブレずにファッションの道を突き進む様だ。


「ティアとシーナは何か希望は無いのか?」

 と俺が訊くと、ティアとシーナは

「私はショーエンと一緒ならどこでもいいよ」

「私もなのです」

 と言いながら俺の腕に自分の腕を絡めた。


「よし、今日はもう夕方だから、まずはイクスとミリカの願いを叶えてやろう」

 と俺は言って、地下鉄の駅の方へと歩いて行くのだった。


 --------------


 ホテルからは、地下鉄銀座線の田原町の駅が近かった。


 銀座線は都内で最初に出来た地下鉄で、浅草から渋谷まで繋がっている。


 古い地下鉄という事もあって、駅と駅の距離がそれほど遠くない。


 電車なら一駅2分の距離だ。徒歩でも10分と掛からない。


 俺は地下鉄でキップ9枚購入し、日本橋まで行く事にした。


 日本橋の百貨店「高島屋」は、駅を降りてすぐ目の前にあった。


 重厚な石造りの建物の様な外装で、中も煌びやかな店舗が並んでいる。


 1階に入ると、化粧品売場や宝石売場が並んでいて、階段を昇ると婦人服売場があった。


 ミリカは目を輝かせてそのフロアを見て周り、途中で見つけた着物呉服店のコーナーでは、試着までして貰っていた。


 せっかくだからとティアやシーナ、テラにも試着させ、結局は手頃な価格で購入できる浴衣を4着購入する事にした。


 この時代の浴衣は品質が良かった。


 何と言っても「メイドインジャパン」だ。


 2000年以降は中国製の粗悪品が沢山売られていたが、まだバブル経済前の日本では、日本製の良質な浴衣が売られていたのだ。


 購入した浴衣を紙袋に入れてもらった俺達は、更に上の階へと昇った。


 そこは紳士服売り場になっていて、スーツやカジュアル等、質の良いブランド品が並んでいた。


 更に上の階に昇ると、今度は革製品の店が並ぶフロアだった。


 高級なバッグや財布、靴の店もあった。


 俺達は靴屋に入って、みんなの靴を新調する事にした。


 ドイツ製のブランドショップで、靴は履きやすくて革の質もいい。

 中敷きもしっかりしていて、さすがドイツ製の靴だ。


 値段は高かったが、靴をケチるとどんな服を着ても貧相に見えるというからな。


 ここはケチらずに行こう。


 ついでに俺は、財布を買う事にした。


 紳士物と婦人物をそれぞれ全員分購入し、後で現金を配るつもりだ。


 こいつらには、この国で生活できるように教育していく必要があるからな。


 買い物をする方法を教えるのも教育の一環だ。


 更に上の階に昇ると、そこは催事場の広場とおもちゃ屋が並んでいた。


 テレビゲームはまだ無く、単純な白黒の液晶パネルのついた「ゲームウォッチ」が数種類売られているだけで、あとはシンバルを鳴らすサルや、プラレールの様な電池で動く電車。他には模型やパズルなどが売られている。

