魔境(8) 神魔の戦い(前編)

「準備はいいか?」

 という俺の言葉に、俺の前に集った8人が頷いた。


 9月1日の夕方、ここはオームの南門。


 俺の右側にティア、左側にシーナ。


 そして、俺の前には左からミリカ、イクス、ライド、メルス、ガイア、テラの6名が並んでいる。


 俺達はフェムトに向かって出立する為にここに居る。


 今回の作戦は2つのチームに分けて行う事にした。


 編成は、前回視察に向かった俺達5名のチームと、イクスをリーダーとした、ミリカとガイア達のチームだ。


 大まかには、俺のチームが魔王討伐、イクスチームが都市に竜人が現れた場合の掃討といった感じだ。


 作戦は大雑把だが、このメンバーは皆優秀だからな、細かく取り決めをして、みんなの行動を制限するよりは、自由度を持って目的遂行をさせた方がいいと確信している。


 俺達のチームは飛行機でフェムトに向かい、イクスのチームはドラゴンの背に乗ってフェムトに向かう事にした。


 ダグラスの話では9月4日に魔王の集いがあるという事だが、9月3日には数人の魔王がフェムトに入国するという事も分かっている。


 なので作戦実行までは魔王達と鉢合わせない様に、まず俺のチームが9月2日のうちに入国して宿屋に泊まり、ダグラス達と共に環境を整備しておく。

 そして、大きくて目立ってしまうドラゴンに乗ったイクス達のチームは、9月4日の当日まではフェムト王都の西の森に待機してもらうという訳だ。


 お互いの通信が出来る様にする為、イクスチームにはフェムト王都の付近から西の森までのどこかで中継器を設置させる。


 9月2日のうちには森に入ってもらい、中継器の設置後は森の中で2泊してもらう事になる。

 森の中での宿泊については少し心配していたのだが、ガイアとテラのおかげでアウトドアに必要な準備は概ね出来ていた。


 さすがはバーベキュー大国のアメリカ出身者だ。俺が思いつかない様なアイテムまで存分に準備しているらしいから、イクスの料理やミリカの寝具も合わされば、なかなかに快適なアウトドアライフを送れるかも知れないな。


 逆に俺達のチームは宿屋に泊まるからと安心出来ない訳だ。


 何せ、敵の中枢に1番近い場所だから、警備も厳重だろうし、監視も厳しいかも知れない。


 味方になってくれる騎士が傍に居れば話は別だろうが、ダグラス達は魔王の警備で騎士の宿舎には居られないだろうし、街の巡回などと絡める事を想定すれば、俺達ばかりに構ってられないと考えるのが自然ってもんだ。


 なので、あくまで商人として振る舞いながら宿屋に泊まる必要があり、なかなか心の休まる暇など無さそうだ。


 9月2日にフェムトの王都に行着く事は既にダグラス達に伝えているので、王都の北門に到着した時には、ユグルかシュベールあたりが門を通してくれる事になるのだろうな。


 夕方に出発する理由は、敵に見つかりにくくする為だ。


 今から出発すれば、フェムトに着くのは夜になる。


 俺のチームは明日の朝イチで王都に入ればいいが、ドラゴンは人々に見つからない様に、夜遅くに森に潜んでもらう必要があるので、これくらいの時間で出発するのがベストだと判断した訳だ。


 俺はドラゴンの方を見ながらデバイスを使い、

「では、9月4日に俺が合図するまではイクスの指示に従え」

 と伝えておいた。


 ドラゴンは理解した様に軽く頭を縦に振るような仕草をした。


 俺は一通りみんなの顔を見渡した。


 みんなそれなりの緊張感を持っている様だし、目を見れば迷いがある様には見えない。


 うん、大丈夫そうだな。


 これから「人殺し」をするかも知れない事はこの2週間で何度も説明はしてきたし、そこに「正義」が存在する事も説明してきた。


「正義の定義」はシンプルに「ショーエンが目指す世界を創造する為の害悪を排除する事」としておいた。


 ガイアとテラが一番心配だったんだが、前世の地球でも戦争は何度もあったし、アメリカがほぼ全ての戦争に関わっていた事も理解していたし、「正義」という言葉が好きそうだったし、意外と理解は早かったんだよな。


「よし、じゃあ出発するか」


 俺はそう言って飛行機の後部座席に乗り込むと、ティアとシーナも後部座席に、ライドとメルスが運転席に乗り込んだ。


 イクスチームはドラゴンの翼をよじ登って背中に乗り込み、ライドが作ったらしいドラゴンの背に取り付けられた座椅子の様な物に縦一列で座った。


 前からイクス、ミリカ、テラ、ガイアの順だ。


 ミリカとテラの間にはキャンプに必要なアイテム等をまとめた荷物が積み込まれている様だが、荷物の中にはイクスとミリカのキャリートレーも含まれているみたいだから、仮にドラゴンが飛行不能になったとしても、イクスとミリカが何とかしてくれるだろう。


