魔境(9) 神魔の戦い(後編)
「・・・でありまして、こちらの武具をお納め頂きたく、お願い申し上げます」
1組目の商人がプレゼンテーションを終えた。
商人の両側にはズラリと竜人の騎士が整列しており、魔王フェムトのデバイスからは、商人に不穏な動きがあればすぐに切り刻んでしまう様にと指示が出ていた。
なるほどな。
警備は万全って事か。
しかも、商人は命がけって訳だ。
俺達は控室に居るが、俺は通信傍受を行いながら、魔王達の言動からこれらの状況を把握している。
どうやら1組目の商人達は、無事に謁見の間から出られた様だ。
控室には戻らないでそのまま王城の出口まで案内されているのが、控室の前を商人達が通り過ぎる姿から伺えた。
控室の入口に一人の兵士が顔を出した。
「次の商人、謁見の間に進め」
呼ばれた商人が立ち上がり、男が台車を引いて、女が後ろから台車を押して部屋を出て行った。
さっき情報津波で見た商人夫婦だ。
投石機らしきものを紹介するんだろうが、あんなもので魔王達が満足するとは到底思えない。
1組目のプレゼンテーションが丁度30分位だった。2組目のプレゼンテーションも同じ位の時間がかかると考えれば、イクス達の襲撃は2組目のプレゼンテーション中に起こるだろう。
俺達の作戦はこうだ。
イクス達が王城を襲撃する事で、魔王達は安全な場所へと避難しようとするだろう。
それを護衛する騎士達に交じって、俺とシーナが魔王の護衛のフリをする。
そして、ライド達には飛行機でドラゴン付近を滑空してもらい、上空でドラゴンに攻撃するフリをしてもらう。
そしてドラゴンは一旦近くの森林に引き下がり、次の俺の指示があるまでは待機してもらう。
上空でドラゴンを退治した様に見える飛行機を王城の前で着陸させ、他の商人達を差し置いて、俺達が魔王達に別室で直接対談する。
そこで俺は、俺がプレデスの人間だとバラし、魔王達から出来る限りの情報を引き出したいと考えている。
この作戦をみんなに共有した時、シーナが頷きながらこう言った。
「さすがショーエンなのです。魔王達のデバイス情報から犯罪記録が出てこない事を既に気付いていたのですね」
「ああ、そうだよ」
と俺は言ったが、実はシーナに言われて初めて気付いた。
やっべ、見落とす所だったぜ。
確かにそうなのだ。
シーナの通信傍受システムはオームで改造されてより高性能になっていた。
これまではデバイスから送信される情報しか傍受出来なかったが、今は他者のデバイス情報を検索できる様になっていたのだ。
これが敵に奪われた場合に備え、俺達のデバイスには干渉できない様に設定されているらしいが、今のところ俺達は、デバイスを持つ他人の個人情報を閲覧し放題というとんでもない状態だ。
にも関わらず、魔王達のデバイス情報をいくら検索してもプレデス星なりクレア星なりで記録されている筈の犯罪記録が見つからない。
しかも、5人全員の出身地情報が「レプト星」になっているのだ。
つまり、魔王達はレプト星で生まれたという事だ。
これまではレプト星ってのは牢獄の様な星で、星全体が犯罪者しか居ないものだと考えていたが、そうでは無い可能性が出て来た訳だ。
よくよく考えて見れば当然の事かも知れない。
いくら牢獄の星だとしても、監視する側の人間も居るだろうし、囚人にも食事は与えないといけないし、その食事を作る者や、食材を作る者、流通する者、そうした人間社会があって当然だ。
俺は情報津波の能力に酔って、自分自身を情報強者だと誤解していたのかも知れない。
もっと知らなくてはならない事はある筈なのにな。
なので、魔王達からできる限りの情報を得る為に、対談の機会を無理やり作ろうって作戦にしたのだ。
その時、謁見の間の方から悲鳴が聞こえた。
「うわあああ!」
「お、お助けを・・・」
「・・・・・・・・・」
控室の商人達がビクっと身体を震わせ、謁見の間で何が起きているのかを気にしている様だ。
俺はデバイスが傍受した魔王達の通話を聞いていた。
「つまらん」
「これではガイア星に行けたとしても、先輩方に顔向けできないよ」
「しかし、プレデス星人の人間育成は生ぬるいな」
「仕方が無いよ。奴らは家畜を作るのが仕事だからね」
「ああ、しかしガイア星の人間はもっと優秀な家畜人間を創っているはずだ。我々もレプト星人として誇れる人類を作らなければ、ガイア星に行けても恥をかく事になりかねんぞ」
「そうだね・・・」
・・・・・・・・・家畜?