 中でもボードゲームの売り場が広く、オセロや将棋、チェスの他にも、モノポリーや麻雀マットなども売られていた。


 俺が子供の頃、母親が買い物している間、ずっとおもちゃ売り場で展示されているおもちゃを見ながら母が戻るのを待っていたっけな。


 こんな子供向けの人形やおもちゃを眺めているだけで楽しかったんだから、随分と精神的にも幼い子供だったんだな、俺は。


 と思ってみんなの方を振り返ると、みんなは色々なおもちゃを眺めて楽しんでいる様だった。


「楽しいか?」

 と、プラレールの上を走る新幹線をじっと見ているシーナに俺が話しかけると、

「楽しいというか、ずっと見てられるのです」

 と言って、ほんのり頬を赤らめていた。


 ははっ、プレデス星はもとよりクレア星にもテキル星にも、こういった玩具は無かったからな。


 地球独特のこうした文化に、随分と興味を持ったみたいだな。


 俺は8人の子供を見る父親の様な目でみんなを見回し、


「どうだみんな、そろそろ夕食にしようと思うんだが」

 と声をかけてみた。


「いいですね! 行きたいです!」

 とイクスが一番に返事をする。


「行きましょう!」

 と続けてみんなも返事をした。


「よし、じゃあ行くか」

 と俺は更に上の階へと足を運んだのだった。


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「車エビの舌平目添えセットになります」

 と、正装したウエイターが料理を運んできて、俺の前に皿を並べて行った。


 他のみんなにも、今回は自分で注文させてみた。


 デバイスに記録した日本語のデータベースもかなり蓄積されているだろうと思ったからだ。


 思惑通り、みんな上手に注文する事が出来た。


 メニュー表の文字もきちんと認識できている様だった。


 俺の料理は、大きな車エビのフライの下に焼いた白身魚が添えられてあり、コクのあるクリーミーなソースがかけられた料理だった。


 これがかなり旨い料理で、俺がプレデス星に転生してから食べた料理の中でも群を抜いて美味だった。


 イクスが注文したのはビーフステーキに醤油ベースのソースが掛かったもので、コーンポタージュスープとサラダがセットになっているのだが、コーンポタージュスープにまず驚き、サラダに掛かっているドレッシングにも驚き、ステーキの柔らかさと油の甘味にも驚いていた。


 そして、一昨日富士宮市の蕎麦屋で貰ったおにぎりを食べて以降、みんな米に感動していて、小麦よりも米の方が好きそうだった。


 他のみんなもそれぞれ自分で注文した料理が運ばれていたが、シーナの元にはホットケーキが運ばれて来ていた。


「シーナ。お前は本当にホットケーキが好きなんだな」

 と俺が言うと、

「ショーエンが最初に作ってくれた料理なのです。特別なメニューなのです」

 とシーナはホットケーキをナイフとフォークを使ってメイプルシロップもかけずに食べている。


 ティアはサーモンのクリームソース添えセットを注文していた様で、コーンポタージュスープを一口啜って「おいしい!」と声を上げて喜んでいた。


「私、この星が好きになりそうよ」

 とティアは口元をナプキンで拭いながらそう言うと、「ショーエンが守りたいって気持ち、すごく解る気がするわ」

 と俺を見てそう言った。


「ああ、この星はいい星だ。特にこの国は俺の大好きな国でもある。だけど、この星を独占的に支配しようとしている連中がどこかに居てな。俺はそれを見つけ出して、排除したいと思っているんだ」


 俺がそう言うと、ティアは少し悲しそうな顔をした。


「そうなのね・・・、せっかく素敵な星に開拓できたのに、独占的な支配なんて、現地の人類は望まないもんね・・・」


「ああ、その通りだ。この星の人類には無限の可能性がある。独自の文明を創り上げ、ここまで発展させられるんだ。俺達の役目は、正しい方向へと人類を導く事だ。決して、誰かの所有物にする事じゃない」