 ライドとメルスが飛行機のペダルを踏みこみ、飛行機が加速を始めて離陸を始める。


 俺達が離陸したのを確認してから、ドラゴンが翼を広げて大きく羽ばたき、周囲の木々を揺らしながら身体を宙に浮かせていく。


 ドラゴンの翼の風圧で飛行機の操縦に影響を与えない様、ドラゴンは俺達と一定の距離を空けて付いてくるつもりの様だ。


 ほんと、みんな気配りがよく出来て、いい連中だな。


 飛行機とドラゴンは順調に高度を上げてゆき、雲がかかる高度に差し掛かる前に南に向かって進んでいったのだった。


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「イクス達が西に進行方向を変えたみたいよ」

 とティアが俺に言った。


 俺が後ろを見ると、イクス達を乗せたドラゴンが高度を下げながら西の森に向かって離れていくのが見えた。


「ああ、俺達もそろそろ着陸だな」

 と俺が言いながらライドの方を見ると、ライドはゆっくりと高度を下げながら、着陸に適した場所を探している様だ。


 フェムトの王都まではまだ数キロの距離があるが、日も暮れて視界も悪くなってきたし、まだ景色が見えるうちに着陸しておいた方がいいだろう。


 ティアとシーナが地上を見下ろしながら、

「前方右手に川があるわね。川沿いに続く道路なら着陸しやすいんじゃない?」

 とティアが言うのをシーナも頷いて

「他に人の姿も無くていい感じなのです」

 と補足した。


 俺はシーナの顔を見ながら頷き、

「よし、そこに着陸して、そこからは自動車モードで進む事にしよう」

 とライドに伝えた。


 ライドは

「了解」

 と言って飛行機を操縦し、ティアの「もう少し右、そこで真っ直ぐ、高度は22メートル」という案内を参考に着陸態勢に入っていた。


 オームの兵士達の訓練を行った時に、ティア達もその場には居たが、こうしたチームワークを能動的に身に着けていたんだな。


 ほんと、優秀だよな。


 何かを見たり経験したりする度にものすごい勢いでノウハウを吸収して成長していくんだから、俺を超えるのも、そう遠くない未来なのかも知れないな。


 その時が来たら、俺はどういう扱いになるんだか、少し心配になって来るぜ。


 俺がそんな事を考えているうちに飛行機はガクンと揺れて着陸し、やがて減速して停止した。


 ライドとメルスがすぐに翼を畳んで自動車モードへと変形させると、メルスが俺を見て、


「あと4キロ程でフェムトの王都の北門ですが、このまま進みますか?」


 俺は辺りを見渡し、岩肌が見えた斜面を見つけ、


「いや、あの岩肌の所で朝まで自動車を隠しておこう」

 と俺は言いながらキャリートレーを取り出し、「ティア、シーナ。中継器と通信傍受の玉を持って付いて来てくれ」

 と続けた。


「今の内に通信網を作るのですね」

 とシーナがキャリートレーを取り出しながら言い、俺が頷くのを見て、「ライド達はここでショーエンからの通信を待つのです」

 と続けた。


 俺は、シーナが俺の指示を先回りしてライド達に伝えるのを感心して見ながら、

「さすがシーナだ。ライド、通信網が準備出来次第デバイスで連絡をするから、俺の指示があるまで待機していてくれ」

 とライドを見て言うと、すぐに

「了解しました」

 とライドが応えた。


「よし、じゃあティア、シーナ、行くぞ」

 と俺がキャリートレーに乗って浮き上がると、ティアとシーナもキャリートレーに乗って付いて来た。


 俺達が更に高度を上げて南に向かうこと数分間、星明かりにうっすらと照らされた地上に、城壁の影が横一線に伸びる姿が見えた。


 その奥には見覚えのある建物のシルエットが影絵の様に見えている。


 王都の北門付近を見下ろすと、どうやら既に門は閉ざされている様で、門の内側が見えるところまで飛行すると、門番の詰め所らしき部屋の窓から明かりが漏れているのが見えた。


 俺はティアとシーナにデバイスで「通信機を一番高い建物に仕掛けてきてくれ」と指示を出し、二人がすぐに飛び去るのを見て、俺はゆっくりと辺りを見回しながら、門番の詰め所の方へと下降していった。