俺達の仕事は家畜人間を創る事だと?
奴らの言う「人類」と、惑星開拓団が創造する「人類」との間に、何か違いがあるのか?
俺がそう考えた時、地響きと共に、離れた所から何かが崩れる様な音が聞こえた。
・・・・・・・・・始まったな。
「イクス達が来た様だ」
俺がシーナに小声で伝えると、シーナは頷いて右手を自分の耳に当てて俺を見た。
なるほど。魔王達の反応を聞こうって事だな?
俺は頷きながら魔王達の会話に集中した。
「何だ? 何があった?」
「外の竜騎士は何をしている?」
「おい、窓から外の様子を見てみろ!」
「あ、あれは・・・、竜がブレスで王城の壁を壊そうとしているぞ!」
その時、ゴゴーン・・・という音と共に更に大きな地響きがあったかと思うと、俺達の顔にパラパラと天井から砂埃が舞い落ちて来た。
「ここに居ると危険かもな」
「行くのです」
俺達はキャリートレーを運び出すフリをしながら、控室を出て謁見の間の方へと走り出した。
謁見の間に入ると、赤い
竜人の騎士達は、一目で分かるほどに竜人の姿をしていた。
顔中が鱗に覆われ、剣や槍を持つ腕もワニの体表の様に鱗に包まれている。
そして魔王達の姿を見ると、5人の魔王達の顔は、もはや人間の姿では無く、それこそ竜の様な顔をしていた。
・・・・・・・・・!!
「お前達は何者か!?」
と魔王の一人が俺達の姿を見て大声を出して訊いた。
他の魔王達もその声につられて俺達を見た。
「俺達は旅の商人だ! 外にドラゴンが居るぞ! 今、俺達の仲間がドラゴンを撃退しようとしているはずだ! 窓の外を見てみろ!」
俺がそう叫んだ時、王城の外から大きな歓声が聞こえた。
「何事か!?」
と魔王の一人が窓の方へ駆け寄り、窓から上空のドラゴンに立ち向かう飛行機の姿を見ていた。
そして、ドラゴンがゴオオッと吠えながら上空へと舞い上がり、そのまま北の方角へと飛び去って行く姿を目で追っていた。
「ほほう・・・、竜が去って行った様だな。空を飛んでいるあれがお前達の仲間とやらか?」
と窓際に立つ魔王が俺を見て言った。
「ドラゴンは去って行ったんだな? ならば脅威は去ったという事だな」
俺はほっと胸を撫でおろす仕草をして見せ、
「皆さんが無事で何よりです」
と言って
「面白いな。あの巨大な竜をいとも簡単に追い払うとは、あの翼が生えた鳥の様な乗り物がお前達の商材か」
魔王はそう言いながらデバイスで他の魔王達と無声通話をしている。
「あの男は面白いぞ」
「どうせ他の商人は今までと同じ様な商材しか持ってないだろうしね」
「私はこの男の話を聞いてみたいな」
「同感だね」
よし、作戦通りだ。
「私達の出番はまだ後の予定でしたが、ご興味がある様でしたら、今からお話をさせて頂いても?」
と俺は魔王達に言った。
魔王達は口々に
「ああ、そうしてくれ」
「話を聞かせるがいい」
と声を出す。
ドラゴンに似た顔から人間の言葉が発せられるのを見るのは不思議な気分だ。
声帯の構造などにも興味は湧くが、今はそんな事はどうでもいい。
「承知しました」
と俺は言いながら周囲の竜人の騎士達を見回し、「しかし、この様なおっかない連中がいる中では、落ち着いて商材の説明をする事はできません。良ければ別室でお話をさせて頂けませんか?」
どうだろう、図々し過ぎたか?
