魔境(7) 決戦に向けて

「見えてきましたよ」

 とメルスが言った。


 俺は上空の気持ちの良い風に髪をなびかせながら、いつの間にかウトウトと眠っていたようだ。


 メルスの声で目を覚まし、辺りを見回すと、前方にオームの王都がうっすらと見える場所まで戻って来ている様だった。


「ああ、ありがとう」

 と俺は誰にともなくそう言い、俺の両腕に腕を絡めて同じ様に寝ていたティアとシーナを起こした。


「うーん・・・」

 と声を漏らしながら目覚めたシーナが伸びをする。

 ティアは目覚めてすぐに辺りを見回し、

「もうオームの近くまで来ていたのね」

 と言った。


 近づいてくるオームの城壁を見ていると、王都の南門の前で人だかりが出来ている様にも見える。


「あれは何だ?」

 と俺が言うと、シーナが荷台から望遠鏡を取り出して俺に手渡した。

 俺は望遠鏡を受け取り、南門の辺りを覗いて見た。


 そこには300人位の人だかりが出来ていて、その端にドラゴンの姿がある。


 ドラゴンのそばにはイクスとミリカの姿もあり、どうやら何かの建造物を造っている様にも見える。


 更に目を凝らしてよく見ると、その建造物はそこそこ大規模な建築物の様で、例えるなら小学校の体育館位の大きさはありそうだ。


 ただ、高さは2階建て位しか無く、屋根の部分はまだ骨組みしか出来ていない様だ。


「何かの建物を造っているみたいだが、何だろう?」

 と俺は呟いたが、イクスとミリカが指揮を執っているのだとすれば、何も問題は無いだろうと心配はしていなかった。


 俺はいつも仲間に感謝したくなる。


 ティアやシーナは勿論、メルスもライドも、そしてイクスやミリカも、機能的で、能動的に働いてくれる。


 俺がいちいち指示をしなくても、おおまかな方針さえ伝えておけば、優秀な彼らはその目的を達成する為に必要なプロセスを自ら構築し、それを実践してくれる訳だ。


 学園で週末の集いを開催していた効果もあるだろうが、元々彼らは本当に優秀なのだ。


 これが会社組織なら、とても優秀な社員しか居ない、超生産性の高い企業になるだろうな。


 今のところガイアとテラに目立った成果は無いが、それでも今使っている望遠鏡といい、オイルランタンといい、地球にあった原始的な技術を使って、この星の技術レベルを超えるアイテムを創造しているのだから、充分に優秀な社員だと言えるだろう。