 詰所の窓から少し離れたところから室内の様子を伺うと、室内には見た事の無い兵士が2人と、以前にも門を守っていたシュベールの姿が見えた。


 室内には3人しか居ない様で、3人はマグカップで何かを飲んでいる様だ。


 俺は周囲に人気が無い事を確認しながらキャリートレーを窓際まで近づけ、3人の会話を聞けないかと耳を澄ませた。


「シュベールさんが見た空を飛ぶ乗り物って、フェムト様の台座とは別物なんですよね?」

「ああ、あれはフェムト様が乗っている魔法のカゴとは違って、俺達にも乗れる代物だと聞いたからな」

「私がダグラス隊長から聞いた話だと、その商人達は龍神の御使いだという事ですが?」


 そんな会話が聞こえて来る。


 兵士の一人がシュベールにダグラスから聞いた話を確認しようとしているところで少し間があって、そして

「ああ、俺もまだ信じられないが、だが、俺はその男が、見た事も無い台座に乗って空を飛ぶのを見たんだ。あれは、竜神の加護を受けた産物に違いない」

 と言うシュベールの声が聞こえた。


 俺は窓の外の暗闇に紛れながら3人の会話を聞いていたが、上空にティアとシーナが戻って来る姿が見えたので、そのまま上空へとキャリートレーを上昇させた。


「ご苦労さん」

 と俺はティア達と上空で合流して声をかけた。


「準備はできたわ。メルス達の所に戻りましょ」

 とティアが言うのを聞いて俺は頷き、

「よし、戻ろう」

 とキャリートレーを北門の外へと移動させた。


 ほどなくライドとメルスが待機している場所の付近まで戻って来た。


 辺りを見回したが、人気は全くない。


 獣の類も居ない様だ。


 俺はデバイスを使ってメルスに

「どこに居る?」

 と無声通話を持ちかけると、

「ここです」

 とすぐ左手の岩陰からキャリートレーに乗ったメルスが真上に飛翔したのが見えた。


 俺達はメルスの元まで移動し、周囲に誰も居ない事を再度確認してから自動車を隠している岩陰へと下降した。


「お疲れ様です。街の様子は如何でしたか?」

 とライドが訊いた。


「ああ、北門は既に閉まっていたが、詰所にシュベールとあと2人の兵士が居たな。少し会話を盗み聞きしたが、俺達を龍神の使いと信じている様子だったぜ」


「当然なのです。ショーエンがそう仕組んだのだから、当然なのです」

 とシーナはキャリートレーを自動車の荷台に置きながらそう言い、俺のキャリートレーも受け取って荷台に積んでくれた。


「明朝、日が昇る頃にここを出るぞ」

 と俺は言い、「それまで、ここで仮眠を取ろう。まずは俺達が見張りをするから、ライドとメルスは先に休んでくれ」


「了解しました」

 とライド達が答えると、ティアとシーナは俺の両脇に控え、自動車の後部座席をベンチ形に変形させて二人に譲った。


「ありがとう、ティア、シーナ」

 とメルスは言いながら後部座席に移動し、ベンチに横になった。


 ライドは荷台から保存食を取り出し、ティアに手渡して

「これを夜食にするといいですよ」

 と、小麦で作ったビスケットの様なものを手渡していた。


 なるほど、イクスが持たせてくれた保存食だな。


 ビスケットは元々、船乗りが食料が尽きて、倉庫にあった小麦粉と砂糖を使って作ったのが始まりだと聞いた事がある。


 こういう時の保存食としては手軽で丁度いいな。


「ありがとう」

 とティアはライドからビスケットの入った袋を受け取り、「ショーエン、あそこの岩の出っ張りが見張りに良さそうよ」

 と奥の小さな岩山を指さした。


「ああ、そうだな」

 と俺あ言いながら歩き出すと、ティアとシーナが俺について来た。


 辺りは暗闇だが、空には星が沢山見えていて、微かな明かりとなって地面を照らす。


 テキル星には月の様な衛星が無いので、夜になると地上は本当に暗い。


 こういう世界に住む動物は、きっと夜目が効くか、聴力が優れているかの特徴を持っているだろう。


 今俺達は、この世界では生物としての能力が低いレベルに位置づけられているに違いない。


 技術力でカバーはできるだろうが、それでも俺達はただの人間だという事を忘れてはいけない。


 そうだ。


 俺達はひ弱な人間に過ぎない。


 俺達全員が無事でいられる保証などどこにも無い。


 もしかしたら、俺は大怪我を負うかも知れないし、仲間がひどく負傷するかも知れない。


 最悪の場合は、仲間の命を失うかも知れないし、俺が命を失うかも知れない。


 もし俺が死んだら、俺の魂はどうなるんだろうな?


 地球から転生してきた俺の魂は、またどこかの星の生き物として転生するんだろうか?


 それとも、もう何もかもが終わってしまうのだろうか?