俺はそう思ったが、魔王達は頷いて
「場所はここでいい。しかし、騎士達は下げさせよう」
と言い、デバイスで「部屋を出て、入口の外で護衛せよ」と伝えているのが分かった。
竜人の騎士達はガシャガシャと鎧の音を立てながら足早に部屋を出て、入口の外で待機していた。
「有難う御座います」
と俺は言い、シーナと運んでいたキャリートレーから手を放し、自分のキャリートレーを抜き出してその上に座り、宙に浮いたまま魔王達の方へと向いた。
「!?」
「それは・・・」
と魔王達の表情は読みにくいが、驚いているらしい事は分かった。
そして俺は、デバイスを使って無声音声で話しかけた。
「もうお分かりでしょう。我々はクレア星から来た惑星開拓団の一員です」
魔王達は驚いてはいたが、すぐに理解をした様だった。
「そうか・・・、どうりで技術に長けている訳だ」
そう言ったのはレプトという男だった。
デバイス情報を傍受していたから分かる。
こいつがリーダーだ。
レプトは玉座に座ったまま、俺達の方を見ていた。
「察しているかも知れんが、我らはレプト星から来た者だ」
とレプトが口を開き、「この星には、150年前に来た」
と続けた。
やっぱりそうか。
「お前はプレデス星の生まれか? それにしてはドラゴンを撃退する兵器を作っていたという事だが、どういう事だ?」
「私はプレデス星の生まれです。クレア星で惑星開拓団員となる為に学び、やがてガイア星を目指す者です」
と俺が言うと、レプトの顔が少し歪んだ。
「ガイアを目指しているだと? テラでは無いのか?」
とレプトが訊く。
どういう意味だ?
テラって、月の事だよな?
月は地球の衛星でしかない。
しかも人が住める環境ではないはずだ。
それとも、地球の時間はもっと進んでいて、今は月にも人が住んでいるのだろうか?
「いえ、ガイア星を目指しています」
と俺はもう一度そう言い、「何せ、目指すべき理想郷ですからね」
と付け加えた。
「解せんな! ガイアを理想郷とするのは、我々レプト星人だけの筈だ! お前達はガイアに家畜を提供するテラこそが理想郷の筈だ!」
「どういう意味でしょうか?」
「知らんのか・・・、いや、お前達は寿命が短い。知らされないままに情報が潰えたのかも知れんな」
「と言いますと?」
「良かろう。お前達の商材に免じて教えてやる」
レプトの話は衝撃的な内容だった。
まず、レプト星は牢獄の様な星では無いという。
そして、これは想定の範囲内ではあったが、やはりプレデス星は、優秀な人間の遺伝子を創造し続ける工場の様な役割を持った星だという事だ。
そして、プレデス星で優秀だと認められた人間は、クレア星に移住して「惑星開拓」について学び、惑星を開拓する。
ただし、「人間に似た生物を作り、それらを奴隷として存在させる」事が目的だという。
更にその奴隷達に家畜を育成させ、レプト星人が君臨出来る環境を整備するのが最終目的なのだという。
しかも驚きなのは、1000を超える「開拓済の惑星」とは、全てがレプト星人が移住する為に作られたもので、その全てにレプト星人が既に移住しており、惑星開拓団はレプト星人が快適に生活できる様にする為に、奴隷となる人類を創造し、その人類に家畜の世話をさせる事が仕事なのだという事だ。
つまり俺達プレデス星人とは、レプト星人の従順で優秀な下僕であり、レプト星人が快適に住める惑星にする事が仕事であり、その為に「大いなる者」に作られた存在なのだという事らしい。
そこまでの話を聞いただけでシーナは既に震えている。
それもそうだろう。自分の存在意義を消し飛ばす様な話だ。
俺だって想像を絶する話に戸惑いはあるが、だけどこれだけは訊いておかなければならない。
「で、ガイアを理想郷とするのがレプト星人だけだというのは?」
俺の声は少し震えていたかも知れない。
しかし、俺はレプトから目を離さなかったし、シーナはそんな俺を頼って震える手で俺の腕を掴みながら、必死にレプト達の方を見ている。
「・・・ガイアが我々の本来の故郷だからだ」
とレプトは言った。
竜人の故郷?