 いつの間にか9人のメンバーが集うまでに成長した俺達のチームだが、ここに来るまでに無駄な人材など一人も居なかった。


 これは幸運な事だし、みんなに感謝の気持ちしか湧かないのも当然だろう。


 前世の地球でも上司がよく言っていた。


 ヒト、カネ、モノ、ジカン、バショ。


 いい会社にする為に必要な「5大要素」だ。

「人、金、物、時間、場所」の使い方を間違えない様にしないと、どんなに素晴らしい製品を作っていたとしても、それが社会に良い影響を与えるとは限らないという訳だ。


 その中でもとりわけ難しいのが「人」だ。


 誰しもに平等に与えられている「時間」という要素でさえも、「人」の行動次第で無駄が増減するからだ。


 しかも、人は「育てなければ使い物にならない」上に「感情があり、こちらの思い通りに動かない」事がある。


 人は「頭を使って考える事が出来る」知的生命体の代表格だ。

 しかし、感情やその他の複雑な要素が混ざり合って行動に影響を及ぼす為、何らかの見返りが無くてはならない。


 何を求めるかは人それぞれだが、統治する側の能力が低ければ低いほど、有能な者を引き込むには「多額の報酬」が必要になる。


 逆に、統治する側のカリスマ性が高ければ高いほど、有能な者は「名誉」「満足感」「優越感」等を「自尊心の担保」にして、報酬額に関わらずいい仕事をしてくれるものだ。


「有能」の定義は色々あるが、人間誰しも得手不得手えてふえてがある。

 なので「何に対して有能なのか」を見極める事が必要で、いわゆる適材適所で人を配置しなければならない訳だ。


 とはいえ少数の統治者や管理者でそんな統率を執れるわけがない。


 そこで大勢を一定の方向に動かす為には、その為のルールを作り、制限を設け、ある程度行動範囲を絞り込む事で統治しやすくする必要がある訳だ。


 その為に重要なのは「共通の目的」、いわゆる「未来のビジョン」だ。


 人類が「どんな未来に繋がる道を歩んでいるのか」が明快でなければ、人々は簡単に自分の居場所を見失う。


 自分の居場所を見失ってしまえば、進むべき道も見えなくなり、統治の枠からこぼれ落ち、いわゆる「アウトロー」に成りかねない訳だ。


 なので人々に自分の居場所を見失わせない為には、何等かの順列がある事が望ましい。


 その為に「競争」をさせる事も有効だろう。


 そうしてルールの枠内で様々な手段を講じ、人々の生産性を高めていく事が「統治」という仕事な訳だ。


 そしてその結果が、働く者達の「幸福」に繋がらなければならない。


 そうしなければ、感情の生き物である人間は、何らかの不満を抱える事になり、ストレスの増加が能力を減衰させ、やがては増大した不満の矛先は統治者に向けられる。

 そんな流れが出来てしまうと統治は長続きしないのだ。


 俺が目指す統治は、持続的でなければならない。


 だから俺の統治は、人々が幸福でなければならないという事だ。


 しかし、幸福の定義は人によって様々だ。


 なので、統治者は様々な「幸福のモデル」を提唱しなければならない。


 ルールの枠内であるならば、どの道を選んでもどこかの「幸福」に辿り着く様にだ。


 そう。


 全ての人々が「自尊心の担保」をルールの枠内で行える社会が必要なのだ。


 自分が自分のままで居ていい社会。


 それが自尊心の担保となって人々を不安から遠ざける事になる。


 これを25億人もの人が居る、このテキル星で実践しなければならない。


 これだけの人数を統治するのは難しい事だろう。


 しかし、プレデス星やクレア星の様に「善行の対価が報酬となる」という仕組みは一つの答えになる筈だ。


 それによって平和は確立されていたし、報酬額も個人が満足できる範囲で得られていた筈だ。


 もっと報酬が欲しい人は、もっと善行を積んでいく事で報酬を得ていた訳で、要は「善行の定義」さえしっかりしていれば、人々が「迷子」になるリスクは避けられる訳だ。


「何が正しい事で、何が間違った事か」を定義する事。


 俺の統治はここから始めなければならないのだろう。


 となると、やはり「人々を恐怖させ、調和を乱す魔王」という存在は邪魔になる。


 更に「人々に恐怖を与える竜人」が大勢いるのも良くない。


 人々に罰を与えるのは、やはり「絶対的な存在である神」としておくのが最も合理的な気がする。


 既にここには「龍神」という概念が存在している。


 ならばここは、「龍神の教え」という形で「善行の定義」をしておく事が最も近道になるだろう。