 俺はまだ、自分がどうして転生できたのかさえ分かっていない。


 何となくの力だとおぼろげに考えてはいるが、その確証だって得られていないんだ。


 俺はこの世界に転生して本当に良かったと思っている。


 いい仲間に出会えたし、可愛い妻を2人もめとる事が出来たし。


 だから今回は、汚れ仕事をしてでも守ろう。


 俺自身の幸福に不可欠なみんなを守る為に。


 俺は、決意を新たにしながら、小高い岩山の上に飛び乗り、ティアとシーナの手を引いて岩の上に引き上げて辺りを見回し、


「しっかり見張ろうな」


 と、誰にともなく俺はそう口にしたのだった。


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 俺が目を覚ますと、空は白々と明るくなってきていた。


「もう朝か」


 俺が顔を左に向けると、シーナは既に目を覚ましていた様で、

「ショーエンも目が覚めたのですね」

 と俺の腕に頭を乗せたまま「おはようなのです」

 と言った。


 俺達が見張りに着いてから3時間ほどでメルス達が見張りの交代を申し出てきて、見張りを交代してからは4時間くらい経過している様だ。


 ティアとシーナが眠るのを見届けてから俺も眠ったが、3時間くらいはグッスリ眠れたはずだ。


 コンディションは悪くない。


 俺はシーナを抱き寄せて額にキスをし、

「おはよう、シーナ」

 と言った。


 シーナは嬉しそうにムフフッと含み笑いをしてから身体を起こし、

「はやくフェムトの街に行きたいのですよ」

 と言いながら自動車を降りてストレッチを始めていた。


 俺はティアが目覚めるまでそのままでいようと思っていたが、ストレッチを済ませたシーナがティアの肩を揺すり、ティアを起こしてしまった。


 ティアは目を開けると、その場で身体を起こして伸びをした。


「おはよう、ショーエン、シーナ」

 とティアも自動車を降りて辺りを見回し、「もう7時になるのね。出発の準備をするから、ショーエンはゆっくりしていてね」

 と俺に気を使っている様だ。


 俺は身体を起こして自動車を降り、

「サンキューな。でも、俺も身体をほぐしておきたいから、準備を手伝うぞ」

 と言いながらストレッチを始めた。


 デバイスが7時5分を表示した時には、ライドとメルスも自動車まで戻って来て、

「おはようございます」

 と挨拶をしながら出発の準備を整えていた。


 全員が御使いの衣装を身に纏い、懐には小型のレールガンを忍ばせている。


 更にシーナはデバイスの通信を傍受する為の設定も完了した様だ。


「準備は出来たな。出発しよう」

 と俺が言った時には、ライドとメルスは運転席に座ってペダルを漕ぐ準備が出来ていた。


 みんな俺の指示を聞き終える前には行動を起こしている。


 勇み足にならなければいいが、俺の意図を汲んで率先して行動しているのだろうから、温かく見守ってやった方が良さそうだな。


 俺はそんな事を思いながら、流れる景色を見ていた。


 日光は東の空から降り注いでいる。


 前方にフェムトの北門が見えてきた。


 塀の奥に見える建物は、朝日を浴びて東側に長い影を落としているのが見える。


 北門には3人の兵士の姿が見えた。


 俺達が門の前で自動車を停めると、


「おお、ショーエン殿!」

 と門番をしていたダグラスが俺達の元へと駆け寄って来た。


 ユグルとシュベールの姿は見えないが、隊長であるダグラスが居るのは都合がいい。


「やあ、隊長さんが直々にお出迎えとは、嬉しいね」

 と俺は右手を上げて応えた。


 ダグラスは俺の元まで寄って来ると、少し小声で

「明後日に魔王が集う王城の、広場に近い宿屋を2部屋とっております」

 と教えてくれた。


「有難う。恩に着る」

 と俺は袋から銀貨を10枚程掴んでダグラスに手渡し「まだ味方になっていない者が居るなら、これで飯でも食わせて懐柔しておくといい」

 と言った。


 ダグラスは

「光栄です」

 と銀貨を受け取り、門番の一人に宿屋までの案内をする様に指示をした。


 指示をされた門番は、背筋を伸ばして俺達を門の中へ移動する様に促し、

「副隊長のザックと申します! 宿屋まで護衛致します!」

 と敬礼をすると、先頭を馬に乗って歩き出した。


 門を抜けると、以前にも見た通り5階建て位の建物が軒を連ねた街並みになっており、メインの道路は東西南北に直線で結ばれている様だが、裏路地は迷路の様に入り組んでいる様だ。