地球が?
「ガイアは聖なる惑星だ。我々の祖先はガイアから始まり、ガイアで繁栄を極めた。しかし、2億年前に運悪く小惑星との衝突が起こり、我々の祖先は宇宙へと逃避した者を除いて絶滅してしまった」
2億年前!?
恐竜がいた時代の事を言っているのか?
そして小惑星が衝突し、地球が機能を失って氷河期が訪れ、恐竜が絶滅したあの歴史の事を言っているのか・・・
「そして氷の惑星になったガイアを、再度復活させたのが隣の惑星に住んでいたお前達の祖先だ」
隣の惑星・・・
火星の事か!
「お前達の祖先はガイアの復活の為に巨大な基地を作り、ガイアが復活した暁にはガイアの資源を好きなだけ取得できる様にする事を我々の祖先と契約した」
とレプトはそこで一度大きくため息をつき、
「それが、ガイアに付随する人工惑星であるテラだ」
と言った。
月が人工惑星!?
地球の衛星じゃなかったのか!?
「お前達の祖先は、家畜を育成する代わりに膨大な資源を欲しがった。我々の祖先は、資源を提供する代わりに優秀な下僕を欲しがった。その下僕が、プレデス星で製造されたお前達だ」
「プレデス星やクレア星から、レプト星に送られた人間がいた筈だが、それらはどういう扱いを受けている?」
と俺は訊いた。
もう敬語など使う余裕は俺には無かった。
しかし、レプトは気にする様子も無くグフフと低い声で笑い、
「勿論、我々の遺伝子工学の実験に使わせてもらった」
俺は目の前が真っ暗になるような錯覚を覚えた。
プレデス星の犯罪者はレプト星に送られて収監されて罪を償っているものだと思っていた。
しかし違った。
モルモットにされていたんだ!
「お前達は優秀な下僕だ。我々には想像もつかない発明を繰り返した。特にデバイスの発明は素晴らしい。我々は遺伝子工学に長けているが、機械工学はお前達の祖先に及ぶ者はいないだろう」
なるほど。
これはいい事を聞いた。
俺達は魔王達に遅れをとっている訳では無さそうだ。
ならばイケるんじゃないか?
「有難う。いい話が聞けたよ。そして、さようなら、だ」
俺はそう言うと、シーナに
「あいつらの動きを止めろ!」
と叫び、シーナははっと我に返って音波兵器を起動する。
「お前達、いったい何を!?」
とレプトは叫んだが、シーナの音波兵器は既に魔王達に向けられていた。
「ぐっ! 動けん!」
俺は動けなくなっている魔王達の元に歩み寄り、
「本当はまだ聞きたい事もあるが、ガイアは俺達が頂く」
俺がそう言いながらレールガンをレプトに向けた。
「お前・・・、下僕の分際でぇぇ!」
と、やはり竜人らしく怪力の持ち主なのか、腕を振り上げようと力を込めている。
このままじゃ本当に音波兵器の効力に逆らってきそうだ。
やるなら早い方が良さそうだ。
俺はレールガンを起動し、レプトの顔面に向けた。
「時代は変わるんだよ。俺達いはいつまでもお前らの下僕なんてまっぴらなんだ」
俺は、怒りで顔を歪ませるレプトにレールガンを放った。
それと同時にレプトの頭部が吹き飛び、しかし破壊されたレプトの頭部と血しぶきが音波兵器の効力によって空中で停止する。
「お、おい、待て!」
とフェムトが叫ぶ。
「次はお前か」
と俺はレールガンをフェムトの頭に向けて起動した。
途端にフェムトの頭が吹き飛び、レプトと同じ様に空中で残骸と血しぶきが動きを止めた。
「ま、待ってくれ! 話をしよう!」
と今度はフルートが言う。
東の山脈に囲まれた国の魔王だっけか?