 魔王達が本当の悪人かどうかは会ってみないと分からないが、「本当に殺害する」のか「レプト星に帰す」のか、どちらかの方法でこの星から消えてもらう必要はあるだろう。


 ともあれ、魔王達が竜人を創造し、人々を「武力による制圧」で統治している事は「罪」と定義するべきだ。


 ならばこちらは、「正義」という旗の元にそれを上回る武力で対抗し、何らかの方法で「魔王を退治」するしか無い。


 武力とは、人間にとっては最後の手段だ。

 できれば使わずに済むのがいいに決まっている。


 しかし、軽々にその「最後の手段」を持ち込んだ魔王達には罰が必要だ。


 俺が魔王を討伐する大義名分はこれだけで充分だろう。



 俺が考え事をしている間に飛行機は南門から少し離れた場所に着陸していた。


「あの人だかりは何かしら?」

 とティアが、人だかりを指さして俺を見た。


「ああ、イクス達がドラゴンを使って何かの施設を造っている様だな」

 と俺が言うと、ティアは驚いた様に

「すごいわね。たった一日であれだけの準備を進められたなんて」

 と言いながら飛行機を降りて地面に足を付けた。


 ライドとメルスは飛行機を自動車モードに変形させ、ティアとシーナは荷台からキャリートレーを取り出して、トレーの上に乗って浮遊し、

「ちょっと様子を見て来るのです」

 と言って飛び去ってしまった。


 やれやれ、俺が何か言う前から行動を起こせるんだから、本当に優秀なやつらだよな。


 と俺は、短い間に大きく成長しているティア達の姿を頼もしく感じながら見送っていた。


「よし、俺達もイクス達の所に行ってみようぜ」

 と俺が言うと、運転席に着いたメルスが

「了解です」

 と言ってペダルを漕ぎだしたのだった。


 ----------------


「その部材はその角に繋いて下さい!」

 とイクスが叫びながらオームの兵士達に指示をしている。

「その板はここの壁にします!」

 と、次々に指示をしながら兵士達が角材や木の板を右へ左へと運んでいる。


 俺はそんな兵士達の合間を通り過ぎてイクスの元に歩み寄り、

「よう、イクス。精が出るな」

 と声を掛けた。


 イクスとミリカが俺の声に気付いて振り返り、

「ショーエンさん! もうお戻りだったんですね!」

 とミリカが笑顔で迎えてくれた。


「ところで、これは何の騒ぎだ?」

 と俺が訊くと、

「はい、今しがたティアさんにも説明したところですが、実は暴風雨に負けない屋内農園を作っているところなんです!」

 とイクスが答えた。


 なるほど、屋内農園か。


「見たところ、2階建ての様に見えるが、どういう仕組みにするんだ?」

 と俺が訊くと、イクスは頷きながら、

「はい。まずは水耕栽培が出来る野菜から作ろうと思いまして、川から水を引いて、人工的な日光をティアさんに作ってもらって、あとは自動的に種子から野菜が収穫できるまでの成長を制御する仕組みにしようと考えています」

 と説明してくれた。


 なるほど、前世でもLEDの光を日光の代わりにして、流れ作業で水耕栽培が出来る野菜工場があったっけな。


 土が無いと育てられないキャベツみたいな玉モノ野菜は作れないが、サニーレタスみたいな葉モノ野菜なら大体何でも作れるんだよな。


「なるほど、野菜工場を作るって訳か。天候に左右されない生産方法だし、この国の境遇と食料事情を考えれば、最も効果的だな」

 と俺が評価すると、イクスは誇らしげに頷いて、

「ショーエンさんに高く評価してもらえて嬉しいです!」

 と笑った。


 そんなイクスを見るミリカも誇らしそうだ。


 ほんと、2人はお似合いの夫婦だな。


「この施設は、いつ頃完成する予定なんだ?」

 と俺がイクスに訊くと、イクスは作業をしている兵士達の様子をしばらく見てから、

「そうですね、ガイアとテラがありったけの材料を使って照明器具を作っているので、それが予定通り完成すれば、今夜中には完成すると思います」

 と答えた。


 なるほど。


 ガイアとテラの姿が見えないとは思っていたが、どこかで仕事をしているんだな。


 俺はガイアとテラが地球での記憶を持ってやって来た同郷の者という意識があるからか、どうにも地球的な考えで接してしまうが、イクスにはそんな認識は無いから、純粋にガイア達の能力を見据えて仕事を任せているのだろう。


 そういう意味では、ガイア達をうまく使う為には、俺が直接指示をするのでは無く、メンバーの誰かに方針だけを伝えて、あとの指示はメンバーに任せた方が効率が良さそうだな。