 これは、土地勘が無ければ移動するのは難しそうだ。


 敵に攻め込まれた時に、自分達は身を隠しやすいというメリットを得る事が目的だろう。


 この国が軍事国家だという事がよく解る作りだな。


 ま、俺達は空から攻撃できるから、あまり意味は無いんだけどな。


 街の奥に進むと、やがて商店街らしき通りまで来た。


 そこは既に沢山の人が行き来をしており、商店等で荷物を降ろしている者もいる。

 いま行き来している者達は農家や商人だろう。辺りを見回せば、飲食店も多いし薬屋や食材屋も多い。衣服の店もあって、色とりどりの衣装が店の窓越しに見えている。


 色々な店の看板を眺めているうちに、自動車は正面に大きな王城らしき建物が見える広場に出た。


「ここがこの街の中央広場です」

 とザックが教えてくれた。


 広場は直径50メートル位の円形で、だだっ広い石畳の広場だ。


「敵国に侵攻する時などは、この広場で軍隊が並んで訓示や兵士のお披露目なんかもするんですよ」

 とザックが教えてくれる。


 俺は頷きながら

「なるほどな」

 と言い、「で、俺達の泊まる宿屋はどこなんだ?」

 と訊いた。


 ザックは広場に面した建物の中で一番大きな建物を指さして、


「あの建物です」

 と言ってから、「あの宿屋の一番上の階の客室を取っています。あそこから、王城の姿がよく見えるんですよ」


 なるほど、空から見た時は暗くてよく解らなかったが、オームやメチル、バティカと比べても2倍はありそうな規模の王城だ。


 しかも王城の手前には大きな倉庫の様な建物も見えていて、それはクレア星の学園にあった研究所の建物にも似ていた。


 その手前にあるこの広場なら、確かにこの宿屋が王城に最も近い場所という事になるんだろうな。


「ザック、有難う。ここからは俺達だけでいいよ」

 と俺は声を掛け、そのまま宿屋の方へと自動車を走らせた。


 ザックは

「お気をつけて!」

 と俺達の後ろ姿に声を掛けると、そのまま馬の頭を返して北門の方へと戻って行った。


 宿屋の馬車置き場は建物の裏側にある様だった。


 俺達は自動車を馬車置き場に入れると、荷台から荷物を取り出し、宿屋の正面玄関に向かった。


 宿屋はメチルの宿屋と大差なく、壁の照明もろうそくの炎だし、窓から差し込む朝日を受けて照らされたエントランスホールの中も、雰囲気は変わらない。


 酒場は1階にあるが、まだ営業時間前の様だ。


 宿屋のカウンターは既に人が居たので、俺はカウンターに歩み寄り、

「騎士のダグラス隊長からここを勧められた商人だが・・・」

 とカウンターの向こうの店員に声を掛けた。


 店員は中年の男で、グレーのスーツに似た服装をしていて、胸元に紐状のネクタイの様なものもしている。


「いらっしゃいませ。お話はお聞きしております。2人用で2部屋、2泊分ご用意しております。最上階の5階になります」

 と二つの鍵をカウンターに並べてくれた。


「料金は?」

 と俺が訊くと、男は

「銀貨2枚ですが、既にダグラス様より頂いております」

 と言った。


 なるほど、ダグラスのオモテナシって訳か。


「そうか、ならばダグラスの善意に敬意を表して、これを置いておく」

 と俺はカウンターの上に金貨を2枚置いた。


 男はサっと辺りを見回してからすぐに金貨を両手で隠し、

「こ、これは?」

 と俺を見た。


「ただの謝礼だ。ダグラスに支払ってやるも良し、お前達で山分けするも良し。好きにするがいい」

 と俺が言うと、男は姿勢を正して

「はっ! では、お部屋をこちらに変更させて頂きます」

 と、先ほど出した部屋の鍵を引っ込めて、新しい鍵を2つカウンターの下から取り出して俺に手渡した。


「同じく5階の、一番奥の2部屋になります。最も王城がよく見える部屋ですよ」

 男は小声でそう俺に言った。


「そうか、では有難く使わせてもらおう」

 と俺は言いながら鍵を受け取った。


「酒場は何時から営業するんだ?」

 と俺が訊くと、男は

「8時から朝食が用意されます。夜は11時まで営業していますよ」

 と教えてくれた。


「わかった。じゃあ2泊する間、宜しく頼むぜ」

 と俺はメルスに鍵を一つ手渡し、カウンターを背にして階段の方へと向かった。


 階段を5階まで上ると、廊下から見える部屋の扉は6つあった。


 廊下の左側に5つの扉が並んでおり、右側は窓があって朝日が差し込んでいる。


 手前の4つは比較的近くに扉が配置されていて、奥の2つは廊下を挟んで向かい側に一つずつ扉が配置されている。


 なるほど、奥の部屋の方が広い部屋なんだろうな。


 鍵の部屋番号を見ると、廊下の奥の左側の部屋が俺達の部屋の様だ。


 そして、向かいの部屋がライド達の部屋という訳だな。


「じゃ、今日のところは部屋でゆっくり身体を休めて置こう。本番は明日だ。それまでは自由行動とする」

 と俺が言うと、メルスとライドは頷き、廊下の奥の右側の部屋へと入っていった。


「私たちも入りましょう」

 とティアが言い、俺達も左側の部屋に入る事にした。


 室内は大きく2部屋が連なった様な作りになっていて、手前はソファやテーブルが並ぶ、リビングの様な空間だった。


 奥には王城で見た様な、カーテンで仕切られた大型のベッドが一つあり、俺は脇に抱えていたキャリートレー等を窓際に置くと、上着と靴を脱いで、ベッドにドサリと座り込んだ。


 ティアとシーナは窓際にキャリートレーを置いて、窓の外から王城を見ている様だ。


 二人の目は鋭く、何かを決意した者の目だ。


 これから始まるかも知れない「殺し合い」に挑む事を、自分なりに理解しているのかも知れない。


 俺も似た様なもんだ。


 ただ、プレデス星人の特徴なのか、他人の命や尊厳にあまり興味が無いみんなとは違い、俺はみんなが幸せになる社会を思い描いているというビジョンの差があるのは確かだろう。