「そうね・・・。私は、どこまでもショーエンと共に居る。困った時は、いつでも言ってね」


「ああ、ありがとうティア」


 と俺はティアの額にキスをすると、シーナもホットケーキをもぐもぐしながら頭を俺の方に突き出した。


 俺はシーナの額にもキスをすると、シーナは満足そうにホットケーキを食べていたのだった。


 -------------


「楽しい時間はあっという間に過ぎるのね」

 とティアが言いながらホテルの部屋へと入った。


「本当なのです。もっと起きていたかったのです」

 とシーナも共感している様だ。


「明日は朝から出かけられるからな。明日は飛行機と自動車を見に行くぞ。この星の飛行機はものすごく大きいんだ。500人位の人が乗れるものだからな」

 と俺はそう言って、二人の頭を撫でた。


「さあ、ここに小さいが風呂があるから、順番にシャワーを浴びて、今日は寝るとしよう」


 俺はそう言いながら服を脱ぎ、一番にバスルームを使う事にした。


 シャワーを適温になる様に調整し、タオルと石鹸を使ってゴシゴシと泡立てる。


 浴槽の中に立ってカーテンを閉め、全身をタオルでこすって洗い、シャワーの湯で泡を流していく。


 備え付けのシャンプーがあったので、俺はシャンプーを手に取って髪を洗う。


 そしてシャワーで泡を流し、バスタオルで髪を拭い、それから全身を拭った。


 俺がバスルームを出ると、ティアとシーナが二人で服を脱いで全裸になっていた。


「私達、一緒に入れるかな?」

 とティアが言ったが、

「狭いけど、まあ、何とかなるだろう」

 と俺は答えておいた。


 二人は一緒にバスルームに入り、浴槽の中に二人で立った。


 俺はそれを見てシャワーの使い方やシャンプーの使い方等を教え、石鹸でタオルをゴシゴシとこすって泡立ててやった。


「こうやってタオルでゴシゴシ洗って使うんだ。髪はこのシャンプーを手に取って髪を洗うんだぞ」

 ともう一度そう言って、テレビを点けた。


 ブラウン管のテレビ画面には何やら音楽番組が映っていた。


「次はピンコレディーのお二人です!」

 という司会者の声に、キラキラした衣装の二人の女性歌手が現れる。


「今年で引退コンサートを行う予定のお二人ですが、今のお気持ちはどうですか?」


 ああ、俺が子供の時に好きだったアイドル歌手だな。


 有名な曲に「胡椒警部」とか「未確認飛行物体」とかがある。


 そうか、今年が引退した年だったのか。


 俺は懐かしさもあって、二人の歌う姿をベッドの上で寝転がりながら眺めていた。


 やがてシャワーを終えてバスルームから出て来たティアとシーナは、身体を拭きながら

「不思議な言葉ね。音程が高くなったり低くなったりしてるだけなのに、何か胸の中がゾクゾクする感じがするわ」

 とティアがテレビの歌を聞きながらそう言った。


 なるほど、これまで歌なんて文化は見た事が無かっただろうからな。


「これは歌って言ってな、色々な楽器で音を鳴らして、音階を並べて人々の心を気持ちよくしたり、興奮させたり、いろんな効果があるんだよ」

 と俺はあまり旨い説明を思いつかずに、思いついた言葉でそう説明してみた。


「音波の一種なのですね」

 とシーナが全裸のままベッドに飛び乗って俺の身体に抱き着きながらテレビ画面を見る。


「音波の波長を組み合わせる事で、人の心に影響を及ぼす効果を狙ったものなのですね。凄い発明なのです」

 とシーナは関心している様だ。


 なるほどな。


 シーナにはそのように感じるんだな。


 これは興味深い反応だ。


 電波や音波、通信などに詳しいシーナが「音楽」に興味を持って研究をした先には、どんな成果が待ち受けているんだろうか。


 見た事も無い楽器を発明するかも知れないし、聴いた事も無い名曲を生み出すかも知れない。


 シーナは地球上の誰もが認めるであろう美少女だ。


 歌唱力はどれほどかは分からないが、もしかしたら、とんでもないアーティストに化けるかも知れない。


 そう考えると、ティアだって発電のプロフェッショナルだ。


 この時代の日本では火力発電が主流だったが、国の政策によって原子力発電への移行が盛んで、推力発電の為のダム工事なんかも色々問題にはなりつつも推進されていた時代だ。


 この時代に、電線を介在せずに電力供給できる電力発電システムを構築なんてしたら、どれほどの利権を得る事になるかは想像もつかない。