 ほんと、みんな優秀だな。


 俺はイクスの答えに頷くと、

「上出来だ」

 と言いながらイクスの肩を叩いて「ガイア達もそれなりに優秀だ。能力はお前達には及ばないが、発想力はお前達を凌ぐ事もあるだろう。うまく使ってやってくれ」

 と続けて俺は振り向き、少し離れたところでキャリートレーの上から工事の状況を見ていたティアとシーナを俺の元に呼び寄せた。


 そして俺は、作業を手伝っているドラゴンの元に歩み寄り、デバイスを通じて

「よう、ドラゴン。仕事は順調か?」

 と話しかけた。


 ドラゴンは作業の手を休める事無くデバイスで「問題無い」と短く返してきた。


 俺はドラゴンを見上げながら、デバイスで更に話しかける。

「2週間後、この大陸の魔王達がフェムトに集結する事が分かった。どうやらオーム王国に侵攻する為の最後の作戦会議を行う予定らしい」

 と俺が言うと、ドラゴンの動きが一瞬止まった様に見えたが、すぐにドラゴンは何事も無かったかの様に作業を続けた。


 俺はその様子を見ながら、

「俺は、この大陸の魔王達を排除し、仮の政府を作ろうと考えている」

 と言い、「そして、俺が大陸の統治システムを完成させるまでの間、この大陸で人間に害を為す獣達の駆除を、オームの兵士達と共にこなして欲しい」

 と続けた。


 ドラゴンはなおも作業を続けながら、

「それは良いが、この大陸全土となると、全てを排除する事はさすがに無理だ」

 と言った。


 俺は頷きながら

「出来る範囲で構わない。重要なのは、いつお前が現れるか分からないという事だ。非定期な脅威は獣達に畏怖を抱かせる事が出来る。お前には獣達から畏怖される存在として君臨してもらえればいい」