今更そんな事どうだっていいけどな。
「そうか、そんなに死にたいか」
と俺はレールガンをフルートの頭に向けて起動した。
ボンッ! という音と共にフルートの頭がはじけ飛び、残骸が空中でピタリと止まった。
「次はお前だ」
と俺はデレスという名の魔王の方を見た。
顔は竜の様ではあるが、身体は女の身体だ。
デバイスを傍受している時に女っぽい声のやつがいると思っていたが、こいつがそうか。
「や、やめ・・・」
デレスの目には涙が溜まっている。
音波兵器の効力で、涙は流れ落ちずに目元に留まっている。
しかしここは非情にならなければならない。
俺はレールガンを起動した。
バン! という音がした時、俺は少し目を逸らしてしまった。
相手が女だと思ったからだろうか。
そして最後の一人はデバイスの情報が読み取れない。
恐らくデバイスを持っていないのだろう。
しかし、竜人の姿をしているこいつもレプトの仲間には違い無い。
「ま・・・、待って下さい! わ、私はこいつらに改造されただけなんだ・・・!」
「そうか、同情するぜ」
「じ、じゃあ・・・」
とその男が声を出そうとした時には俺はレールガンを起動していた。
よし、これで魔王討伐は完了だな。
俺は振り向き、音波兵器を解除してもらおうとシーナの方を見ると、謁見の間の入り口を固めていた竜人の騎士達が部屋に入ってきてシーナに迫っていく姿が見えた。
「シーナ! キャリートレーで天井まで飛べ!」
と俺が叫ぶと、シーナは後ろを振り返る事もせずにキャリートレーに乗って天井近くまで浮き、それから竜人の騎士達がすぐ傍まで迫っていたのを知って
「うわあああ!」
と悲鳴を上げた。
俺もキャリートレーでシーナの元まで移動し、
「危なかったな! だけど無事で良かった!」
とシーナを見て息をついた。
「こ、恐かったのです・・・」
とシーナは少し涙目だ。
「いいや、よく俺の声に素早く反応してくれた。あと1秒遅ければヤバかった」
「ショーエンの言う事は絶対なのです。私がショーエンの声を最優先するのは当たり前なのです」
とシーナはそう言い、「それに、そのおかげで助かったんだから、やっぱり私の考えは正しかったのです」
と続けながらふーっと大きく肩で息をしていた。
竜人の騎士達はここだけで12人。
外の広場にも大勢いるだろう。
こいつらを何とかしないと、街の人々も安心は出来ないだろう。
「シーナ、俺のレールガンはもうすぐ電力が切れそうだ。シーナのを貸してくれるか?」
と俺が言うと、シーナは
「勿論なのです」
と言って俺に2本のレールガンを手渡した。
「2本もあったのか」
と俺が言うと、シーナは
「ティアが予備も持っておけって言って2個くれたのですよ」
と誇らしげに言い「私達はショーエンの妻だから当然なのです」
と胸を張った。
「そうか、ありがとな!」
と俺は言いながらレールガンを竜人の群れに向け、
「お前達の主人はもう死んだんだ! お前達の役目は終わったぜ! あばよ!」
と言うのと同時に2本のレールガンを同時に放った。
途端に二人の竜人の身体がはじけ飛ぶ。
本当にすごい威力だ。
更にシーナももう一つレールガンを持っていた様で、
「えいや!」
と掛け声を掛けながらレールガンを放つ。
途端に一人の竜人の両足が吹き飛んだ。
「一気に片付けよう!」
と俺は次々にレールガンを放ち、その場の竜人騎士をみるみる肉片へと変えて行った。
「よし! 窓から部屋を出るぞ!」
「了解なのです!」