 イクスやミリカだってそうだ。


 食文化の発展は目覚ましいものがあるだろうし、ミリカが衣装ブランドを設立すれば、世界に通用するデザインを送り出す事になるかも知れない。


 何せ、生地の開発ができるミリカだ。


 新たな高機能の生地を開発できれば、ミリカの名は世界に轟く事になるだろう。


 ガイアやテラはエネルギー問題の解決に寄与するかも知れない。


 世界の戦争の殆どが、西側諸国によるエネルギー強奪を目的としたものだ。


 宗教戦争などとは名ばかりで、実際にはエネルギーを略奪する為の戦争であった事は、2035年の世界では既知の事実だった。


 ライドとメルスも大きな成果を残すかも知れない。


 特にメルスのギヤの駆動力伝達技術はピカイチだ。


 テキル星で作ったあの飛行機兼自動車のギヤの効率は凄まじかった。


 軽い力でペダルを漕げば、重い車体が軽々と動き出す。


 この力学理論をこの時代に実現すれば、この地球上の自動車産業の歴史を大きく変える事も出来るだろう。


 ライドの飛行機技術も同じ事が出来るかも知れない。


 誰もが簡単に飛行機で安価に移動できる時代が来たとしたら、どれほど社会が便利になるだろう。


 首都高の渋滞だって随分と緩和されるだろうし、その効果は計り知れない経済的利益を生むんじゃないか?


 それらを取りまとめて運営するコングロマリッドの代表として俺が居れば、世界の名だたる企業も俺達を無視は出来ないだろうし、政治家共の方から俺達の方に寄って来る事だろう。


「なるほどな。これは面白い事になるかも知れないぜ」

 俺はそう言いながらシーナの頭を撫で、「シーナのおかげで面白い事を思いついた。俺達の公的な身分証明書が出来上がるまでの間に、計画を作ってみんなに共有する事にするぜ」


 シーナは「何故褒められたんだろう」と不思議そうな顔をしていたが、

「ショーエンが喜んでくれるなら、何でもするのです」

 と言って笑顔を見せたのだった。


 ----------------


「なるほど、好きなものを好きなだけ取って食べられるという事ですね」

 とイクスはホテルの朝食ビュッフェの席で目を輝かせている。


 メニューは俺にとっては馴染みのあるものばかりだが、イクスや他のみんなにとっては珍しい食べ物が多いのだろう。


 主食は白米と炊き込みご飯、食パンの他にもクロワッサンがあった。更にナポリタンやミートソーススパゲティもあり、主食だけでも満腹にできそうだ。

 おかずも豊富で、サバの塩焼き、鮭の塩焼き、筑前煮、カレー、鶏のから揚げ、ウインナー、スクランブルエッグ、サラダ、納豆、梅干し、福神漬け、コーンポタージュスープ、オニオンスープ、中華スープなどがあり、デザートとしてはヨーグルト、フルーツ、プリン、ホットケーキなどがあった。


 飲み物も豊富だ。


 コーヒーや紅茶は勿論、日本茶も数種類あり、オレンジジュース、グレープフルーツジュース、りんごジュース、桃ジュース等が並んでいた。


 ジュースは全てが国産果物を絞ったもので、パックの濃縮還元ジュースを使っていないってのも、この時代のいいところだ。


 俺達はレストランのスタッフにテーブルへと案内され、テーブルに置かれた皿を持って、朝食ビュッフェを楽しむ事が出来た。


 テーブルで食後のコーヒーを楽しみながら、俺はみんなに話しかけた。


「今日は空港に行って飛行機を見た後、自動車販売店を見に行って、その後は公園かどこかで俺の計画についてみんなと共有しようと思ってるんで、そのつもりでいてくれ」


 メルスは砂糖を3杯くらい入れたコーヒーを一口啜ると、

「自動車を見に行きたいのは確かですが、計画の共有を先にしてもらっても、僕達は構いませんよ?」

 と気を遣っている様だ。


「いや、俺の計画を話す前に、お前達にはこの国の飛行機と自動車を見ておいて貰いたい。俺の計画には、そうした事も重要な要素になるんだ」


 俺がそう言うとライドとメルスは頷いて

「分かりました。では、飛行機を見に行った後に自動車を見に行き、その後に計画を聞かせて頂きます」

 と応えてくれた。


「よし、じゃあ30分後にロビーに集合って事で、一旦解散だ」


 と俺が言うと、みんなは手を合わせて


「ゴチソウサマデシタ!」


 と日本語で言ったのだった。

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