 と言った。


 そうなのだ。


 獣達はドラゴンの存在を本能的に天敵として認知するだろう。


 そして、ドラゴンが人々に味方している事が刷り込まれれば、獣達も天敵の保護下にある人間を襲う事に躊躇するはずだ。


 とはいえ、獣達は本能に従って行動する動物だ。


 食欲には勝てないだろうから、農作物等への被害はある程度は免れないかも知れない。


 しかし、各農地に獣討伐の為の兵士を配備する事で、獣達は人間に対しても警戒をする事になる。


 まずはそれで充分だ。


 人間も、あまりに敵が居ない環境に慣れさせてはいけない。


 危機感というのは、生物である以上ある程度は持っておかなければならない。


 平和過ぎて敵が居ない環境というのは、その生物を退化させてしまうものだからだ。


 事実、プレデス星の人間達も、あまりに敵がいない環境で育ったせいで、メンタルにしてもフィジカルにしても、随分と軟弱な奴が多かった。


 それは平和過ぎるが故に起こる、人間の退化というべきだろう。


 しかし、他人への思いやり等は「善行」という形で残っていた。


 これは「敵を作らない為のシステム」に他ならない。


 そして、敵を作らない環境の上で「学力の向上」というものが発達した。


 つまり、平和であればあるほど、未知への探求心が高まるという事なのだろう。


 このバランスが重要だ。


「敵を作らない」為に他人を思いやる本能は、肉体的弱者である人間という種族が持つ本能のはずだ。


 そして、危機に備えて平和のうちに学力を向上させて「強くあろう」とする事も、人間という臆病な生物の本能といって良い。


 ドラゴンが人間にとっての脅威ではない事をまずは浸透させ、仮の「平和」を構築する。


 そして、ドラゴンを脅威にしない為に、崇拝し、思いやり、信仰する事で人々はメンタルの平和を得る。


 これで「龍神教」みたいな宗教が一つ確立できる訳だ。


 そして、竜神の加護を受けたければ、日々の生活を善行によって構築し、豊かな生活を目指す事が必要であると定義し、その定義を成す為にルールを設ける。


 それが法律だ。


 更に、法律を守らないアウトローが現れた時に、それを排除する統治機能として、警察の様な組織を構築する必要がある。


 これにより、治安維持が確立される。


 更に、農業に依存する人々の為に、安定的に食料を供給できる流通システムの開発が必要だ。


 そして、知性の無い獣達が「敵」である事を教育し、その討伐が人間の役割なのだと定義する。


 これで、幸福までの道のりと、恐怖から遠ざかる為の方法と、人間を退化させない為の緊張感がバランス良く配置できる筈だ。


 恐らく、俺がやるべき事はこの辺りまでだろう。


 そして、このノウハウを各国王達に伝授し、竜神の名の元にその統治を任せる事で、俺が作る統治システムは完成だ。


 前世の日本の歴史では、中世は戦国乱世だった。


 それは、良くも悪くも「多様な価値観が存在した」為だろう。


 各々が持つ理想を実現する為に、限られた資源をそれぞれが奪い合った事が「戦乱の世」を作ってしまったはずだ。


 しかし「奪い合えば足りない物も、分け合えば余る」という言葉もある。


 俺はこの言葉が好きだ。


 この言葉は、弱い人々の心に刺さる。


 人々がお互いを敵視しない様に思いやり、物を分け合い、そうして自活して小さな幸福で満足をしてくれるのが、統治者にとっては最も御しやすいからだ。


 人々が貪欲に物を欲する様になってしまえば、それをまかなうだけの供給力が必要になる。


 供給が不足すると、インフレ経済が出来上がってしまう。


 インフレは、貧しい者には死活問題だ。


 治安も悪くなるだろう。


 だから、政府支出で人々を飢えさせない様にしなければならない。


 なので、イクスが作っている野菜工場は、そうした事態に備えた保険にもなる訳だ。


 そんな事を考えながら俺はドラゴンにデバイスで情報を共有すると、

「我が主よ、その理想郷が実現するところを、我も見たいと願う」

 と言いながら、作業を続けていた。


 俺は軽く右手を上げて

「任せておけ」

 と言って振り返り、ティアとシーナを連れてライド達の元へと歩いていったのだった。


 ---------------


「おお、これはこれは御使い様!」

 とオーム国王が玉座から階段を降りて来て、両手を拡げながら「再びお会い出来た事を龍神に感謝しますぞ」

 と言いながら俺達の前で膝を着いた。


 国王の前に立っているのは、俺の他にはティアとシーナ、ライドとイクスの計5人だ。


「オーム国王。フェムトの様子を見てきたが、どうやら2週間後にこの大陸の魔王達が集結する事が分かったぞ」

 と俺は簡潔に情報を共有した。


「何と! ・・・して、それは何の為にで御座いましょうか?」

 と国王は膝を着いたまま顔を上げて首を傾げる。