俺達は謁見の間の窓から建物の外に飛び出し、さらに上昇して、まだ上空を滑空しているメルス達の飛行機の姿を見つけた。
「ティア、状況を教えてくれ」
と俺がデバイスで訊くと、すぐにティアの返答があった。
「竜人の騎士達の動きがおかしいわ。まるで突然制御を失ったような感じね」
「ああ、俺達が魔王を全滅させたからな。それで制御を失ったのかも知れないな」
「えええ!? もう終わったの?」
とティアが素っ頓狂な声を上げているのが微かに聞こえた。
「今そっちに行く」
と俺は飛行機の方へと滑空し、ティアの目の前で飛行機の動きに合わせて飛行した。
「ショーエンさん、お疲れ様です。思ったよりも早かったですね」
とメルスが笑顔で言っている。
「ああ、気に障る奴らだったからな。だけど、貴重な情報は得られたぜ。あまりいい情報では無かったが、後でみんなに共有するぜ」
と俺は応えたが、広場を見ると周囲に集まっている人々も不安気だし、人間の兵士達もどうしていいか分からないでいる様だ。
「ティア、拡声器みたいなものはあるか?」
と俺はティアに訊いてみた。
「うーん・・・」
とティアが考えていると、俺の後ろからシーナが
「私が持ってるのです」
と声を掛けて来た。
「おお!」
と俺は突然後ろから声がしたので驚いて声を上げたのだが、シーナは
「喜んでもらえて嬉しいのです」
と別の意味で認識しているようで、俺は恥をかかずに済んだ様だ。
俺はシーナから小さなマスク型の装置を受け取り、
「どうやって使うんだ?」
と俺が訊くと、シーナが俺の顔に装置を装着してくれた。
なるほど、シュノーケルみたいに口に咥えて使うんだな。
俺は広場の方に少しずつ高度を下げ、ぐるりと人々を見回しながらキャリートレーの上で立ち上がった。
「聞け! フェムトの国民達よ!」
俺がそう言うと、人々は途端に静寂を取り戻した。
中世っぽい世界のこういう所、ほんと好きだぜ。
みんなちゃんと静かにしてくれる。
前世の学校の朝礼とは大違いだぜ。
「皆の者に告げる! 俺は龍神の使いである! この国に集った魔王達は、先ほど俺達が全て倒した!」
しばしの静寂。
人々は隣の者と顔を見合わせ、俺の言葉の意味を理解しかねている様子だ。
「この大陸は、150年の昔より魔王によって侵略されて来た! 龍神は竜を
徐々に広場に小さな騒めきが聞こえだす。
「しかし! その支配は多くの人々を苦しめて来た! この150年で税金は増え、病気が増え、食糧の生産に自由は無くなり、魔王への信仰を強制されて来たのでは無かったか!」
広場が更にざわざわと騒めき立った。
「お前達が苦しんできたのは、お前達が無力だからか!? いいや、違う! お前達は無力なのではない! 恐怖で力を封じられてきただけなのだ!」
俺はこうして人々に自尊心を植え付ける。
みんな無力だと思い込んでいる。そうじゃない自分を取り戻したいといつも思っている。
しかし、理解者が居なくてそれを声にするのが恐い。
そんな時に、神のごとく現れる「理解者」が天から降らせる言葉。
これに抗える人間など居ない。
利権を貪って人間を裏切って来た者はごく少数なのだ。
大勢を虜にする方が統治は簡単だ。
今、人々に自尊心が芽生えだした。
いや、取り戻したと言った方がいいのかも知れない。
見ろ、人間の兵士達が竜人の騎士達を捕縛しようとしている。
抗う竜人も居るが、大勢の兵士で取り囲んで、自らの力で何とかしようとしている。
人々がそれを見て歓声を上げている。
何に歓声を上げているかって?