 ティアもシーナも、俺や仲間以外の人間にはあまり興味が無さそうだ。


 ライドやメルスもそういう所がある。


 イクスとミリカなどは更に顕著だ。


 人々の調和を重んじる感性というのは、地球的な考えなのかも知れない。


 だとすれば、デキル星の人々の生活は、地球的な感性に近いかも知れないな。


「ショーエン、街に人の流れが増えてるのです」

「あちこちのお店も営業を開始したみたいね」


 ティアとシーナがいつの間にか俺の方を見てそう言ったのを聞いて、俺は立ち上がって窓からの景色を覗いてみた。


 いつの間にか沢山の人々が街を往来していた。


 人々は路地から湧き出る様に現れ、商店街に向かう通りへと人の流れを作っていた。


「あの人達、商店街に向かう所なのかしら」


 ティアも窓から俺の視線を追って人の流れを見ている様だ。


「ああ、多分な。それにしても、もっと時間をバラバラに出掛けりゃいいものを、随分とまとまって動き出すもんだな」


 俺の言葉にシーナが頷き、

「非効率にも程があるのです」

 とぼやいている。


「よし、ちょいと付いて行ってみるか」

 と俺が学園の制服に着替え出すと、ティアとシーナも直ぐに御使い服を脱いで学園の制服に着替えだした。


「準備出来たわ」

 とティアが言った時には、俺もシーナも外出の準備が整っていた。


「よし、行こう」


 俺達はレールガンと財布が入った小袋をポケットに入れて、部屋を出て階段を降りていったのだった。


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「A街区182番のカサールだ」

 とその男は食材売場で布の袋に肉や野菜を詰め込んでから店員に向かってそう言った。


「A街区182番ね。銀貨1枚と銅貨6枚だ」

「ほらよ」

 と男が硬貨を店員に手渡した。


 店員は帳簿を見ながら硬貨を受け取ると、

「確かに」

 と言って引き出しに硬貨を仕舞った。


 男が店を出ると、次に並んでいた中年の女が布の袋に肉や野菜を詰めて店員の前に出た。

「A街区189番のリサだよ」

 と中年の女が言うと、店員は帳簿をめくってしばらく眺めた後、

「あんたの所は税金に未納があるみたいだな。銀貨3枚と銅貨8枚をここで支払えるなら持ってっていいよ」

 と店員が言った。


 中年の女は、銀貨2枚と銅貨8枚を出して、

「銀貨1枚まけちゃくれないかい? 今の持ち合わせはこれしか無いんだよ」

 と店員に媚びる様な仕草をしている。


「ダメだダメだ! 役人が来たら俺が余計に金を払わなくちゃいけなくなるんだ。あんたを見逃したら、他の奴だって面倒見なくちゃならなくなるだろ!」


 店員は中年女の布の袋から商品を抜き取り、

「帰った帰った!」

 と手をヒラヒラと振って中年女を追い返した。


 中年女は

「何だいっ! 徴税店になったからってエラそうに!」

 と吐き捨てて空になった布の袋を小脇に抱えて店を出て、ズカズカと大通りを歩き出した。


 俺達はその一部始終を店の向かいから見ていたが、その中年女が歩いて行くのを見て後を追う事にした。


 中年女が商店街の中ほどにある脇道に入って行ったのを見て、すぐに俺達もその路地に入った。


 すると、すぐ目の前に先ほどの中年女が建物の壁にもたれて座り込んでいるのが見えた。


 俺達が中年女の元まで歩いて立ち止まると、中年女は顔を上げて俺を見上げた。


「あんた、誰だい?」

 と中年女が訊いた。


「俺は今日この街に来た旅の商人だ。この街について聞きたい事があるんだが、話を聞かせてもらえるか?」

 と俺が訊くと、中年女は

「銀貨2枚払えるならいいよ」

 と言って手を出した。


 俺は財布から金貨を2枚取り出し、中年女の手に置いた。


 中年女は手の中の金貨を見て何度か瞬きをして、それから頭を振ってもう一度自分の手に置かれた金貨を見た。


「こ、これって・・・」

 と中年女が目を見張って俺を見て、「あ、アタシは銀貨2枚って言ったんだよ?」

 と少し声を震わせながらそう言った。


「ああ、そう聞こえたぜ。だけど、俺達はアンタから金貨2枚分の情報を買うつもりなんだ。時間があるなら、俺達が泊ってる宿屋の酒場で話を聞かせてもらえないか?」


 俺がそう言い終わる前に中年女は立ち上がり、

「何でも聞いておくれ。知ってる事なら何でも話すよ!」

 と言って鼻息荒く、しかし笑顔で俺を見ていた。


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「なるほどね」

 と俺は、中年女から一通りの話を聞いて、目を瞑って頷いた。


 宿屋の酒場は宿泊客らしきグループが利用しているだけで、テーブルは半分以上が空いていた。


 そのうちの一つで俺とティア、シーナ、中年女の4人が食事を囲んでいた。


 女の話を纏めるとこんな感じだ。


 フェムトの街は軍事を強化する為に、ここ2年ほど重税が課せられているらしい。


 徴税は農家や畜産、酪農家までにも及んでいるらしく、納税できない農家は、畑や牧場を役人に没収されて、食材の供給ができなくなる等の弊害も出ているのだとか。


 食糧は好きな物を買う事は出来ず、世帯ごとに決まった種類と量しか購入できないそうだ。


 生産者も購入できる食材は役人に決められていて、自分の農地で作った野菜をコッソリ自分で食べようとした事が役人に見つかると、重い刑罰を受ける事になるんだそうな。


 おかげで更に食料の供給が滞る事になり、食糧の価格上昇も起こっているらしい。


 そして、買い物は「徴税店」と呼ばれる、役人の許可を得た店舗からしか行う事は出来ない様で、買い物客の納税記録が毎日役人から配布され、税金の未納がある者には店舗で徴税するか、または商品を売ってはいけない法律があるのだという。