 俺は肩をすくめ、

「この国に侵攻する為の作戦会議らしいぞ」

 と俺が言うと、国王は目を見開いて

「何と・・・」

 とだけ言って肩を落とし、そのまま絶句してしまった。


「案ずるな。2週間後に向けて、俺達がフェムトに向かい、魔王達を一網打尽にする予定だ」

 と俺は言い、「それまで準備の為にここに留まる事になる。しばらく世話になるぞ」

 と言って国王を見下ろした。


 国王は

「・・・御使い様の御意思のままに」

 と言いながらゆっくりと立ち上がり、「どうか・・・、どうかこの国をお守り下さい!」

 と右手を胸に充てて頭を下げた。


「ああ、そのつもりだ」

 と俺は言って踵を返し、謁見の間の扉の方へと歩き出した。

 ティア達も振り返り、俺の後に続いて歩き出す。


 俺は扉の前で足を停め、顔だけを国王の方に向けて、

「それから今後の俺達の食事は、イクスの指揮の元で準備させてくれ」

 と言い加えてから扉を潜って部屋を出たのだった。


 ---------------


 それからの2週間は忙しかった。


 まず、イクスが作っていた野菜工場だが、予定通りに完成して既に稼働して10日が経過しており、比較的成長の早いハーブやスプラウト系の野菜の収穫が始まっていた。


 更に、野菜工場が完成してすぐにドラゴンとオームの兵士を集め、主に人間を襲ったり畑を荒らす獣の討伐に向けて訓練を行った。


 兵士には訓練を続けさせ、空いた時間にドラゴンに狩りをしてもらった。


 東にある大きな川で魚を釣るチームを作り、ライドの指揮の元で川魚の捕獲をさせて食卓の質を向上させた。


 その間にティアが「人工日光」の機器を製造し、イクスの指揮の元で野菜工場を更に2か所建築する事にした。


 その間にシーナがデバイスの通信傍受をする為の機器を6個製造していて、元々持っていたものも合わせて、俺達全員が通信傍受を行える様にした。


 ミリカは、オームにあった豊富な鉄鉱石を活用し、鎧の下に着る鎖帷子くさりかたびらを可能な限り大量に製造する作業に従事させた。


 ちなみに、鎖帷子のノウハウはガイアがアドバイスをしてくれた。


 テラにはオイルランタン用のオイルの精製をさせた。

 これにより、オームの王都は、夜間でも照明が点く事になる上、北門の前にカカシを立ててランタンをぶら下げる事で、仮にフェムトが予定より早く侵攻してきても、夜間は大勢のカカシを人間と思わせる事が出来る為、侵攻を遅らせる事が出来る筈だ。


 更にドラゴンは、狩り以外の時間は北門の前で待機させていたので、もし敵軍が奇襲を行おうとしても、ドラゴンのデバイスで俺達に通信で知らせてくれる仕組みにしておいた。


 そして最も重要な役割を担ったのがメルスで、俺はメルスに自動車の大量生産を依頼した。

 そして、自動車には弓矢の攻撃を防御できる程度のボディを設置させた。


 重量が増して機動力は落ちるが、馬車程度の速さでは走れる様にギヤ比を調整してもらう事にした。

 自動車の操縦は、ライドの教育の元で20人の兵士を訓練してもらう事にしたので、現時点で完成している自動車12台はフル活用できるはずだ。


 そして今日、俺達が出陣する日を迎えたのだった。


「ショーエン、おはようなのです」


 俺が王城のベッドで目を覚ますと、左隣で寝ていたはずのシーナが先に目覚めて俺の身体にまたがって俺を見降ろしていた。


「おはよう、シーナ」

 と俺は言いながら「で、シーナは何をしているんだ?」

 と訊いた。


 よく見ればシーナは少し頬を赤らめていて、心なしか瞳も潤んでいる様に見える。


「今日は魔王退治に行く日なのです。もしかしたら大きな怪我をする可能性だってあるのです」

 とシーナにしては珍しく弱気な発言をしていたが、「そんな事を考えたら、何故だか無償にショーエンと繋がりたくなってしまったのです」

 と言いながら、俺の腰辺りで跨っているシーナが、自分の腰をクネクネと動かしだした。


「お、おう・・・、そうか・・・」

 と俺は口にしながら、股間の辺りにシーナの脚の付け根の温もりを感じ、下半身が反応していくのを感じていた。


 これが有名な「種族保存をしようとする動物の本能」というやつなのかと、こんな時なのに俺は実感した。


 俺の下半身のモノが固くなるのをシーナも感じているらしく、シーナは更に顔を上気させて熱い吐息を宙に吐きながら、俺のモノに自分の脚の付け根を押し付ける様に腰を前後に揺すっている。


「ふっ・・・」

 とシーナは小さく声を漏らしながら、いつの間にか目を閉じて両手を俺の両手に乗せて更に激しく腰を前後に揺すり出す。

 やがてシーナの腰の動きに合わせてシーナの脚の付け根からクチャクチャと湿った音が聞こえだし、俺はそれを聞きながら感情を高ぶらせていった。


 まったく、なんてテクニックを使ってくるんだ。

 これは前世でも経験した事の無い快感だ!