それは希望だ。
虐げられ続け、絶望しかかっていた人々が、伝え聞く歴史上のおとぎ話だと思っていた幸せな社会に生きられるかも知れないという「希望」。
それが今、人々の手の届きそうな所に見えている。
だから、少しくらい傷付こうとも、これまで恐怖の対象であったはずの竜人の騎士と戦う事が出来る。
そして、竜人の力に押し負けそうになっても、俺のレールガンが竜人を吹き飛ばす。
俺達は、人間が戦う姿を見ながら、竜人に押されている所を見つけてはレールガンを放ち、
「神の裁きである!」
と大声で伝えながら人々を救っていく。
人々の脳裏に刷り込まれる。
「龍神のご加護だ!」
と誰かが声を上げた。
その声が大きく
人々が歓喜の声を上げ、竜人の騎士を駆逐してゆく。
やがて、数百人は居たはずの竜人は全滅し、そこには竜人の
「うおおおおお! 俺達の勝利だああああ!!」
と叫んだ男の声の方を見ると、それはダグラスだった。
呆気ないほど簡単に終わった戦いだった。
たった1日。
後の書記官は、この戦いを「神魔の戦い」と名付け、その文献にはこう記されたという。
フェムト龍神国史
『神魔の戦い』の章
・魔王がフェムトに集いしバティカ歴5014年9月4日。5人の魔王は、北のオームを食らう為にフェムトに集い、人々を集めて宴を開いた。これは
・シンが正午を告げる頃、天空に竜が現れ、魔王が集う王城に光の矢を2度撃った。これは
・そこに天を駆ける翼の生えた馬車に乗った救世主の使徒が現れ、中空で竜と
・やがて、王城の中で真の救世主が現れ、神の
・そして真の救世主は神の台座に乗って空に現れ、人々に”自由であれ”と告げた。これが人々が真の人間になった時となった。
・そこで、魔王によって作られた魔人と人間との戦いがあった。救世主達は、空から人々に加勢し、一匹残さず魔人を討った。
・人々が勝利の雄叫びを上げた後、真の救世主が一言”お前達は自由だ”と人々に告げた。
・人々は真の救世主に”王”を求めた。真の救世主は”王は要らぬ。人々が選んだ人間をお前達の代表として統治せよ”と告げた。そして”民主主義国家たれ”と告げて、空駆ける翼が生えた馬車とと共に、北の空へと去って行った。
・翌日、7人の龍神の御使いが王都に現れ、人々に”政治塾”なる学び舎を作った。それが、フェムト龍神国の始まりとなった。
そうして俺達は、この国の歴史に刻まれる事になったのだった。
------------------
「さすがショーエンなのです」
シーナが俺からちっとも離れてくれない。
それに負けじとティアも俺の右腕に抱き着いている。
ここはオームの王城だ。
事の
テーブルに並ぶ食事は全て、イクスの教育を受けた王城の調理人達が作ったものらしく、食材に至ってはドラゴンが大量捕獲してきた獣の肉やら、野菜工場で作った野菜やらと、これまたイクスの功績で質が向上した小麦粉で作ったフワフワのパンなどもあって、かなり豪華だ。
しかも、バティカでも教えていなかった秘伝のタレで作った「てりやきソース」とマヨネーズの組み合わせで食べるジューシーな肉料理は、慣れてる俺でも腹が鳴るのに、同じテーブルに着いたオームの貴族達にはたまらないご馳走だろう。
今日は魔王を倒してオームに帰って来たが、明日はまたフェムトに行って「政治塾」を作って教育してやるつもりだ。
その為にも今日はオームでゆっくり休み、風呂にも入ってしっかりと疲れを取っておきたいんだよな。
で、久々に旨い料理が食べられるからか、それとも大仕事を成し遂げた事が誇らしいのか、ティアとシーナはこんな感じだし、他のメンバーも俺への信望が増している気がする。
ガイアとテラでさえそんな感じだ。
前世も含めた俺の人生の全てを振り返っても、ここまで人気者になった事は無かった。