 3ヶ月以上納税が出来ない世帯は、家族全員が役人に連れられ、過酷な労働を強いられるか、又は「竜人兵」の候補者として研究所に連れて行かれるらしく、それが恐ろしくて皆が納税しようと必死なんだとか。


 この中年女は税金の未納がまだ1ヶ月分だというが、旦那が無理に働き過ぎたようで疲弊しているらしく、生産性が下がったまま、改善の見込みが立たないらしい。


 その為に、この先も納税出来るかの不安があるみたいだ。


 これらのルールは役人から通達されたらしく、ルールを作ったのは国王であるフェムトらしい。


 なるほどな。


 概ね、この国の仕組みが見えた気がするぜ。


「もし国王フェムトが死ねば、アンタ達は救われると思うか?」


 俺は女の顔を見ながら訊いてみた。


 中年女はしばらく考える様に俯くと、しばらくしてこう言った。


「あのクソ国王が死ねば救われる人は多いだろうけどね、今までに国王に逆らった男達は、竜人の騎士に八つ裂きにされたよ」


 俺は

「そうか」

 と言って頷き、「とても参考になったぞ。これで家族に旨いメシでも作ってやるといい」

 と俺は、女の手に追加で金貨を5枚置いた。


 女は再び目を見張り

「こ、こんなにかい?」

 と声を裏返した。


 俺は席を立って

「その価値のある情報だったぜ。」

 と言うと、「気を付けて帰りな」

 と中年女を立たせて店を出るまで見送った。


 ティアとシーナも立ち上がり、

「作戦を練りましょう」

 とティアが言い、シーナも頷いた。


「ああ、そうしよう」


 俺達は宿屋の部屋に戻ることにしたのだった。


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 9月4日、街の中心部は賑わっていた。


 大陸中の魔王がフェムトの王城に集っている事が、短波ラジオで国民に知らされていた。


 俺達が宿泊している宿屋の部屋にも人の形をした銅像から音声が聞こえ、シーナの説明でこれが受信機なのだと分かっていた。


 この日は魔王5人が王城で話し合いをする場の様で、王城の広場では催し物があるらしい。


 一昨日の夜にダグラスが宿屋を訪れ、催し物の時に、俺達の飛行機を広場で飛ばせる様にしたという話をしていた。


 つまりは魔王達への商品プレゼンの機会を得たといったところか。


 俺ともう一人だけが商品説明の為に王城に入れてもらえるという事なので、俺はシーナを選んだ。

 どうせなら、音波兵器も王城に持ち込みたい。

 その時の人間の配置によるが、音波兵器を使えば、その場の魔王達や護衛の動きを止められるからだ。


 俺とシーナでキャリートレーを2枚重ねて、その上に音波兵器を乗せて運ぶフリをしながら持ち込む事でダグラスの同意を得られた。


 そしてティアにはライド達と共に飛行機に乗ってもらい、デバイスでやりとりをしながら、場合によっては飛行機から魔王を狙撃する事も視野に入れていた。


 昨日、俺達はそれらの情報を整理して作戦を練り、5人が情報を共有して今日を迎えたのだった。


「ショーエン、迎えの馬車が来たのです」

 とシーナの声で俺は我に返った。


「ああ、じゃあ行こうか」


 俺達が荷物を持って部屋から出ると、丁度向かいの部屋の扉が開いて、ライドとメルスも出てくるところだった。


「おはようございます」


「おはよう、丁度良かったな。一緒に行こうか」

 と俺は挨拶を交わし、そのまま廊下を歩いて階段を降りて行く。


 宿屋の主人はカウンターの前にいるユグルと話をしていた。


 俺達の姿を見ると、

「あ、おはようございます。騎士様のお迎えが来ておりますので、こちらでお部屋の鍵は預かっておきますね」

 とペコペコと頭を下げながら卑屈な表情で俺達から鍵を受け取った。


 俺はユグルを見ながら、

「お迎えご苦労さん。馬車に乗るのは俺とシーナの二人でいいんだな?」

 と俺が訊くと、ユグルは姿勢を正し、

「はい。ショーエン様とシーナ様を王城の謁見の間までご案内いたします! お連れの方は、王城の前の広場まで、空を駆ける車にてお越し下さい!」

 と言って、宿屋の入口から外に出て、馬車の扉を開けて俺達に乗る様に促した。


 俺達はキャリートレーと音波兵器を馬車の荷台に乗せて、促されるままに馬車に乗り込んだ。


 ライド達はすぐに裏の馬車置き場から自動車を引っ張り出し、俺達が乗る馬車に付いて走り出したのだった。


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 王城の前の広場には、フェムトの軍隊が整列していた。