 たまにティアとシーナが俺の居ない所で猥談わいだんに花を咲かせているのは知っていたが、まさかこんなテクニックを磨いていたとは・・・。


 シーナの熱い息使いとピチャピチャと鳴り出す卑猥な音が部屋に響き、いつしか俺の息も熱くなり、俺はシーナの手で押さえつけられたまま両腕を持ち上げて、両手でシーナの胸をパジャマ越しに掴んだ。


 シーナの身体がビクっと震えるが、それでもシーナは腰の動きを止めようとしない。


「うう・・・、シーナ!」

 と俺がうめき声を出すと、シーナは少し腰を浮かし、俺のモノをパジャマをずらして取り出した。

 俺のモノは既に固くそそり立ち、シーナの密壺を探る様にビクンと脈打った。


 シーナはそれを右手で掴み、左手で自分のショーツを横にズラしてゆっくりと腰を落としていく。


 俺のモノがシーナの腰の動きに合わせて熱く潤ったシーナの密壺に飲み込まれていくのを感じて、俺の腰がブルブルっと震えた。


 俺のモノがシーナの密壺の奥まで届いたかと思うと、シーナは

「はあっ・・・」

 と甘い声を吐息と共に漏らして、俺の胸に覆いかぶさる様に身体をかがめた。


 俺はシーナの背中を抱き、仰向けのままシーナの奥深くへと潜り込んだ自分のモノを何度も打ち付けた。


「あっあっ・・・!」

 と俺の腰の動きに合わせてシーナが甘い声を漏らす。

 俺はその声で更に高ぶる気持ちを腰の動きに託して打ち付ける。


 やがて迫りくる快感の波が増大し、久々の行為に歓喜する俺の魂がシーナの中を目がけて飛び出そうとするのを感じた。


 シーナはそれを察した様に、自分も腰をクネらせて俺の魂を受け入れようとしている様だった。


 俺は更に腰を打ち付け、シーナの腰の動きと相まって増大する甘美な痺れを全身で感じていた。


「うう・・・、イクぞ、シーナ!」

 と俺が口走り、

「はあっ・・・、ショーエン! 来て!」

 とシーナが叫んだその時、俺は思いの丈を込めた魂をシーナの中に放出させた。


 ドクドクと注がれる俺の魂を、シーナは一滴も逃すまいと搾り取る。

 それと同時にシーナの身体もビクビクと激しく震え、シーナは俺の身体を強く抱きしめながら「くうっ!」と声を漏らしてギュっと目を瞑った。


 シーナの太腿がブルブルと震え、俺の魂と共に、快感の波に飲まれるのを感じている様だった。


 しばらく俺達は強く抱き合って快感の波が収まるのを待ち、波が引くのに合わせてお互いを抱きしめる腕の力を抜いていった。


「はあっ、はあっ・・・」

 とシーナはまだ息を荒げていたが、「ショーエンの事は、私が絶対に守るのです」

 と言って俺を見るその目は、少しだけ涙に濡れていたのだった。


 その時、部屋の扉が開いて

「ただいま~」

 という声と共にティアが部屋に入って来た。


 そしてベッドの俺達を見たティアは

「あ・・・」

 と声を上げたまま固まってしまったのだった。


 ---------------


「ふうっ」

 とティアが吐息を漏らした。


 結局、俺はティアとも繋がる事になった。


 どうやらティアは朝から野菜工場の人工日光の調節を行っていたらしく、一通りの作業を終えて部屋に戻ってみれば、ベッドの上でシーナが俺の上に乗って快感の余韻に浸っているのを見てしまったという事らしい。


「シーナだけズルい!」

 とティアが少し拗ねてしまったので、俺はいわゆる「賢者モード」を無理やり解除して、ティアとの2回戦に挑むハメになってしまったという訳だ。


 これが前世の還暦を迎えた身体じゃどうにもならなかっただろうが、今の若い肉体は2回戦を挑む事にも耐えうる事が分かって、これはこれで新しい発見だった。


「満足したわ・・・」

 とティアは言いながら、もう一度ふうっと息を吐いた。そして俺の身体に抱きつきながら、右手の指で俺の胸に「の」の字を書いている。


「ショーエンの事は、私が必ず守るからね」

 とティアが言った。


「ああ、期待してるぜ」

 と俺は言い、「お前達の事は、俺が必ず守ってやるからな」

 と続けた。


「そろそろ出発の準備をしないとな」

 と俺が言うと、ティアとシーナは頷き、


「とうとう明日が、決戦の日なのです」

 とシーナが言い、ティアも頷いたのだった。

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