なので俺も照れくさいやら何やらで、うまく喜びを表現できないのがもどかしいところだが、まあ、自然体でいるのが一番だしな。
という事で、いつも通りの俺でいようと頑張っている訳だ。
それにしても、全てが終わった訳では無い。
レプトから聞いた情報は想像を絶していた。
プレデス星で人間の選別が行われている事は何となく分かっていたつもりだが、まさかモルモットにされていたとは思わなかった。
しかも、プレデス星人の御先祖様もそれを承知してるってんだから問題は深刻だ。
俺の生きたい世界を俺がこの手で作ると決めて、やっとここまで来たのに、俺達がただの「レプト星人に惑星を提供するだけの役割」しか担っていないなんて事があってたまるか。
全てのものは、どんなに複雑に見えても、知れば知るほど最終的にはシンプルな構造に帰結していくものだと思っていた。
物理にしても化学にしても、結局は物質の特性の組み合わせに過ぎない。
特性を知ってしまえば、魔法の様に見えた不思議な出来事も、理に
けど、宇宙規模で様々な情報を得て来た俺達でさえ、知れば知るほど「更に大きな存在」が現れて俺達を混乱させようとする。
何が何でもカオス過ぎるだろ!
そう叫びたいが、嘆いても仕方が無い事だ。
俺が顔を上げると、いつの間にか貴族達が席に着いて、食事が始まっていた。
俺に何かを話しかけている者も居る様だが、全然耳に入ってこなかった。
彼らへの対応はティアが請け負ってくれているらしい。
そしてシーナが俺の皿にてりやきソースをたっぷり掛けた肉料理を盛りつけてくれていた。
俺は我にかえって顔を上げると、シーナが
「一番美味しそうな所を切り分けてもらったのです」
と言って笑顔を作っている。
ああ、みんなに心配かけちゃいけないな。
俺は姿勢を正すと、
「いただきます」
と言ってシーナが盛りつけてくれた肉料理を食べ始めた。
旨い。
「で、御使い様方は、ずっとこの国にお住まい頂けるのですかな?」
と一人の貴族が俺達の誰かに質問した様だ。
俺はその声の主が誰かも構わず、
「俺達は明日ここを発つ。フェムトに行って、この大陸を統治する為の準備に入る」
と言った。
「という事ですので、ここでの歓談はこれが最後になると思います」
とティアが俺の後を続けてくれていた。
俺は何となくこれからの事をみんなにどう話そうか、考えがまとまらなかったので、デバイスで「食事を終えたら風呂に入って早目に寝よう。そして明日の朝にここを発つ。飛行機の上でこれからの事について話す」とだけ伝えておいた。
みんなはそれを受信して、俺が疲れているとでも思ったのだろう。返信はせずに頷いて、ティアとシーナは俺の両手を握って応えてくれた。
俺達がレプトの下僕で資源獲得の為に対価として作られた存在?
ただの製造機扱いか?
いや、レプトの奴らは人間を人間だと認識さえしていなかった。
まるで言葉を話す家畜扱いだ。
奴隷と言ってもいい。
・・・嫌だ。
前世で散々感じて来た絶望的な思いだ。
・・・嫌だ!
そんな絶望はもう沢山だ!
俺達は人間だ!
あんな恐竜の生き残りの時代は終わったんだ!
俺は人間を頂点とする社会を作る!
俺が生きたい世界は、人間である俺達が作るんだ!
俺は皿に盛られた料理を一通り食べ終えると、
「ごちそーさま」
と言って席を立った。
貴族達は
「何と、料理はまだまだありますぞ」
と言っているが、俺は見向きもせずに歩き出した。
ティアとシーナはすかさず付いてくる。
他のメンバーも
「ごちそー様でした」
と声を揃えて言い、「ショーエンが私達のルールです。全てはショーエンと共にありますので、これにて失礼」
とこれはライドの声だな。
そうして俺達は各々の部屋へと戻ったのだった。
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