 城門が解放され、門の奥は王城へと続く石畳が敷かれた広い通路が続いている。


 俺はユグルに先導されながら、キャリートレーを俺とシーナの二人で運んでいた。


 メルス達は広場に残り、俺達は城門で身体検査と荷物検査を受ける事になった。


 城門の兵士は6人いるが、全て普通の人間の様だ。


 そしてどうやらダグラスから指示を受けている兵士達らしく、身体検査の時に小声で王城内の仕組みと魔王にプレゼンをする時間について教えてくれた。


 どうやら俺達は一番最後の発表になる様で、それまでは他の商人のプレゼンを聞かされる様だ。


 今回は軍事進攻を目的とした魔王の集いなので、商人達がお披露目するものがどんなものなのか、俺も見ておきたいところだ。


 俺達が王城の扉を潜って謁見の間の手前にある控室に通されると、部屋の中には既に6組の商人達が、台車に乗せた商品らしきものを挟んで立っていた。


 俺達は部屋の出入口から一番離れた場所に案内され、そこで同じ様に待機する様促された。


 全部で7組か。


 一番出入口に近い2人組は、荷台の上に剣を束ねた筒と、矢を束ねた筒を一つずつ乗せている。

 恐らく、今回の軍事侵攻での武器の調達の仕事を得ようとしているといったところか。


 2番目の二人組は、中年の夫婦の様にも見えるが、少し顔色が悪い。

 荷台の上には投石機の様なものが置かれており、人間の拳よりも少し大きな石をゴロゴロと入れたカゴもある。


 俺はその二人の様子が気になり、情報津波を使ってみる事にした。


 二人はこの国の商人夫婦でギルとマイラというらしい。

 2年前までは街の鍛冶工房と提携して、兵士の剣や鎧の修理を請け負う仕事をしていた様だ。

 しかし、子供が生まれたのをキッカケに、3人分の税金を支払う必要が生まれ、これまでの蓄えを削りながらなんとか2年間納税してきたが、もう限界に来ている様で、今回の商談を最後のチャンスにしようとしているみたいだ。


 なるほど。

 この国の徴税システムにはやはり問題が多そうだ。

 あの二人がこの場で何かやらかさないか、様子を見ておく必要がありそうだな。


 そんな事を考えていると、王城前の広場が一斉に人の声で沸き立つのが聞こえた。


 俺はデバイスでティアに様子を聞かせてもらう事にした。


「5人の魔王がテラスに出て演説を始めたわ」

 とティアが教えてくれた。


 さっそく魔王が一か所に集ったか。


「よし、じゃあみんな、通信傍受を始めてくれ」


 俺は即座にデバイスでみんなに伝えた。

 俺もデバイスの傍受を開始する。


 その時、広場の方で再び大きな歓声が上がり、途端にデバイスから魔王達と思しき声が聞こえだした。


「フェムトもかなり人間を飼育しいくできたな」

「ああ、これでこの大陸の制覇せいはまでもう一息だ」

「そうだ、北のオームとやらを奪えば、この大陸は俺達のものだ」

「しかし、2度オームの攻略には失敗している」

「その為に竜人を増やしたのだ。心配はあるまい」

「いや、念の為、武具の調達は出来た方がいいと思って、この後、商人達に武具の紹介をさせる予定だ」

「おお、そうなのか。それは楽しみだ」

「ああ、これでオームとやらも我々の手中に収まる日が近いはずだ」

「そうだな、我々も歳を取った。そろそろ仕上げに掛らなければならない」

「その通りだ。早くこの星を征服し、ガイアを目指さなければな」

「ああ、夢にまで見た理想郷まで、あと少しだ」


 魔王達の通信は続いていたが、俺はここまでの話を聞いて愕然とした。


 ガイアを目指す?


 理想郷?


 この星を征服すればガイアを目指せるというのはどういう事だ?


 俺が険しい顔をしていたのかも知れない、シーナが俺の腕を掴んで心配そうに俺の顔を見ていた。


「ああ、すまないシーナ。心配させたな」


「私は大丈夫なのです。だけど、ショーエンが目指すガイアを、魔王も目指しているみたいなのです」


「ああ・・・、その様だな」


 どうやら俺の仕事は、この星を守るというだけの話では無くなって来た様だ。


 一波乱、起こす必要がありそうだな。


 俺はデバイスのチャンネルをイクス達に合わせ、無声通話で通達を行った。


「イクス、ドラゴンに乗ってフェムトの王城を襲撃しろ。1時間後だ」

「魔王を討つのですか?」

「いや、王城の建物を襲撃するんだ。魔王を討つのは俺達がやる」

「了解しました!」


 さて、戦いが始まるぞ!

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